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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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心の在り方

「……身内の恥を、長々と語ってしまいましたな。どうぞ気にせず忘れてくだされ」


「恥だなんて、そんなこと……」


 力なく頭を下げるジーサンに、アイシャが慌てて顔の前で手を振りながら答える。その視線がスタンの方を向くと、表情などあるはずのない仮面に向かって縋るような声を出した。


「ねえスタン。アンタならこれ、なんとかできたりしない?」


「なんとかと言われてもな……ふむ」


 その願いに、スタンは仮面の口元に手を当て考え込む。如何なファラオとはいえ、流石に死者を蘇生することなどできない。それでもティーチの話を聞くくらいはできるだろうが、問題の根に解決法がないうえに、チラリと顔を見た程度の相手に訳知り顔で「話を聞く」などと言われては、逆にティーチの怒りを買うだけなのは目に見えている。


 だがそこはファラオ。何でもできるわけではないが、決して何もできないということもないのだ。


「なあ、ジーサン殿。その結界とやらの話を、もう少し詳しく教えてもらうことはできるだろうか?」


「結界、ですか? 何故でしょうか?」


「いや、今の話からすると、その結界を維持するには、これからも定期的に人の命を捧げねばならぬのだろう? そのような仕組み、ジーサン殿とて望んではいないのではないか?」


「それは勿論、そうですが……しかし、これはどうしようもないのです。瘴気の元を絶てればいいのですが、穴の中はそれこそ濃い瘴気が溢れておりますので、とても人が入れるものではありません。だからこそ我らは苦渋の選択として封じ続けることを選んだのですから」


「で、あろうな。五〇〇年も前からあるというのなら、余が思いついた程度のことはやっていて当然だ。


 だがなればこそ、余にならばできることがあるかも知れぬ」


「……? それは、どういう……?」


 首を傾げるジーサンに、スタンがキラリと仮面を輝かせて言う。


「忘れたか? 余はサンプーン王国のファラオ……そち達がその存在すら知らぬ国の王だ。そしてサンプーン王国には、人の命を力に変える技があってな」


「あっ、ソウルパワー!?」


 スタンの言いたいことを察して、アイシャが思わず声をあげる。その瞳を希望で輝かせるアイシャに大きく頷くと、スタンが改めてジーサンに提案した。


「そうだ。なあジーサン殿。無理にとは言わぬし、絶対にできるとも言えぬ。だが余に結界を調べさせてくれれば、少なくともこの地に人が住んでいる限りは、結界の維持のために死者が出ることを防げるようになるかも知れぬ。どうだ? 協力してはくれぬか?」


「……スタン殿。通りすがりの旅人である貴殿が、どうしてそこまで我らに肩入れを? 一体お二人は――」


「ハッハッハ、その答えなど決まっているではないか!」


 戸惑うジーサンに、スタンが軽快な笑い声をあげて答える。


「無論、余がファラオであるからだ!」





「クソッ、すっかりケチがついちまったぜ……」


 スタン達がそんな会話をしている頃、山を下りたティーチは、不貞腐れた様子で路上の石を蹴りながら道を歩いていた。特に目的地を決めていたわけではないのだが、気づけば見慣れた建物の前に辿り着いてしまう。


「あー、ティー兄ちゃんだ!」


「にいちゃーん!」


「おうガキ共! 今日もクソうるせーな!」


 そこは町の外れにある孤児院。自分を見て飛びついてくる子供達を適当にあしらっていると、建物の中から青い修道服に身を包んだ若い女性が姿を現した。


「ティーチさん!」


「マリアさんか。邪魔してるぜ」


 自分より三つ年上ながら、どこか幼さの残る顔つきをした聖光教の神官の登場に、ティーチが軽く手を上げて答える。するとマリアの方も腰の少し上まで伸ばした亜麻色の髪を振り乱しながら、小走りにティーチに駆け寄ってきた。


「邪魔だなんてとんでもない! いつも子供達と遊んでいただいて、ありがとうございます」


「気にすんなって。俺が好きでやってるだけだからな」


「それでもです。子供達も皆、ティーチさんと遊ぶのを楽しみにしてるんですよ」


「そうだぜ兄ちゃん! 兄ちゃんが来ると飯が豪華になるしなー!」


「そーそー! 兄ちゃんが来ると、マリア姉ちゃんがスゲー張り切ってご馳走作ってくれるんだぜ! だから毎日来いよな!」


「ちょっ、アダン君!? そんなことありませんよ! 私はいつだって、皆さんの為に美味しい料理を作ってるじゃないですか!」


「確かにいつも美味しいけど、でもティーチさんが来るとおかずが増えるよね? 毎回あまーい卵焼き出るし!」


「あ、あたしあれ好き!」


「エリーちゃん達まで! もう貴方達、あんまりふざけてると、栄養たっぷりの苦ーいお野菜を追加しますからね!」


「「「きゃーっ!」」」


 顔を赤くして言うマリアに、子供達が楽しそうな声を上げてその場を去って行く。ちなみに甘い卵焼きはティーチの好物であり、ティーチが孤児院に来た日は日暮れまで子供達と遊んだり仕事を手伝ったりしてから、みんな揃って夕食を食べるというのが最近のお決まりの流れだった。


「えっと、その……他意はないですからね! ただその、卵はそれなりに高いので、ティーチさんが寄付金を持ってきた時にしか出せないだけで……」


「お、おぅ、そうか。まあいいけどよ……あー、でも、そっか……」


 モジモジするマリアを前に、ティーチが唐突に顔の前で手を合わせて頭を下げる。


「すまん! 実は今日は、寄付はできねーんだ。ちょっと金の都合がつかなかったって言うか……」


「そんな、謝らないでください! ティーチさんからはいつもいつも寄付をいただいていて、今ですら貰い過ぎなくらいなんですから!」


「いやでも、俺の寄付があると、ガキ共の飯がよくなるんだろ? なら……」


「大丈夫です! そこは私の腕でカバーしますから!」


 申し訳なさそうな表情で顔をあげるティーチに、マリアが笑顔で右腕に作った力こぶをポンと叩く。実際この町の孤児院は金銭的にはかなり恵まれており、子供達がお腹いっぱい食べるという点で困ることは全くない。一般的な食材が普通に使えるのだから、美味しいものなどいくらでも作れるのだ。


「でも、お金の都合がつかなかったって、何かあったんですか? 何度も言ってますけど、無理をしてまで寄付をしていただく必要は全くないんですよ?」


「そういうんじゃねーんだよ。ちょっと問題があったっていうか……いや、あれを何て言えばいいのかはわかんねーんだけど……」


「……私にはよくわかりませんけれど、ティーチさんが無理をしていないならそれで十分です。どうぞご自身のことを大事にしてあげてください。博愛は素晴らしい精神ですが、まず自身が幸せでなければ、他者に幸せを分け与えることはできないのですから」


「幸せ、か……」


 両手を胸の前で組み、目を閉じ祈りながらのマリアの言葉に、ティーチは何とも渋い表情で空を見上げる。


 子供だった頃ならともかく、今のティーチは両親が犠牲になった理由をちゃんと理解している。今自分やマリア、孤児院の子供達が生きていられるのは、全てその犠牲があったればこそだ。


 だがそれでも……頭で理屈を理解できたとしても、心は納得してくれない。何故優しかった両親が死ななければならなかったのか? もっと他に選択肢はなかったのか? そんな考えが一〇年経っても、未だにティーチの中でグルグルと巡っている。


(もしあの時、親父とお袋が俺を連れて逃げたら? 何も知らない俺は幸せだっただろうけど、この町の奴らは全員死んでたはずだ。なら他の誰かが代わりに犠牲になってくれてたら? そりゃ俺は幸せだっただろうけど、そいつの家族は俺みたいに苦しんだんじゃねーのか?


 クソッ、何だってんだよ……っ!)


 当時七歳だったティーチには未来を選ぶことなど許されず、ただ結果だけが押しつけられた。だからこそ答えも出口もありはしないモヤモヤだけがずっと居座り続けている。


「そんな偉そうなもんじゃねーさ。俺はただ……」


「ただ……何ですか?」


「……わかんねぇ。俺にもわかんねーんだ」


「ティーチさん…………」


 どうしてここにやってきて子供の面倒を見たり、祖父からもらった金を寄付し続けているのか。痛ましげな目を向けてくるマリアを前に、ティーチはジッと己の手を見つめるのだった。

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