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2話 不幸令嬢と黒い国

 第二王女、殺せ


 非常に不穏な文章に戸惑いますが、活字で、その周囲は劣化の影響であまり読めないですが、その中でも読むことができるのは幸、職、三、くらいでしょうか。


 それと、103と紙の角になっている部分に書いてありますね。ページ数でしょう。


 きっと何かの作品の一部分ですね。残念なことに庶民の作品ではたまに王家、貴族は悪として扱われるのです。私はそうはならないように、と本から学ばせていただいておりますけれど。


 そのようなことを考えていますと、いつの間にか夕食の時間になっておりました。


 厳重に本を隠してから、夕食に向かいます。借り物をニーミお姉さまに取られるわけにはいきませんもの。


 夕食の場には、ニーミお姉さま、お父様、お母様にトーマ様。


 今日は珍しく今王宮にいる全員がおります。それだけトーマ様に対する注目が集まっている証拠でしょう。


 お兄様方や、第一王女のイナリお姉さまはずっと何かしらの用事で王宮に帰ってきておりません。私が幼い頃からずっと帰ってきておられないので、今は何をしておられるのでしょうか。


「改めまして、私はトーマ・キルトリアと申します。リーナ王女との結婚を認めてくださりありがとうございます。カラミア国の発展のため、何かお手伝いができることがあればなんなりとお申し付けください」


 トーマ様が礼儀正しく挨拶をする。どこか使用人に近い挨拶に聞こえるのは誠意の現れでしょう。


「うむ。トーマ殿の噂はかねがね聞いておる。学業優秀、武術の心得もあり、多くの民を救うご活躍が何度もあったとか。良い噂ばかりじゃ。逆に悪い噂が全くないことが心配になるほどじゃ」


お父様は冗談を交えつつ大声で笑っております。


「いえいえ。恐縮でございます」


「はっはっは。座ってくれたまえ。本日は歓迎会のようなものじゃ。固くならずともよい」


「では、お言葉に甘えて」


 トーマ様は、ご自身でイスを引いて着席されました。手慣れているようです。キルトリア国も同じ風習のようです。


 一通りトーマ様へのこちら側の挨拶が終わり、会食の時間となりました。


 基本的に、政治や国家に関係する話はせず、トーマ様の好きなお食事や、キルトリア国の観光名所、キルトリア国の王様の好きな食べ物や、キルトリア国の名物料理など、たまに別の話題を挟んで食事好きであることを悟られないようにお父様がお話をしています。


 お母様は人見知りなのであまりお話をせず、静かにお食事をしております。


 ニーミお姉さまは、トーマ様の好きな女性のタイプなどを聞いていて、少し私は悲しい気持ちになりました。お姉さまは未だに結婚相手がおりませんもの。お姉さまのそういうところです。


 お姉さまの不幸値がそんなに高くないのもあるかもしれません。決して低いわけではないのですけれど。


「トーマ様、楽しめておりますか?」


「非常に楽しくお食事させていただいていますよ」


「それならよかったですわ」


トーマ様が少しお近くにいらっしゃいまして、


「リーナは今、言葉遣い普通ですね」


 トーマ様が小さい声で私だけに聞こえるようにそう言われました。


「当然ですわ」


 当たり前のようにトーマ様は私のことをお呼び捨てになります。私が許可したので仕方ないですけれど。


 夕食が終了し、お父様、お母様、ニーミお姉さまがそれぞれ席を立ちます。


 私も同じくして席を立つと、トーマ様が、


「リーナ様、おやすみなさいませ」


「トーマ様こそ今日は早いうちにおやすみくださいませ」


 今は様付けで呼ぶのですね。


 自室に帰り、外出の用意をします。


 外出の用意と言いましても、王宮裏に行く程度ですけれど。


 王宮裏の森に入り、少し歩くと、一か所だけ木々が生えていない崖があります。山上にある王宮からは、普段国中が見えますが、裏の森からは国は見えません。


 少し怖いですが、崖からのぞき込むと、湖が見えます。湖には満点の星空が映っておりまして、空を見上げても下を見下ろしても綺麗なここが好きです。


 お父様にばれたら、危険だからって封鎖されてしまうでしょう。


 この景色を見ておりますと、1日の疲れが全部取れる気持ちになります。


 しかし、トーマ様のことだけが気がかりです。


 なぜでしょう。ここに来たらなんでも忘れられていたはずですのに。


 少しもやもやした気分のまま自室に戻ります。


 しっかり鍵をかけてから、本を取り出し、読みます。


 続きを読むことができるのはいつになるのでしょうと心配していましたのに、その日中に読むことができましたわ。


 親切にしていただくと、わざと私が庶民語を使うのは少し悪い気がします。


 しかし、トーマ様が私の不幸で死んでしまうのは避けなければなりませんし、許してもらえるとありがたいのですけれど。


 ある程度本を読み、私はベッドに入りました。


 翌日、目覚めて使用人からはサンドウィッチをいただきました。いつも通り部屋で食べれば良いのですが、朝からすでに疲れているような気がします。


 星空は見えませんが、裏の森で食べましょう。


 太陽が出ているうちに、こちらに来たのは初めてです。


 暖かいですわ。


 サンドウィッチを食べておりますと、ガサガサと草を踏みつける足音が近づいてきました。


「どなたですか?」


「リーナ、僕です。トーマ・キルトリアです」


 あら、えと、どう致しましょう。


 何の心づもりもできておりませんのに。


「やほ。トーマも外出?」


 私、頑張ってます。


「おはようございます。こちらでお食事ですか?」


「そ。毎日部屋にいるのもなぁって思ってさ」


 それよりもどうしてトーマ様はこちらにいらしたのでしょう? ここは私だけの場所でしたのに。


「偶然、リーナが森へと向かっておられるのを窓から目にしまして、ついてきました」


 私の頭の中を覗いたかのようにトーマ様が答えます。


「ここ、いい場所で特に星が綺麗なの。そ、そう。チョベリグってやつですわ」


 私が発している庶民語は本から仕入れた知識ばかりのせいでしょうか、言葉遣いが整いません。あんまり質が良くない本の登場人物のようです。気を付けませんと。


「星が綺麗なのでしたら、是非今夜にでもいかがですか。お時間が許すならご一緒させてくださいませ」


 トーマ様からのお誘い。


「あの、その......」


私が返答に戸惑っておりますと、


「これだけ良い場所であれば、ニーミ様などにもお教えしなくてはなりませんね」


 少し、トーマ様の口元が悪い笑みになりました。


 ニーミお姉さまなんかに言われたら、絶対ここに来るのを邪魔されますわね......


「分かった。それならここで夜にまた」


「楽しみにしておきますね」


 トーマ様がまた満面の笑みを浮かべております。


「驚く準備、しといてよ。すっごいんだから」


「ええ。本よりもびっくりするような素晴らしいものを期待しておきますね」


 そういえば、この時間の湖はどのようになっているのでしょう?


 トーマ様がいらっしゃるなら湖は見せて差し上げたいと考えていますとふと気になりました。


 きっと太陽が映っていて綺麗なのでしょう。


 崖の方に行き、いつも通り湖をのぞき込みます。


「リーナ、そっちは危ない!!」


 トーマ様が何かを言っているようですが、あまり耳には入って来ません。私は眼前の光景に目を疑っておりました。


 むき出しの白骨が三人分。そちらから少し離れて、重なってうつ伏せに倒れている人影がお二人。こちらの方々も、恐らく亡くなっておられるのでしょう。


 どうしてですの? ここには誰も来ていないはずですのに。毎日夜はここに私がいたはずですのに。


 気持ち悪い。


 思考が停止したまま、湖のほとりの方々をぼんやりと見つめておりますと、背後で鈍い打撃音。


 振り向こうとしましたが、それよりも先に視界にトーマ様が。


 トーマ様は視界の中で小さくなってゆきます。


 私は落ちていくトーマ様を見守ることしかできませんでした。

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