第48話 決戦前夜②
12月24日夜更け。アメリカ。ワシントン。ホワイトハウス。
合衆国大統領が住み、執務を行う官邸。政権の中枢を担う場所。
数ある部屋の中でも、日常的な業務を行う中心拠点。大統領執務室。
円形状の室内の最奥には、執務机が置かれ、レオナルドが腰かけている。
白のタキシード姿で、その背後には星条旗と鷹が描かれた旗が飾られていた。
「そろそろ話してくれませんか? 明日、何が行われるのか」
向かい立つのは、白スーツを着たジェノ。
慣れないネクタイを少し緩めながら、尋ねる。
「ぺらぺらと話すわけねぇだろ。一応、国家の代表なんだぞ」
隣に立つラウラは、眉をひそめながら反応した。
服装は同じ白スーツ。男物だけど、完璧に着こなしていた。
(普通なら話すわけない……)
彼女の言っていることは一理ある。
相手は国家の代表であり、白教の大司教。
二つの顔を持つ存在であり、その肩書きは重い。
常識的に考えれば、黙秘するのが自然のように思える。
(でも、相手は普通じゃないんだよな)
そこに、ジェノは可能性を感じていた。
レオナルドは、頭のネジが外れている人間。
一度、対面したから、身に染みて理解している。
つまり、普通じゃないなら普通が通用する気がした。
「手始めに、聖遺物という未知の兵器を世間に公表しようかと画策しています」
その期待通りに、レオナルドは淡々と語り出す。
表情はどこか楽しげで、子供のような無邪気さがあった。
(聖遺物か……)
恐らく、これは儀式とは関係ないことだ。
あくまで、合衆国大統領としての表向きの理由。
白教大司教としての裏向きの理由は分からないままだ。
「……おいおい、話すのかよ」
「そんなもの公表して、どうするんですか?」
驚くラウラをよそに、ジェノは尋ねた。
ひとまずは、話を深掘りすることが優先だ。
そこから儀式について、何か分かるもしれない。
「聖遺物は、核兵器をも凌駕する力を秘めている。それを世間に見せつけることができれば、世界情勢はひっくり返ります。恐らく、聖遺物に肩を並べる秘匿兵器の開示が始まり、核保有国の軍事的有利はなくなる。私はその景色が見たい!」
レオナルドは続けて、胸中を熱く語った。
政治家らしいと言えば、政治家らしい回答。
ただ、どうもきな臭い。裏がある感じがする。
「戦争でも起こすつもりですか」
ぱっと思いついたことを、ジェノは口にする。
核より優れた兵器が見つかれば、奪い合いになる。
安全保障の概念は崩れ、世界には混沌が訪れてしまう。
その行き着く先が戦争だ。それを彼は望んでいる気がした。
「世界をより面白く。それが私のモットーでしてね。今の世界は退屈でつまらない。そう思いませんか?」
明言はしない。ただ、明確に否定もしない。
断言すれば不利になる。汚い政治家のやり方だ。
(面白いかどうか。そんなことで、マルタおばさんは……)
過ぎたことを言っても意味がない。
殺人を責めたところで、しょうがない。
だけど、自然と肩は震えて、拳に力が入る。
「やめとけ。構うだけカロリーの無駄だ」
異変に気付いたラウラは、肩に手を置いてきた。
事情をある程度察した上で、止めてくれているんだろう。
(分かってる。殴っても何も解決しない)
あの時は、乗せられて暴力を振るった。
手の骨が折れたし、嫌な正論をぶつけられた。
前と同じじゃあ駄目なんだ。変わらないといけない。
「――止めてやる」
先走った言葉が溢れ出す。
端的だし、主語がついていない。
これだけじゃあ、意味が通っていない。
「はい?」
すると、レオナルドは耳をそばだて、馬鹿にした。
上等だ。ここで発言を撤回するほど、根性無しじゃない。
「あなたの計画は、僕が必ず止めてやる! 覚悟していてください!!」
やられる前に止める。そうリーチェに宣言した。
だから、この線引きだけは守らないといけないんだ。




