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妖狐の血を引く俺は、死神のお世話係 ~御子召喚されたけど、追放されてモフモフ要員になりました!?~  作者: 卯崎瑛珠
三章 暴れる巨亀

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17話 王女と聖騎士団長


「こいつは! 呪われてるだけだああああああああああああっ!!!!!!!!」


 俺の声は、確かに届いたはずだ。

 だが、ライナルトは攻撃の手を止めなかった。


「呪われているのなら、なおさらっ」

「な! やめろってええええ」

「退治しなければならないっ!」


 俺の耳は、良い。遠くの音まで拾う。

 狐は、地中の穴深く隠れている獲物の物音まで聞いているらしい。

 ジャンプ能力に優れていて、例え住む土地が変わっても適用力が高い。


 そうやって狐の特徴を次々思い浮かべられるのは、祖母に「妖狐の血」のことを聞いて気になって調べたからだ。

 動物園にも見に行った。だから耳や尻尾が可愛いと言われるのも、まあ分かる。


 そんな俺が何を言っても、危機感を覚えて戦っている奴らを止めることはできない。

 暴れた魔獣は恐ろしいし、実際騎士たちは怪我を負っているし、被害も(こうむ)っている。

 

 今の俺に必要なのは、愛嬌でも身体能力でもない。

 考えろ。ライナルトの『正しい正義』を止めるにはどうしたらいいか――


「わっ!」


 悩んでいる間にも、ライナルトの猛攻は続く。剣筋に乗った聖魔法の威力がタルタロスの肌を斬り、海水と血とが、舞い上がっている。

 さすが元聖騎士団長と言いたくなる攻撃力だ。素人目でも、海洋王国の騎士たちと一線を画している。

 

「待てって!」

「待たん!」


 バッとマントを外し身軽になったライナルトは、銀色のプレートアーマーを光らせ宙を駆け上がった。


「うおおおおおお!」


 肩に(かつ)ぐようにして振り上げた剣を、思い切り振り下ろしてくる。


「くっそ。あんな鎧みたいなの着て、よく跳べるよなあっ」


 俺は慌ててタルタロスの首の後ろへ立って、攻撃を止めようと右腕を左右に振ってみた。


「やめろってええ!」

「どけええええええ」

「うわっ!」

「ギャオオオオオオオンッ!」


 ざくっと音がするぐらい、首の皮を深く(えぐ)った剣筋の向こうに、ギラギラ光る水色の目がある。

 波の飛沫(しぶき)と、殺気と、騎士の誇りが交錯するその瞬間には、感動すら覚えた。

 

「ライナルト……」

 

 剣を振り斬ったライナルトはくるりと空中で一回転して、岬の先端に降り立つ。再び態勢を整えて、構え直している。その視線や覇気に、一片の曇りもない。

 真正面から正論をぶつけても、通らない。戦っている奴らを説得しようと思ったら、何をすれば良いのか。

 

「はは、かっこいいな~! さすが騎士団長……エミー!」

「ひゃああああいっ」

「呪いを解く方法はっ!」


 びくっと体の動きを止めた後、大きな青い瞳を潤ませながら言われたのは――


「難しいことです! 呪いをもたらしている媒体が必要です! 道具と、呪われた体! 両方へ聖魔導士が祈りを捧げればあるいは」

「よしわかった!」

 

 まだ希望があった。そうだ、俺たちには、エミーがいる。

 

 あのナイフの柄がどこにあるのか。なければ、どうやって抜くか。

 もしくは――尻尾ごと切るか。


「なあタルタロス……俺のこと、信じてくれる?」


 首元をとんとんと優しく叩き、話しかけてみる。


「ッキュウ」


 きっと、うんと言ってくれた。


「痛い思いさせるけどっ、ごめんな! 絶対、助けっから!!」

「ッキュウウウウウウ!」

「ライナルトーッ!」


 新たな聖魔法の加護をもらい、一層輝きの増した騎士に向かって、俺は叫ぶ。


「尻尾だ! 尻尾を! 切れえええええええええええええ」

「!!」


 ザバアアアアアアアアア。


 俺の言葉を聞いて、苦し気に頭を振りながらも、タルタロスが向きを変える。

 岬へ背を向け、海中にあった尾を持ち上げて見せた。


「! あれはっ」

「はい! 見えました! 間違いありません! 呪具(じゅぐ)です!」


 エミーが甲高い声で危険を呼び掛ける。


「触ってはダメです! 呪われます!」

「まじかっ」

「騎士様! 魔導士の増員をっ! 動きを止めなければ!」


 杖を体の前に掲げ、エミーはぶつぶつと何かの魔法を唱え始める。

 横に広がる大きな光の魔法陣が、タルタロスの頭上に展開された。


「時間稼ぎをしますっ!!」


 よく見ると、エミーの口の端からは血が流れている。

 気づいたライナルトが、必死に止める。

 

「いかん! 魔法の使い過ぎだっ!」

「そんなこと! 言ってられません!」


 怪我を治し、強化し、回復し。

 この戦場をたったひとりで支え続けたのだ。わずかな時間でも、使った魔力の量は計り知れない。

 

「誰も! 死なせたくないんですっ! 例え、魔獣であっても!!」

「エミー殿……」

 

 ごわ、とライナルトの覇気がひと際増したように見えた。

 

「殿下の御心(みこころ)をお支えするのもまた、聖騎士の役目っ」


 うーわ! 俺、完全に脇役! でもそれでいいっ。

 

「いくぞ! シン!」

「おうっ!」

 

 エミーのお陰で、ライナルトがサイコパスから騎士団長に戻った。


「……すげえなあ」


 俺、やっぱりただのモフモフ要員だな。

 さっさと終わらせて、グリモアとこの話、したいな。どういう顔するかな。

 

「ナイフは俺が! 回収する! やれええええええええええっ!!!!!!!」



 銀色の髪をなびかせて、ライナルトがまた――跳んだ。

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