強敵
〈マーレ正門〉
↓
〈冒険者協会〉
マーレの冒険者協会は周りの建物に倣ってワーフル建築で作られており
外から中まで今までのような冒険者協会らしさは感じられなかった
「あ、靴脱がなきゃいけないんだ!?」
「マーレに残る風習です、これもワーフル文化というそうですよ」
「ふーん、もういっそ国の名前もワーフにしちゃえばいいのに…」
靴を脱いで中に入ると木のにおいに包まれるような
落ち着いた空間が広がっていた
「おいでやす、本日は何用でっか?」
奥の受付にはキモノという名前の服を着た女性が立っていた
「おい…? えっと… 私たちは依頼を受けに来ました…?」
「なるほどな、ほな自己紹介と冒険者カードを渡したってや」
「は、はい! 地国から来ましたサタナ・クライです」
「お供のナルディ・ロフです」
「魔術師のサリ・ドランじゃ」
「魔物研究員のメギル・カニスです」
「よろしゅう頼んます、ウチの名前はハツキ・イスカやねん」
「よろしくねハツキさん! 早速質問なんだけどその喋り方って…?」
「すんまへん、外の人にはなじみがないやんなぁ
これはワーフル弁と呼ばれるものなんでっせ」
「ワーフル弁… 至る所でワーフルって単語を聞くね」
「そりゃそうですよ、この都市は衣食住などいろんなものが
他国とは違うここ独自のものですから」
「話がずれてしもたね、皆さんは依頼を受けに来たさけすよね?
どないなものがいいなどの希望はありまっか?」
「なるべく強い敵を倒したいから強敵討伐の依頼が欲しいんじゃが…」
「なるほどな、ほならこの2つになりますね」
ハツキさんは奥の壁に貼ってある紙を2枚剥がして持ってきた
――――――――――――――――――――
〈内容〉5色メガスライムの討伐
〈レベル〉32
〈場所〉風国東(マーレ川河口付近)
〈報酬〉380ケル
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「メガスライム… しかも5色!?」
「そんなことがあるはずないとおもうのですが!?」
「うちもこの依頼を見たときは目を疑いましてんけど
冒険者が口をそろえて言うさかいに本当なんやと思とります」
「なるほどの…」
「しかも5色っちゅうことでほとんどの冒険者が手を出せんと
対応に困っとるんですわ」
「なるほど… 受けます!」
「話しを聞いとったか!? 本気でっか…?」
「はい! 属性が多くても私たちなら勝てます!」
「ほなこれは頼みましたで!
そらそうと、もう1つの方の依頼の説明はいりまっか?」
「聞いとくのじゃ、1つ目の依頼だけじゃ絶対に足りないのじゃ」
「じゃあお願いします!」
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〈内容〉ブラッドウルフの群れの討伐
〈レベル〉36
〈場所〉三日月の泉
〈報酬〉420ケル
〈備考〉群れは32匹構成である
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「ブラッドウルフっちゅうむっちゃ危険な魔物の討伐やねん
力も速も高く群れで行動するから逃げることも不可能に近い
そんなんやから誰も受けたがらんのやんなぁ」
「うっ…」
「あまりいい思い出はありませんね…」
私とナルディは苦虫を嚙み潰したような顔をする
「なるほどな、その顔は危険性を十分に知っとるようやね
知っとるのならやめとけや、ジブンたちのレベルでは命の保証はできまへん」
「自分…?」
「あなたという意味です」
メギルさんがこそっと教えてくれた
「命の保証ができない… でも… 受けます!」
アヤク湖での痛い思いを忘れたわけではないが
あの時の私たちとは違うことを確信してそう答えた
「ほぉ… ウチには止められそうにないねんな
分かりました、気いつけて行ってきてください」
「はい!」
そう言って、ハツキさんはポンッと依頼書にハンコを押して渡してくれた
「いってきます!」
「お気いつけて!」
〈冒険者協会〉
↓
〈八重塔〉
ハツキさんに見送られて冒険者協会を後にして八重塔までやってきた
マーレの中央にそびえたつ八重塔はその名の通り周りの建物よりも8倍高く
塔の周りには豪華な装飾が施されていた
「わぁ綺麗… じゃなくて! 勝手に引き受けてごめん!」
「サタナさん? 何を謝る必要があるのですか?
レベル上げのために受けたのは僕たち全員の意向のはずですが?」
「そうだけど… 勝手に決めちゃって…」
「何をいまさら言うとるんじゃ、そんなこと今に始まったことじゃ無かろうに」
「そうですよ、頑張ってレベル上げしましょう!」
「うん…!」
「して、どっちから先に行こうかの…」
「距離的にはどちらもほとんど変わらないので…」
「消耗戦になりそうなブラッドウルフの方は後かな」
「うむ、儂も同感じゃ」
「ですね、私もそれは後の方がよいと思います」
「じゃあまずはマーレ川を下ってスライム討伐だー!」
「はい!」
〈八重塔〉
↓
〈風国東〉
「さてと、結構下ってきたけど河口まで意外と遠いんだね」
「ですね… そこらの魔物もかなり強いですから早くついてほしいですね…」
「とは言ってもサリ様が楽しそうに倒してくれますから
さほど大変でもないですがね」
ナルディの言葉通りサリさんは私たちを先導しながら
次々と目の前に現れる魔物を殲滅していっていた
「最近は洞窟に籠りっきりじゃったからな
思いっきり魔法を行使できるのが楽しくて仕方ないんじゃ!」
「あはは… 楽しそうでよかった…
とは言ってもマナを消費しすぎないでね!」
「分かってるのじゃ!」
「そろそろ見えてきましたよ、あれが河口です!」
ケミラル河の河口周辺には桃色の木々が咲き誇っており
他では見ることができない景色が広がっていた
「すごい綺麗… 初めて見る植物!」
「これはサクラという植物です、他では見ることができない植物で
これを見るために他の国の人々が観光に来るんですよ」
「へぇ… 風国って本当にいろんな特徴があるんだね」
「そう思います、私も初めて風国に来たときは
本当にいろいろ興味深かったのを覚えています」
「話し込んでいるのもいいのじゃが、奴らのお出ましじゃ!」
――――――――――――――――――――
〈名前〉メガ風スライム
〈種族〉スライム族
〈属性〉風
〈レベル〉33
〈ミンラ〉風の中級魔法を操る
〈職業〉――
〈能力〉体133・力74・守96
速50・知103・運63
――――――――――――――――――――
「流石に適正レベルが30だけあって魔物のレベルもかなりけた違いですね…」
「でも他のメガスライムはいないね…?」
「ですね… どうしてでしょう?」
「そんなことはどうでもいいんじゃ、とりあえずこやつを仕留めるのじゃ」
「だね、ミルイル… うわっ!」
『メガ風スライムが現れた!』
『メガ風スライムの中風魔法!
サタナに52ダメージ!』
「サタナから離れるのじゃ! イデガラーム!」
『サリの上炎魔法!
メガ風スライムに93ダメージ!』
『メガ風スライムの中風魔法!
サリに73ダメージ!』
メガ風スライムが放ったルフトロラはサリさんの体を簡単に吹き飛ばした
「うわっとと… 危なかったのじゃ…」
吹き飛ばされたサリさんをナルディが抱えてその場から離れる
「サリ様大丈夫ですか?」
「助かったのじゃ… しかし、あやつの攻撃が痛すぎるの…」
「それは多分サリ様の低すぎる守のせいかと…」
「うるさいのじゃ! サタナ、とっととやっちまうのじゃ!」
サリさんは抱えてくれていたナルディからぴょいと離れてそう叫んだ
「うん! ミルイルエ!」
『サタナの中天魔法!
弱点!メガ風スライムに110ダメージ!
メガ風スライムは倒れた!』
「よし、あと4匹!」
「しかしどこに…?」
「後ろじゃ! 後ろじゃナルディ!」
背後の川の中からメガ水スライムが顔をのぞかせ魔法を放とうとしていた
「えっ…!?」
「ナルディ!」
地図→https://www.pixiv.net/artworks/111383973
次回は9月3日です