謁見
〈スムスドン国立図書館〉
↓
〈ケミシラ大通り〉
「もう朝だね」
東の空はすでに白み始めていた
「そうですね、意外と調べてるうちに興味深くなってしまいました…」
「あはは、少し眠いけどこのままネラルに向かう?」
「そうですね、向かいましょう」
朝食をパパっと済ませ出店を見ながら水国西方面を目指していると
「サタナ? サタナだよね!」
突然自分の名前を呼ぶ声が聞こえた
声の聞こえた方を向くと白いワンピースに金色の長い髪の映える女の子が
こちらに駆け寄ってきていた
「イルナ! こんなところで会えるなんて!」
「サタナ! 久しぶり!」
「元気してた?」
「もちろん!」
数年ぶりの再会に互いを強く抱きしめる
「サタナ様… こちらの方は?」
突然の出来事にナルディが困惑した声を上げる
「彼女はイルナ、私の親友だよ!」
「こんにちは! イルナ・ユキザだよ!」
―――――――――――――――――――――
〈名前〉イルナ・ユキザ
〈種族〉人族
〈属性〉風
〈レベル〉10
〈ミンラ〉風の初級魔法を操る
〈職業〉商人
〈能力値〉――
―――――――――――――――――――――
「よろしくお願いしますイルナ様、ナルディ・ロフです」
「いきなり様付け!? ふふっ、よろしくね! ナルディちゃん!」
「イルナはねユキザ商会のご令嬢なんだよ!」
「あのユキザ商会ですか!?」
「ふふっ、そういえばサタナは旅に出てるんだよね?」
「うん! 学生時代に宣言した通りね!」
「お二人は学生時代からの仲なのですか?」
「そうだね、私とサタナは確か… 7歳? の時に会ったんだよね」
「そっか、あれからもう10年経っちゃうんだね…」
「そういえばイルナはなんでここに?」
「お父様から隊商を任されてここに来たんだ!」
「おぉ、おてんば娘が大出世したね!」
「サタナだけには言われたくないよ!」
「ごめんごめん、そっかもう立派な商人なんだね、すごいなぁ…」
「褒めてくれるのはうれしいけど、そんなに立派なものでもないよ?
私は、自分たちの力だけで旅してるサタナの方がよっぽどすごいと思う!」
「えぇ!? 私もずっとナルディの力を借りっぱなしだよ?」
「そっか、私も隊商を連れてなかったらサタナの旅に同行したかったな…」
「隊商って旅を続けてるんでしょ? 多分どこかで会えるよ!」
「そうだよね、そうだといいな!」
「イルナ様! そろそろ出発のお時間です!」
遠くの方から男の人がこちらに向かって叫んでいるのが見えた
「あ、もう行かなきゃ! じゃあ2人とも頑張ってね! またどこかで!」
「うん! イルナも頑張ってね!」
そうしてもう1度強く抱きしめてからイルナを見送った
「ごめんねナルディ、そろそろ出発しようか!」
「いえいえ、前にリアンと会った時を考えればお互い様です」
そういう割には少し怒っている? 拗ねている? 様なナルディだった
しばらくしても全く目線は合わせてくれずそっぽを向いていた
「もしかして… 嫉妬してる?」
「なっ… そ、そんなことないですよ!?」
上ずった声を上げて頬を赤らめるナルディ
これ以上何かを言うのもかわいそうだと思ったので
何も言わずにネラルへと歩を進めることにした
「よし、ネラルに出発!」
「えっ、あっ、はい!」
〈ケミシラ〉
↓
〈水国西〉
↓
〈ネラル〉
ネラルは道がかなり入り組んでおり
大通り沿いにほとんどの建物があるケミシラとは正反対だった
「ネラルはケミシラと打って変わって戦い向けって感じだね」
「そうですね、戦争が終わった後すぐに変化したケミシラとは違い
未だ力が物を言う都市です」
「ふーん、どおりで屈強な人とかが多いわけなんだね」
辺りを見回すとレベルチェックがあるとはいえ
低レベルの人はほとんど見かけることはなかった
ほぼ全ての人が各々の武器を持つ光景は
他の都市では見ることのできないものだった
「あっ! サタナ様!」
「ん? どうしたの?」
「ネラル領主にご挨拶をしなくては!」
「領主? 挨拶?」
「はい、ネラルに訪れた冒険者は領主に挨拶をして自分たちはこの都市に
害をもたらす者ではないという証明をしなくてはならない文化があるんです!」
「へぇ、面倒くさい文化もあったもんだね」
「そういうこと言わないでください! 行きますよ!」
〈ネラル中央広場〉
↓
〈ネラル領主邸〉
「ほう、貴様らが久方ぶりに地水関所を通った冒険者か」
―――――――――――――――――――――
〈名前〉カイ・ネラル
〈種族〉人族
〈属性〉水
〈レベル〉22
〈ミンラ〉水の上級弓技を操る
〈職業〉――
〈能力値〉――
―――――――――――――――――――――
立派な髭を貯え、貴族が着ていそうな服を身に纏い椅子に腰を掛ける姿は
如何にも領主と言うようなものだった
ステータスを見ても「水の上級弓技」とかなりの猛者であることが分かった
「は、はい、地国のアルミドより訪れました、サタナ・クライです」
ナルディに絶対に失敗しないでくださいとかなり力強く言われたため
慎重に事前に教わった言葉を並べていく
「お供のナルディ・ロフです」
「そしてこっちが影虎のリコラです」
厳かな雰囲気に圧倒されたのかいつもとは違い小さく声を出すリコラ
「そんなことはどうでもよい、それより…」
私たちの自己紹介を一蹴するとカイさんは話し始めた
「常闇の川は知っているだろう?」
「は、はい!」
「そこに住む影亀と言う魔物を討伐してくれ
討伐出来たら報酬として2000ケル支払おう」
「え!?」
「我らの軍事力をもってしても勝てず、隣都市のあやつですら
解決できていない問題だが… まぁ頼んだぞ」
「え… えぇ…!?」
「一応、あやつにも声はかけているから川付近でうまく合流してくれ」
「は、はぁ…?」
私たちの意見は完全に無視され屋敷から追い出された
「この依頼? って無視していいかな?」
「いえ、ここでは向かうと下手したらネラル出禁になりかねませんから
大人しく従っておきましょう…」
「だよね… そういえばカイさんが言ってたあやつって誰だろう?」
「さ、さぁ? こればっかりは行ってみないとですね」
「だね!」
そうして何もかもがよく分からないまま水国西へと歩を進めることなった
〈ネラル領主邸〉
↓
〈水国西〉
ネラルを出て、ケミシラ方面へと歩いていると前から見覚えしかない
とんがり帽子をかぶり癖の強いローブを羽織った人が歩いてきているのが見えた
「あれって… サリさん!?」
「おぉ! お主らまた会ったの!」
「サリさん! どうしてここに?」
「それは儂の台詞じゃ! どうしてこんなところにいるのじゃ?
ネラルに行ったはずじゃないのかの?」
「私たちネラルの領主さんに頼まれてここに来たんだ」
「なるほどの、あやつの言ってた『今回は期待できる奴』
とはお主らのことじゃったか」
「期待できる奴?」
「うむ、あやつはのネラルに来る冒険者が自分のもとに挨拶に来る時に
大金をちらつかせて影亀の討伐を頼んでおるんじゃ」
「えぇ…!?」
「そのやり方に賛同するわけじゃないんじゃが…
儂も水国の平和を願っておるからの…
腹が立つがあやつの命に従って何回か出向いておるのじゃ」
「ネラル領主直々に頼まれるなんてサリ様は一体何者なんですか…」
「サリさんってもしかして凄い人なの…? まぁあんな図書館を管理してる時点で
十分凄い人なのは分かるけど…」
「そんなことはどうでも良い! 早う常闇の川に向かうとしようぞ!」
「う、うん!」
〈水国西〉
↓
〈常闇の川〉
「ここが常闇の川…」
「本当に何度来ても気味の悪い感じじゃな…」
川は水とは思えないほど黒く濁っており
その影は両端からつながっているケミシラ河をも少しずつ侵食しているようだった
「そういえば、サリさんってどれくらい強いの?」
「水国内戦で水神から勲章を貰ったくらいじゃよ」
「水神から!?」
「神直々ですか…!? サタナ様… サリ様だけは絶対に、絶対に!
怒らせてはいけませんよ!?」
「う、うん… わかった…」
「わっはっは、そう恐れるでない!
儂とて先にも言うたが争いは好きではないからの」
そう雑談しながら川に沿って散策していると
サリさんが突然攻撃態勢を取り魔法を唱えた
「お主ら! 下がるのじゃ! イデガラーム!」
『サリの上炎魔法!
ミス!??には当たらなかった!』
「な… 何が…!?」
言い終わらない内に川の中から飛び出した何かが目の前に降り立った
「来よったぞ! 常闇の川の主… 影亀じゃ!」
地図→https://www.pixiv.net/artworks/109756606
次回は7月15日です