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竜神王

「雄也、大丈夫?」

「悠輔……。迷惑、掛けちまったな……。」

「良いんだよ。友達が困ってたら、助けてあげないと。」

 英治さんと一緒に暮らす様になって一週間、それがちょっとした噂になったりもしたけど、噂って言うのはすぐに無くなる、もう皆慣れたみたいで、普通に接してくれる。

 英治さんを気に入らない先輩からは絡まれるって言うか、ちょっと嫌がらせじみた事をされるけど、そんなのどうでも良い、って言うか、別に何をされた所で困らない。

 今は、同級生で同じ部活の雄也が、いじめを受けてたって言う話を聞いて、それを何とかした所。

 力を持ってない人間に武力行使はするべきじゃない、って英治さんも言ってたけど、そもそも護身術とか、剣道や空手をやってたから、いじめをしてた先輩達を撃退するのに、困る事もなかった。

「雄也、独りで抱え込んじゃだめだよ?僕達は友達なんだから。」

「悠輔……。俺……、友達って言ってくれるの、悠輔と源太位だったからさ……。どうすりゃいいのか、わかんなかったんだ……。悠輔はほら、体調悪そうにしてる事が多いだろ?だから、話しても良いんかなって……。」

「良いんだよ。僕達は友達、大切な友達。だから、何でも話して?」

 泣きそうになってる雄也の頭を撫でながら、部活に向かおうって思う。

 雄也が虐められてた理由、それはくだらないもので、ただ単に小さかったから、だった。

 雄也は、僕達が百六十センチ位の身長があるのに対して、百四十センチって、ちょっ小柄なんだ。

 本人もそれを気にしてる、でも、そんな理由でいじめをしていい理由にはならない、そもそも、いじめ自体許せない。

「さ、行こうよ。」

「おう。」

 いつもの調子に戻ってくれて、雄也は笑う。

 一緒に部活に向かう、着替えの時だけは傷跡がばれない様にしないと。


「それで、雄也はもう大丈夫なのか?」

「うーん……。わかんない、でも、何もしないよりはマシなのかなって。」

「悠輔らしい答えだな。しかし、力を使ってはいけないぞ?悠輔の持つ力、それは人々を守る為にある力であって、人を傷つける為にある力では無いのだから。」

「わかってる、僕本人の実力以外の事はしないよ。」

 部活が終わって、家に帰ってきて、夜ご飯を作りながら、英治さんに報告。

 英治さんは、力を使ってないのなら良い、とは言ってくれてて、実力行使って言っても、結局人間としての力、に限定した話であれば、問題ないとも言ってた。

 そもそも空手道場とかでは、素人相手にやっちゃいけませんよ、とは言われてたけど、でも、僕としては、こういう時に使わないでどうするんだ、って感じでもある。

「そう言えば、なんでこの世界にはディンさんがいないのか……。そして、千年前に現れたきりだったはずの魔物が、百年おきに現れる……、それも違うな。」

「英治さんのいた世界では、竜神王様が戦ってたんでしょう?この世界とは違って、竜神王様がいて、僕も一緒に戦ってて、僕の別時間軸の弟もいたんだっけ?」

「そうだな。竜太は、悠輔より先に死んでしまった。悠輔と竜太、デインさんしか、ディンさんを止められる存在はいなかった、そして、ディンさんは竜太とデインさんを殺め、そして……。」

「別世界の僕と戦って、撤退した。だよね?」

「そうだな。」

 一週間前、一緒に暮らし始めた日に、その話を詳しく聞いた。

 なんでこの世界には竜神王様がいないのか、なんで敵になってしまったのか、なんで英治さんだけこの世界に飛んだのか、そしてその世界はどうなってしまったのか。

 守護者を失った世界は崩壊する運命にある、って英治さんは言ってた、なら、その竜神王様も、いなくなってしまったのかな。


「ん……。」

 夢だ。

 またこの夢だ、知らない隻腕の茶髪の人と、僕が対峙してる夢。

 この人は誰なんだろう、夢の中で、問いかける。

「なぁ、ディン。お前は、世界を呪う存在になってしまったんだな。竜太を……。竜太を殺したのはなんでだ?」

「邪魔だったから、それだけ。デインも竜太も、竜神だ。竜神はこの世に必要ない、俺の目的に反する存在だ。だから、殺した。もうこの世界群に竜神は存在しない、いらないんだよ、悠輔。さぁ悠輔、俺とお前だけの世界に行こう。二人で、永遠に生きようじゃないか。」

「……。断る。俺は、お前の憎んだこの世界を守る為に、力を振るう者。それが竜神じゃなかったとしても、お前の敵でしかない。」

 夢の中で、僕が語ってる。

 夢の中の僕は、少し大人になってて、眉間に傷があって、なんだか怖い表情をしてる。

 それと相対してる、これが竜神王様、ディン。

 紅い瞳、闇に染まった剣を持って、今にも僕を殺してきそうな瞳をしている。

「これでお別れだ、ディン。俺が死んで世界が滅ぶか、お前が死んで世界を存続させるか、もう手段はそれしか残されてない。人類最後の守護者として、お前を守りたかった者として、俺はお前を斬る。」

「それでこそ悠輔、だと言いたい所、なんだけどな。今回ばかりは聞き入れてくれないか?俺は、お前と戦いたくはないんだ。」

「……。竜太とデインを殺した時点で、俺達の決別は決まってたんだ、ディン。デインも竜太も、俺にとって大切な家族だった。例え、それを奪ったのが最愛の人だったとしても、それを許す事は出来ない。ディン、お前は踏みとどまるべきだったんだ。闇がそうさせてくれなかった、それはそうかもしれない。でも、お前は、心のどこかで、竜神の存在を疎んでいた。新たな秩序の世界を生み出そうとした時、邪魔するであろうデインと竜太を、疎んだ。その時点で、お前は踏みとどまれなくなったんだ。人間は醜い、確かにそうだ。人間は、守護者達に対して、醜悪な姿を見せる。ただな、ディン。それでも、俺は守ると決めたんだ。大切な人達を、大切な世界を、この世界群を。俺に出来る事は少ない、人間である俺には、出来ない事もあるだろう。ただ、それでも。」

 僕が刀を握ってる、それは僕もよく知ってる刀、陰陽刀絆だ。

 戦いが始まる、それが分かった瞬間。

「……!」

 目が覚める。

 夢を見た、それは、僕と竜神王ディンが決別する夢。

 もう何度見たか、ここ一週間、その夢ばっかり見てる。

 違う、きっと夢じゃない。

 それは、英治さんのいた世界で起きた、事実だと思う。

「英治さん……。」

 結果は、その世界の僕は死んだだろう、って英治さんは言ってた。

 とても悲しそうな顔をしてた、とても苦しそうな顔をしてた。

 僕には何が起こったのか、何がどうなってしまったのか、それはわからない。

 でも、夢を見るって事は、何かの暗示なんじゃないか、そうとも思う。


「頭痛い……。」

「大丈夫か?悠輔、保健室行った方が良いんじゃねぇか?」

「うん……。」

 それから一週間、なんだか世界に靄がかかった様な感覚があった。

 探知しているんだけど出来てない、みたいな感じで、何かが来る、気がする。

 それがあって眠れてない、目の下にクマが出来ちゃって、本当に病人みたいになっちゃってる。

 源太がそれを心配して、保健室に行こうか、って手を差し伸べてくれた、その時だった。

「っ……!」

 頭痛、脳が揺らされたみたいな頭痛。

 それと一緒に、誰かの記憶が流れ込んでくる。

「ダメ……、どうして……!」

「悠輔……?大丈夫か?」

「ダメ……、だ……、ディン……!」

 まるで、目の前で起きてる事みたいに、バーっと光景が駆け巡る。

 それは、僕に似た、よく似た、剣を持った子供を、ディンが殺している姿、そして、ディンが、ディンによく似た人を殺してる姿。

 それを、目の前で見てるみたいに、まるで血の匂いがしてくるみたいに、感じてしまう。

「ダメ……、ディン……!」

「悠輔……?」

 譫言に聞こえるだろう、僕は、目の前で子供達を殺してるディンに、必死になって訴える。

 血の匂い、鮮血が噴き出す。

「うわぁ!」

「ゆう……、や……?」

 ディンがこっちを向いた瞬間、雄也の叫び声で、現実に引き戻される。

 雄也が危ない、何かが起こってる、それだけは分かった。

 頭が痛い、でも、放っておけない。


「なにすんだよ!」

「てめぇが余計なことしなきゃ良かったんだ!」

「だからって!」

 頭が割れそうに痛い、でも、雄也が危ない、って本能的に感じる。

 廊下に飛び出す、そこには、雄也とナイフを持った、雄也を虐めてた先輩がいた。

「てめぇはぶっ殺す!」

「雄也!」

 間一髪、雄也が刺されそうになった所に、何とか間に合った。

 雄也を抱きしめて、体を回転させて、僕の胃の辺りにナイフが刺さる。

「……。」

「悠輔!?」

「せいやぁ!」

「がっ……!」

 雄也を抱きしめたまま、回し蹴りを入れる。

 先輩の顎にクリーンヒットして、先輩は吹っ飛ぶ。

「悠輔……、なんで……!?」

「友達……、だから……。」

 痛い、でも、戦ってる時の痛みに比べれば、なんてことはない。

 でも、痛いものは痛い。

「悠輔?雄也?」

「英治……、さん……。」

「悠輔!今止血する、我慢しろ!」

「うん……。」 

 そこに、たまたま通りかかった英治さんがやってきて、僕の背中に刺さったナイフを抜いて、てきぱきと応急処置をしてくれる。

 安心して任せられる、なんて思った、その瞬間。

「……?」

「……?」

 僕と英治さんは、固まる。

 英治さんは、探知魔法が使える、それはちょっとした場所に限定される事だ、って言ってたけど、今しがたした気配は、覚えてるんだと思う。

 僕は、感じた事が無いはずだったその気配を、知ってた。

「……。」

「悠輔……、その傷では……。」

「でも……、行かなきゃ。」

「悠輔、ダイジョブなんか……?」

 痛みとは別の意味で、顔が険しくなる。

 雄也がそれを見て、一瞬怯えた様な顔をして、僕を心配してくれる。

 もう、隠す事は出来ないと思う、たまたまなのか、それとも僕をめがけて来たのかはわからない、でも、もう隠す事は出来ないと思うんだ。

「悠輔?血ぃ吐いてんのか!?大丈夫か!?」

「……。大丈夫。」

 教室を抜けて、源太が心配してくれる声を後ろに聞きながら、校庭に出る。

 今いるのが三階、飛び降りて行く僕を見て、皆が驚く声が聞こえた、気がするけど、それも気にする余裕は無かった。


「ディン、だね……?」

「……。悠輔か?悠輔、なんでだ?俺が、殺したはずなのに。」

「……。」

 校庭に出ると、一人の男の人が立ってた。

 その人は、隻腕で赤茶髪、額に傷があって、紅い目をしてる。

 禍々しい空気、探知しなくてもわかる、禍々しい気配。

「悠輔、怪我をしたのか?どうした?人間にやられたのか?」

「……。」

「そうか……。やっぱり人間は、滅ぼさなきゃならないんだな。ここが俺のいた世界ではない、って事なんだろうけど、まあ関係ないか。ここには俺もいないみたいだな、って事は、悠輔が一人で戦ってたのか?凄いじゃないか、悠輔。まだ、力に目覚めて時間も経ってないだろうに。」

「ダメ……、だよ……。ディン。僕は……、僕は、人間を、守りたいんだ……。」

 優しげな声音、嬉しそうな顔、でも、禍々しい気配は変わらない、殺気も、殺意も、一寸たりとも変わらない。

 成長した僕で勝てなかった人に、僕が勝てるんだろうか。

 でも、戦うしかない、ディンが人間を滅ぼすと言うのなら、僕は人間の守護者なんだ。

「陰陽刀、絆よ……。」

「悠輔?」

「僕は……。君の知っている君より、弱いかもしれない。世界なんて、守れる程強くないのかもしれない。でも……。でも、僕は決めたんだ。世界を、守るって。」

「そうか……。悠輔らしいと言えばらしいけど、力に目覚めたての身で、俺に勝てると思ってるのか?矛を収めた方が、懸命だと思うけどな?」

 ディンは、笑いながらこっちを見てる。

 そうだ、世界を守った竜神王様より強いなんて驕りはない、絶対に、僕の方が弱い。

 でも、それは戦わなくていい理由にはならない、世界が滅ぶのを、ただ見ていていい理由にもならない。

 だから、戦う。

 僕は、この世界の守護者なんだから。

「じゃあ、ちょっとわかってもらおうか。」

「……!」

 ディンが消えた。

 違う、消えたと思っちゃうほど、速い。

「が……!」

 掌底を撃たれた事に気付くまで、一瞬時間があった。

 めきめきって骨がきしむ音がする、内臓が破裂したのか、吐血する。

「……!」

 そのまま、勢いで吹き飛ばされる。

 三階、さっきまでいた場所に吹き飛ばされる、教室のガラスが割れて、教室の壁に体がめり込む。

「悠輔!」

「えい……、じ……、さん……。」

 逃げて。

 僕に、世界線を超える力なんてない、僕には、そんな事をするだけの能力はない。

 だから、だから、だから。

「悠輔、お前は弱いんだな。そうか、力に目覚めたてだから、まだ弱いのか。」

「ディン……、さん……!」

「おや、英治君じゃないか。そうか、見当たらないと思ったら、こっちの世界に来ていたんだな?悠輔が、最後の力をふり絞って、君だけを飛ばしたと見える。うん、そうだな。君も特別に、俺達の楽園に招待しよう。悠輔が、最期の力を持って、命と引き換えに助けた人なんだ、それだけの価値はある。」

「ディンさん……、もう、やめてくれ……!悠輔は……、悠輔はそんな事望んじゃいない……!」

 英治さんが僕のとなりに来てくれる、でも、僕は肺が上手く動かなくて、呼吸もままならない。

 英治さん、逃げて。

 お願いだ、これ以上、失いたくないんだ。

「さ、悠輔を治すから、ちょっと待っててくれ。」

「ぐ……!」

「えい……、」

 英治さんがディンに殴られる、英治さんはよろけて、僕とディンの間から外れる。

 ディンが僕の首を掴んで、剣を出現させる。

 それは、霞んだ視界で見えるそれは、黒く紅く、澱んでた。

 竜神の剣、それは英治さんに聞いた事がある、闇を癒して、光へと帰還させる為に存在する剣なんだ、って。

 その面影はない、闇に染まった剣。

「……!」

「悠輔ぇ!」

 それが、僕の腹を易々と貫く。

 痛い、なんてもんじゃない、僕は、そこで意識を失った。


 ……。

 僕、死ぬのかな。

 何も出来ず、浩や佑治も守れず、英治さんも助けられず、友達さえ失って、死ぬのかな。

「……すけぇ!」

 英治さんの声が聞こえた気がする、でもそれは、きっと気のせいだ。

 どんどん、意識が薄れていく、もう僕は、死ぬんだ。

「悠輔、諦めるには早いんじゃないか?」

 ……?

「なぁ、別の世界の俺。俺は、諦めの悪い男だと思ってたぞ?並行世界だろうと、それは変わらないだろ?」

 誰だろう。

 朦朧とした意識の中で、誰かが語り掛けてくる。

「なぁ悠輔、俺を救ってはくれないか?闇に染まってしまった哀れな俺を、世界を憎んだ愚かな俺を。」

 でも、僕は……。

「なあに、俺達が力を貸せば、一発で勝てるさ。俺達の力、受け取ってくれるか?」

 それで、皆を助けられる……?

「勿論だ。悠輔はそう言う所、変わらないんだな。本当に、変わらない。幾つか並行世界を観測した覚えがあるけど、何処に行ったって悠輔は変わらない、大切な人達の為に、何時だって戦ってきた。……。俺がいない事によって、悠輔独りにそれを押し付けてる事に関しては、ごめんな。ただ、なんで俺が存在しないか、まではわからない。でも、其れには意味があると思う。」

 意味……?

「そうだ。俺がいなくて、陰陽師の家系の人間が戦ってる、その意味だ。何がどうなって、竜神王がいない世界線なんてのが出来てるのか、それはこっちで調べられなかった。ただ、意味はある。どんな世界だろうと、意味はあるんだ、悠輔。滅ぶ世界があれば、存続する世界がある、世界は、観測出来ない程に無限に広がってて、一つの出来事で枝分かれする。……。そうだな、悠輔独りに背負わせるのは、申し訳ないと思ってる。」

 ねぇ、ディン。

「なんだ?」

 そっちの世界では、僕達は仲が良いの?僕が夢で見た世界みたいに、誰かを殺してしまって、なんてことはないの?

「強いて言うのであれば、俺は竜神を殺した。人間を滅ぼそうとしていた竜神達を、止める為に。ただ、悠輔とは仲が良いよ。こうやって、一緒にパスを繋いで話をする位にはな。」

 ……。ねぇ、僕……。

「何だ?俺にも質問か?」

 僕は……。僕は、ディンと戦う。僕にとって、それは苦しい事じゃないの……?

「……。苦しい、ただ、それしか方法は遺されたないのも事実だ。ディンを救ってやれるのは、そこにいるお前しかいない。別の世界の俺、坂崎悠輔しか、ディンを救う事は出来ない。ディンを救う、それは殺める事かもしれない。でも、世界を滅ぼす存在を、俺達は許す事は出来ないんだ。それに、ディンにそうなって欲しくない、それは俺の願いだから。」

 ……。

 力を、貸してくれる?

「勿論だ、悠輔。」

「わかってる、頑張れよ、俺。」

 両手が握られる、とても暖かい力が流れ込んでくる。

 一瞬だけ見えた、優し気に微笑んでるディンと、眉間に傷のある僕が、頑張れって言ってくれてる。

 必ず、勝つよ。

 ディンを、救って見せるよ。


「悠輔ぇ!」

「何を慌ててるんだ英治君、俺は悠輔を治してるだけだぞ?ついでに、人間なんてどうでもよくなって貰うだけだ。」

 意識が戻ってきた気がする。

 目をうっすら開けると、僕の体は闇に侵食されてた。

 英治さんが、それをどうすればいいのかわかんない、って泣いてディンに懇願してる。

 大丈夫だよ、英治さん。

 僕は。

「僕……、は……。」

「傷が治ってきたか?……、何……!?」

「僕は……。君を、救う……!ディン……、君の為に……、英治さん達の為に……、僕自身の為に……!」

 体を覆っていた闇を振り払って、僕の中の光が、ディンの剣を光へと帰還させる。

 竜神王剣、竜の誇り、それは、美しい剣だった。

「馬鹿な……!今の悠輔に、そんな力が……!?」

「僕は……。僕は、守るって決めたんだ……!」

 腹から剣を引き抜いて、僕の刀と一つにする。

 それを僕は知ってた、どうすればいいのか、それに、その名を。

「竜神王剣竜の誇りよ……!陰陽刀絆よ……!今一つとなりて、巨悪を祓う力となれ……!」

 一つになった剣と刀、それは、刀の柄の部分の白と黒が交差してる模様が、剣の刃に移って、一つになった剣。

「竜神王剣、竜の最果てよ……!ディンの中の闇を……!叩き切れぇ!」

 狼狽えて動けないでいたディンに、渾身の一撃を叩き込む。

「ば……な……!」

 ディンの中に巣くった闇、それを斬った。

 ディンは開放されると思う、だから、もう大丈夫だ。


 さようなら、皆……。


「悠輔……、ありがとう……。俺を、救ってくれたんだね……?」

「……。」

「悠輔……?」

 ディンが正気に戻る、瞳の色は翡翠と琥珀になり、禍々しい気配も消えた。

 悠輔に礼を言おうと、悠輔の方に向き直って、声を掛ける。

「悠……、輔……?」

 英治が、悠輔を抱きかかえ、泣いている。

「悠輔……!死ぬな……!」

「英治、君……?」

 悠輔は、呼吸を止めていた。

 こと切れた、と言う表現が正しいだろう、血にまみれ、英治の腕に抱かれて、眠っていた。

「そん……、な……。」

 ディンは狼狽える、意識が無かった訳ではない、ただ、制御が出来なかった、自分自身をコントロール出来ない中で、見ていた。

 悠輔が自分を救ってくれた、それは理解していた、だからこそ、その悠輔が死んでいる事が、受け入れられなかった。

「そんな……、悠輔……!」

 涙が流れる、ディンは、二度も悠輔を殺めてしまった事実に、気付く。

 竜太も、デインも、竜神も、家族さえも、殺してしまった。

 闇に支配されていたディンは、その闇の赴くままに、自身の世界崩壊と言う目的に反する、世界の守護者達を殺しつくした。

「あ……、あぁ……!」

 崩れ落ちる、失ってしまったものの大きさに、自らの手で殺めてしまったものの大切さを、思い出す。

「悠輔……!死ぬなぁ……!」

 英治が、血まみれになりながら、悠輔に縋りついている、大粒の涙を零しながら、悠輔の体を揺らし、起こそうとしている。

 しかし、悠輔は起きない、満足げな顔をして、呼吸を止めて、鼓動を止めて、ただそこにいる。

「……。」

 ディンは、何か手段はないかと考える。

 そう言えば、聞いた事がある、竜神には、一つ生命を蘇らせる手段がある、と。

 ただ、それを実行しようとした時、元居た世界では悠輔の肉体が消滅していて、実行しようにも出来なかった、しかし今は、悠輔の肉体はまだ、消滅していない。

「英治君……。悠輔を、蘇らせる手段がある……。」

「……。嫌だ……、これ以上、悠輔を好き勝手させる訳には……!」

「頼む、英治君、信じてくれ。必ず、悠輔を蘇らせる。その結果、悠輔はまた戦う事になるだろう、この世界には俺はいない、だから、悠輔が戦うしかない。……。それでも、俺は悠輔に生きてほしい。」

「……。」

「英治君、信じてくれ。これは、俺にしか出来ない、贖罪なんだ。」

 英治は、今のディンが正常である事を確認すると、頷いて悠輔を離す。

「……。」

 ディンが、人間には理解出来ない言語を唱え、そして満足げに笑う。

「英治君、悠輔を頼んだ。君もよく知ってる通り、悠輔は無茶をしがちだから、誰かが支えてあげないといけない。君になら、それを任せられる。」

「……。勿論です、ディンさん。」

「ありがとう、英治君。」

 唱え終わったディンが、英治に向けて語り掛けた、と思ったら、その姿が光に包まれていく。

 ディンは最後に、悠輔の頬を撫でると、光となって消え、その光が悠輔に吸い込まれる。


「……。んぅ……。」

「悠輔……!」

 少しだけ夢を見てた気がする。

 それは、ディンが夢見た事、世界の平和だとかじゃない、家族と愛し合う、大切な家庭。

 暖かった、ディンが自ら失ってしまった、平和と日常。

「英治さん……。」

 英治さんが泣いてる。

 ディンは、僕の中に眠ってる、命と引き換えに、生命を蘇らせる方法、それは、竜神が一人一回しか使えない、禁呪。

「ありがとう、ディン。」

 鼓動を感じる、ディンの鼓動を。

 きっと、夢を見てるんだろう。

 平和だった日常を、愛した人達との日常を。

 だから、僕に任せて。

 きっと、世界を守って見せるよ。

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