喧嘩
(第二十一話:喧嘩)
カルロッテさんは背負っていた大剣をサリさんに向けて構えた
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〈名前〉グアドラ
〈武器種〉大剣
〈品質〉特
〈能力値〉+力66
〈効果〉剣技の威力上昇・中
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一方のサリさんはというと、箒に乗って空中から魔法の雨を降らせていた
当たり前のように5属性の魔法を同時に使用しているのを見ると
サリさんの強さ具合を再認識できる
『サリのイデガ!ガメル!ルフト!トルケ!ケドイ!
弱点!カルロッテに53のダメージ!』
サリさんの放った5色の魔法はカルロッテさんに全て命中し大爆発を起こす
「カルロッテさん!」
「案ずることはないのじゃ、ほれ」
カルロッテさんは真正面から魔法を受けたはずなのにも関わらず
剣を構えながらサリさんをじっと見ていた
「随分と弱くなったな…」
「ハンデじゃよ! 1都市の軍長ともあろうお方が冒険者に負けただなんて
一生の恥になってしまうじゃろうからな!」
「良く喋るやつだ… 喰らえ! ケドイ斬!」
「その距離で剣技!? 当たるはずがないです…!」
ナルディの言う通りサリさんはかなりの高さを飛んでいるため
近距離専門の剣技は当たるはずがない、そう思っていた
「ふむ… ガメドイ・トルケ!」
『サタナのガメドイ・トルケ!
サタナの周りにバリアが現れ、水を帯びた』
サリさんがガメドイを張り終えた直後
カルロッテさんが振るった剣の先から砂嵐を纏った刃が
サリさんに向かって一直線に飛んでいった
「なにあれ!?」
「あれは剣で切った空気にマナを埋め込み
空中や遠くにいる敵に飛ばし攻撃するという技です…!
剣技の中でも最難関と言われるものですよ!」
「凄すぎる…!」
『カルロッテのケドイ斬!
弱点!サリに49のダメージ!』
「くっ… これならどうじゃ!」
サリさんはさらに箒にマナを込めて高度をグングンとあげる
遂にはカルロッテさんの剣技が届かないほどまで昇って行ってしまった
「ほれほれ! これでも喰らうが良い!」
サリさんはクローデアを取り出すと
先ほどまでとは比にならない量の魔法を降らせた
時折私たちがいる方にも飛んでくるものだから
私とナルディは避けるのに必死だった
「カルロッテさんには普通かもしれないけど
私は一発でも当たったら死んじゃうよ!」
「私もです! 気を付けてください!」
『サリのイデガ!ガメル!ルフト!トルケ!ケドイ!
弱点!カルロッテに61のダメージ!』
「わっはっは! どうじゃ、何もできないじゃろ!」
「私が剣以外にも使えることを忘れたか…?」
そう言うとカルロッテさんは剣を背負うとどこからか弓矢を取り出した
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〈名前〉ガンテラ
〈武器種〉弓
〈品質〉特
〈能力値〉+力52 +速39
〈効果〉対象の速度低下・大
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「弓! 使える武器が1つじゃないの!?」
「流石は元軍人ですね…」
「ケドイショット!」
サリさんは完全に油断しておりギリギリまで避けようとしなかった
「今… じゃ…?」
しかしサリさんは先ほどまでの軽快な様子はなくゆっくりと移動をしていた
「な… なんでじゃ!?」
「こいつの効果を忘れたのか…?」
そう言ってカルロッテさんは自分の手首の抑制の輪を指さす
「はっ…! やっちまったのじゃぁぁぁ!」
『カルロッテのケドイショット!
弱点!サリに81のダメージ!』
カルロッテさんが放った矢は綺麗にサリさんに刺さった
「そっかあの弓で下げられた速はいつものサリさんには問題ないけど
今は100しかないから…」
「あの速度しか出なかったんですね…」
「今のは効いたのじゃ…!」
「これで終わりだ…」
そう言ってカルロッテさんは続けざまに弓を構えた
「負けるわけには行かんのじゃ! イデガラーム!」
「サリさん!?」
「はぁ… 結局こうなるのか…」
サリさんの放った炎の大玉は徐々に地上に近づいてくる
私とナルディは命の危機を感じ慌てふためいていたが
カルロッテさんはとても冷静だった
「はぁ… 悪かったなこんなくだらない喧嘩に巻き込んでしまってな」
そう謝ってカルロッテさんは弓をしまい大剣を構える
炎の大玉が地上に落下するその瞬間
「ケドイドンガ斬! はぁぁぁ!!!」
カルロッテさんはそう叫び思いっきり大剣を振る
大剣と大魔法が衝突した瞬間辺りの木々は薙ぎ倒され地面には亀裂が走った
『サリの上炎魔法!
カルロッテに199のダメージ!』
『カルロッテの上地剣技!
弱点!サリに213のダメージ!』
「サリさん! カルロッテさん!」
そう叫んだが爆発音にかき消され自分ですら聞き取ることが出来なかった
かなり時間がたちようやく辺りを覆っていた煙が晴れると
爆発が起こったクレーターの中央で2人が倒れているのが見えた
「サタナ様!」
「うん!」
「「ライミル! ライミル! ライミル!」」
『ナルディのライミル!
サリの体力が93回復!』
『サタナのライミル!
カルロッテの体力が79回復!』
「流石に足りません…! 直ぐにケミシラの宿屋に運びましょう!」
「うん!」
私たち程度の回復魔法では全く足りず
意識が戻らない2人を背負い私たちはケミシラの宿に走った
〈水国南〉
↓
〈ケミシラ〉
↓
〈宿屋クォレム〉
【3076ケル→3061ケル】
「ふぅ… とりあえずこれで大丈夫ですかね…」
「多分ね… お医者さんも命に別状は無いって言ってたしね
それにしても、すごいものを見たね!」
「ですね、これが1国の内戦に終止符を打った
お二人なんだと思い知らされました…
私もまだまだ修行不足ですね…!」
「ナルディまで、ああなっちゃったらもう収集がつかないよ!?」
ナルディとさっきの戦いの感想を語り合っていると部屋の扉が開いた
「ふぁ、お主ら…」
「サリさん!? 起きてきて大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃ、儂はこの通りぴんぴんしておる!」
「カルロッテさんは?」
「まだ寝ておったのじゃ、それより…」
そう言いながらサリさんは膝をついて私たちに向き直り頭を下げる
「本当に申し訳なかったのじゃ!
下手したら主らを殺すことになるところじゃった…
儂を旅の仲間から追放してくれ!
それくらい儂はとんでもないことを…!」
「サリさん…」
「あぁ、お前はそうするべきだ」
「カルロッテさん…?」
サリさんの大きな声を上げたからかでカルロッテさんが起きてきていた
「だがその前にお前に問おう」
「なんじゃ?」
「確かイデガラームを撃つ前、確か『負けられない』とかなんとか…
負けたところで私から説教を貰って多額の賠償金を払うだけのはずだ
お前なら特段困ることもないだろうに…」
「そ… それは… そのじゃな…」
眼を泳がせ言葉に詰まるサリさん
その姿はまるでいたずらをした子供が親に責め立てられているようだった
「サタナ、ナルディが儂を離すと思ったんじゃもん…」
「…はぁ?」
「だって、お主に負けたら儂は弱いと見られるじゃろ…? だから… その…」
何かを思い出すようにぽつりぽつりと言った
そんなサリさんの様子がよくわからず私とナルディは顔を合わせる
「はぁ… なるほどな… だがな私はサタナやナルディが
やつらと同じだと私は微塵も思わないぞ」
「そんなこと…! そんなこと…」
「頭を冷やして考えてみろ」
そう言い放った後カルロッテさんは私たちに手招きして隣の部屋に入った
「一体なにが…?」
「簡単に話そう
聞いたかもしれないがサリは内戦後ガラべドロを倒すために
冒険に出ていたんだ、ある日サリは同じ『打倒ガラべドロ』
を掲げるパーティに誘われ入ったんだ」
「サリさんの実力ならいろんなところから引っ張りだこだろうね」
「あぁ、だが本題はこの後だ、そのパーティはとんだくそったれでな
サリを兵器としか見ていないような連中でな
サリに依頼をこなさせ報酬だけ奪っていくような奴だった」
「ひどい… 辞めちゃえばいいのに!」
「あぁ、私もそう助言したのだが… 『私は危険人物だからね…
仲間として迎えてくれるだけ十分だよ…!』と言って聞かなくてな…
実際、私とサリは水国内線直後だったのもあって
周りから『危険な奴』というレッテルを張られて過ごしていたんだ」
「そうだったんだ…」
「なるほど… サリさんの強すぎる力に付け込んでいたんですね…」
「あぁそういうことだ
そしてある日、サリは1つの依頼をしくじったんだ
その連中はサリを怒鳴りつけた挙句あいつのクロ―デアを破壊して
サリをパーティから追放したんだ」
「なっ…! そんな横暴が許されていいんですか…!?」
「この時にようやくサリは目覚めたらしくてな
怒り狂い連中を皆殺しにしたんだ」
「ひぇっ…」
「ということは今サリさんが持っているクロ―デアは…」
「あぁ2代目だ、当時は今の半分くらいの大きさだったんだが
壊されたトラウマからあんな大きくしたんだったな」
「だからあんなに大きいんだ…
とにかくサリさんが私たちはサリさんの力だけを見て仲間に入れて
弱いところを見せたら追放されると考えてたことは分かったよ」
「私は2人をそんな奴だとは思っていないが…」
「当たり前だよ!」
「そうですよ!」
「あぁ、頼んだ」
そう力強く言うとカルロッテさんは安堵した表情を浮かべて
深々と頭を下げた後、元の部屋に戻っていった
「サタナ… ナルディ… 儂は…! 儂は…」
元の部屋に入るとサリさんはいろいろ悩んだらしく
髪はぼさぼさになって顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた
「うん、ゆっくりでいいよ…!」
「わ… 儂はお主らと旅がしたい! でも… 儂にそんな資格は…」
「はい! 一緒に行きましょう!」
「そうだよ! ガラべドロに一泡吹かせてやるんでしょ?」
「お主ら…」
サリさんは涙をゴシゴシと拭いて力強く言った
「儂はお主らと一緒に旅に行くんじゃ!」
「うん!」
「はい!」
「ありがとうなのじゃ! これからもよろしくなのじゃ!」
「ほら? 私の言ったとおりだっただろう?」
「じゃの! ありがとうなカルロッテ!」
「あぁ」
サリさんの顔は日の光に照らされとても眩しかった
地図→https://www.pixiv.net/artworks/110160874
次回は7月29日です