飛行
「もう寝てしまいました… 本当に寝ていないんですね…
ふふっ… 可愛らしい寝顔…」
しばらくの間サタナ様の寝顔を眺めるという幸せすぎる時間を堪能していると
遠くからレムル様とユラ様が歩いてくるのが見えた
「あらら? お疲れのようだね~?」
「レムル様、ユラ様…
そうなんです、なのでもう少しだけ寝させてあげたいです」
「お疲れのまま龍族に乗るだなんて事故の元! 言語道断です!」
「そうだね、少し待とっか~」
お二人はそう言って私の隣に腰を下ろした
レムル様は大きく伸びをすると私に向き直り話し始めた
「せっかくの機会だし、ナルディと少し話したいな、いい?」
「もちろんです!」
「僕たちに質問とかない? 何でも答えるよ~」
「そうですね… 前々から気になっていたのですが…」
「お、なになに~?」
「レムル様はユラ様の主人なんですか?」
「一応ね、君たちと違ってずっと一緒にいるわけじゃないから…
あまりそうは見えないよね~」
「そうですね、形式上は主従関係ですが…
お互いの仕事が忙しく微妙なところですね」
そう言ってレムル様とユラ様はお揃いの腕輪を見せる
腕に巻く部分にはユラ様の物は風の魔石
レムル様の物は鉄の魔石がそれぞれ散りばめられており
手の甲側には風の魔石と鉄の魔石が半円ずつ埋められていた
「それは?」
「これは私たちが主従の契りを交わした時に一緒に作った物です」
「最古のドラゴンライダーが持っていたとされる
遺物『人龍の首飾り』を真似て作ったんだ~」
「綺麗ですね…」
「ナルディたちも作ってみたら?」
「そうですね、今度サタナ様に相談してみます!
…あ、もう1つ質問なんですが」
「うん?」
「お二方はどのようにコミュニケーションをとっているのですか?」
「というと?」
「私は私のミンラにより龍族の状態でも
サタナ様とコミュニケーションが取れるのですが
普通は龍族と人族とでは口や耳のつくりが全く異なるので
人族の言葉は全く聞こえないはずなので
どのようにコミュニケーションをとっているのかと思いまして」
「「わからない!」ですね!」
「えぇ!?」
まさか過ぎる回答をしかも即答されたので大きな声で驚いた
「失礼しました 少し予想外で…」
「あはは、確かに変だよね~」
「何と言いましょうか、大体レムルの考えていることがわかるんですよね」
「そうなんだよね~」
「そんなことって…?」
「可能性としてありそうなのは、私が龍族と人族のハーフなので
普通の龍族よりは意思疎通がとりやすい… とかですかね?」
「なるほど…?」
「まぁそんなに気にしなくていいんじゃない?
ナルディにはその便利なミンラがあるわけなんだしね~」
「そうですね…!」
レムル様とユラ様と人族と龍族のお話を始めてからかなり時間がたっており
昇ったばかりだと思っていた太陽はすでに高くまで昇っていた
「ん… あれ…?」
・・・・・・
「あ、おはようございますサタナ様!」
目が覚めると目の前にナルディの顔があった
「おはよう… ってなんでナルディの膝の上に…?
そうだ、寝不足で…! ありがとうナルディ! 痛くなかった?」
「いえいえ! 感謝したいくらいです!」
「え、え?」
辺りはすっかり明るくなり心地の良い風が吹いていた
「ね… 寝すぎた…!」
「起きたね! おはよ~」
「レ… レムルさん! ユラさんまで! 待たせてごめんなさい!」
「大丈夫! 1日でしっかり魔法をマスターしてきてるだけ偉い!」
そう慰め、褒めながら頭をわしゃわしゃと撫でてくれた
「ありがとうございます!」
「それじゃ、始めようか! とりあえず5000m…
行けそうなら10000mも行っちゃおう!」
「はい!」
いつの間にか変身していたナルディに飛び乗り
既に飛び立ったユラさんを追いかける
今日は昨日よりも天気が良かったので
上昇中には遠くのアルミドまで鮮明に見ることが出来た
「お、昨日よりもずいぶんスムーズだね」
「慣れてきました!」
「うんうん! 呑み込みが早いことはいいことだ~!
それじゃあ、早速だけど耐寒魔法を使って10000m行ってみよう!」
『レムルの熱風魔法!
レムルの周りに暖かい風が吹き始めた』
「今更気づいたけど炎の全魔法のイデガと風の全魔法のルフトを
組み合わせたものだったんだ… それが分かれば制御が楽だね!」
「気づかずにやってたの!? 確かに直接的にはあの本に書いてないけど…!」
レムルさんが聞き捨てならないと言わんばっかりにツッコんできた
『サタナの熱風魔法!
サタナの周りに暖かい風が吹き始めた』
「ガメドイの方はまだなんですか?」
「まだ動くわけじゃないからそんなに風は吹かないし大丈夫だよ~」
そう言いながらユラさんは何とか視認できるところまで上昇していった
「よし… ナルディ! 追いかけるよ!」
「はい!」
魔法を使っているのにもかかわらず凍り付くような寒さが体を襲った
「大丈夫… ではなさそうだね?」
「はい、寒いです…」
「サタナにできるかわからないけど…
イデガに使うマナを増やせばもっと暖かくなるよ~」
「仕組み通りイデガとルフトのバランスによって状態が変わるんですね?」
「そうそう、これからあと5000m上昇するわけだし
今のうちにやっとかないと凍死しちゃうよ」
説明されたとおりにイデガに割くマナを少しずつ増やしていくと
辺りに吹く風の温度が高くなり少しずつ寒さが和らいでいった
「よし…! もう大丈夫です!」
「よ~し! ユラ行くよ!」
そうして私たちは上空し続け遂に龍族の空域まで達した
場所としてはただ高いところに来ただけなのに
自然と背筋が伸びるような神聖な空間だと感じた
「おぉ… 大体の子は一発で来れないのに…! やるねぇ~」
レムルさんはそう褒めてくれたが一方の私はそんな余裕はなかった
「か… 風強い… レムルさん… 嘘ついた…」
「そ… そっか! ごめん! 慣れのせいで動くまでは大丈夫だと思ってた!」
『レムルの耐撃魔法!
サタナの前にバリアが現れた』
レムルさんがガメドイを使うと
かろうじて喋ることが出来るくらいには風が落ち着いた
「た、助かりました…! じゃなくて! 先に言ってくださいよ!」
「本当にごめん! と、とりあえず動いてみよう?
動いてからの風は本当に死ぬレベルだからさ…
さっきまでの風が弱く見えるんだよ…?」
少し早口になりながら言い訳交じりに飛行のルール説明を始めた
「あの玉が見える?」
レムルさんが指さす先には茶色の玉と青色の玉が2つずつ浮いていた
「あれらを繋いだ四角形の中がクスロ平原内だから
あのボールより外に行かないでね、出たら次は罰金ものになっちゃうから!」
「わかりました!」
「とりあえず、一旦ナルディと調子を合わせながらゆっくり飛んでみて」
「よーし! ナルディ行くよ!」
「はい! 行きましょう!」
まだまだスピードを出していないはずなのに
自分を取り囲む風は信じられないほど早くなっていった
「なるほど…! これは死ぬね」
「でしょ? だからスピード上げてもいいけど気を付けてね」
「じゃあナルディ! 速度上げてみよう!」
「はい! では2倍ほど出します!」
そういうとナルディはスピードを上げて楽しそうに飛び始めた
スピードが完全に上がりきらない内は楽しむことが出来ていた
しかし、完全にスピードが上がるころには…
「や… やばい… 止まってナル… ディ…」
そんな私のちっぽけなつぶやきはナルディに聞こえることはなかった
その後私は死にかけの所をレムルさんに気づいてもらって助けられたらしい
「サ… サタナ様ぁぁぁ!」
・・・・・・
気が付くと宿屋クスロにいた
近くの椅子ではナルディが寝ながら私の手を握っていた
サイドテーブルにはレムルさんの書置きと小包があった
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お疲れ様、明日は試験本番の練習だからしっかりと寝ること!
あと、ナルディがずっと君の横から離れたがらなかったから
そのままにして置いたけど多分これを読んでる頃にも
まだ座ってるだろうからちゃんと寝かせておいてね
あと、袋の中身はお詫びだと思って受け取って!
レムル
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【46ケル→86ケル】
「あれからずっと座ってたの!?」
と小さくナルディにツッコんだ
外は既に真っ暗でかなりの時間がたっているのは明白だった
ベッドから体を起こしぎりぎりの体力でナルディをベッドに運ぶ
しかし運び終えた後にぽすんとナルディの隣にに体を預けたところで
完全に意識が途切れてしまったのだった
・・・・・・
「サ… サタナ様!?」
そんなナルディの素っ頓狂な声で起こされる
「おはよう… ナルディ? どうかした?」
「おはようございますサタナ様!
じゃありません! ど、どうして同じベッドに…?」
目をしっかりと開けるとナルディが驚いた顔のまま固まっている姿が映った
「ご… ごめんなさい!」
「え? え!?」
「私疲れていたみたいです… いえ、罰はしっかりと受けますので…!」
「違う違う! 私が夜中に起きた時にナルディを運んだら
そのまま同じベッドで寝ちゃっただけだからそんな泣きそうにならないで!」
「またサタナ様に私めを運ばせてしまったのですか…!?
それならなおさら…!」
「私のせいだから、とりあえず落ち着いてー!」
ナルディをなんとか落ち着かせつつ身支度をすることになってしまった
地図→https://www.pixiv.net/artworks/109114855
次回は6月24日