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Make01.制作タイトル未決定

 

  

「はい、というわけで集まってくれてありがとね」


 場所はどこかの会議室。円形のテーブルに揃って座り顔を合わせる。


「一応これが顔合わせ初だから自己紹介とかしとく?」

「まあ一応しとく?」



 この会議室にいるのは4人。

 まずは自分からと司会をやっていた男が手をあげた。


「じゃあ自分から。ストーリー課の田中です。今回このグループのリーダーを務めさせていただきやす。次時計回りね」


 何の特徴もない普通男の田中は簡単に自己紹介を終えると次にパスした。


「次俺か。キャラクター課の村上。まあよろしく」


 メガネを掛けた小太りの男、村上も田中に習い超簡潔に終えた。


「設定課から来ました。山田です。まだまだ未熟ですけどよろしくお願いします」


 グループ最年少の山田。まだ至らない点は多々あるけど向上心の塊。


「アイテム課、佐藤です。みなさんよろしくおねがいしますね」


「佐藤ちゃんかわいいよー!」

「佐藤ちゃーん!」

「このグループ入れてよかったー!」


 グループの紅一点である佐藤。上品で少しドジっ子という神がかった存在。

 アイドルのように讃えられており実際このグループでもそんな扱いだった。


「よし一旦落ち着こう」


『了解』


 このまま佐藤ちゃんコールで佐藤が困っているのを見ているのもやぶさかではなかったが仕事ということで自重した田中が話を切り替える。


「さて今回このグループが結成されたのはもちろん仕事があるからだ!」

「リーダー指示くれ」

「そう焦るでない村上。では今回の仕事を発表しまーす!ホワイトボードカモン!」


 田中が指を鳴らすとすごい勢いでキャスター付きのホワイトボードが飛んできた。


「今回俺たちがこのグループでやる仕事はこれだ!」


『異世界系ラノベの世界を実際に作る』


 ホワイトボードにはデカデカとそう書かれていた。


「因みに指示はこれだけだから自由の塊みたいな仕事だ。ただし完成させることが条件でな。長丁場になることは必須。この時点で降りるやつはいるか?」


 自由度が高い。この点に3人は反応した。


「降りねぇよ」

「やります」

「私もがんばりますよ!」

「佐藤ちゃんかわいい!……じゃなくてまあ全員降りないってことで」


 世界創造社CREATE。

 企業名そのまんま世界創造を仕事とした会社。

 イロモノ扱いされ周りから制御不能のカオスと呼ばれることになるこのグループが生み出す世界は現時点で誰にも想像することはできなかった。というか思考放棄されていた。


「というわけで早速色々決めていこうか」


 グループリーダーである田中が机の装置を起動させると地球儀のようなものが立体映像として出現する。

 しかし大陸のようなものは一切なく真っ青だった。


「舞台はこの星。今はまだ大陸とか作ってないからあれだけど」

「今日は大まかにストーリーの草案と世界設定を作る感じですか?」

「まあ今日は初日だから方向性の決定かな?出来れば細かいところも」


 佐藤の問に田中が答える。


「方向性。今回は異世界系ラノベって言う具体的のようで抽象的な内容でね、異世界って行ってもベースにするものに寄って色々変わるからさ」


 理論としては小説と同じだ。

 小説を書くにしてもジャンルを定める必要がある。まあ人にもよるが。

 医療系ミステリーの筈なのに異星人なんかが攻めてくるなんてSFが混ざっていたりするのは無いだろう。

 方向性を決めておくことで物語として違和感のない世界観を作るのだ。


「なにか案ある人」

「リーダーそもそもどういうストーリーにするのか決まってんのか?」

「まだ決まってないけど……一応異世界ってことでファンタジーメインだとは思う」


 村上の指摘でホワイトボードに「ファンタジー」と書き込まれる。

 世界観が決まってないので特にすることのない佐藤が記録係をしている。

 世界観のせの字もないのにアイテムなんて作れないのである。


「意見ある人いる?挙手制ね」

「じゃあいいすか?」

「はい山田くん」

「最初から変に凝った設定作ると後からグダって続かないんで原点回帰で勇者が魔王を倒す王道なんてどうですかね」


 山田の意見に各々共感する。

 最初から設定を盛りまくると設定作ってるのは楽しいけど実際書くとしたら窮屈になってやめてしまう。

 それで失敗した人を何人も見てきたのだ。田中はむしろ経験談だったためすぐに「王道」と書き込んだ。


「はい」

「佐藤ちゃん」

「異世界だからスキルとか魔法とか作りたいなって」

「まあ定番よな」

「まあ異世界だしね」

「個人的にそういうアイテム作るのも楽しそうだなって」


 現実でできないことやりたいじゃん。

 厨二病?我々の業界では褒め言葉だ。


「山田くん魔法とかの歴史って世界観に組み込める?」

「出来ますけどまだやらない方がいいっすね」

「ほう?なんで?」

「そもそもまだキャラクターとか決めてないじゃないですか。例えば魔法の開祖が重要人物だったり魔法使いで組織作ってたりしたら勢力図なんかも必要だしでまだ世界観に組み込むほど情報が出揃ってないんで」

「なるほど」


 取り敢えず「魔法の世界設定(確定)」と書き込む。

 実装が確定している内容には確定と表記し別の場所において置かれる。


「魔法ってことは本格的に魔王とかわかりやすいボスを置いてストーリー組み立てた方が良いんじゃない?」

「あの超王道RPGみたいにゆく先々にイベントを立てればストーリーも自由に出来るでしょ?」

「よし決定」


 異議はなかった。


「これより我々が制作するのは仕組まれた冒険(ロードマップ)!さあ意見をいい合おう!」

「田中さんってこういうキャラだったんですね」

「佐藤ちゃんそっとしておいてあげましょう」

「そこ!聞こえてるぞッ!佐藤ちゃん誤解しないでこれはあくまで突発的にテンションが上がった状態……謂わば深夜テンションというもの!」


 よく見れば田中の目には薄い隈が出来ておりしばらく寝てないことが察せられた。


「ああ、こいつ寝てねえんだ。山田!こいつ寝かせるぞ手伝え」

「はい」

「おい!こら、何をする!離せ!」


 村上と山田の2人掛かりで田中を抑え込む。

 その間に佐藤は部屋の隅に仮眠室より拝借した布団を敷いた。


「田中さん、寝てください」

「佐藤ちゃんが言うなら喜んで!」


 散々抵抗していた田中だが佐藤の声に反応しすぐ大人しくなった。

 野郎二人の意見よりもアイドルの意見のほうが重いのだ。


「なんだこいつ変態か?……変態だったわ」

「「いや変態(村上)には言われたくない」」


 声を揃える田中と山田。

 村上が変態であるのはこの会社内では常識である。残当。


「さ、リーダーを(物理的に)眠らせたから細かいところ決めてくぞ」

「了解です」

「わかりました」


 田中が物理的なエネルギーによって沈黙したため何事もなかったかのように会議が再開する。


「これが無きゃ何も始められない」


 ホワイトボードに「主人公」と書かれる。


「物語の中心人物にして主役。こいつを中心に物語が進んでいくわけだからな」

「今回はRPG風だから戦闘職を振るんですか?」

「まあそうなるな」

「最近の主人公っていろんなタイプが増えましたよね」


 佐藤の言葉に皆同意する。


「最近は特にな。異世界系のメジャーは元々剣士だったり魔法使いだったりが主流だったがかつてマイナー職とも言われた魔物使い(テイマー)錬金術師(アルケミスト)暗殺者(アサシン)……変わり種が主人公になることが多くなった。もはやマイナー職なんて呼べないな」


 マイナー職なんてなかった。いいね?

 それまで主人公のバリエーションが豊富になったということだ。


「村上さん今簡単に世界観作ったんですけど……存在する種族みたいなのリストアップしたんで後で種族ごとの大まかなキャラメイクしてもらっていいすか?」

「助かる。リストに無いやつは追って知らせる」

「そうしてもらえるとこっちも助かるっす」


 山田が同時作成していた世界観の資料を村上に渡す。

 先程決まった魔王を倒すRPGというのを参考に世界の情報を組み上げたのだ。


「話は聞かせてもらった!」

「田中さん!まだ寝ててください!」

「うんわかった!……じゃなくて!もう大丈夫だから」


 佐藤の甘言を根性で振り切り会議に参加する田中。

 創作への熱意はかなり高いようだ。無駄に。


「折角ストーリーをシンプルにしたんだぜ?主人公こそ凝るべきだ」

「却下。細かいストーリーを作れリーダー。ここは敢えてのシンプルだ」


 復活早々田中の意見が切り捨てられた。


「主人公はシンプルに。誰か意見はあるか?」

「村上さん少しいいですか?」

「佐藤ちゃんいつでも来ていいよ」

「言い方が卑猥だぞ変態」

「黙ってろリーダー」

「とあるコンピュータゲームみたいに主人公に剣をもたせるのはどうでしょう。例えばかつて古の魔王を退治した聖剣の封印を解いたのが主人公だったとか主人公の家系に代々伝わる剣だとか、主人公の存在感を高めるメイン武器を設定に組み込むのがいいと思います。かのアーサー王のエクスカリバーのように!」

「わぁ佐藤ちゃんすっごい早口」


 佐藤は謂わばヲタクに分類される人種だった。

 好きなものに熱中しどうしても長く伝えたくて早口になってしまう。

 アイテムに対する熱意はアイテム課の中でも人一倍強かったりする。


「まあ佐藤ちゃんが言いたいことは主人公のキャラ付けに剣を持たせたいってことでオケ?」

「そうです!」

「リーダーどうだ?」

「イケる。メチャメチャ筆が捗る。佐藤ちゃん補正掛かってヤヴァい」

「日本語で喋ってくんね?」


 佐藤の意見を聞きストーリーを構成し始める田中。

 佐藤が出したのは主人公のごく一部の設定だったがストーリー科の奇才と呼ばれた田中はスラスラと物語を書き上げる。


「今なら多少変更もできるから案あれば言ってくれ。特に村上、お前の案は結構好きだ。


 高速で指を動かしながらノールックで3人に意見を求める。

 それぞれの前に田中が書いたストーリーの草案が浮かび上がる。


「過去の勇者の聖剣が突き立てられた村の少年ね……アーサー王の伝説の選定式みたいな感じで行くのか」

「そうなると過去の勇者はかなりの偉業を成し遂げたことになりますね」

「あ、主人公のキャラ付けには幼馴染みみたいなヒロインとか欲しいかもです。村上さん的にはそこどうですか?」


 たったのワンシーンだけで考察が広がる。

 村上はこの場面から主人公のキャラ設定を、山田はこの場面からこの世界の構成を、佐藤は全体から見て足りないものを、それぞれが自分の役割+αを全うしていた。


「みんな、リーダーが作ったストーリーにあう主人公の設定考えたぞ」

「よし村上、プレゼンしてくれ」


 村上は立ち上がるとホワイトボードに画面を投影しデータを表示させていく。


 名前:未登録

 性別:男

 年齢:16

 職業:村人→聖剣使い

 性格:芯がしっかりしている。

 魔法:未登録

 備考:異世界転生者(神様との面識なし)


「まず名前を決めてない。これはまあランダムに決まるだろう。リーダーの書いたシナリオ的に最初はただの村人だ。性格は主人公らしく真っ直ぐとした芯を持つこと。まあ悪く言えば自分本位ってとこだな」

「転生者にするんですか?」

「おう。ありふれてるし。それに自分が主人公であると薄々感づかせとくと愉悦ルートが開拓される」

「良くも悪くも物語の決定権はこっちにありますしね」

「田中さんこの前世の記憶は聖剣を抜こうとしたとき思い出すっていう演出はどうですか?」

「佐藤ちゃん正直俺よりシナリオライター向いてない?」


 こうして主人公のキャラが決まったことでどんどんと虫食い状態だったストーリーが埋まっていく。

 意見を出し合い、対立と妥協を繰返して数時間。


「出来た!出来たぞ!プロローグ(仮)!」

「結構詰め込みましたね」

「そうか?伏線込みで考えてたからそう感じるだけじゃね?」

「私的には満足ですよ?聖剣もかっこいいのデザイン部の中田さんにお願いしましたし」


 物語のプロローグの下書きが完成した。

 まだまだ実装には程遠いが初日の仮決めにしてはまあまあ満足できる内容だった。

 一部とち狂ったようなのが居るがさて置き仕事に関して真面目なグループなのだ。


「さて…………ぽいの出来たけどタイトルどうしようか」

 

 達成感に浸っている中そこに田中が爆弾を投下した。


「「「「…………」」」」


 沈黙。

 先程まで意見を言い合い活気に満ち溢れていた会議室に沈黙が降り立った。


「……ここはやっぱりあれだろ。リーダーがこうビシッと決めてくれや」

「そうっすよ田中さん!」

「はぁ⁉お前らふざけんなよ!押し付けるな馬鹿野郎ども!」


 一転、作品のタイトル決めという責任の取らせ合い(醜い争い)が始まる。

 作品のタイトルと言えばまさに作品そのものの名称として残り続ける。

 またタイトルによってその物語に対する興味や評価に繋がったりするのでかなり重要なことだった。

 因みに男3人は佐藤に手が出せないので佐藤だけこの争いから自動的に除外されていた。


「リーダーなんだからリーダーらしく責任を持てオラ!」

「こういうときばっかりリーダーリーダーって都合良すぎんだよ!」

「山田!協力してあいつ潰すぞ!」

「うっす!」


 多勢に無勢。

 2対1の構図は簡単に崩せず田中は撃沈した。残当。


「わーかったから!はぁ……俺が決めとく」

「頼んだぞリーダー」

「よろしくおねがいします」

「お願いしますね田中さん」

「ああ佐藤ちゃん癒やし。後の2人の笑顔が憎いぜ」


 結局田中は「自分が受け持つけど文句は聞かないし何時迄なんて聞いてないから決めるのはいつでもいいよね」とひたすら逃げ道を作ってた。

 逃げ切った。


「次回はヒロイン決めるからそれぞれ考えといてね。じゃ解散!お疲れ!」

『お疲れ様でした!』

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