表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/28

7.お兄様とのご対面です

 そして父の用意した家庭教師は、間違いなく本気を感じさせる方々でした。

 何せ中には他所の伯爵家当主の弟君を引き抜いた侍従とかもおりまして、作法の担当と歴史、算術、魔術とそれぞれ別々の教師をご用意なさいました。

 実際ここまで多様な教師を用意するのは珍しいと言えるでしょう。


 むしろ一般的なのは一人の教師を専属にする事の方であり、教育係を複数というのは中々に贅沢な話。少なくとも嫡男並の待遇である事は確かだと、皆が太鼓判を押す程でした。


 そして半年。


「……お見事です、アザリアお嬢様。

 一部独特な癖はありますが、その辺りはむしろあなたの長所。

 お嬢様の売りとして磨きをかけると良いでしょう。」


 作法の先生がこれ以上は教える事は無いと保証して頂きました。

 これで何処に出ても相応しい振る舞いは身についたという事です。


 因みに最も早く免許皆伝となったのは算術の授業でした。というか、こちらは私の方が巧みというか、色々こちらでは一般的では無い計算方法がありました。

 大体半月で教師の方が根を上げられましたね。彼には悪い事をしました。


 魔術の授業は単純に出来る出来ないの問題だけでは無く、知識量が大事なところがあり、未だ未だ時間はかかります。

 歴史も一般教養程度は一通り。これから深い所を本格的に進めていく形になるとご説明頂きました。


 尚、タムリン子爵家臣団には未だ声掛けをしておりません。私が彼らと話し合うだけの知識が不足していたのが最大の理由ですね。半年前の私ではむしろ彼らと話を合わせる事が出来ず、悪霊として討伐を考慮される恐れがありました。


 誰彼構わず恐怖で従えるというのは流石に問題がありますしね。両親に至ってはその方が効率が良かった、というのが一番の理由ですし。

 なのでいざという時下克上し易い様、領地経営に関しては説明こそ受けていますが殆ど口出ししておりません。


「それで、先生はこの後はどうなされるお積もりですか?

 私としてはやはり、このまま領地に留まって家臣団の教育係も引き受けて頂きたいと思っているのですが。」


 授業が終わったのでお茶に誘い、作法の先生に今後の進退をお訊ねです。

 実際他所に斡旋するのもこちらの裏事情が漏れるので好ましくないですし、今の一般家庭教師の様にただお抱えとして何も無いまま禄を与え続けるのも無駄です。


 この際、優秀な家臣を育てるためにも領主家が費用を折半するという形で家臣団の子供達の指導を引き受けて頂きたいんですよね。この館で。

 ええ。所謂学校、寺子屋という奴です。自腹で私塾開くより効率的な筈ですが。


「ええ、以前お話に合った件ですね。

 私としましても仕事を用意して頂けるのは有難い……」


 そこで言葉が止まったのは、扉の向こうで口論する声が聞こえて来たからです。

 それも現在進行形で声が大きくなり続けているので、騒ぎの主は刻一刻とこちらに向かって近付いているという事でしょう。

 しかしはて?現状でも表向きは両親がトップですし、人員の差配も私に確認を求めてはいるものの両親が行っています。

 私の元に突入して来る様な方も、理由も見当が付かないのですが……。


「ここですか!私の異母妹がいるのは!」


 扉をけ破る勢いで現れたのは、今の所面識が無い金髪碧眼のイケメン少年。顔の半分で髪を掻き上げた様な、片方だけに寄っているあの短い髪型。

 何ていうのかは思い出せませんね、ええ。実は彼の顔、私は見知っております。


「あら?お初にお目にかかりますわね。

 もしやあなたは、エルドラ・グロリエル様で合っておりますか?」


 予知の記憶にある兄はここまで無作法な真似をする御仁では無かったし、寧ろ常に紳士的に振る舞う線の細い方だった筈です。

 だからこそあの押しの強い義母の言い成りになって私の暗殺計画に加担する事もあったのですから、基本淑女の部屋に怒鳴り込む様な真似は今回が初めてです。

 なので先ずは様子見と、礼儀正しく微笑み返した訳ですが……。


「ははははは、ええええ?あ、は、はひ!

 お初にお目にかかりますお姉様!私、エルドラ・グロリエルと申します!

 申し訳ありません、まさか来客中とは思わず!

 失礼ですが、お姉様のお名前をお聞かせ願えませんでしょうか?!」


 ……あれ?

 ぼぼっ!というくらい劇的に。

 我が兄エルドラ兄様は全身真っ赤にしながら敬礼なさいました。

 敬礼?え?ていうかお姉様?え、今凄いチラ見されてますよ、胸を。


「……ええ、勿論。私の名はアザリア・グロリエル。

 母は元タムリン子爵家のアマンダ。あなたの異母妹に当たります。

 以後、よろしくお願いしますね。」


 こちらの服で一礼すると、谷間がチラ見する事があるのだなと気付き、軽く膝を横に傾ける事で微妙に追尾する視線から肌身を隠しつつ。

 胸元に手を添える形で自己紹介を行うと、異母兄ははっと我に返り更に羞恥心で顔を赤くしながら姿勢を直立に正しました。


 いや、初心な反応に此方まで顔が赤くなってしまいます。

 そう言えば兄も思春期真っただ中でしたね。失念しておりました。

 以前は全くそういう目では見られなかったのですが、今回との違いは一体何処にあるのでしょうか。


「ごごご、ご丁寧に……?え、あ、いも、妹?

 え?……ぇぇぇえええええ~~~~~~!あ、あなたが?

 あなたが私の異母妹?!いやいやいや!どう見ても俺の年上でしょう??」


「待って。今何処を見てそれを判断しました?」


 今兄が両手で頭を抱え、物凄い混乱した顔で視線が胸や顔を上下したり、周囲に同意を求める様な態度で錯乱しております。


「そら主にボリュームと年の功では?」


「お黙りモーガン。品性を拾って来なさい。」


 失礼な!今のサイズは前世より一まわ、若干小さいですし!記憶に目覚める前のアザリアと比べても一サイズしか膨らんでませんよ!

 先生も成程、と納得した視線で丸み確認しないで下さい!あと自分のサイズとも比べない!無表情にならない!

 取り敢えず揃ってテーブルの紅茶を口に含み、平常心を取り戻します。


「…………ちょっとその歳不相応な膨らみの秘訣をお聞きしても?」


 けふ。


「先生。葛藤に負けてます。秘訣なんて私も知りません。」


「つ、つまり天然……ッ?!」


「ほら!絶対お嬢様規格外ですって!未だ成長期ですよね?

 もっと大きくなる可能性があるって理不尽じゃありません?!」


 ズゴン、と凄い音に一同我に返ります。

 モーガンが頭を抱えて沈黙し、笑顔のマルガリータが後ろ手に拳を隠して小さく皆に一礼を致します。


「失礼します。お嬢様、ほんの少しだけこの場を離れる許可を頂けませんか。」


「あ、はい。許可します。」


 小脇に抱えられたモーガンを見れば、この後何が起こるかは明白です。

 誰の目にも捉え切れなかった鉄槌に、場の全員が沈黙を以て侍女を小脇に抱えて連れ去るマルガリータの姿を見送る事になりました。

 当の本人は何が起きたのか理解出来ていない様子でしたが、代わりの侍女が給仕を申し出たので、改めて場を仕切り直す事に致しました。




 場所は移動し、ベランダに数人が同時に食事出来る円テーブルが御座います。

 今度はこの茶会にエルドラ兄様をお招きしての、お互いの事情説明から始める事に致しました。


 本来であれば、先生はお帰しすべきところですが、今回は現場を見られた上での話。迂闊に憶測を広められるよりは、事情を知った上で口止めさせて頂く事に。

 まあ裏では他人を挟む事で兄に若干の自制を期待した面も御座います。

 先生は兄様の教育係も受け持った事があるそうですし、丁度良いでしょう。


「それで、此度の急な御訪問。

 予定の確認も無かったようですが、一体何故?」


 顔合わせは来年、一通りの作法を習得した後半年後の予定でした。

 これは予知でも殆ど大差はありません。時々暗殺絡みで今くらいのタイミングになる事もありましたが、兄から訊ねて来たのは今回が初めて。不測の事態です。


「お、俺も最初は父さんにちゃんと頼んだんです!

 でも全然会わせて貰えなくて、それにおかしいじゃないですか!

 今迄ずっと病気で人前に出られなかったって言われていたんですよ?それが突然父の後継者になるだなんて!」


 しどろもどろに顔を真っ赤にしながら視線を下げて話すという、珍しい兄様の御姿でしたが。次第に動揺から興奮に代わり、口調に勢いが出てきました。

 他が止めようとするのを軽く仕草で制し。


「そんな決定はなされていない筈ですが?

 そもそも私、最近人前に出られる様になっただけで、一般的な貴族の常識をようやく学べるようになった段階です。

 一体誰がそんな事を?」


「そんなの父さんが決めたら俺達の意見なんて関係無いじゃないですか!

 大体あなたの何処が重病人なんですか?!」


 うん。この辺は予知の、というより少し前までの私達の関係ですね。という事は兄の性格が突然変わったというより、変化に動揺している感じかな?


「あら、良く見て下さいな私の両腕を。

 手袋の付け根、肩の辺りとか真っ黒でしょう?それにホラ、ちょっと握手してみましょうか。」


「え?あ、はい。って、え?」


 言われるままに手を伸ばした兄でしたが、その手は手袋ごと空を切ります。

 驚きのままに何度か触ろうとしますが、当然その手はスカスカとずっと空振り。

 何が起きているのか分からない先生も思わず腰を浮かせます。


「これが私の病状で在り、克服した結果です。」


 今度は手袋から黒い影の手が何枚も紙の様に透けて広がり、風になびく様にヒラヒラと肩の周りに浮かび上がります。

 そして改めて手袋を実体化させて、エルドラ兄様と握手をして見せます。今度はちゃんと手応えも体温も感じられて、二人共驚愕冷めやらぬ表情を浮かべます。


「私は産まれ付き悪霊に取り憑かれておりまして。

 最近までこの手も不安定だったんですよ。丁度半年程前に身体に馴染んだのか、この手が魔力制御の延長でコントロール出来る事が判明しまして。

 私自身が魔法に対する知識をある程度深め、日常生活に問題が無いと確信持てた所であなたと対面する予定でした。

 流石に嫡男であるあなたを安全が確認出来る前の私と会わせる訳には行きませんでしたが、ご理解頂けましたか?」


「あ、悪霊?!」


 因みに先生は既に説明を受けてます。私の腕にはさして意味の無い腕輪が付けられており、これにより暴走を防ぐのだという設定になっております。


「はい、悪霊です。と言っても彼らに自我や記憶は無いのですが。

 なので今はむしろ便利なんですよ?こんな風に遠くの物を掴んだり、二本腕では出来ない事が色々出来る様になったので。」


「あ、あの。悪霊の浄化などは……?」


「今までは出来ませんでした。その辺を試してからの顔合わせ予定でしたね。

 実際驚くでしょう?昨日まで話していた異母妹の両腕が無くなったりしたら。」


「そ、それは……。まあ、驚くでしょうね。」


 出された紅茶にようやく口を付ける余裕が出た兄様。こうして落ち着いた態度を見ると、確かに予知で見た兄様なのだと実感出来ます。


「それで、誰があなたを嫡男から外す等と?

 私の状況は未だこれですから、お父様も言わない筈ですが。」


 悪霊を浄化する手段はあるというのは早くから判明しておりました。何でも神聖魔法という浄化を得意とする魔法体系があるそうなので。

 とは言え一回や二回で完全消滅するくらいなら女神様だって焦りません。その辺の事情は女神様の事を伏せて簡単に話してあります。


「そ、それは……。その、父さんが俺に、もっと真剣になれと。

 今迄は遠慮していたが、これを機に弟や妹が増える事があると。」


(((けふ。)))


 侍女先生私一同、揃って軽く吹き出しました。

 兄サマ、それに気付かず話を進めます。


「おかしいでしょう?それに昨日、聞いてしまったんです!

 夜、父さんが母さんを罵倒しながら何度も叩いている音を!

 それにあなたを本邸に招いてからずっと父さんの様子が妙に軽くって!母さんも何処か、今迄以上に父さんにべったりで!

 今迄父さんが母さんに暴力を振るった事なんて無かったのに!」


 私達女性陣、轟沈。コレ、アレだ。音と声だけ聞いたヤツだ。

 そうかあのエロ親父、今迄はちゃんと対策してたんですね。それが私が当主の座を追い落とすために現れたから。もう後継争いとか、関係無いやと!


(あんのスケベ親父ぃ~~~~ッ!!)


 コレ、私が兄に説明するんですかね?!年頃の娘が!

 原因は二人が子作りを再開したからです、とか!

 突っ伏す私達に気付いた兄様を無視し、視線で意思疎通。

 侍女一同無表情。表情で主人の会話に出しゃばりませんと訴えるの図。

 先生、主家の情事に口出しとか無理無理と全力で首を横にシェイク。

 えぇい、本当に私が言うしか無いのか、コレ。


「えっとですね?お兄様、それはお父様がお母様を虐めている訳じゃないです。

 後絶対確認しないで下さい、聞かなかった事にしてあげて下さい。」


「な、何でですかッ!?」


「それ、多分プrッ……お芝居の、類ですから。

 最近流行の書物で面白い物語があったのでしょう。多分二人で感想を言い合っていたとかそういうお話です。多分お姫様の救出シーンとかですよ。

 あの二人、最近夫婦で腹を割って話し合いをしたらしくて、前より更に仲が良くなっているんです。絶対喧嘩とかじゃないですから。ええそこは間違いなく。」


「じ、じゃあ何で……。」


 反論はさせない。苦しい自覚はありますし周りが日和ったなって顔しているのも全部完全黙殺します。満面の笑顔でこの羞恥プレイを誤魔化させて頂きます。


「多分単純に、私と顔合わせさせる時、あなたを兄らしく振る舞わせたかったんだと思いますよ?

 実際私は礼儀作法においては優秀と聞いておりますし、妹に負けたと落ち込ませたくなかったのでは無いですか?

 お兄様も日々勉強を頑張っておいでだと、私も聞き及んでおりますし。」


「っ!……わ、分かりました。お姉さんの言う事を信じます。」


「いや、異母妹ですよ?」


 兄様、御免なさい分かってるんですと顔を真っ赤にして全力否定。

 本当かなぁ~?

 いえ、流石に追及したりしませんが。

 取り敢えずはこのまま、兄が両親の色ボケもとい悪い所を見習わず、健全に領主を目指しているかを色々確認させて頂きましょう!

 ええ、健全に!真っ当に成長しているかを!この不安を解消するために!



 戻って来たマルガリータは二人の様子を傍観していた。

 二人である。何故なら途中から作法の先生が完全に傍観者と化していたからだ。

 そして今、空気となっていた先生がこっそりとマルガリータの脇に近寄る。


(あの、アレ大丈夫なのですか?)


(大丈夫とは、何がです?)


(私にはまるで、宅のお嬢様がその。

 実のお兄様を全力で落しにかかっている様に見えるのですが。)


(大丈夫です。お嬢様は一切異母兄を口説く気など有りません。

 あれは兄を全力で守ろうとしているのです。淫らな両親の魔の手から、ね。)


 マルガリータは気付いていた。

 アザリアがエルドラの真面目な勉強振りを褒め称えながら、両親の悪しき影響を受けていないか、全力で探りを入れている事に。

 兄が色ボケしたり贅沢に負けたりしない様にと。そりゃあもう必死で。


(……そうですか。)


 満面の笑顔で褒めちぎったり上目遣いで手を握ったり親身に悩みを聞いたりしていても。明らかに兄が女慣れしていなくても。微妙に距離が近くても。

 傍から見れば、顔を真っ赤にした兄を褒めちぎる妹であっても。


(……大丈夫、なのですよね?)


 深く考えるのは、とても危険な気がした。

※次回、展開上の都合により10/20日の金曜投稿をします。


※「以前は全くそういう目では見られなかった」×

 「以前そういう目で見た者は制裁された」〇

 ですw

 姿絵を拝むのはOK。領内で姫を侮辱すると即全員無表情になりますw

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ