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第10話 ケモナーの敵を倒せ!

 王竜ペララライスとの邂逅から五日後、魔獣の森を西に抜けた俺達はリヴァーレ公爵家の領都イライユまでやってきていた。


「カインのやつ、やりやがったな……」

「にゃーん……」


 魔獣の森で手に入れた採取素材を売っ払うつもりで訪れた冒険者ギルドの捜索掲示板には、まごうことなき俺の人相書きが貼り付けられていた。


 D級冒険者サブロー(18) ジョブ:魔法使い 備考:元『獣魔の友』所属


 その下にはご丁寧に「この人物を捕まえたら1000万イェン! 連絡はS級冒険者クラン『獣魔の友』副団長カインまで」と書かれている。

 ここまでくると、もはや賞金首のような扱いだ。


『念の為に変装しておいて正解でしたわね』

『そうだな』


 服を着たケットシーに化けているモニカの隣に立つ俺の髪は焦げ茶色に染色されており、その後ろでお座りしているグラスフェンリルのコロの額にはテイムモンスターの証が浮かんでいる。


 旅の道中で色々と試したのだが、どうも詐欺師のジョブの固有スキルである偽装スキルは他人にも使うことができるようだ。


 ステータスを表面上だけ弄ったり、ボディペイントでテイムモンスターに偽装したりとやりたい放題。

 これをもっと早く知っていたらアホアホカインも完全に騙し切れたのに、残念だ。


「さてと、受付嬢に少し話を聞いてみるか」

「にゃん」


 俺は受付に行ってケモ度のちょっと高めなワーキャットのお姉さんに声を掛けた。


「素材の買い取りを頼みたいんだが」

「初めての方ですね。ギルドカードはお持ちですか?」


 この受付を選んだのはただタイミングよく空いていただけで、受付嬢の見た目が俺の好みだったからではないことを断っておきたい。


「ああ、これだ」


 先ほどイライユの教会で神官に発行して貰ったギルドカードを見せる。

 登録自体は冒険者ギルドでもできるが、こっちの方が色々と都合がいい。

 名前はジローでジョブはテイマー、冒険者ランクはEだ。


「……確かに、確認しました。こちらのプレートに採取素材を乗せてください」


 新人テイマーにしてはやけに強そうなテイムモンスターを引き連れているのを見て、他所の街からやってきたワケありの冒険者だと伝わったのだろう。

 ワーキャットのお姉さんはそれ以上何も聞かず、粛々と買い取り手続きを始めた。


「さっきあっちの掲示板を見てきたんだが、サブローという男は一体何をしたんだ? 人探しで1000万イェンは法外にも程があるだろう」


 俺はマジックバッグから取り出したマナマッシュルームなど、安めの採取素材をプレートの上に並べながら尋ねた。


 これはカウンターの後ろにいる鑑定士のジョブを持ったおっさんが調べて、適正価格で買い取ってくれる。

 当然、冒険者ランクに応じたピンハネをされるからレア度の高い素材は売らない。


「クランの経費をちょろまかしたとか、そんな感じの噂を聞きましたね。あの『竜騎士』カインがあちこちの都市を飛び回って必死に捜索をするなんて、よっぽどのことだと思いますよ」

「ふぅん、クランの経費ねぇ……」

「にゃー……」


 モニカの疑うような視線がビシビシと突き刺さる。

 冤罪だ、冤罪。


「他に何か、捜索の手がかりになる様なことは知らないか?」


 例えば奴隷落ちしたファランドールの娘と永年契約を交わしたとか。

 王都で金髪縦ロールの永年奴隷を連れた状態で衛兵に追われていたとか。


「一週間ほど前、ウチの酒場に遠征帰りの『黒狼』バルドがクランメンバーと飲みにきたくらいですね。この街でも探されている方は何人もおられますが、特にこれといって成果は見られないようです」


 探し人は今日この街にやってきたばかりなのだから当然である。

 それにしても、バルドさん達は予定よりも早めに遠征から戻っていたようだ。

 これではどの道間に合わなかっただろうし、旅を急がなくて正解だったな。


「いい話を聞いたよ、ありがとう」


 ちょっと話している間に爆速で査定は終わり、カウンターの上には大量の硬貨が積み上げられた。

 強者ムーブ中の俺は数えもせず革袋に流し込んでマジックバッグに仕舞った。


「ジローさん、あまり問題は起こさないでくださいね」

「悪いけど、それは約束できないな」


 そう言って受付嬢に背を向けた俺の目の前には、ガラの悪そうなワーキャットの大男がニヤニヤと笑みを浮かべながら立っていた。

 そいつは離れていても分かるくらい、強い酒の匂いを漂わせている。


「兄ちゃんよぉ、ジェニーちゃんの受付を使うんならBランク冒険者のグロス様に断るってのがこのギルドの流儀だぜ?」


 酔っ払い冒険者のグロスは握った拳の関節をバキバキと鳴らした。


「グロスさん、飲み過ぎですよ。外で少し頭を冷やしたらどうですか?」

「うるせぇ! 上下関係も分からねぇド新人に教育してやるのが俺様の仕事だぁ!」


 受付嬢のお姉さん(本名ジェニー)にたしなめられてもお構いなしだ。


「おっ、いつもの新人イビリが始まったな!」

「大皿持ってこい、大皿!」


 周りにいた冒険者連中は面白い見世物が始まったとばかりに、ピューピュー口笛を吹いて囃し立ててきやがる。


「新人テイマー対『剛腕』グロスの決闘が始まるぞ! さあ、張った張った!」

「俺は逃げる方に賭けるね!」

「俺もだ!」


 酒場のテーブルの上に置かれた三つの大皿には次々と銀貨が投げ込まれていくし。

 内容は勝ち、負け、逃走の三択。

 揃いも揃って逃げる方に賭けられたら、俺だって逆張りをしたくなる。


「仕方ないな……行け、モニカ!」

「にゃん!」


 手加減が苦手なコロだとうっかりやり過ぎてしまいそうなので、今回は強化魔法盛り盛りのモニカに頑張って貰うことにした。

 変装が解けたら大変なことになるのは間違いないが、俺はライブ感を重視する。


『わたくしが成敗して差し上げますわ!』


 肉球でシュッシュッとジャブをして強化具合を確かめたモニカが一歩前に出ると、グロスの表情が変化した。

 だらりと鼻の下を伸ばして、目の奥にハートマークが浮かび上がってくる。


「可憐だ……」

「にゃ!?」


 余りの喜色悪さに、モニカの全身の毛がゾゾゾゾゾっと逆立った。


「こいつ、ガチのケモナーだ!」

「クゥーン……」


 メス狼のコロもこれにはドン引きして尻尾を股の内側に丸めている。


「俺様が可愛がってあげよう。こっちにおいで、モニカちゃ~ん」


 グロスは「んちゅーっ」と唇の先っちょをとんがらせながら手招きした。

 畜生、絵面が最悪過ぎる。


『この男、わたくしに欲情しておりますの!?』


 こういうオープンな変態がいるせいで普通に暮らしているケモナーが風評被害を受けるんだ。

 許せねぇよなぁ……!


「モニカ、油断している今がチャンスだ! やれ!」

「にゃっ!」


 両腕を大の字に広げて熱い抱擁をしようとしたグロスのみぞおちに、素早く接近したモニカの肉球パンチがドムドムドムっと突き刺さる。

 そしてハグされる前に素早く離脱したモニカは、残身の構えを取った。


「はへ?」


 抱き締めたはずのモニカが残像のように消えたことで両腕をすかしたグロスは、呆然としたまま床に倒れ込んで気絶した。


「悪は滅んだ……」


 賭けに負けた冒険者達から「あぁ~」という落胆の声が漏れた。

 いや、絶対わざとだろそれ。


「やるなぁ、新人の兄ちゃん。餞別だ、好きなだけ持って行きな」


 胴元のおっさん冒険者が苦笑いを浮かべながら大皿に山積みされた銀貨を親指でクイっと指差したが、俺はフンと鼻で笑った。


「そんなはした金いると思うか? てめぇらで全部飲み干しちまえ」


 格好付けてそう言うと、しょぼくれていた冒険者達からワッと歓声が上がった。

 これは本物の新人冒険者と転職したベテラン冒険者を仕分ける通過儀礼だ。

 だからよほど困窮していない限り、手を出すのはNGなのである。


 クエストにも行かずに真っ昼間から酒場で宴会を始めた冒険者どもを尻目に、懐も温かな俺達は冒険者ギルドを後にしたのだった。

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