表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックスワン  作者: 木山碧人
第一章 復讐のリーチェ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/63

第20話 獅子身中の虫③

挿絵(By みてみん)




 物置部屋の中で行われる、えげつない行為。


 歪んだ空間から白鳥と人の頭部を取り出す、荒業。


 その行為を行った犯人は頭部から滴る血をグラスに注ぐ。 


「クワっ!!?」


 暴れる白鳥ゼウスの首根っこを掴み、レオナルドは兜を外し、口を開く。


「これから白銀を呼ぶ儀式を行います」


 詳しい説明はないし、本当だという証拠もない。


 だけど、説得力があった。油断させるにしても別の手がある。


 わざわざこんな凶行に及んだのには、何か意味があるとしか思えなかった。


「これ我が体なり我が血なり。父と子と聖霊の力を以て我の穢れを浄化したまえ」


 すると、突然、詠唱を始め、床には赤い魔法陣が、展開されていく。


 先ほどまで暴れ回っていたゼウスは、なぜか、置物のように静まり返っていた。


「いただきます」


 そして、机に並ぶのは、人の頭部と、赤い血液のジュース。

 

 レオナルドは両手を合わせ、人肉を貪り、血液を飲み干していく。


「………………」


 目の前で行われるのは、他に類を見ないほどの非道な行為。カニバリズム。


 止めなければいけない。頭では分かっていた。それなのに、何もできなかった。


(――白銀が、もしかしたら、これで……)


 胸の内を支配するのは、後悔でも、怒りでもない。


 あるのは、白銀が復活することへの期待。ただそれだけ。


(違う……なんで、ただ黙って……。人として、怒って止める場面じゃないの……)


 心の欠陥を自覚し、怒れない自分に気付いた時には、もう、遅かった。


 どれだけ外面を取り繕っても、その内面が、人として終わっているということに。


「ごちそう、さまでした」


 すると、レオナルドは再び両手を合わせる。


 それは、人としての正しさを示す時間の終わり。


「なぜ、こんなことをしたの……?」


 ただ最後の良心が、悪行を責め立てた。


 責めても意味ないのは、当然分かってる。


 もう手遅れだってことは、頭で理解してる。


 それでも、人の形を保つためには必要だった。


「神に見合う中身がなければ、その外身である白銀の鎧は宿らない。という仮説を元に、私が行ったのは、聖体拝領の儀式。父、子、聖霊の力を借り、人の血肉を神の血肉に見立て、食すことで罪を浄化し、神との一体化を図りました」


 レオナルドは、持っていた頭部を机に置き、語る。


「……それで、儀式は成功したの?」


 自分にはなかった発想に、説得力を感じながら、成否を尋ねる。


 成功していたなら、復讐を果たせる。そんな期待が声に乗っていた。


「いえ、残念ながら失敗に終わったようです。私では中身が伴わなかったようだ」


 しかし、展開された赤い魔法陣は、散った花弁のように、儚く淡く消えていった。


「あなた、一体……」


 やっていることは、外道そのものだった。


 なんの同情の余地もなく、擁護のしようなんてない。


 だけど、彼は泣いていた。この場で誰よりも正常な反応をしていた。

 

「リーチェさん、中で何がっ!」


 そこで聞こえてくるのは、ジェノの声。


 異常を感じ取ったのか、扉を叩き、鬼気迫る様子。


「後ろの子を引き渡してくれる気になりましたか?」

 

 涙を親指で拭い、兜をかぶるレオナルドは尋ねる。


 真偽はともかく、儀式の信憑性は今ので一気に高まった。


 振りじゃなく本気で引き渡してもいいんじゃないかとも思える。


「悪いけど、お断りさせてもらうわ。彼の面倒は見てあげる約束だから」


 それでも、守るべき筋というものがある。


 彼の妹に約束したし、自分のルールも破った。


 引き渡せば、それら全てに嘘をついたことになる。


 白銀の情報は大事だけど、越えてはいけないラインだった。


「交渉は決裂です、か……。では、残念ですが、お暇させてもらいましょうかね」

 

 すると、レオナルドは扉があるこちらに向かい、歩いてくる。


 残念そうな声音で、顔色は兜で見えなくとも、表情が目に浮かぶ。


「待って、逃がすと思って――」


 一瞬、何も考えず、道を譲り、奥へと通しかける。


 だけど、素顔を見られた以上、帰すわけにはいかない。


 すぐさま、背後にある得物に手をかけ、臨戦態勢に入った。


「――遅いっ!!!!」

 

 しかし、考えていたことは相手も同じ。


 凄まじい声量で放たれたのは、刀の柄による打突。


「っっ!!」

 

 為す術なく、柄は胴に直撃。

 

 その衝撃で、背後の扉に体が迫った。


(――まずい、このままじゃ、あの子ごと……)


 頭をよぎるのは、最悪の想定。


 斥力と質量による、ジェノの圧死。


「――それ、だけはっ!」

 

 その瞬間、頭に浮かぶのは、一つの選択肢。


 リーチェはすぐさま白銃――ビアンカを手に取り。


因果装填ローディング因果変換チェンジング


 受けたダメージを弾倉に変え、ビアンカに装填。


 因果変換チェンジングで、因果の弾を別の物質に変換し、引き絞る。


「――黒縄地獄グレイプニール!!」


 そして、白い銃口から放たれるは、意思に呼応する白い鎖。


 ビアンカ限定の能力であり、ネロと違って、人を殺める能力じゃない。

 

 ――人の命を守るためのものだった。


(余計なことは考えない。ただ鎖で体を止める。それだけ……)


 刹那に撃てたのは、二発で二本の、白い鎖だけ。


 背後に展開し、吹き飛ばされた勢いを殺すために、放つ。


 直後、白い鎖と、黒い鎧が接触し、衝撃と重力が体にのしかかる。


「……っ!!」

 

 想像以上の衝撃。でも、必死に堪えた。


 後ろに、巻き込みたくない人がいるから。


「……………………間に、合った?」


 建物が軋み、嫌な音を立てる。でも、体は止まっていた。


 恐る恐る振り返ると、閉じられてた扉はなんとか無事だった。


「――これで、終わりですっ!!」


 安心も束の間。そこに、畳みかけてくるは、無慈悲の斬閃。四連撃。


(避け、られない……っ!)


 怒涛の展開に、処理しきれず、死を覚悟した。


「…………………………え」


 しかし、目の前に広がっているのは、歪んだ四角い空間。


 なぜか、刃はすんでのところを切り裂き、体にまでは届いていなかった。


「刃が通らなければ、私の負け。なんて博打はしたくありませんでしたので」

 

 すると、空間の向こう側からは、レオナルドの声が聞こえてくる。


 ダメージを変換できる能力の本質を見抜き、手を出さなかったわけね。


「……逃げる気、なの」

 

 理由は分かったけど、帰すわけにはいかない。


 立ち上がり、負け惜しみのような言葉を投げかける。

 

 どうせ何を言っても逃げられる。頭では分かってるんだけどね。


「ええ。今回は貴方に勝ちを譲りますよ。彼も白銀も諦めはしませんが」


 すると、案の定、相手は別れ文句を告げてくる。


 決着をつけるなら、次の機会。と言わんばかりの内容。


 ひたむきに目的を追い求める姿勢は、どこか重なるものがあった。


「もう勝ち負けの問題じゃない。私の素顔を見た以上、あなたはいつか殺すわ」


 でも、相手は目的のためなら手段を選ばない、外道。


 同情はできないし、相容れることもない。次、会った時は殺す。 


「望むところです。……ただ、貴方に一つだけ宣言しておきましょう」


「なに?」


「彼は、最後に貴方ではなく私を選ぶ。どれだけ関係を深めようともね」

 

 不穏な言葉を言い残し、レオナルドの声は空間と共に消えていく。

 

 元に戻った物置部屋には、そこにいたはずの白鳥。ゼウスの姿はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ