1.聖女は壊された。
久しぶりの新作です。
40話弱程度になる予定ですので、最後まで楽しんでくださったら幸いです。
『聖女が現れた
騎士は囀り
悪魔は笑い
堕天使は舞う』
大陸の中東部、ドルミナク領。
砦と見紛う領邸の一室。
──嬢様は、猫を治せと仰られた。
一人の女に向かってである。
女の名はナティ。数ヶ月前まで、町娘であった女。
治癒の力を得たとかで、聖女と呼ばれていた娘だ。
今は、粗末な修道女の服を着ている。
目の前には、大きな金属製の皿が置かれ、中にはオレンジ色の焔を上げる炭。その真ん中に猫。いや、火に焼かれ、既に炭化した猫だった物…………。
肉の焼ける臭いが立ち籠める、夕照が射し込む室内。これから始まる残酷ショーを想像すると、腹の奥の方が重くなっていく。
「そ、それは……既に……死ん…………」
ナティの瞳は怯えきっている。
嬢様の執務室は二つある。
一つは名前の通り、執務をする部屋。
もう一つは、ここ。俺達十六名の近衛騎士が立ち並んでも余りある部屋。別名、処刑場(俺達が言ってるだけだけど)。何人もの敵国の間者、命令違反者が粛清されてきた部屋。ここに呼ばれるだけで、傍観者役と知ってても嫌な気持ちにされる。
でも、元々が戦に関わることもない町娘だからなぁ。せめて、お仕置きくらいで終わってくれれば……。
そんな事を考えてる間に、話しが進んでいく。
「領の為、従軍させようとも役に立たぬ。そなたのせいで幾人の騎士、兵士が死んだと思うか。そなたの魔法があれば、助かった命ではないのか。役に立たぬのなら、せめて魔術の一つでも見せよと言えば、出来んと言う。そなたは妾を馬鹿にしておるのか? そなたは聖女であろう?癒やしの手を持つと聞いておるぞ!」
嬢様は語気を強め、言詰める。
嬢様の怒りは、理解できると言えばできる。
此度の戦、負ける事はなかったが、多くの死者を出した。それは確かに無謀な策だったけど、治癒の力を持つという聖女がいれば可能な策。
有り体に言えば、ナティは、その為に売られてきた。教会への多額の寄進と引き換えに売られてきた。急に湧いてきた聖女さんだっていっても、自分の所の聖女を売るなんて、教会も浅ましいものだ。
世知辛いねぇ。
確かに領内では、多くの怪我人の治療を行い、その治癒の力を示したらしいけど、戦場では役に立たなかった。敵味方入り乱れた殺し合いの中で、いきなり娘さんが力を発揮することなんて、できねぇよなぁ。
教会の売り文句を信じ切ってしまった軍も悪いんだけどね。…………仲間が死んじまってるしなぁ。嬢様がお怒りになるのもしょうがないか。
「治……治癒は奇跡……、癒やしの手の力は……戦の為じゃ……ない……」
ナティは怯えながらも、たどたどしくも口を開いた。
馬鹿だねぇ。ただ謝ればいいのに、口答えしちまったよ。火に油を注いじまったんじゃないか?
ほらほら、嬢様の眼、本気になっちまってるよ。
「自らの魔術を奇跡と言うか。領の為、戦をする妾達を嘲笑うか。ならば、妾も奇跡を見せようぞ」
嬢様は言うなり、室内に飾ってあった花瓶から一本の薔薇を取り、ナティの方に向ける。
「猫一匹治せない。従軍させても役に立たぬ。治癒がなんじゃ、癒やしの手?そんな名ばかりの奇跡など要らぬ!」
恫喝の後、込められた魔力。
薔薇が急激に成長し、ナティへと迫る。伸びていく茎は複雑に絡み合いながら両手を絡め取る。肘の上まで茨に包まれた両腕からは、血が滴っている。ギリギリという低い音が皮を裂き、肉をに食い込み、骨を砕いていく。
立ち並んだ近衛騎士の中にも、息を呑み、目を伏せる者がでた。俺は肘で突いて、姿勢を正させる。
「ヵ…………アァ………」
声にならない悲鳴が聞こえた。
「お前の自慢の奇跡で自らを救ってみよ──」
嬢様は言いながら、ランタン用のオイルを薔薇に縛られたナティの手にかける。
「癒やしの手がなんじゃ!」
オイルに火を点けた。
茨が火に包まれる。
「アアァァァァァァァァァァ!」
絶叫。
茨は、その身が燃え尽きる間もなく伸び続け、腕を縛り続ける。
「アアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ………………………………」
嬢様は、笑わない。
眉を顰めることもせず、ただジッと腕が燃えるさまを見ていた。
俺達騎士たちもまた、ただジッと見ているしかできない。
どのくらい経った……。
脚が固まっている。直立したままで見続けさせられる拷問にも似たショーは、口の中に酸っぱいモノを込み上げさせる。
纏わりついた脂の焼けた臭いが身に染み込む。
目の前には火の消えた金属製の皿と猫の死骸。
燃えながらも伸び続ける茨に、気を失う事もできず、叫び続けた娘。炭となった歪な薔薇の茨に包まれた腕からは、今だに赤い火が内側に見える。
酷でぇ…………。
生きながらに腕がバーベキューだよ。
「死んだ者達は、もっと苦しかったであろうな……」
嬢様は、抑揚の無い声を室内に零した。
「治したければ、自分で治せ、聖女なんだろ」
壁際に向かい、椅子に座った嬢様は、俺達騎士に視線を移した。
「犯れ。聖女を抱くチャンスだぞ」
誰一人動けない。
動ける訳がねぇ。
腕を焼かれ続けている女を抱く事はできねぇだろ。
痛過ぎるだろ。憐れ過ぎるだろ。
でも、嬢様には通じないんだよなぁ。
嬢様の怒りは収まっていないし、聖女を穢す事を止めるとは思えない。
教会への怒りも全部、娘さんに向いちまってるみたいだしなぁ。
下手をすると、怒りがこっちに向いてくるかもしれないし──ヤバい状況。
それに、もし、このまま誰も聖女を犯さなかったら、嬢様は傭兵共か罪人達に犯らせるかもしれない。いや、多分、そうするだろうなぁ。嬢様なら絶対にそうする。下卑た野獣のような奴らに代わる代わる輪姦される女が想像できてしまう。
俺は一歩前に出た。
もう一歩、二歩と足を進め、娘の前に立つ。
腕から上がる幾本もの細い煙が鼻の奥を刺激する。
枯れるまで涙を流した女の顔に宿る、新しい恐怖。
否が応にも焼け焦げた腕に目が行ってしまう。
俺は剣を抜き、跪く女の首元から、縦一本に衣服を裂く。白い乳房とほっそりとした腹部が眼前に現れた。これで、目を腕に行かせない。
女には、抵抗する気力も衣服を押さえる手もなく、身体を硬くして、震えている。
恐れ、涙を流す女の顔を見ないように乳房を掴み、手の平に感じる乳首に感触に集中。
──勃て。勃ってくれ、俺のシンボル!
気になってくると、後ろの同僚達や嬢様の視線が、どんどん気になってくる。
集中! 手の平に集中!
まだだ。こんなフニャ○ンを晒せない。
──頼む。勃ってくれ、お願いだ俺のシンボルよ!
──頼む!頼むよ!頼みますから──!
勃った。半勃ちだけど、この調子で、完勃ちに!
─────
─────
─────
勃った勢いで、一気にズボンを脱ぎ、女を犯す。
人生で最も余裕のない性行為。
味のない性行為。
ヒクッと一度、全身を震わせたナティは、キツく目を閉じ、唇を噛みしめたまま、耐えている。
俺は小さな声で、「すまない」と繰り返しながら、腰を振った。
行為が終わると、嬢様は「後は勝手にしろ」と、少し満足気な顔で部屋を後にした。嬢様の蹂躙しきった愉悦の瞳が、活躍後のシンボルをフニャへと一瞬で戻す。正直、怖い。妖艶とも表現できる表情だが、怖いとしか俺には思えなかった。
同僚達も、どうしていいのか判断がつかない様子であったが、近衛騎士の立場上、嬢様の後を追っていく。中の一人が、肩を軽く叩くと、「お疲れさま」というか、何とも言えない顔で出て行った。
部屋の中に残るのは、俺と娘の二人だけ。
そそくさとシンボルをズボンの中に隠すと、根元の方に紅い血が付いていた。
初だったのか…………想像はしていたけど、やっぱりな…………。どうしょうもなく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。最悪の初体験だな、なんて言葉が口から漏れそうになるけど、なんとか止めた。
ナティは、呆然としていた。
気でも失えていたら、まだ救いはあったろうに……。
肩まで開けた衣服からほっそりとした鎖骨、白い乳房と締まった腹部が見えた。先程まで性行為をしていたというのに、妙に恥ずかしくなってしまう。
ガキか俺は……そう自嘲しながら、上衣を渡す──が、ナティにはそれを取る腕も、羽織る術もない。
ナティの腕は動かない。
腕の中の火は消えていた。
ただというか、やっぱりというか、案の定、ナティの腕は動かないだろう。肘の上くらいから黒ずみ、炭化し、ヒビ割れている。
とりあえず上衣を被せ、素肌が見えないように前を閉めて、水を飲ませてやると、領邸の裏口まで案内して、外に出す。
ナティは何も言わず、俯きながら歩いていた。
この娘は、これからどうするんだろう?
この娘は、これからどうなるんだろう?
そんな不安が心に満ちてくる。
ガラじゃないよな…………。
できる事はやった…………、後は彼女の人生だ、俺には関係ない。
なんてことを考えながら頭を振って、前を向き、同僚達の所に急ぐ。
【昊ノ燈】と申します。
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