実技
カツキ達とお茶をした次の日
私とナルディは一次試験結果の確認のために冒険者協会を訪れた
〈冒険者協会〉
「こんにちは! サタナさん、ナルディさん! 試験結果の確認ですね?」
昨日の恐ろしさは何処へやら、いつものユラさんに戻っていた
「はい! お願いします!」
「分かりました…」
そう言うと真面目な顔で話し始める
「サタナ・クライ様… 一次試験通過です!」
「やった!」
「試験の詳細と実技の二次試験についてはこちらの封筒をご確認ください!」
渡してくれた封筒を受け取り近くのベンチに座って確認する
封筒には2枚の紙が入っていた
1枚目は試験結果だった、点数は100点中79点…!
ナルディにべた褒めされてしばらくにやにや顔が治まらなかった
2枚目は実技試験の日にちと練習場所の案内だった
「おぉ…! 流石サタナ様です!」
「よかった… 本当によかったよ…」
「でもまだ終わりではありませんよ!
この紙によると、二次試験までは残り3日しかないですので
案内にある練習場所に向かってみましょう!」
「うん!」
ナルディはベンチから立ち上がり、私の手を引く
少し早足になりながら案内に書かれていたクスロ平原に向けて歩を進めた
〈ルッカ〉
↓ルッカーアルミド街道
〈クスロ平原〉
クスロ平原はルッカーアルミド街道を南に外れた先にある広大な平原である
また平原内にはほとんど魔物がいないことで有名だ
「わぁ… ひっろーい!」
「そうですね! 地図を見てみるとルッカと同じくらいの広さはありますね!」
大きな平原を見渡すと遠くに柵のようなものが見えた
「あの柵みたいなものは?」
「あれは、水国の魔物が地国に入れないようにするものです」
「入ってきちゃうと問題があるの?」
「もちろんです、属性の関係性は覚えていますか?」
「うん、覚えてるよ!
『炎は鉄に強い、鉄は風に強い、風は水に強い、水は地に強い、地は炎に強い』
だよね?」
「はい、なので例えばですが水国の魔物…つまり水属性の魔物が
地国に入ってきてしまうと地国の魔物…つまり地属性の魔物を
強弱関係により地国の魔物は水国の魔物に勝てずに全滅する可能性があるのです
実際に過去に鉄国の魔物らが風国の魔物の8割を喰らい絶滅に追い込んだ
という事件がありました、もちろん自然現象だという見方もありましたが
各国の人族は協力して国々の間にあのような柵を作ったのです」
「ふーん? あれ? クミル辺りで炎属性の魔物を見かけた気がするんだけど…」
「簡単に説明しますと、そういった種は
各属性を半分ずつ持っている種だと考えてください」
「じゃあ、クミル辺りで見かけた炎スライムは地と炎が半分ずつってこと?」
「そういうことです!」
「なるほどね…」
「あの… サタナ様?」
「ん?」
柵からナルディに視線を移すと、ナルディは眉間にしわを寄せて
尻尾を地面に打ち付けるなどといった典型的な龍族の威嚇状態だった
「ど… どうしたの?」
「この『鉄風魔物事件』は『リウクスの歴史』に載っていたはずですが…?」
「あ! それが鉄風魔物事件だったの!?」
「サタナ様! 単語だけ覚えてても意味がないとあれほど…」
「そ、それよりナルディ! そろそろ実技について教えてほしいな!」
何とか話題を変えようと本題に戻ろうとすると、ナルディはキョトンとした顔で
「私が教えるわけではありませんよ?」
「え、そうなの?」
「あ~! 貴方はあの時の冒険者さん!」
「へ?」
声がする方を見ると見覚えのある人が手を大きく振りながら歩いてきていた
――――――――――――――――――――
〈名前〉レムル・ランク
〈種族〉人族
〈属性〉地
〈レベル〉20
〈ミンラ〉鉄の初級魔法を操る
〈職業〉魔物マスター
〈能力値〉…
――――――――――――――――――――
「あ! お久しぶりですレムルさん! それと… ユラさん!?」
「お二方さっきぶりですね!
まさかサタナさんとレムルさんがお知り合いだとは!
それなら説明は不要かと思いますが、彼はレムル・ランク
彼の職業は全ての魔物と友に生き、制御することのできる魔物マスターです」
「あれ? 確か初めて会った時…
レムルさんの職業は『魔物ハンター』だったような気が…?」
「そっか~、初めに会ったのは試験より前だったね~
少し前に魔物マスターの試験に受かったから
色んな魔物ライダーの指導員の資格を得たんだよね~」
「え、すごいですね!」
「今さらっと言ってくれましたが…
魔物マスターはリウクスの超難関職業の一つです!
それも合格者が300年に1人しか出ないほどのものです!」
「え… え?」
自分がなろうとしている職業とのレベルの差に驚き唖然としていると
レムルさんは何でもないことのような顔をして
「とりあえず雑談はこの辺にして早速乗ってみようか! ユラ頼んだよ!」
「はい!」
そうレムルさんの指示を受けるとユラさんは青龍の姿になった
ナルディのような炎ではなく水を身に纏い、魚類のようなえら、ひれを持ち
体の鱗も魚類のものに近いようだった
「では、私も!」
続くようにナルディも赤龍の姿になった
辺りには2匹の龍族が降り立った音が響き渡った
「ナルディも十分大きいほうだと思ってたけど…
ユラさんはナルディよりも大きい…!」
「うーん… 僕が見てきた限りだとナルディは小型の龍族だと思うよ~?」
「ほ、本当ですか…!?」
「うん」
ナルディは推定だが10mはあるはずなのにも関わらず小型とは…
「じゃあ、これをつけてあげて」
「はい!」
レムルさんから龍具を渡された、苦労しながらなんとかそれらをナルディに着ける
「着けれました!」
「確認するね… うん、大丈夫! それじゃあ早速だけど乗ってみよう!」
「はい! ナルディ、乗るね!」
「はい、いつでも準備はできています!」
ナルディは嬉しさを隠し切れないようで声がいつもより高かった
ナルディの背に乗ると当たり前だが視界が高くなり、少しだけ恐怖心を煽られた
「ふぅ…」
「大丈夫ですかサタナ様?」
「心配かけてごめんね! 私は大丈夫!」
少し気分も落ち着いてきた頃
ユラさんの背中に乗ったレムルさんが話しかけてきた
「まずは、歩いてみようか、ユラの後ろついてきてみて」
「はい! ナルディよろしくね!」
「お任せください!」
そうナルディに指示を出してクスロ平原を一周してみた
最初の方は未だ恐怖が勝ってしまって目を閉じてしまう始末だったが
最後の方は恐怖心はほぼ無くなり乗っていることが楽しくなっていた
「どう? 乗ることには慣れた?」
「はい!」
「じゃあ、次は浮かんでみようか… いけそう?」
「大丈夫です! 頑張ります!」
「じゃあ、最初だしまずは100mくらいにしてみようか」
「100!? た、高くないですか!?」
「確かに普通からしたら十分高いよね~
けど… 龍族は15000mくらいで飛ばなきゃ
地形とか町とか魔物に被害が出ちゃうから…
100なんてまだまだ序の口だよ~」
「い… 1万… 5000!? できる気がしないんですが… 何かコツとか…」
「慣れだよ慣れ! やってみよ~! まずはお手本見せるね!」
レムルさんはそう一蹴して、早速飛び上がっていってしまった
「まずはこの辺まで上がっておいでー!」
少しもしない内に上空から小さくレムルさんの声が聞こえた
上を見上げると手を振っているレムルさんをギリギリ視認できた
「よし、じゃあナルディ頼んだよ!」
「はい! 任されました!」
レムルさん、ユラさんを追いかけながら200m、300m、500m、1000mほどまで
浮かび上がることができるようになったところで陽が沈んでしまった
「う~ん、今日はここまでだね!
そうだ、明日からは10000mを超えるようになるから
この魔法を使えるようになっておいてね!
全魔法だからすぐ使えるようになるはず!」
そう言ってざっと300ページはありそうな本を2冊渡してきた
「熱風魔法と耐撃魔法?」
「うん、流石に人族のサタナに15000mなんて高さは寒すぎるから
体を温める方法がなきゃいけないでしょ?」
「確かに… じゃあ耐撃魔法の方は何のための魔法なんですか?」
「龍族が凄いスピードで飛ぶのは知ってると思うんだけど
その飛行中に龍族が受ける風は龍族にとっては無害かもしれないけど
サタナにとっては凶器になるから防がないといけないんだ」
「き… 凶器!? ってことはナルディあの時手を抜いてくれてたの?」
「も、もちろんです! サタナ様を傷つけるわけにはいきませんから!
本気で飛んだらあのスピードの10倍以上は出せます!」
とてつもない絶望感に襲われ、立ち眩みしてしまいそうだった
「そういうわけだから、明日までにそれ使えるようになっておいてね~
頑張って! それ出来なかったら試験に合格できないのと同義だから!」
そう言い残し、レムルさんとユラさんは先に帰ってしまった
〈クスロ平原〉
↓
〈宿屋クスロ〉
私は本を抱えナルディと一緒にルッカーアルミド街道沿いにある宿に向かった
【56ケル→46ケル】
「よし! 頑張るぞ!」
「サタナ様… 無理だけはしないでくださいね…」
「うん!」
ナルディはそう心配し、一晩中就いていると言い出したが
大丈夫と言い張って強制的に寝させた
ナルディが寝たのを確認した後、本を開き魔法の習得を始めた
・・・・・・
結局夜は一睡することもできなかった
内容がとにかく難しく実践を始めるころには日を跨いでしまう始末だった
目を擦りながら作業部屋を出て寝室に入るといるはずのナルディがいなかった
前の一件から敏感になっていたのもあって物凄く慌てたがテーブルの上に
『先日、久方ぶりに飛んでみたときに体がとても鈍っていると感じたので
体を慣らすために先に平原に行っています、勝手な行動をお許しください』
と言う書置きがあったので朝ごはんと支度をちゃちゃっと済ませて
平原へと歩を進めた
〈宿屋クスロ〉
↓
〈クスロ平原〉
朝の平原はとても綺麗だった、まだ上がりきっていない太陽が
地平線から少し顔をのぞかせ広大な平原を照らしていた
「うーん! 良い朝!」
空を見上げるとナルディが元気良く辺りを飛びまわっていた
ナルディに向けて手を振るとこちらに気づき急降下して地に降り立った
「おはようナルディ!」
「おはようございます! って… やはり休めていないんですね?」
「え… なんでバレたの…?」
「そりゃバレますよ… だって朝起きてもベッドが綺麗でしたもの…」
「あはは… で、でも! 魔法は覚えたから練習はできるよ!」
「でもじゃありません!
まだレムル様方は来ていないようですし少し寝ましょう!?」
頬を膨らませながら正座をし自分の膝をポンポンとするナルディ
「さ、流石に悪いよ… ここ芝生だから十分寝られ…」
「ダメです!」
いつものナルディからは考えられないくらいに食い気味に怒られたので
大人しくナルディに膝枕されて仮眠をとることにした
地図→https://www.pixiv.net/artworks/109093935
次回は6月18日です