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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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ファラオサプライズ

 そうしてスタン達がヨースギスの町に辿り着いてから、ちょうど一月。その日遂に、スタン達は旅立ちの朝を迎えていた。


「もう行っちゃうのー? もっとゆっくりしていけばいいのにー!」


「シーナ、無理を言っちゃ駄目。でも私も気持ちは同じ」


「本当にあっという間って感じですもんね」


「あはは……まあ、毎日が濃かったからねぇ」


 別れを惜しむシーナ達に、アイシャが苦笑しながら答える。あの後も魔物を町で連れ歩くなどとんでもないと抗議してくる集団と論戦をしたり、ファラオアントを捕まえて売ろうと画策していた者達を成敗したり、ふらりとやってきた謎の建築家と建築勝負をしたり、遂に試験導入が開始された短期雇用制度に合わせて一部の冒険者が悪乗りした結果行われた『うちの子イチバン! 美ファラオアントコンテスト』があったりと、それはもう盛りだくさんだったのだ。


「でもそのせいで、結局身体強化が身につけられなかったのが心残りではあるけど」


 スタンもアイシャも、結局きちんとした身体強化は成功しなかった。だがそう言って顔をしかめるアイシャに、ローズが笑いながら声をかける。


「はは、それは仕方ないさ。向き不向きというのもあるし、そもそもアイシャ達はまだ冒険者になって一年も経たないんだろう? そもそも基礎を固めている段階なんだから、一足飛びに技能が身につかなくても当然だ。それでも感覚は覚えただろうから、あとはゆっくりやっていけばいいさ」


「ですねー。まあ焦らず頑張ります」


 一周回って……あるいは色々と諦めて……元気になったローズの言葉に、アイシャはそう言って頷く。実際D級への昇級すら想像よりずっと早かったのだから、才能がないと落ち込むにはあまりにも早すぎることくらい、アイシャだってわかっているのだ。


「とはいえ、別に身につくまでの間ここにいてもらってもいいんだよ? 君達二人なら、それこそ正式にパーティを組んでも構わないしね」


「嬉しい誘いだが、そうはいかん。余は余で目的があって旅をしているのでな」


 流し目を向けてくるローズに、スタンがそう言って仮面を揺らす。あれ以来記憶が蘇ることもなかったので、現状唯一の手がかりであるピラミダーの調査は必須だ。今回のように多少の寄り道は許容できても、それが半年一年と続いてしまうのは受け入れられない。


「それに、ファラオアント達の受け入れ体勢も十分に整った。これならばもう、余達が旅立っても平気であろう」


「そうだね。正直あそこまで上手くいくとは思わなかったが……ひょっとしてスタン君が何かしたのかい?」


 冒険者ギルドの調査員が話を持ち帰ってすぐに、ファラオアントは討伐対象の魔物からは除外されていたが、短期雇用制度の試験導入に伴って、今は正式に保護対象へと格上げされている。流石に法的に保護まではされていないので罪に問われることはないが、それでも冒険者ギルドからは重い罰則を与えられるため、まっとうな冒険者がファラオアントに手を出すことはもうない。


 だがその話の流れが、あまりにも綺麗過ぎる。たった一月でこんなに上手くいかせるのに一体どんないかさま(・・・・)をしたのかと含みのある笑みを浮かべて問うローズに、スタンは無言で仮面を横に振る。ファラオは何も語らない。ただ結果がその偉業を示すのみなのだ。


「では、そろそろ行くとしよう。アイシャ?」


「はーい! じゃ、シーナ、ミムラ、エミリー! ローズさんも、また!」


「アイシャ、スタン君、またねー!」


「二人ならいつでも歓迎」


「あ、あの!」


 挨拶するアイシャにシーナとミムラが応えるなか、エミリーがそう言って呼び止める。


「ん? 何?」


「私、お二人に会えて本当によかったと思ってます! だからその……ありがとうございました!」


 そう言って、エミリーが丁寧に頭を下げる。だがその態度にスタンとアイシャは思わず顔を見合わせて首を傾げてしまう。


「んん? ねえスタン、アンタエミリーにそんな感謝されるようなことしたの?」


「いや、特に心当たりはないが……」


「ちょ、直接何かをしてもらったわけじゃないんですけど、その……」


「んふふー! エミリーはね、最近ちょっとだけ男の人が大丈夫になってきたんだよー?」


「エミリー本人じゃなく、ファラオアント目的で声をかけてくる人が増えたおかげ」


「ああ、そういうことか」


 シーナ達の説明に、スタンが納得して頷く。これまでも仕事上であれば大丈夫くらいになっていたわけだが、今回のことで自分や仲間達などの女性を目的としているわけではない男性と触れ合う機会が増えたことが、また一つ恐怖の階段を克服するきっかけとなったのだろう。


「ま、何にせよそちの役にたったなら何よりだ。これからも壮健でな」


「はい! ありがとうございます、スタンさん!」


「およ? 前からちょっと思ってたけど、エミリーってスタン君とは割と普通に話せるよね? ひょっとして……?」


「あ、それは……その、ほら、スタンさんって、男の人っていうよりは、アリの王様みたいな感じなので……」


「ブフッ! あ、アリの王様…………流石はファラオね」


 少し申し訳なさそうに言うエミリーに、アイシャが吹き出して口元を押さえる。スタンはそれをあえて気にしないようにしつつそのまま別れの言葉を重ね……そうして町から離れてしばし。


「ねえ、スタン。今更かも知れないけど、ファティマ達は連れて行かなくてよかったの?」


 ずっと疑問に思っていたことを、アイシャが徐に問う。今日の見送りにもファラオアント達は来ておらず、あれほど面倒を見た関係にしては不思議だと思っていたのだ。


「まあ、アンタのことだからちゃんと考えてこういう別れにしたんだろうけど……でもそれならそれで、理由くらい話してくれてもよくない?」


 その言葉に、スタンがそっと仮面を傾けて空を見上げる。


「そうだな……確かにあの町でのファラオアントの地位は、ある程度落ち着いた。だがそれはまだ始まりに過ぎない。これから先も人と交流していくとなれば様々な問題が降りかかってくることだろう。


 その時、余達と常に同行することでもっとも人に慣れたファラオアントであるサハルやファティマ、バースィラ達を、町から引き離して連れて行くわけにはいかぬであろう? とりわけファティマは必須だ。日常生活くらいならともかく、正確に意思が伝わらねば困ることも今後増えるであろうしな」


「あー……まあ、それはそうね。うーん、そっか。でもちょっと寂しいなぁ」


 スタンの説明に納得はしたものの、それでもアイシャは無意識に己の胸の辺りに手を伸ばす。頻繁にファティマを抱きしめていた場所には、今はもう何もいない。


「でも、そうよね。あの子達にはあの子達の生活があるんだし、それを応援してあげないのは嘘よね」


「そういうことだ。なに、別にこれが今生の別れというわけではない。余がサンプーン王国に辿り着いたならば必ず一族を迎え入れると約束しておるし、何より……」


 そこで一端言葉を切ると、スタンはコンコンと黄金の仮面の縁を叩いた。すると仮面の裾の部分から「呼んだ?」とばかりに、黒い何かがニュッと出現する。


カチ?


「ファッ!? 何それ気持ち悪……って、え、まさかアンタ、ファティマ!?」


カッチーン!


 スタンの仮面にある喉元の隙間から顔だけ出したファティマが、元気に顎を鳴らして答える。それを聞いたアイシャは、もの凄い勢いでスタンに食ってかかった。


「ちょっとスタン、これどういうことよ!?」


「うむ。実はこっそりと実験と訓練を繰り返した結果、女王の権能が及ぶ『自分の巣』という認識に、余の<王の宝庫に(ファラオ)入らぬもの無し(バンク)>のなかを限定的に組み込むことに成功したのだ。


 あまり頻繁な出入りは無理だが、こうして時々少数を呼び出す程度ならどうにかなるようだファッ!?」


 スタンが言い終わるよりも前に、アイシャの手がスタンの仮面をひっぱたく。それによりファティマの体も揺れて戸惑うように顎を鳴らしているが、アイシャはそれどころではない。


「何でそういうことを早く言わないのよ! アタシだけ知らないで寂しがってたとか、馬鹿みたいじゃない!」


「フッフッフ、そこはほれ、ファラオサプライズというやつだ! 次の町辺りで告げた方が面白いかなと思ってな」


「いらないわよそんなサプライズ! まったく……まあでも、そういうことなら、これからもよろしくね、ファティマ」


カッチーン!


 表情などないのに、何故か「いたずら大成功!」と喜んでいる雰囲気を醸し出すファティマに対し、アイシャは笑顔でその頭を撫でるのだった。

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