学者
〈水風関所〉
↓
〈風国南〉
開かれた門を進もうとすると目の前から吹いてくる強風に押され
前に出そうとした足を強制的に戻される
「この風… 強すぎる!?」
「これが風国名物のリウクス山颪じゃ…!」
「風国の中央部分は坂の角度がとても急になっていて
風国南と風国北の高度差はなんと2000m以上もあるんです!」
「そんなところを下った風の威力がこれってわけだね…」
「別名『登れるリウクスの大ガケ』じゃ」
「ここまで脅しましたが本日は登らないんですけどね」
「そっかカニスは風国南だからね」
「そうじゃな、カニスに出発じゃ!」
風に押し戻されそうな体を後ろからナルディに押してもらいながら
なんとかカニスに向けて歩を進めた
〈風国南〉
↓
〈カニス噴水広場〉
カニス内に入ると吹き荒れていたはずのリウクス山颪は完全に止んだ
「あれ…? 風は?」
「儂の家の仕組みと一緒じゃよ、ただ張っているのが数人体制というだけじゃ」
「ここカニスでは『風の祀り人』という人々が
自分たちのマナを風神にお備えすることで
風神が通常よりも効力の高いガメドイを張っているのですよ」
「ふぉっふぉっふぉ、『風の祀り人』など久々に聞きましたな」
「おぉ、カニスの長老! 久方ぶりじゃな!」
―――――――――――――――――――――
〈名前〉ロイト・カニス
〈種族〉エルフ族
〈属性〉風
〈レベル〉48
〈ミンラ〉風の上級魔法を操る
〈職業〉風の祀り人
〈能力値〉――
―――――――――――――――――――――
「この老いぼれもまだ生きておりましたか」
「いつになってもお主は減らず口を叩くの…」
「ふぉっふぉっふぉ、貴方ほどではありませんよ」
「うるさいの…
サタナ、ナルディ、紹介しよう、こいつはカニスの長老ロイト・カニスじゃ
ロイト、この二人は儂の旅仲間サタナ・クライとナルディ・ロフじゃ」
「こんにちはロイトさん、サタナです!」
「こんにちはロイト様、ナルディ・ロフです」
「よろしくお願いしますね
そうです、ここの住人は儂のことをロイ爺と呼んでいますから
よかったらそう呼んでくださいね」
「分かった! ロイ爺!」
「ふぉっふぉっふぉ、して何の用でこちらを訪れたのですかな?」
「儂らはとある依頼の依頼主を探しているのじゃ」
「ふむ、そのお方の名前を教えていただいても?」
「うん… えっと、メギルって書いてあるね」
私がその名前を出すとロイ爺の顔は穏やかなものから一変して険しくなった
「メギル… 今思い出したのじゃが
この名前はお主の孫の名前じゃった気がするのじゃが…」
「ふむ… そんな命知らずなバカ孫の名前など覚えていませんな…
それだけが用なら儂は帰らせていただくとしますかな」
そう言ってロイ爺は奥に見える大きな家まで帰って行ってしまった
「ロイ爺急にどうしたんだろ…?」
「メギル・カニス、ロイトの孫で唯一の肉親じゃ」
「え、じゃあロイトさんに聞けばよかった!」
「無理でしょうね… あの様子ですとなにやらいざこざがありそうです」
「ナルディの言う通りじゃ、先も言った通りメギルはロイトの唯一の肉親
簡単に言えば将来カニスの長になる者じゃ」
「もしかしてメギルさんはそれが…」
「そういうことじゃ…
しかも困ったことにこの紙はメギドの家をあの家と言っておる」
「あの家ってロイトさんが入っていった?」
「そうじゃ、あの調子じゃと一緒に住んでるとは思えんしどうしたものじゃ…」
見知らぬ土地でメギルさんを見つける手段を失い頭を悩ませていると
「サタナ! ナルディちゃん! 久しぶり!」
奥の商店街から誰かが走ってくるのが見えた
「イルナ! また会うなんて!」
「こんにちはイルナ様!」
「こんにちは2人とも! 意外と会うもんだね!」
「だね! あれから1週間も経ってないよね?」
「ですね、いろいろあったから長く感じてしまいますね」
「2人とも… 儂に紹介してくれぬか?」
完全に蚊帳の外になってしまっていたサリさんが
私の服の裾を引っ張って小さくそう言った
「ご… ごめん! 彼女はイルナ・ユキザ、私の親友なんだ!」
「よろしく! イルナだよ!」
「サリ・ドランじゃ! よろしくなのじゃ!」
「うん! そういえば、何か困ってたみたいだけどどうしたの?」
「ある依頼の報告に来たんだけどさ
問題の依頼人がどこにいるかわからなくて…」
「そうなんだ、問題なさそうならだれか聞いてもいい?」
「多分大丈夫… だよね?」
「まぁ、大丈夫じゃないですか?」
「大丈夫じゃろ」
「えっと、メギル・カニスさんって人なんだけど…」
そう言い終わらないうちにイルナが食いついてきた
「メギルさん!?」
「知ってるの?」
「もちろん! 私たちのカニスでの取引相手だよ!」
「そうなの!?」
「世間は広いようで狭いとはよく言ったもんじゃな…」
「丁度このあと行く予定だから付いてきて!」
「今から!?」
「今から!」
駆け足で進んでいくイルナを何とか見失わないようについていくと
カニスの端の端にある小さな小屋にたどり着いた
「ここ?」
「そうだよ、おじゃましまーす!」
さっさと入っていてしまったイルナの後を追って小屋に入る
〈カニス噴水広場〉
↓
〈魔物研究所〉
「いらっしゃいイルナ様! と… 今日は人が多いですね…?」
―――――――――――――――――――――
〈名前〉メギル・カニス
〈種族〉エルフ族
〈属性〉風
〈レベル〉23
〈ミンラ〉風の中級剣技を扱う
〈職業〉魔物研究員
〈能力値〉――
―――――――――――――――――――――
「こんにちは、サタナ・クライです!」
「ナルディ・ロフです」
「サリ・ドランじゃ!」
「どうもこんにちは、メギル・カニスです
皆さんはどのような用事でうちに?」
「私たちは水国の冒険者協会から依頼を受けて…」
「あぁ、あのクスロ洞窟の件ですか
受けてくださり本当にありがとうございます」
「あ、これ魔物のリストです」
「綺麗にまとまってますね… 助かります」
「差し支えなければなぜ依頼を出したのか聞いても良いですか?」
「もちろんです! 僕は魔物研究員のたまごでその名の通り
いろんな魔物について調べているのです」
「レムルさんとおんなじ感じかな…?」
「普段はこの地域の魔物について調べているのですが
最近新しく洞窟が見つかったとかで研究にとても適していると
思ったのですが… ちょっと問題があって
自分の力だけで行くことが出来なかったんです…」
「それで依頼を出したということじゃな」
「はい、少し深く話させてもらうと僕の研究内容は『魔物の凶暴化』なんです
そこで強い魔物が住み着くクスロ洞窟なら何かわかるのでは…
と思ったのです」
「またなんでそんな内容を調べておるのじゃ…?」
サリさんがそう尋ねると悲しそうに遠くを見ながらメギルさんが話し出した
「カニスは脆弱な村です…
マーレのような人口もなければネラルやケミシラのような軍事力もない
これ以上魔物が凶暴化すればカニスが滅ぶのも時間の問題です…」
「なるほどの… こんな立派にカニスの未来を考えておるやつを
なぜあの老いぼれは理解出来ぬのかの…」
「お話し中にごめんなさい!
次の町への移動までそろそろだから取引を行いたいのだけれど…」
少し離れたところで見守っていたイルナがいつの間にか近くに来ていた
「ごめんなさい、イルナ様! すぐに準備します!」
「そこまで慌てなくても大丈夫ですよ」
「悪いの、連れてきてもらった上に先に話してしまったのじゃ」
「気にしないで、貴方たちも仕事なのでしょう?
それなら急ぎたい気持ちは分かるよ」
「流石は大商人の令嬢ですね、仕事に本気です…」
「そういえば、イルナとメギルさんは何を取引しているの?」
「私はメギルさんから魔物の素材を買ってるんだ」
「というとムニ皮とか?」
「ううん、そういうどこでも売ってそうな物じゃなくて
もっともっと貴重な物を買ってるの」
「持ってきました! 今あるのはこれくらいです」
そう言ってメギルさんは骨や毛などのよく見るものから
液体の入った瓶や内臓のようなものまでいろいろ持ってきた
「な… なにこれ…?」
「これはウォーターバードの唾液ですね
鳥族の唾液には麻酔効果があって治療などにも使われるんですよ」
「こっちはなんじゃ…?」
「それはドロガエルの目玉ですね
カエル族の目玉は再生能力に優れていて回復薬はもちろん
その再生力を生かして攻撃を食らっても治る防具になったりします」
「やはり品質が良いですね! 今回はこれくらいでどうでしょう?」
「いいんですか!? これでお願いします!」
そう興奮気味にメギルさんはイルナと握手をして頭を下げた
「では私はこれで… みんなもまたね!」
「うん! またねイルナ!」
「またお会いしましょう!」
「じゃあの!」
イルナは私たちに手を振ると小屋から出て行ってしまった
「そういえばさっきクスロ洞窟の件で問題があったとかなんとか
言っておったが取引の品を見ている限り
戦いが苦手というわけではなさそうじゃな?」
「実は… 少し自慢のようになってしまうのですが
僕の力は並みの人より強すぎてしまって…
洞窟内部で剣を振ると壁をも破壊して崩落する危険性がありまして…」
そこまで話し終えるとサリさんはメギルさんの手をガシっと握っていった
「お主は今日から仲間じゃ!」
「もしかしてサリさんも…!」
「そうじゃ、儂もクスロ洞窟の探索はほとんど何もできておらん!」
そこまで聞くとメギルさんはサリさんの手を両手で強く握りなおした
「えぇ…? 変なところで意思疎通してる…」
「強者にしかわからない悩み… とかなんでしょうか…?」
地図→https://www.pixiv.net/artworks/111178218
次回は8月27日です