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6. アプレットの牛は大きいけど、マダマルコネの◯◯も大きい。

 俺が家に帰ると、まだバーサ達はナティの捜索を続けていた。

 森でナティを見つけた事、アルファディオという男……悪魔だよな……絶対に悪魔だよな……使い魔(黒猫)いたし……変身したし……そう言っていたし…………に出会った事を告げる事もできず、皆の中に入って一緒に探すフリをしていた。


 あの後、アルファディオは涙を流しながら『可哀想になぁ、可哀想過ぎるじゃろ、儂に任せておれ。大丈夫じゃ、儂に任せておれ』と、ナティの身体と共に姿を消した。

 何が大丈夫なのか分からないけど、多分大丈夫な気がする。



 それから、領邸や領のあちらこちらに夥しい虫が発生したが、原因は分かっていない。おそらく、黒猫がナティの欠片を集めているのだろう。

 特に多く発生したのが、嬢様の執務室だった事から、『聖女の呪い』と噂されているが、嬢様の手前、表立って言う者はいない。


 俺は、あれからナティを見ていない。森の泉に行ってみたけど姿はなく、アルファディオに出合う事もなかった。

 隣国との小競り合いが二度ほど起こったところで、長期の休暇をとった。何となくナティの足跡を追いたくなったのだ。



「お坊ちゃまと旅行なんて、久しぶりですね~」

 旅装束で馬車に揺られるのはバーサ。

 あれからもナティを探し続けているバーサに、ナティの故郷に探しに行こうと誘ったからだ。

 楽しそうに言うバーサだが、その目は周囲を探っている。道すがらにナティがいるかもしれないと考えているのだろう。俺は、ナティが故郷に帰っていると良いな、と言うしかない。


「婚前旅行ついでで悪いけど、ナティちゃん見つかるといいね〜。っと、揺れて、あっ、くっついちゃった」

「っと、くっつくなよ。大体、なんでお前が付いてきてんだよ。それにナティを見つけるのは、ついでじゃないからな」

「えっ、だったら婚前旅行ってのは認めてくれてるんだ〜」

 横で、俺にくっつきながら馬鹿を言ってるのは、マダマルコネ。野太い声は慣れないが、見た目だけは立派なレディー。大きく開いた胸元に見える谷間。豊満なバストは、胸筋だよな……。いつもながら疑問がよぎる。

 因みに服飾店を営むマダマルコネは、仕入れの関係で目的地であるマジソン市に用事があるからとの事で同行となっていた。


 左手に広がる牧草地、領都の外れにある酪農地帯だ。アプレット産牛の産地として有名な村。


「お坊ちゃま、お坊ちゃま、牛ですよ、牛。大きいですねぇ」

 はしゃぐバーサ。お前が拾ってきた牛も、同じ種類だよって言いたいけど、ここは我慢で賛同の意を返す。

「でもあの牛は、生木も食べるくらい顎が強いし、食欲旺盛だから、気をつけるんだぞ」

「あ〜ら、うちのタウロと同じね」

 だから、タウロと同じ種類なんだよ。って言っても仕方ないか……。ちなみにタウロとは、うちの牛の名前だ。


 マダマルコネも参戦してくる。

「あ〜ら、美味しそう」

「アプレット産牛は、乳牛だぞ」

「え〜、残念。でも、今日のお肉は、ア・ナ・タ」

「おい!」

 く〜、怖い、怖いんだよ、マダマルコネ。牛本体を見て、美味しそうって反応する食い意地も怖いけど、夜が怖い。襲ってこないよな……。鍵付きの部屋にしよう。絶対!


 村で一休み。

 村の名産のチーズ料理を楽しむ。

 その後、また乗合馬車での長い旅路。

 ほぼ貸し切り状態。

 俺達以外は、渡りの行商人が二人居るだけ。


 昼過ぎに出発した旅路も夕刻が近付こうとしていた。


「お坊ちゃま、このミルク飴、絶品ですよ。一つ食べてみてくださいよ」

 バーサはガラスの瓶を抱えて、中から取り出した白い飴を俺の口に放り込んだ。

「甘!美味!」

「帰りにもあの村に寄りましょうよ。カラカラたちのお土産にしましょう。ジョシュアン先生は、甘いものよりもお酒かしらね」

 まだ出発してから間がないというのに、既に土産が気になっているバーサ。観光で市を超えるなんて、余程信心深い人達の聖地巡礼か、名の知れた大きな祭しかないから、はしゃぐバーサの気持ちも分からなくはない。そういう俺自身も、軍関係以外での経験ないしな。

 それより、この飴、むっちゃ美味しい。俺用にも買っておこう。

「飴は美味しいけど、それよりも肉よ〜」

 マダマルコネが吠えていた。



 不意に弓なり音がして、馬が嘶いた。

「お客様、山賊です!」

 御者の声が響き、沢山の足音がしてくる。

 十……二十人ちょいか。馬車の左右からも四、五人の荒ぶれた男達が寄ってくる。

 弓を射たのは、馬車の左側の男であった。


「命までは取らねぇよ、金目の物を出すんだ」

 正面から来た小柄な男が近寄ってくる。


 やばいな……。正面の奴等だけなら何人いようと大丈夫なんだけど、左右からくる奴らが問題だ。バーサとマダマルコネを守る事ができない。

 それにしても、救いといえるのは、弓持ちが左側の一人だけという事。とりあえず力任せに振り回しても人が殺せる剣と違って、弓は練習がいる。その上、弦の張り、矢の曲がり等のメンテナンスも必要。弓を実践的に使用できる者は、職業的な弓士か猟師くらいなものだろう。


 そんな事を考えているうちに、左右の山賊達が馬車に近付いていた。

 これ見よがしに目の前にかざす刃物。山刀に片手剣、ナイフとまとまりがなく、手入れもされていない。奪ったか、拾った物をそのまま使っているのだろう。

「おっ、行商が二人と、三人は観光か?良いご身分だな~」言ってきたのは、弓持ちの男。「ババアと女と、その亭主か?」


 ピクッと反応するマダマルコネ。

 亭主に反応したな……。絶対、絶対、絶対に違うから。


「おら、女!お前はこっちだ。こっちに来いよ、可愛がってやるから」


「い〜や〜〜。た〜す〜け〜〜て〜〜〜、旦那さ〜〜ま〜〜〜」

 不自然な程の棒読み。

 誰が『旦那』だ!

 ほら見ろ、山賊も目が点になってるよ。


「…………………………………………エッ、お前、男……か?気持ち悪い。男女」


 駄目だ!『気持ち悪い』とか『男女』とか、言っちゃあ駄目なんだよ。


「はぁ?誰が気持ち悪い男女だ〜!」

 マダマルコネの野太い声が、一層低くなる。

「美人のお姉さんだろが〜〜〜〜!」


 顔面にマダマルコネの拳を喰らった弓持ちの男が、吹き飛んでいく。地面に二度、三度とバウンドして…………。


「ウオラァ」

 うん、左右からの奴等は大丈夫だな。

 ついつい忘れるけど、マダマルコネは元々傭兵なんだよな。あ〜、また一人飛んでいく。


 俺は大鉈を両手に持ち、前方から来る山賊に向かっていく。


 ──瞬殺。


 後ろには、手足を断たれた山賊達が転がっている。マダマルコネの相手になった奴等は、全て顔が陥没している。


「やっぱり格好良いわね」

 そう言うマダマルコネに軽く首を振ると、バーサたちの安全を確認する。御者も行商人たちもバーサも怪我はないようだ。

 フーッと一息。

 『格好良い』?俺が?俺の戦闘方法(バトルスタイル)が?ありえない…………、俺の戦い方は格好良さを捨て去ったモノだから。

 通常、騎士は戦いの際、背筋を正し、自分を大きく見せる。対して、俺は低く構えて自分を小さく見せる。

 駆け抜け、低い姿勢から大鉈を振り抜き足首を薙ぐ。そしてそのまま伸ばした腕を跳ね上げ、勢いのまま斬り上げ、斬り下ろす。ほぼ初見殺しの技。

 でも、マダマルコネはそれが良いという。

 生き残る為の戦闘を主とする傭兵や冒険者からすると、初見殺しの技も格好良いのだという。

「さすがは、〝鬼丸子〟……」

 ふと口から溢れ出た言葉にマダマルコネの視線が飛んでくる。

 慌てて口を噤む。

 マダマルコネは、傭兵時代の渾名を嫌う。

 〝鬼丸子〟って、格好良いと思うけどな、俺なんか…………。



 俺が再び山賊のリーダー格と思わしき男の前に立った時、バーサが駆け寄ってきた。

「あなた、ナティって娘を見なかった。腕が無い女の娘──」

 問い詰める。


 足を刈られた痛みで呻く男が『知らない』と言うと、次の男に向かう。

 俺は、バーサを見つめるしかできなかった。

 ナティはこんな所にはいないと、言いたいけど、できない。アルフォディオという悪魔を信じた自分を疑いたくなってくる。


マダマルコネの巨大な胸は、胸筋です。

そして、バーサはお土産魔。

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