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第13話 悪い盗賊団をやっつけろ!

 翌日、領都イライユを出発した俺達はコロの背に乗って街道を南へと進んでいた。


「いい天気だなぁ……」


 コロを手懐けて強権を手に入れたモニカに獣人風俗禁止令を受けた俺は宿まで連れ帰られて涙で枕を濡らすことになったわけだが、次の日にはケロっと元気を取り戻していた。


 冷静になってよくよく考えてみれば、一人になるチャンスはこれからいくらでも作れるということに気が付いたからだ。


 カインの野郎が俺への嫌がらせに出した高額報酬の捜索願いだってそう長くは続かないだろうし、そうなったら俺の天下である。


 なお、俺は王都から逃げ出す原因になったモニカのパパのことをすっかり記憶の彼方に放り出していた。


「あなた、本当に反省しておりますの?」

「してるしてる。超してるよ」

「なーんか様子が怪しいですわね……」

「そんなことよりもさ、次に行く街の話でもしようぜ。モニカ、お前はそこの領主とは知り合いなんだろう?」


 現在地は林道を抜けて深い森に差し掛かった辺りだ。

 この森を抜けたらルセリエ子爵家が治めるルセリエの街があるらしい。

 今日はそこで一泊し、翌日にトルサード男爵領へ向かうつもりだ。


「現当主のノーマン・ルセリエ子爵はリヴァーレ公爵家の寄子なのですが、曾祖父の代にファランドール公爵家から嫁を貰ったことがありますの。いわば遠戚ですわね」


 ララライ王国の南部に大領を持つファランドール公爵家と西南部に中領を持つルセリエ子爵家は直接的に領を接しているわけではないが、大きな山を間に挟んだお隣さんと言えなくもない。

 地政学的にも、付き合いを深める価値はあるということだろう。


「なら、その人となりはどうだ?」

「ノーマン子爵は人のいいダンディなおじさまですわ。善政を敷き、領民の評判もすこぶる良いとお聞きしております」

「なるほどね。じゃあ、少し恩を売っておいてもいいか」

「恩ですの?」


 言葉の意味が分からず、モニカは首を傾げた。

 これは見せた方が早いだろう。

 俺はコロの背から降りると、石畳の敷かれた街道のある一点を指し示した。


「ここに薄っすらと血の跡がある。比較的新しい人間のもので、恐らくは矢傷による致命傷だ」

「血……?」

「一ヵ月くらい前から、ルセリエ子爵領の近辺で厄介な盗賊団が根を張っているという噂があってな。昨日の冒険者ギルドでも注意喚起をするような貼り紙を見つけた」

「よく知っておりますわね。わたくし、全然気が付きませんでしたわ」

「冒険者は情報が命だから、これくらいのことは出来て当然だ。……モンスターなら後始末をしたりはしないから、間違いなく人間の犯行によるものだろう」


 コロに匂いを嗅がせると、コロは少し離れた場所にある茂みの前でお座りをした。


「ここだな、ディスペル!」


 右手を茂みに差し向けて神聖魔法のディスペルで解呪をすると、茂みが消えて木々の間に大きな獣道が現れた。

 草むらには馬車が通った(わだち)の跡がある。


「これは、幻影魔法ですか。どうやら盗賊団には闇魔法使いが所属しているみたいですわね」


 ちなみに闇魔法使いは属性特化ジョブのことなので、闇だからといって必ずしも悪い魔法使いというわけではない。

 固有スキルの一つの幻影魔法は低コストで囮を作れたりと結構有用だからな。


「乗り合い馬車が襲撃を受けてからそれほど時間が経っていないなら、捕えられた者が盗賊のアジトにいるかもしれない。モニカ、今すぐ助けに行くぞ」

「ええ、わたくし達の手で民を苦しめる悪党をとっちめてやりましょう!」


 隠蔽魔法を使って気配と足音を消しつつ、獣道を進むこと十数分。

 視界が開け、小さな広場に辿り着いた。

 俺達は草陰に潜み、念話で話しながら様子を観察する。


『洞窟の前に汚い身なりをした見張りが二人、絵物語で見るようなコテコテの盗賊ですわね』

『さて、どうするかな……』


 洞窟の近くには馬車が止められており、その近くの木には縄で馬も括られている。

 実入りを考えると、盗賊は出来る限り生きた状態で捕えたいところだ。


『よし、今回はコロに釣り役をして貰おう。モニカ、コロの額にあるテイムモンスターの証を消してくれないか』

『野生のモンスターの襲撃に偽装するおつもりですわね。分かりましたわ』


 少し離れた場所に移動したコロがワオォォォンと遠吠えをすると、見張りの一人が慌てて洞窟の中に消えていった。


 ガサガサと草むらを掻き分けて大きなグラスフェンリルが洞窟前の広場に顔を出すと、もう一人も慌てて洞窟の中に消えていった。


 縄で括られている為に逃げられずヒヒンと悲鳴を上げて怯える馬に、コロはヨダレを垂らしながらじりじりと近寄っていくふりをする。

 そうしていると洞窟の中から恐る恐る、といった感じで盗賊達が顔を覗かせた。


 その中心にいるのは、黒いローブで顔を隠した怪しげな人物だ。

 きっとあいつがこの盗賊団を率いる闇魔法使いだろう。

 彼は節くれだった手で握り込んだ長杖を、無防備な背中を見せるコロに向け――。


「ワイドパラライシス!」


 ――その闇魔法がコロを襲う前に、隠蔽魔法で隠れたまますぐ近くまで接近していた俺が至近距離から強力な雷魔法をお見舞いした。

 不意を突かれた盗賊達は、全身を麻痺させてバタバタと地面に倒れ込む。


「な、何奴……」


 俺のパラライシスを喰らってまだ意識があるか、かなり高レベルの闇魔法使いだ。

 訳も分からない様子で目を見開いた黒ローブの前に、俺とモニカは姿を現す。

 そして、その後ろにコロがやってきてお座りをした。


「見りゃ分かるだろ、俺達は冒険者だ」

「重ねた罪を償う時がやって来たのですわ! お覚悟なさいまし!」


 モニカが腰に手を当ててビシリと指差すと、黒ローブは急に何事かを喋り出した。


「お、おのれ……このようなところで……お許しください、暗黒神様アァァァア!」


 彼がそう叫んだ瞬間、黒ローブの全身がゴォッと黒い炎で包まれる。


「うわっ!?」

「なんですの!?」


 俺達は慌てて距離を取ったが、吹き上がった黒い炎は周囲にいた盗賊に延焼する気配もなく黒ローブの男だけを燃やし尽くして白い灰に変えてしまった。


「なんだ、今の……?」


 盗賊のボスがいきなり邪教徒アピールをして消えたんだが。

 こんなことってある??


「彼、最期に暗黒神などとおっしゃっておりましたわね。そのような名前、わたくしは聞いたこともございませんわ」


 十歳の誕生日にジョブを与えてくれる神様のことを普通に神と呼んでいるくらい、この世界には一神教が浸透している。

 そんで教会で読める聖書にも、神と対立する存在のことなど欠片も載っていない。


「俺も知らん。だが、これから先何度も似たような連中が現れるんじゃないかという確信めいた予感がするな……」


 露骨な伏線に困った俺達が顔を見合わせていると、雷魔法で気絶していた盗賊達が意識を取り戻し始めた。


「う、うう……俺は一体……?」

「身体が痺れて、動けねぇよぉ……」

「てめぇら、冒険者か……覚えておきやがれ……」


 このまま放置するわけにもいかないので、俺は盗賊達を適当なロープでふん縛って馬車の中に突っ込むことにした。

 恨み節を口にする盗賊達に、偽装スキルで額にテイムモンスターの証を描き直したコロを見せつける。


「言っておくが、スキルを使って逃げたら命はないからな。どうせ大半は奴隷落ちするだけなんだから、大人しくここで待っていろ」

「グルル……」

「ヒッ……」


 青ざめた表情を浮かべる盗賊の見張りにコロを置き、俺達は洞窟の中へ入った。


 魔法で浮かべた光で照らしつつ奥に進むと、広い空間に怪しげな魔法陣が描かれた儀式場らしき場所があり、その近くの鉄格子の牢屋に男女が五人捕らえられていた。


「助けが来たのか……?」

「安心してくださいまし、悪い盗賊は全員わたくし達が捕まえましたわ!」

「ああ、神よ……感謝します……」


 牢屋の鍵は黒ローブの灰の中から見つかっていたので、それを使って開錠する。

 虜囚に怪我はなかったが、彼らは恐ろしい体験をしたのか憔悴(しょうすい)しきっていた。


 比較的元気だった御者の男から話を聞いたところ、乗り合い馬車の護衛をしていたC級冒険者パーティーは突然の奇襲を受けて全滅したそうだ。


 そのまま多勢に無勢でなすすべもなく捕らえられた彼らは、黒ローブから今晩行う恐ろしい儀式の生贄にされるのだと告げられていたのだという。


 黒ローブに付き従う盗賊は不気味なほど大人しく、女性が乱暴をされるようなことも一切なかったらしい。

 先ほどの粗暴な口ぶりからは考えられないな。


 こうなると、盗賊は黒ローブから何らかの洗脳を受けていた疑いが濃厚だ。

 まぁ、この辺りは街に着いてから衛兵とか神官が調べるだろう。


 こうして無事に救出作戦を成功させた俺達は御者に馬車の運転を任せると、御者席に乗り切らない乗客三人を鞍を着けたコロの背中に乗せ、最寄りの街へと向かって歩き出したのだった。

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