軍人
「わわっ! ご、ごめんなさい!」
「はぁ… やはりお前だったか… サリ・ドラン…」
呆れながら鉄の鎧をまとった人がそう言った
兜をかぶっているため容姿は確認できなかったが
強者であることははっきりと分かる佇まいであった
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〈名前〉カルロッテ・ホルン
〈種族〉魔族
〈属性〉炎
〈レベル〉47
〈ミンラ〉地と炎の上級剣技を扱う
〈職業〉兵士
〈能力値〉――
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「おぉ、カルロッテ! 久方ぶりじゃな!」
「『久方ぶりじゃな!』 ではない!」
「この人は?」
「彼女はカルロッテ・ホルン、儂の古くからの友人じゃ」
「ネラル第一軍軍長カルロッテ・ホルンだ、よろしく頼む」
カルロッテさんの無駄のない動きに感心すると同時に畏怖の念を抱く
「おいおい、お主はもうそのような名乗りをしなくてもいいんじゃろ?」
「私としたことが… つい癖でな… そうだ、これも外さないと失礼になるな」
「そうじゃそうじゃ! 失礼じゃぞ!」
カルロッテさんはそう茶化すサリさんに手刀を食らわせた後
兜を外し、改めて挨拶をしてくれた
「私はカルロッテ、ネラルで衛兵をやっている」
話し声から女性だということは分かっていたが
兜の下から絵本にいるような美しい女性が現れて驚いてしまった
「綺麗… じゃなくて! サタナ・クライです!」
「サタナ様の従者、ナルディ・ロフです」
「あぁ、2人ともよろしく、噂で聞いたサリとともに旅に出た者か
魔道学校を去ったかと思えば、図書館の司書になって、今じゃ冒険者…
お前は本当に自由に生きているな」
「当たり前じゃ!」
「そういえばお二人はどのような関係なのですか?」
「私とサリがか?」
「はい」
ナルディがそう質問するとサリさんとカルロッテさんは顔を見合わせて
「どこから話せばいいんだ…?」
「儂にもわからぬ…」
「そんなに昔馴染みなんですか!?」
「あぁ、私とサリはもうそろそろ350年近い付き合いになるのか?」
「儂が今年で380じゃから370くらいじゃな」
「まぁとにかくそのくらいだ… 時と言うのは本当に速いな」
「さ… 370年…?」
「長くなると思うが儂たちの昔話に付き合ってくれるかの?」
「もちろん!」
サリさんとカルロッテさんは頷くと腰を下ろして話を始めた
「前に儂がオドロ火山に住んでいた話はしたじゃろ?」
「うん、それでガラべドロに襲われたから逃げたって…」
「そうじゃ、カルロッテは逃げた先で儂を拾ってくれた家の子だったんじゃよ」
「あぁ、私たちは年も近く良き友となった」
「そうして儂らが100になる少し前に儂らは水国に越したんじゃ
ただ、その時に本当にくだらない理由で喧嘩してな
カルロッテはネラルに、儂はケミシラに住むことになったんじゃ」
「差し支えなければ喧嘩理由を聞いてもいいですか?」
「その… 魔法と剣どちらが強いか… というものだ」
「えぇ…?」
「お主が呆れるのも無理はない、が儂らにとっては
互いに一歩も引けぬ大事なことだったんじゃよ」
「そうなんだ…?」
「話を続けるのじゃ、儂らが別居してから何十年後かに水国内戦が始まっての
ちょうどその戦争も儂らの喧嘩と同じだったんじゃよ」
「同じって?」
「当時、ネラルは物理大国に、ケミシラは魔法大国になっていたんだ
お互い、私たちと同じで一歩も譲れなくってな結局戦争になったんだ」
「えぇ… 何やってんの…」
「サタナ様!」
つい口から洩れてしまった言葉をナルディに抑え込まれる
「話は戻るんだが私は当時、ネラル軍の軍長になっていて」
「儂は魔道学校の学長になっておったんじゃよ」
「もうなにを聞いても驚かなくなってきたよ…」
「もちろん私たちは戦争に参加したんだが」
「当時、互いに馬鹿みたいに強くての、儂がネラルの軍の大半を
カルロッテがケミシラの軍の大半を消し去ったところで
儂とカルロッテの直接対決になっての」
「お… 恐ろしいです…」
「結局私たちの戦いはどれくらい長かったんだったか…?」
「1年と2か月27日じゃ」
「よく覚えているな」
「それで、どうなったの?」
「最終的に儂がカルロッテの左腕を」
「私がサリの右腕を消し飛ばしたんだ」
「ちなみにその時の衝撃で地面が割れてしまっての
元々常闇の池だったのをケミシラ河と繋げてしまったんじゃ」
「大問題じゃん!」
「その後はネラルもケミシラも最強の兵器を使えなくなった上
他の兵士は互いの最強の兵器が消し飛ばしたもんじゃから
戦争は続行不可能となり終わりを迎えたんじゃ」
「ものすごく重要人物じゃん! なんで教えてくれなかったの!?」
「だって聞かれなかったんじゃもん」
「それでも… 本には書かれていません… なぜですか?」
「知らんが、上の圧力で抹消されたんじゃろ、女子2人に頼った戦争を
後世に残すのは流石に出来んかったのじゃろ」
「それはそうかもしれませんが…」
「あれ? 私、さっきサリさんが両手で杖を持ってるの見たよ?」
「あぁ、あれは義手じゃよ」
サリさんがローブを外し手袋も外すと
サリさんの小さい体には不相応なごつい鉄の塊が現れた
「と言うことはカルロッテ様の鎧の中も…」
「あぁ、義手だ」
「なんかごめん… 辛いこと聞いちゃったね…」
「辛い? そう思ったことあるかのカルロッテ?」
「いいや、少なくともあれ以来本気で戦えていないことの方がよっぽど辛いな」
「じゃな!」
2人はそろって清々しい笑顔で大声で笑った
「これが本当の戦闘狂…」
「絶対に怒らせてはいけない人にカルロッテ様が追加されましたね…」
「だね…」
「さて、話し終わったところで…」
「む? 急にどうしたんじゃカルロッテ… なんだか怖いのじゃ…?」
「あれ、どうしてくれるんだ?」
カルロッテさんが指さす先にはケミラル河に空いた大穴があった
しばらく時間がたったからか大穴には水が溜まり異様な光景が広がっていた
「それは… そのじゃな…」
「いや、怒っても無駄なのは私が良く知っている…」
「もしかして…」
「これが…」
「あぁ、初めてじゃない… それどころかもう数えられん」
「仕方ないじゃろ! 儂の魔法が強すぎるのが悪いんじゃ!
儂の魔法が悪いんじゃ! 儂は悪くないんじゃ!」
「なにを子供みたいなことを言っているんだ…! 大の老人が恥ずかしい…」
先ほどまで真面目に戦争の話をしていた人と
同一人物とは思うことが出来ないほど
身なり相応のように駄々をこね始めるサリさんだったが
ふと何かを思いついたのか体を起こしカルロッテさんに迫る
「よし、儂と勝負するのじゃ!」
「またか…」
「また?」
「あぁ、こいつは問題ごとを起こすたびに対処に来た奴に勝負を吹っかけて
勝ったら許せという暴挙に出ているんだ」
「それって許されるの!?」
「ネラルでは通じるんだ… 通じてしまうんだ…
力がものをいうネラルではな…」
カルロッテさんはそう力なく言いながらへなへなと座り込んでしまった
「その… お気の毒様です…」
「あぁ…」
カルロッテさんが疲れきった顔をしているのなんてお構いなしで
サリさんは箒を取り出し戦う気満々だった
「行くぞ!」
「待て、これをつけろ!」
カルロッテさんは何かをサリさんに投げつけた
「危ない危ない! 忘れていたのじゃ!」
「あれは抑制の輪…」
「よくせーのわ?」
「簡単に言うとステータスの内100を超えているものを
強制的に100まで下げるものです」
「へぇ…」
「一応言っておくが、全魔法・剣技のみだからな?」
「分かっておる! 行くぞ!」
「来い!」
地図→https://www.pixiv.net/artworks/110140443
次回は7月23日です