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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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事実はファラオ故に奇なり

 そうして戦いが終わると、スタン達は完全に日が落ちる前に手分けして現場に残った魔物の痕跡を集めていった。肉や毛皮は完全に焼失していてどうしようもなかったが、幸いにして角だけは二割ほど焼け残りがあったため、それによりスタン達は依頼達成に必要な分を集めることに成功する。


 とは言えその頃には流石に日が落ちてしまったため、一行は森の中で野営することに決めた。無理をしてでも森を抜けて街道まで出なかったのは、これだけ大暴れした場所であれば、獣であれ魔物であれまず間違いなく近づいてこないだろうというライバールの意見を皆が受け入れたからだ。


 実際、スタン達は虫の鳴き声すらない一晩を過ごし、日の出と共に移動を開始して、特に何事もなくマルギッタの町まで帰り着くことができた。そこでビッツを背負ったまま家に連れて行くというライバールと別れたスタン達は、朝の喧噪に包まれる冒険者ギルドへと足を運んだのだが……


「えっと……それ、冗談とかじゃないんですよね?」


「当然であろう! いたって真面目な話だ」


 スタンの報告を聞いたレミィが、苦笑とも困惑ともとれる微妙な表情で口元をひくつかせる。その視線がスタンの背後で佇むアイシャに向けられるも、アイシャは苦笑するだけで何も言わない。そんな様子にレミィは深くため息を吐くと、改めてスタンに声をかけた。


「はぁぁ……念のため確認しますね。まずスタンさん達は、ゴブリン討伐の依頼をこなすために、ゴブリンの生息情報がある南西の森に行ったんですよね? で、そこで何匹かゴブリンを倒したところで、不意に子供の悲鳴のようなものが聞こえたと」


「うむ、その通りだ」


「で、声の出所を探っていたところゴブリンの巣穴のような場所を見つけて、その中に入って子供を助けたものの、そこにはゴブリンジェネラルがいて、スタンさん達は一目散に逃げ出した、と」


「うむうむ、その通りだ」


 ゴブリンが生息する森に行ってゴブリンに出会うのは、当たり前なので何の問題もない。その後巣穴に入ったのはやや無謀だが、子供の悲鳴が聞こえたというのならギリギリ許容範囲内だろう。


 だが、そこにゴブリンジェネラルがいたというのはとんでもない情報だ。未発見の状態でジェネラルまで進化したゴブリンとなれば緊急討伐依頼の対象であり、場合によっては領主軍などが動くことすらあり得る脅威である。


 なので、その姿を確認した時点でD級冒険者であるスタン達が逃げ出したということを責めるつもりはレミィには無い。むしろよくぞ生きて戻って貴重な情報を届けてくれたと手放しで賞賛したいくらいなのだが……問題はその後だ。


「…………で、逃走の途中でジェネラルの『号令』により魔物に囲まれて絶体絶命の状況になったものの、助けた子供が持っていた魔導具の力を利用して、スタンさんが森と一緒に大量の魔物を焼き払い、ついでにゴブリンジェネラルも討伐した、ということでよろしいですか?」


「うむうむうむ! 完璧にその通りだな」


「……もう一回聞きますけど、冗談じゃないんですよね? あるいは寝ぼけてたとか、酔っ払ってたとか、ちょっと話を大きく盛っちゃったとか……」


「そんなわけなかろう! というか、ゴブリンの角と一緒にジェネラルの角も提出したではないか!」


「確かにゴブリンにしては随分立派な角ですけど、でも……えぇぇ?」


 魔物の角には、その魔物の魔力が宿っている。なのでよほどの希少種や未発見の魔物でもない限り、ギルドにある魔導具で調べればその角が何の魔物に生えていた角かはすぐにわかる。


 が、わかるのはあくまでも種族までであり、位階まではわからない。レミィの受け取った角は確かにゴブリン種のもののなかでは飛び抜けて強い魔力を宿していたが、それがジェネラルの角なのかどうかまでは簡易鑑定ではわからない。そしてレミィ自身にも、そこまでの目利きの力はなかった。


「そう、ですね……スタンさんが嘘を言っていると疑うわけではないんですけれど、報告の内容が内容だけに、まずはギルドの方から人を派遣して、南西の森の調査をすることになります。もしそこで報告が虚偽であると判断された場合、割と重いペナルティが科されることになるんですけど……本当にいいんですね?」


「問題ない。というか、むしろしっかり確認してきてくれ。確かに余はゴブリンジェネラルを倒したが、巣穴の中や森に残ったであろうゴブリンの掃討まではしておらぬからな」


「うぅ、本当に本気なんですね……わかりました。では三日後にまたこちらに来ていただけますか? あー、それと今回の一件との兼ね合いもあるので、ゴブリン討伐の依頼に関しても結果が出るまで保留とさせていただきます。なので報奨金のお支払いが三日後になってしまうんですが、大丈夫ですか?」


「ああ、平気だ。資金にはまだ若干の余裕があるからな」


「そうね。一ヶ月とか言われたら困るけど、一週くらいまでなら平気よ」


「ならよかったです。では三日後にお待ちしております」


 ペコリと頭を下げるレミィに背を向けると、スタン達はその場を後にした。流石にあれだけの戦闘をこなした後に他の仕事をする気にもなれず、スタン達はゆっくり宿で休養したり、消耗品の買い足しをしたり、ライバールに呼ばれてビッツの仲間達のところに行って遊んだり遊ばれたりして……そうして三日後。再び冒険者ギルドに顔を出したスタン達は、ギルドマスターの執務室へと呼びだされていた。


「まさかこんなに早く、また君達とここで話をすることになるとはね」


「であろうな。余としてもエディス殿に呼ばれるのはD級として認められ、ピラミダーの情報を聞くときだとばかり思っていたのだが……」


「流石に今回はね」


 立派な執務机に両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せて苦笑するエディスの顔には、賞賛と呆れの両方が浮かんでいる。


「それじゃ、早速本題に入ろうか。スタン君の報告だが、こちらでも正確な裏が取れた。確かに森のなかには派手に焼き尽くされた円形の広場が生まれており、そこから少し言ったところにゴブリンの巣穴もあった。


 ああ、安心してくれ。中にいたゴブリンは全て通常種で、それらも討伐して巣穴の入り口は崩した。大規模な落盤を引き起こす可能性があるので流石に巣穴全体を崩すのは無理だったけど、これで当面は心配ないだろう」


「そうか、それはよかった」


「……それと、巣穴の中の調査の際に、獣のものに混じって大量の人骨も発見された。君が提出してくれた角の詳細鑑定の結果もあわせて、あそこにゴブリンジェネラルが確かにいたと、我々冒険者ギルドは判断したよ」


「…………そうか」


 その報告に、スタンは何ともやるせない気持ちになる。如何にファラオとて死した者を蘇らせることなどできないが、それでもスタンは内心で死者の安らかな眠りを静かに祈った。


「ということで、まずはこれ。ゴブリンジェネラルの討伐褒賞と、通常のゴブリン討伐の依頼の褒賞を合わせたものだ。受け取ってくれたまえ」


「うむ、ありがたく頂戴する」


 エディスの差し出した布袋を、スタンは鷹揚に頷いて受け取る。するとそれまでダンマリを決め込んでいたアイシャが、すぐにスタンの側にきて話しかけてきた。


「ねえ、幾らくらいもらったの? 見せて見せて!」


「こらアイシャよ、はしたないぞ」


「いいじゃない! あんな死にそうな目に遭ったんだから、せめて報酬くらいはガッツリもらわないと割に合わないわよ!」


「ハハハ、アイシャ君はしっかりしてるね。中身は金貨一〇枚だよ」


「金貨!?」


「あ、おい!?」


 金貨と聞いて、アイシャがスタンの手から布袋を奪って口を開く。そうして恐る恐る中身を取り出すと、スタンの仮面に勝るとも劣らない黄金の輝きがその指に摘ままれる。


「うわ、本当に金貨だ! アタシ初めて見たかも」


「ん? 金貨なら以前に余が見せたではないか」


「あれとこれは別でしょ! ちゃんと使える金貨は初めてなのよ! 額面が大きすぎて日常生活じゃ不便だから、商人でもないとわざわざ金貨なんて持たないもの」


「あー、なるほど。そういうことか」


 金貨一枚で銀貨一〇〇枚、銅貨なら一万枚分だ。日常生活で使われるのは基本的には銀貨までなので、高額の現金を持ち歩く必要のある商人や上位冒険者でもなければ普通に銀貨を持ち歩いた方が便利だ。


 それに加え、金貨は能動的に両替しなければ手に入らない。普段使い分を確保してなおかさばるほどに大量の銀貨を保持する立場にならねば、そもそも金貨を手にする機会がないのだ。


「んふふー。金貨金貨ー! 遂にアタシも金貨を手にする冒険者になったのねー」


 裏に表にひっくり返しながら黄金の輝きを見てニヤつくアイシャを、スタンとエディスはしばし温かい目で見つめた。

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