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妖狐の血を引く俺は、死神のお世話係 ~御子召喚されたけど、追放されてモフモフ要員になりました!?~  作者: 卯崎瑛珠
三章 暴れる巨亀

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19話 太陽の御子


 ぽかぽかと暖かな光が、頬に当たっている。

 あ~よく寝たなあ。そろそろ起きて片付けでも始めるか~。

 

 趣味のキャンプから都会に戻るのは、いつも憂鬱(ゆううつ)だった。

 

 養護施設育ちで親がいないと分かると、ガードマンの同僚や先輩たちは決まって同情の目を向ける。


「まあ、平穏に過ごせば定年までいられるからさ」

「夜勤キツイけど、手当は出るしな」

「高卒でも働けて幸せだよ」


 俺を慰めようと様々な声を掛けられたけれど、ごめん、どれもしっくりこない。

 俺は俺が当たり前だから。人と比べると落ち込むこともあるけれど。そんなに哀れなことかな? とも思う。

 むしろそういう声を聞く方が、俺は不幸なのかな、人と違うのかなと思ってしまう。


 だから、自然の中に居るのが好きだった。

 誰もいない穴場の川辺や、山の中に寝転がって、太陽の光を浴びる。

 それだけで心が洗われて、また一週間を頑張れるのだ。

 

 まるで太陽が、俺を浄化してくれているような――




 ◇



 

「……ン! シン!」


 

 誰かが、呼んでいる。

 


「……ン! シン!」



 そんな、必死に呼ばなくても。俺はどうせ、ひとりぼっちだ。

 


「……ン! シン! 起きろ! 起きてくれ!」

「しんーーーーーーーーーっ」

「グリモアを! 解放するのだろうっ!」

「おきてえええええうわーーーーん」



 グリ……?



「あやつは、シンじゃないと! 無理だぞっ!」

「っは!」


 思わず、笑った。確かに。


「シン!」


 ぼやけた視界の向こうに、水色の瞳があった。


「はは。いつも……だ」


 何度かまばたきをすると、心配そうに覗き込んでいるライナルトとエミーの顔が見えた。

 

「シン!?」

「この世界で、目が覚めるとさ……絶対ライの、目がある、んだよな~……」

「っっ」


 がばりと上から覆いかぶさるように抱きしめられた。鎧は着けていないけれど、力が強すぎて痛い。分厚い胸板が、すごい。俺も少し鍛えてる方だけど、こうはなれないな。


「いだだだ」

「無事で! よかったっ!」


 男に抱きしめられると、ものすごい力強くてがっしりしてて、なんていうか、トキメくね?


「ふは。また、乙女なった……」

「おとめ??」

 

 不思議な顔をしながら離れるライナルトと交替するかのように、エミーが俺の腹に顔を乗せるようにして「ぼすっ」と突っ伏した。


「ふぐっ! おい、エミー……」


 どうやら気絶しているようで、呼んでもぴくりとも動かない。

 

「すまぬ。一晩中祈りっぱなしだったのだ。安心して気が抜けたのだろう」

「え……あ? 呪いのナイフ、どうなっ……いでで」

 

 完全に覚醒すると、体中のあちこちが痛い。おまけに、腕も上がらないぐらいに、疲弊している。


「殿下が祈りで浄化してくださった。かなり無茶をされた……」

「そういうライも、傷だらけじゃん」


 見える範囲だけでも、頬や首に切り傷と、打撲痕がある。


「私のは、大したものではない」

「そう? ライってすげえのな~! 最後のとか、まじかっこよかった」

「っ」


 ぽたり、とライナルトの水色の目から雫が落ちてきた。


「なんだよ」

「だめかと、おもっ」

「泣くなよ、聖騎士団長」

「元、だ!」

「ははは!」

 

 また上から顔をぎゅううううと抱きしめられた。

 腹にはエミーが乗ってるし、今度こそ死ぬかと思うぐらいに苦しかったけど――我慢した。あと、胸板すげえ。


「目が覚めたか」


 突然、威厳のある声が降ってくる。


「邪魔か?」

「っ、いえ」


 慌てて起き上がるライナルトの肩越しに、金色の髭が見えたかと思うと、にこにこと覗きこまれているのが分かった。海洋王国国王のアンセルミだと認識したけれど、体が動かない。

 それはそうだろう。まだ起き上がれるほど、元気じゃない。

 

「そのままで良い。よくやったな、キツネ」


 国王のくせに、気安すぎないか?

 

「お褒めにあずかりー、恐悦(きょうえつ)至極(しごく)に存じたてまつりまするーーーー」

「きょうえつ?」

「めちゃくちゃありがとうございます、です」

「ふは。苦しゅうない」


 うお! リアルの苦しゅうないをもらってしまった。

 ちょっと録画したい、とか思っちゃった。

 

「大活躍だったな。まさか余に化けるとは思わなんだ」

「げ」


 忘れてた!


「えーっとそのー、不敬罪とか……」

「そうだなあ。いつもなら即縛り首なんだが」


 やっぱり!?


「我が騎士たちの命を救うためだったのだろう?」

「ソウデスゥ」

「ならばよい。騎士たちは、我が命も同然だからな」

「ふえええぇ……よかったぁ」


 大きな息を吐くと、国王は優しい顔で俺を見下ろす。

 

「ライナルトから聞いた。そなたは、御子(みこ)召喚で別世界からやってきたのだと」

「ええ、まあ、はい」

「ならば、敬意を払わねばならぬのは、こちらの方だ」

「ぐげ! いやいや、俺、違いますから」

「違う、とは?」

「太陽の御子なんかじゃないんです」

「……なぜそう思う」

「普通の人間ですし、あと、太陽の印? がなかったです」


 おそらく、グリモアが見せてくれたように、手首になんらかの文様があるはずだと理解している。

 俺には、それがない。


「ほら」


 証拠だ、とばかりに俺は両手首を持ち上げて見せる。そこには当然、何もない。


「ないから、追放されました」

「なんと愚かなことを」


 国王が、思いっきり眉尻を下げている。


「おろか?」

「太陽神がお隠れになっておるのだ。印が現れるわけなかろうに」

「え!?」

「魔法陣での召喚に、間違えや例外など、聞いたことがないぞ」

「ほげえええええええええ!?」


 ライナルトも、あっけに取られている。

 

「聖騎士団長が、情けないことだな」

「っ、元、です」

「海の守護獣と会話をしていたようだと、そなたから報告を受けたが」

「はい。シンはあの巨大な亀と話をしていたようです」

「それは、事実か? シン」

「え、はい。名乗ってくれました。タルタロスと」

「!!」


 ライナルトが驚愕に目を見開いている。

 一方で国王は、はああと盛大な溜息を吐いた。


「えっと……?」

「守護獣の名をもらい受けるなど。それこそ、太陽の御子にしかできんよ」


 ――ええええええええええ!?


「えええええええええええええええええっ」


 俺、飛び起きました。

 

 衝撃的すぎぃ~……

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