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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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それぞれのやるべき事

「重ね重ね身内の恥を晒してしまい、本当に申し訳ありません」


「ハハハ、何を言われるか。家族の絆が結び直されることの何処に恥があろう。むしろ余としても、懸念が一つ消えたことを喜んでいたところだ」


「それは何とも……スタン殿には敵いませんな」


 朗らかに笑うスタンの態度に、ジーサンが苦笑しながらも嬉しそうに言う。そんなジーサンが隣に視線を向けると、そこではティーチが少しだけ目を赤くしながら、ばつが悪そうにそっぽを向いていた。


「さて、ではティーサン。お前のやらかした問題はひとまずこれにて終わりだ。今はさっさと孤児院に戻って、事の経緯をマリア殿に報告してくるといい」


「へっ!? じ、ジジイ、何で孤児院やマリアさんのことを知ってるんだよ!?」


 その言葉に、ティーチが目を見開いて驚きの声をあげる。するとジーサンはニヤリと笑ってから、愚かしくも可愛らしい孫に向かって答えを口にした。


「知っておるに決まっているではないか。あの孤児院の運営費用の半分は、この寺院が出しているのだぞ? いや、今はお前が持ち出した金の大半が寄付されておるから、実質的には七割ほどになっているか?」


「はぁ!? な、何で寄付のことまで……」


「ティーサンよ……お前はどうして今日まで自分が普通に生活できたと思っている? 身元を語らず、これといった仕事もしていないのに大金を持っている若者が、誰に襲われることも騙されることもなく普通に宿を借り、飯を食えていたのは何故だ?」


「何故って……まさか……!?」


「この町の民の八割以上はプッター教の教徒なのだぞ? 二〇歳を下回るような年若い者ならともかく、三〇歳過ぎの教徒ならば、お前のことくらい知っているに決まっているではないか」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 言われてティーチが大きく目を見開く。確かに町で触れ合うほとんどの人が自分に優しく好意的に接してくれていたが、ティーチにとってはそれが当たり前であったために、疑問を抱くことはなかった。


 だが一三歳で寺院を飛び出してから四年。それなりに外の世界の情報に触れていれば、それが異常であることくらいわかってくる。つまりあれはたまたま自分が面倒見のいい善人にばかり出会ったわけではなく、寺院に来た参拝者として幼い頃の自分を知っていたり、あるいは寺院から連絡を受けて世話を焼いてくれていたということなのだ。


「何だそりゃ……ってことは、俺は本当に徹頭徹尾、ジジイの手のひらの上だったってことか……ははっ」


 少し前の自分だったら、きっと「人を監視しやがって」「余計なことをするな」と激怒していたことだろう。だが祖父の本心を聞いた今となっては、心配されていたという安堵と、心配をかけてしまっていたという申し訳なさで、怒ることなどできるはずもない。


「何かもう、一周回って吹っ切れちまったよ。じゃあちょっとケジメつけに行ってくるわ」


「気をつけてな。夕食までには……あー、いや、そうか。夜までには帰ってくるのだぞ。流石に曾孫を抱くのはまだ早いからな」


「くたばれこのクソジジイ!」


 悪戯っぽく言うジーサンに、ティーチが思い切り悪態を吐いてからその場を去って行く。ずっと正座をしていたのに足が痺れていないのは、寺院生まれの面目躍如だ。そんな孫を笑顔で見送ると、ジーサンが再びスタン達の方に顔を向ける。


「まったく、最後まで口の悪い……それではスタン殿にアイシャ殿。私はあの孫の件でいくつかやらねばならないことがありますので、こちらはお任せして大丈夫でしょうか?」


「うむ、問題ないぞ」


「わかりました。ではまた何かありましたら、遠慮なくお呼びください。それでは失礼致します」


 最後に深々と一礼すると、ジーサンもまたその場に去って行く。そうしてここに残されたのは、スタンとアイシャとファラオアント達だけとなった。


「はーっ。いきなりティーチさんが乗り込んできた時はどうなることかと思ったけど、とりあえずなんとかなったわねぇ」


「そうだな。あとは余の方でも上手くやれれば完璧なのだが……」


「ん? 何か問題でもあったの?」


「問題と言えば問題だな。肝心なこれが、このままでは使えなくなってしまったのだ」


 首を傾げるアイシャの前で、スタンは<王の宝庫に(ファラオ)入らぬもの無し(バンク)>に待避させていた魂装具を取り出す。しかし歯車やらパイプやらが複雑に絡み合った三メートルほどの大きさのそれは、今は全く稼働していない。


「使えないって、どういうこと!? まさかティーチさんの攻撃で壊れちゃったとか!?」


「いやいや、壊れたわけではない。単に通常の停止動作を挟むことなく<王の宝庫に(ファラオ)入らぬもの無し(バンク)>に入れてしまったため、ミニファラオ君との接続が切れてしまったのだ。


 そのせいで細かい設定をやり直さねばならなくなったので、手間が掛かるというだけのことだな」


「何だ、びっくりした……でも、それじゃアタシには手伝えることはなさそうね」


 その説明を聞いてホッと胸をなで下ろしつつも、アイシャが肩をすくめてみせる。頑張ればできそうな事なら不甲斐なさも感じられるが、完全に無理なことまでできるようになろうとは思わない。「分相応に頑張る」が一般人であるアイシャのモットーであった。


「ではアイシャよ、悪いがティーチの後を追って、念のため倒れたという少年の様子を見てきてくれぬか? そちならば適任であろう?」


「確かに! じゃ、アタシもちょっと出てくるわね」


 そしてファラオは、そういう者を「役立たず」にしたりはしない。実際今も定期的にアンクにソウルパワーをチャージする作業を行っているアイシャならば、意図せずそれをしてしまった子供の様子を見てくるのに最適だ。スタンに仕事を振られてアイシャが洞窟を後にすると、これで残ったのはスタンとファラオアントのみ。


 もっともファラオアント達は壁面や天井を削る作業をしているため、実際に魂装具に向き合うのはスタンだけだ。


「さて、では余も頑張るか……」


 軽く腕まくりをし、コンコンと仮面の頬を叩いて気合いを入れ直すと、スタンが魂装具に表示された青いモニターに向かう。魂装具を起動してからミニファラオ君を起動するなら自動登録されるのだが、逆の場合一つ一つのミニファラオ君に再接続する必要がある。


「今が試験運用で、まだそれほど数を配っていなかったのが幸いだったな。もし町中に配った後であったと考えると……おぉぅ、恐ろしい」


 目の前に並ぶ「未接続」の文字の羅列に、スタンが思わず身震いする。今はまだ数十行だが、これが町全体となれば数千になる。そんな数を一つ一つ再接続していく単純作業は、如何なファラオとて想像するだけでうんざりしてしまう。


 とは言え、ここには作業を変わってくれる事務員や技術職の者はいない。一つ一つのミニファラオ君の設定を開いてはパスワードを確認して打ち込み、順次接続を復旧させていく。


「ぬ? 通らない……ああ、〇とOの違いか。何故片方に斜線を入れぬのだ! もういっそ全てのミニファラオ君のパスワードを同じに……いや、しかしそれはセキュリティ的になぁ……よし、こんなところか」


 そうして全てを作業を終えると、念のためもう一度周辺の接続先をスキャンしてみる。すると苦労の甲斐あって「接続済み」のリストがずらっと羅列され、全てのミニファラオ君と魂装具の再接続は正常に完了した。ただ……


「…………これは一体どういうことだ?」


 その一番下に出現した「不正な接続先が検出されました。カスタマーサポートにご連絡ください」という表示には、ファラオであっても仮面を傾けることしかできなかった。

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