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3話 不幸令嬢と指輪

 私は咄嗟に目をつむりました。聞こえてきたのは水を叩く大きな音。


 お父様にお願いしてトーマ様を助けていただかないと。


 私は走って王宮へと向かいます。走りにくい靴なんて履くんじゃありませんでした。


 お父様の部屋をノックもなしに開けて入りました。


「ノックもしないとはどうした! それくらいの作法は当然だろう!!」


 お父様はお怒りですがそれどころではありません。


「お父様、非礼をお許しくださいませ。トーマ様が、王宮の裏の崖から湖に落ちてしまったため、救出にご助力をお願いします。恐らく湖に落ちているため、救出できると思いますわ!!」


 私は深々と頭を下げます。


「無理だとおっしゃるなら、私はこの家を出ていく覚悟です。お父様にとっても大事な外交相手でしょう?」


「分かった。今すぐ手配する。リーナは自室に戻っていなさい。婚約者に対するその姿勢は素晴らしいものだ。大事にしなさい」


 お父様は私の頭を一撫でされて、颯爽と出て行かれました。


 きっとお父様が湖のほとりの方々も発見して、何とかしてくださるでしょう。


 トーマ様、無事でいて欲しいですね......


 湖に落ちた音がしていましたので、溺れてさえいなければ無事だと思うのですが......


 トーマ様は運動得意であったはずですから、大丈夫だとは思いますが。


 自室にいても落ち着きませんが、私にできることは何もありませんわね。湖の周りは森が広がっており、王宮からまっすぐ行くには崖があります。トーマ様の無事が分かるのは明日になりそうです。


 そういえば、トーマ様が崖から落下する前に打撃音が聞こえていました。


 どなたかがトーマ様を崖に落としたのでしょうか?


 王宮にはたくさんの使用人や料理人などがおります。たくさんと言いましても、他の国に比べて少ない方ではありますけれど。


 昼食が自室に運び込まれましたが、断りを入れておきました。


 全く喉を通る気がしません。


 最近ずっとこんな感じ。婚約者なんて、やはり無理にでも断っておくべきでした。


 夕食も使用人に言いつけて断っておきました。食材を無駄にするのは好きではありませんから。


 一日中、結局鬱々としたまま夜になりました。夜になっても外出をする気にはなれません。


 そのせいでしょうか、心は暗くなる一方です。


 今日は寝ましょう。できる限り何も考えないようにしませんと。


 朝、私はノックの音で起きました。


「リーナ、起きておりますか? 朝食を食べなさいませ!!」


 ニーミお姉さまの声。


「昨日、昼、夜とお食事を取っていないと使用人から聞きましたわ。もし、万一トーマ様が帰ってきても、リーナが元気でありませんと心配されますわよ」


 私はドアを開けて、お姉さまから朝食を受け取ります。


「お姉さま、わざわざ持ってきてくださりありがとうございます」


「当然ですわ。私はリーナの味方ですのよ」


 説教っぽいことが多いですが、お姉さまはやっぱりお優しい。


「少し表情が緩みましたわ。もう大丈夫そうですわね。私もリーナくらい心配してくださる殿方が欲しいですわ」


 全くお姉さまは。


 お姉さまは、仕事がありますから、と言って去っていきました。


 お姉さまからいただいた朝食を食べまして、私は王宮図書館へと向かいました。


 特に目当ての本があるわけではないのですが、自室にずっと籠っているのもよろしくないと思いました。


 無数の本を流し見しておりますと、ついこの前までなかった本が入っておりました。


『不幸探求報告書』


 最初の数ページを読んでみますと、


不幸とは、個人が生まれた際に、付与される特定の事象である。基本的に、他人に影響することはなく、視力が落ちる、良く石に躓く、程度の者であるが、時々強大な不幸を持つ者がいる。強大な不幸は周囲の人間に影響することが多く、不幸同士の干渉を確認することができた。そして、才能の大きさに対して、不幸が与えられるというのが定説であるが、不幸の大きさが、才能に関与するという順序が正しいという仮説が立てられている......


「リーナ様。トーマ様がお戻りになりました」


 使用人が私を呼びに来ました。


 一度本を閉じて、そのまま持って行くことにしました。


 王宮入り口に到着しますと、トーマ様は、落下する前と全く変わらず、そこにいました。


「トーマ様、無事でよかったですわ!!」


「ええ。湖に落ちたおかげで傷もなく済みました」


「どこもケガなどはありませんわよね?」


「大丈夫ですから落ち着いてください」


「そういえば。少し、リーナの部屋でお話したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


「分かりました。構いませんわ」


 トーマ様と私は自室に向かいます。


「トーマ様、お話って何でしょうか?」


 そういえば、二人きりの時は庶民語を使わなければいけませんでしたわね。トーマ様が無事だと分かった以上、早急に私から離れていただいた方がよいと思いますもの。


「湖のほとりで気を失う前に拾ったのですが、こちら、リーナが付けておられる指輪と同じものだと思いまして」


 トーマ様から手渡されたのは、緑色に輝くエメラルドの指輪。


 間違いありません。私が初めて愛した、イリスの指輪です。

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