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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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決意と覚悟

「一緒に行く、だと!? ミムラ、自分が何を言っているのかわかっているのか!?」


 とても許容などできないその発言に、ローズがミムラの肩を掴んで詰め寄った。だがその鬼気迫る様子にも動じることなく、ミムラはまっすぐにローズを見つめ返す。


「勿論、わかってる」


「いいや、わかっていない! ほぼ確実に死ぬんだぞ!?」


「いや、戦いに行くのではないのだから、別に死なないと思うのだが……」


「ミムラがスタン君を気に入っているのは知っているが、それは命をかけるほどのものなのか!? 本当に!?」


「……………………」


「ほら、少し大人しくしてましょ」


「うむ……」


 話を聞いてもらえずしょんぼりと仮面を曇らせるスタンの肩を、アイシャがぽんと叩く。そしてそんな二人をよそに、ローズとミムラの言い合いは止まらない。


「私の気持ちとかは関係ない。これは冒険者としてやらなければいけないこと」


「……? どういうことだ?」


「今回の一件は、絶対に冒険者ギルドに報告しなくちゃいけない。ホーンドアントをテイムしただけならまだしも、それが巣に招待するなんて前代未聞。全ての出来事をできるだけ詳細に報告する義務がある」


「そう、だな。それに異論はない。だがそれはスタン君達が戻ってきたら報告すればいいだけだろう? 戻ってこなければ……ホーンドアントは人を騙して罠にはめるほどの知能があるという報告に変わるだろうが」


 ある意味冷酷な、だが極めて現実的なローズの指摘に、しかしミムラは首を横に振る。


「それじゃ駄目。だってスタン達はこの町に来たばかりのD級冒険者。もっと常識的な報告ならともかく、そんな荒唐無稽な話をしたって絶対に信じてもらえない。最悪『手柄が欲しいからって嘘をつくな』なんて怒られて終わる可能性すらある」


「それは……その場合は、私達が口添えすればいいんじゃないか?」


「その通り。でもそのためには私達の誰かがスタン達に同行して、ことの成り行きをきっちり見届けなければならない。それともローズは私達が積み重ねてきた信頼を、会って数日の相手がする到底信じられない話を肯定するために使うの?」


「うっ…………」


 咎めるようなミムラの言葉に、ローズが思わず声を詰まらせる。C級冒険者のローズ率いるこのパーティは、近隣では有望な若手パーティとしてそれなりに名を馳せている。だがそれは決して盤石のものではなく、いい加減な仕事をしたりすれば容易く崩れ去ってしまう程度のものだ。


 目の前で見てすら信じられない出来事が多発しているのに、加えて見てもいない報告にそれを賭けられるか? しかも賭けるのは自分だけではなく、パーティ全員の信頼となれば、そんなことができるはずもない。


「かといって、さっきも言ったとおりスタンの報告が嘘だと一蹴されるのも困る。だって、ホーンドアントと和解できるかもなんて事実、世界がひっくり返るほどの大発見。人と魔物の歴史が変わるかも知れないんだから……そこには命を賭ける価値がある」


 ジッと、ミムラがローズの目を見つめ続ける。そうして一〇秒ほどが立つと、ローズが苦笑しながら深いため息を吐いた。


「はぁぁ……わかった。なら私も行こう」


「えっ!? いや、別に私だけでいいけど!?」


「馬鹿を言うな。ミムラ一人じゃ何かあったときにどうしようもないだろう? だが私がいれば――」


「あ、ローズまで行くなら、私も行くよー!」


「私も行きます! 私だけ仲間はずれになんてしませんよね?」


 ローズの言葉に、シーナとエミリーが割って入ってくる。振り返ったローズが二人と目を合わせると、二人はいたずらっぽく微笑んでいて……それに大いに励まされ、ローズが再びミムラに話しかける。


「……ということだ。私達全員が揃っていれば、いざという時でも生き延びられるかも知れない。なあスタン君、そんなわけだから、私達も君のお招きに同行してもいいだろうか?」


「待て……巣の中で不用意に暴れたりしないのであれば、問題ないそうだ」


 ローズの問いに、スタンが足下のホーンドアント達に確認をとってそう告げる。だがローズの問いはそれだけでは終わらない。


「そうか。我々から攻撃をすることはないが、そちらから攻撃してきた場合は別だぞ? それと巣の中に入るなら武器を手放せとか、そういう要求もなしだ。我々は身を守るため以外に武器を使わないと約束するが、身を守るために武器を手放すこともない」


「うむ。ということだが…………そうか。それでいいそうだ」


「わかった……感謝する。そこまで譲歩してくれるなら、私達も覚悟を決めよう」


 巣を城と考えるなら、たとえ敵国だろうと武装したままの入城など許されるはずがない。それを認めるほどの寛大さを示されて、ローズは静かに頷く。


「では、予定変更だ。皆でホーンドアントの巣に……」


「あ、その前にちょっといい?」


 拳を振り上げ宣言しようとしたローズを遮り、シーナがそう言って手を上げた。勢いに水を差される形となり、ローズが少しだけ拍子抜けした表情をしながらそれに答える。


「何だいシーナ?」


「あのね、思ったんだけど……確認したいってだけなら、スタン君達が無事に戻ってきたら、改めてもう一回ホーンドアントの巣に行けばいいだけじゃない? それならいきなり行くよりずっと安全だと思うんだけど?」


「あ…………」


 確かに一度行って無事に戻ってきたなら、安全性は格段に上昇する。そして自分達がすべき確認はホーンドアントとスタンが本当にわかり合えたのかというものなので、最初の一回に同席する必要はないのだ。


 その指摘にローズが間抜け顔を晒すなか、シーナがミムラの方へと顔を向けて更に言葉を続ける。


「てか、そんなのミムラが気づいてないわけないよね? 何で黙ってたの?」


「……ミムラ?」


「違う。私は人間の未来に貢献したかっただけ。決してスタン達について行ったらもっと興味深いものが見られそうとか、そういうのじゃない」


 ローズに問われたミムラが、そっと顔を横に向ける。その額には冷たい汗が流れ、杖を持つ手は指先がワキワキと蠢いている。


「ミムラ、こっちを向くんだ」


「今は無理。今日の星占いで、左を向き続けると幸せになれると出てた」


「ほう? なら私が左側に移動しよう」


シュパッ!


「……ミムラ? 何故右を向いたんだい?」


「く、首の体操。星占いより健康の方が大事」


「ミィムゥラァー?」


「ひぃぃぃぃ!? ち、違う! 私はいつだって全力で生きてるだけ! だから私は一人でついて行くって言ったのに!」


「そういう問題じゃないだろう!」


「ギャフン!」


 ミムラの頭にローズの拳骨が落ちる。とんがり帽子がふんわりと受け止めたにもかかわらず、その衝撃にミムラの目から星が飛び散った。


「痛い……シーナと違って私の頭は繊細なのに……」


「私と違うって何よー!」


「えっと……回復魔法使いますか?」


「いいんだエミリー。反省のためにも少し痛がらせておけ」


「はぁ……」


「あー……その、ローズ殿?」


 わちゃわちゃしたやりとりをずっと見せつけられていたスタンが、そこで改めて声をかける。すると今度は無視されることなくローズが返事をした。


「ああ、すまない。何だいスタン君?」


「何というか……結局ローズ殿達は一緒に来るのか? ホーンドアント達も、そろそろ出発したいと言っているのだが……」


「それは……」


 その問いかけに、ローズは改めて仲間達の方を見る。リーダーとしての冷静な判断であればミムラを無理に引き留めるか、どうしてもとなれば見捨てる覚悟で一人だけ送り出すのが正しいのだが……


「……フッ。行くと言ったんだから、一緒に行くよ。こちらの条件も飲んでもらったことだしね」


「そうか。では出発するとしよう。さあホーンドアント達よ、案内を頼むぞ!」


カチカチカチカチッ!


 スタンの呼びかけに顎を鳴らして答えると、ホーンドアント達が張り切って進み始める。スタンとアイシャがそれに続き、それを見たローズが仲間に声をかける。


「ほら、いつまでも遊んでいないで、行くぞ!」


「遊んでたわけじゃ……違う、何でもない。急ぐから叩かないで欲しい。割れるのはシーナのお尻だけで十分」


「私のお尻は割れてないよー! いや、割れてるけど!」


「あの、恥ずかしいので、お尻を連呼するのはやめてもらっても……?」


 やっぱりわちゃわちゃしながら、しかし誰も文句を言うことなく、むしろ笑顔で死地へと向かう。そんな仲間の絆に小さく笑みをこぼしつつ、ローズもまたホーンドアントの導きに従って進んでいった。

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