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第9話 王竜ペララライスの品評会

 翌日、俺達は霊峰ぺストーチカの麓までやってきていた。

 その目的はもちろん、山頂で暮らす王竜ペララライスに会う為である。


「ぺストーチカへの入山は法で禁じられておりますのに、本当に登りますの?」

「俺は何度もぺララライスに会いに行っているが、一度もバレたことはないぞ」

「きっと隠密魔法を使ったのでしょうけど……恐れを知らない男ですわね」

「褒め言葉と受け取っておこう。モニカ、お前はペララライスをテイムする為に必要な条件を知っているか?」


 俺は見晴らしのいい高台に立つと、マジックバッグから取り出した犬笛をピーっと吹いた。


「『勇を持つ者よ、ララライを統べる王となりたければ我が眼前で力を示すがよい』でしたか。王竜祭では毎年多くのテイマーがペララライス様のテイムに挑みますが、これまで誰一人として成功したことはありませんわね」

「そりゃ、前提条件が間違っているからな」

「間違っている……?」

「ペララライスをテイムする為の条件は二つある。一つ目はテイマーのレベルを上限の99まで上げること、二つ目は霊峰ぺストーチカの山頂にある王竜のねぐらで面接を受けてペララライスに気に入られることだ」


 あるいは、従魔契約を強化できる勇者のサブジョブを持ったテイマーであること。


「そんな、では……」

「ララライ王家としちゃ、どこの馬の骨かも分からないやつに王竜をテイムされては困るってわけだ。俺は平和に暮らせるなら誰が王様になろうがどうでもいいけどな」


 しばらく待っていると、遠くから大きな影が走ってきた。

 それは赤い首輪を首に巻いた、若草色の毛皮を身に纏う大きな大きな狼だった。


 尻尾をブンブンと振りながら胸元に鼻先を擦りつけてきた狼の首元を、俺は両手でわしわしと撫でまわした。


「紹介しよう。俺の相棒、グラスフェンリルのコロだ。コロ、こいつは新しい仲間のモニカだ。よーく匂いを覚えておけよ」

「わふっ!」


 コロは巨体に見合わない素早い動きでモニカの背後に回ると、スカートに頭を突っ込んで尻の匂いを嗅いだ。


「や、やめてくださいまし!」


 嫌がって逃げ回るモニカを追い掛けてひとしきり匂いを嗅ぎまくったコロは、俺が皿に注いで置いておいたモンスターフードをバクバクと食べ始めた。


「はぁ、はぁ、酷い目に遭いましたわ……」

「気に入られてよかったな」


 俺はコロの背中に騎乗用の鞍を取り付けた。

 コロは窮屈なのを嫌がるから普段は着けたりしないけど、険しい山道を登る時だけは安全の為に我慢して貰っているのだ。


「ところでサブロー。先ほど相棒とおっしゃっておりましたけど、あなたの相棒はラッキーラットのハムスケではありませんでしたか?」


 こいつ、痛いところを突くな。


「ハムスケは……死んだ」

「えっ」

「モンスターと言えど、ネズミの寿命は短く儚いのさ……」


 楽しかった過去を思い起こしてほろりと涙した俺は雲の浮かんだ青空を見上げた。

 前世の記憶を取り戻してからずっと一緒に過ごしていた家族の死は、俺がテイマーを辞めるきっかけとなった最後のひと押しだったのである。


「辛いことを聞いてしまいましたか……」

「一応、ハムスケの子供は王都の下水道に沢山いる。それでも、ハムスケの代わりにはならないけどな」


 食事を終えて空になった犬皿にクリーンを掛けてマジックバッグに仕舞った俺は、コロの鞍に跨ってモニカに右手を差し出した。


「いつまでも辛気臭い顔をしてても意味ないし、ペララライスに会いに行こうぜ」

「……そうですわね。サブロー、エスコートをお願いできますこと?」

「ああ、生まれて初めて経験するような楽しい体験を約束するよ」


 一人用の鞍で二人乗りは少し狭い。

 前に跨ったモニカの細い腰に腕を回した俺は鞍の手すりを握り締め、コロの脇腹を蹴って合図した。


「コロ、出発だ!」

「ウォン!」


 強靭な四足で強く大地を蹴ったコロがビュンビュンと風を切るように獣道を駆け上がると、あっという間に地上の景色は遠くに離れていった。



 霊峰ぺストーチカの標高はそこまで高くないので、険しい山道を小一時間ほど走っただけですぐに山頂まで到着した。


 草木の生えていないゴツゴツとした岩肌が剥き出しになっている山頂のど真ん中には、石造りの古ぼけた神殿が鎮座していた。

 ララライ王国が建国されるより前、遥か大昔から存在していた王竜を祀る神殿だ。


「なかなかに素敵な体験でしたわね。領都にいた頃はよく鳥に化けて空を飛んだりしておりましたが、それと比べてもスピードがダンチですわ」


 ふぁさりと腕を振って乱れた金髪縦ロールを直したモニカは、華麗に大地へと降り立った。


「それさ、空中で変装が解けたりしたら危なくない?」


 俺も続けてコロの背中から降り、お座りしたコロの頭をヨシヨシと撫でて褒める。

 えーい、おやつもあげちゃえ。

 特別な日にしかあげないとっておきのビーフジャーキーだ。


「何を言いますの、夜のスカイダイビングほど楽しいものはありませんことよ!」

「強心臓にも程があるぞ……」


 不整地をジェットコースターよりも速く走るコロの背の上でも、モニカは悲鳴一つ上げることなく平然と楽しんでいたな。


 彼女が詐欺師のジョブをずっと手放さなかった理由が分かったような気がした。

 このお転婆お嬢様め、いくらなんでもエンジョイし過ぎだろ。


「ところでサブロー、貴方は何の為にペララライス様に会うのですか?」


 二人と一匹でローマのパルテノン神殿みたいな感じのデザインをしている竜殿の中を歩いていると、きょろきょろと見回していたモニカが尋ねてきた。


「年に一度の挨拶ついでに、抜け落ちた竜鱗を貰いにきた」

「まさか、売って……」

「いやいや、売ったら絶対に足がつくからな。砕いて特別なモンスターフードの材料にする。コロが短期間でグラスウルフからグラスフェンリルに進化できたのも、そのモンスターフードのおかげなんだぞ」


 コロを霊峰ぺストーチカの近くに住まわせているのも、モンスターフードの実験で強く育ち過ぎて街中で飼えなくなったせいだったりする。


 一度は他のクランメンバーに預けることも考えたんだけど、為にならないからやめておいた方がいいとバルドさんに忠告されたからやめた。

 強いテイムモンスターに頼りっぱなしな癖にイキっているカインのクソ野郎に育成枠のアホ団員どもを見ていると、その忠告も正しかったように思える。


 あ、今更になってクランホームに置いていたモンスターフードの在庫が切れそうだったことを思い出した。

 まぁ、多少不機嫌になるくらいだろうしどうでもいいか。


「そうなんですの。騎士の最高級装備に使う貴重な竜鱗をモンスターの餌にしようなんて、よくもまあ馬鹿みたいなことを考えますわね」

「馬鹿で結構だ」


 そんなことを話している間に、俺達は竜殿の奥にある王竜のねぐらに辿り着いた。

 大きな竜翼を畳んで眠っているペララライスの黄金色の鱗は、天井の採光窓から差し込んだ日光を反射してキラキラと輝いていた。


『また貴様か、サブロー』


 脳内に響き渡った不機嫌そうなバリトンボイス。

 深い眠りから目覚めたペララライスは片目を開けてじろりと俺を睨み付けてきた。


「しゃ、喋りましたわ!?」

「神代から生きている世界最強のドラゴンだぞ、そりゃ喋るだろ」

「で、ですが王竜祭でペララライス様が喋ったことなど一度もありませんわ!」

「まぁ、あんまり話すと威厳がなくなるし。な、ぺス」


『気安く愛称で呼ぶな。我をそう呼んで良いのは我が認めた主だけだ』


 ペララライスがフンと鼻を鳴らすと、鼻からボッと炎が噴き出した。

 迂闊に近付いてスカートの先っちょを炙られたモニカがビビって飛び下がる。


「危ないですわっ!?」


 牙を剥き出しにしてクックックッと愉快そうに笑ったペララライスは、身を起こしてモニカに問い掛けた。


『盆暗王子から鞍替えしたのか? ファランドールの娘よ』


 王竜祭で王都を訪れた時に数度見ただけだろうに、記憶力のいいことだ。


「わたくし、あの男に冤罪を掛けられて捨てられてしまいましたの。いつか目に物を見せてやりたいですわ……!」


 モニカは焦げたスカートの先っちょを気にしながら、グッと拳を握り込んで決意を新たにした。


『神より授けられし天恵のジョブを使えば、いくらでもやり様はあろう。我に化けて王都へ赴き国家を転覆するもよし、王子を暗殺するもよし。何を迷うことがある?』


 ペララライスの全てを見透かしたかのような視線を受けたモニカは、ド直球を投げられるとは思いもしなかったのか指先をもじもじとさせながらうつむいた。


「わ、わたくしはその……余り悪いことはしたくありませんの……」


『ならば、その男を使えばよい。そうだろう、サブロー』


「テイマーに転職して王様になれって? やだよ面倒臭い」


 俺みたいな出自も怪しい学のない人間が暴力でこの国を乗っ取ったところで、ロクなことにはならないだろう。

 モニカから聞いた話だと、彼女のパパには厄介な政敵がいるみたいだし。


『相も変わらずつまらん男だ。まあよい、さっさと取引を済ませて帰ってくれ』


「うーっす」


 俺がマジックバッグの奥から取り出した樽みたいなサイズの缶を目の前に置くと、鋭い爪先で掴み取って器用に缶の蓋を開けたペララライスはその中身をザラザラと口に放り込んだ。


『ふむ、今年はバタークッキーか。この味は……オネゲル村のブルブルカウから絞って精製したばかりの新鮮なバターを惜しげもなく使っているようだな』


 俺とモニカは固唾を飲んでペララライスの評価を待った。

 ララライ王国の各貴族家に推薦された凄腕の料理人が料理の腕を競い合うペララライスの品評会は王竜祭のメインイベントだ。


『……よろしい、今年は5点だ』


 やったぁ、過去最高得点だ。

 ちなみに10段階評価。

 戻ってきた空き缶には黄金色に輝く頭より大きな竜鱗が五枚も入っていた。


「じゃあまた来年来るわ。行くぞ、モニカ」

「ごきげんよう、ペララライス様」


 モニカがお嬢様らしくスカートを持ち上げて別れの挨拶すると、ペララライスは大きな竜翼を畳んで安眠の構えを取った。


『達者で過ごすがよい』


 俺達は再びコロの鞍に乗り込むと、王竜が住まう天空の神殿を後にしたのだった。

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