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力の代償

「我が呼び声に応え、現れよ<空泳ぐ王の三角錐フィン・ファラオンネル>!」


 ノリノリで叫ぶスタンの背後に黒い穴が開き、中からソウルパワーを間接充填されたファラオンネルが宙を泳いで躍り出る。ヒュンヒュンとスタンの周囲を飛び回る様は、まるでお腹いっぱいになってはしゃぐ子犬のようだ。


五芒星(ペンタグラム)モード、スタンバイ! ソウルパワー、充填開始!」


 偉大なる王の号令に、五つの三角錐が五芒星の頂点となる位置で宙に止まった。それらが薄い青色の線を結ぶと、星の形とそれを囲む円が浮かび上がる。


『ソウルパワー充填開始。チャージ完了まで五秒』


 充填率に合わせて、薄く青い線に太い光の線が上書きするように延びていく。時計回りに伸びていくそれが一周して繋がると、内部の五芒星もまた眩い光に満たされた。


『チャージ完了』


「うむ! では行くぞ……ファラオブラスター、発射!」


『オープンファイア。ファラオブラスター』


「「「ギャアアアアアアアア!!!」」」


 スタンが伸ばした右手の前に輝く五芒星。そこから極太の光線が打ち出され、目の前の魔物の群れを焼き尽くす。だが偉大にして強大なるファラオの攻撃がこの程度で終わるはずもない。


「まだまだ! 薙ぎ払え、ファラオブラスター!」


 スタンがそのまま腕を振るうと、それに合わせてファラオブラスターの光線もまた横に移動していく。そのままスタンが一回転することで、スタンは自分達を囲む全ての魔物を森ごと灰燼と為した。


「ハッハッハ! どうだ、これこそがファラオの力である!」


「うわぁ……何かもう、うわぁ…………」


「なあオイ、将来勇者になる俺としては、コイツは倒しておいた方がいいんじゃないかって気がするんだが……気のせいか?」


「はわはわはわ……」


 黄昏を迎えた空の下、何とも悪役っぽい高笑いするスタンのすぐ側で、攻撃に巻き込まれないように身を低くしているアイシャ達がそんな感想を口にする。だが上機嫌なスタンは呆れるアイシャも訝しげなライバールも、情報の許容量を超えてはわはわ言うだけになってしまったビッツも気にしない。そのまま油断なく周囲を観察していると……焼けただれた大地の向こうに、それ(・・)はいた。


「グッ……ギャアアアアアアアア!!!」


 それは右腕の肘から先が失われ、全身が焼けただれた巨躯のゴブリン。激しい怒りと苦痛により言葉を失ったゴブリンジェネラルが、物理的にも血走っている目で憎々しげにスタンを睨み付け、雄叫びをあげる。


「ほぅ? 如何に出力を絞った薙ぎ払いとはいえ、ファラオブラスターを耐えたか。流石はジェネラル……と賞賛すべきであろうな」


「グギャルルル! ゴギャアアアアアア!!!」


「……だが、理性は残っておらぬか。残念だ」


 怒り狂ったゴブリンジェネラルが、ドスドスと足音を立てながらスタンの方に走り寄ってきた。それに対してスタンは五芒星を解除し、その手に光の剣を握る。


「人を喰らった悪鬼なれど、余はそちを悪とは言うまい。人の理に縛られぬなら、生きるために弱者を喰らうは自然の掟だからな。


 ならばこそ、余もまたそちに倣って原初の理にて相対しよう。弱肉強食……己がそうであったように、強者たる余に跪くがよい!」


「グギャゴギャグギャルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


「その心臓を灰と為せ! <王の断罪に(ファラオ)慈悲は無し(バニッシャー)>!」


「グギャアアアアアアア………………ッ」


 一際輝く光の剣が、ゴブリンジェネラルの体を十字に斬り裂く。するとジェネラルの体は輝く銀の砂となり、その上に魔物の証であるねじくれた角だけがポトリと落下した。


「ふぅ…………終わったぞ」


「や、やっつけた、の?」


 ジェネラルの最後を見届け息を吐いたスタンに対し、アイシャがおずおずと話しかけてくる。するとスタンはファラオンネルを収納してからアイシャに振り向き答えた。


「うむ。なかなかの強敵であった」


「なかなかのって、アンタ……」


「おいスタン! お前これ、どういうことだよ!?」


 顔をしかめるアイシャを押しのけるようにして、今度はライバールが立ち上がってスタンに詰め寄る。


「あり得ねーだろ!? 何だこの威力!? お前、こんなに強かったのか!?」


「うん? いや、これはあくまでファラオの秘宝……そち達が言うところの魔導具のようなものの力だ。別に余が強いわけではないぞ?」


「それにしたって、こいつは……」


 ライバールもまた、顔をしかめて周囲を見回す。森の中にぽっかり生まれた見渡す限りの焼け野原は、もはや強いとか弱いとかの話ではない。もしこれが自分に向けられたらと考えると、ライバールには生き残るイメージがこれっぽっちも浮かばなかった。


「今ほどお前に喧嘩を売らなくてよかったと思ったことはねーぜ……てか、こんなことできるなら何で逃げたんだよ!?」


「魔導具が魔力で動くように、ファラオの秘宝を動かすにはソウルパワーというのが必要なのだ。さっきまではそれが枯渇状態だったので使えなかったのだが……」


 腑に落ちないといった表情で見てくるライバールに、スタンは説明しつつ未だに地面で腰を抜かしているビッツの方を見る。


「ビッツがくれたお守り、あれはアンクという余の国で使われていた道具でな。内部にソウルパワーを充填しておいて、必要に応じてそれを別の機器に移すことのできるものなのだ。


 もっとも今の一連の攻撃でそれも使い切ってしまったから、ピラミダーが見つからねば同じ事は当分できぬだろうが……ということでビッツよ」


「は、はい!?」


 不意に声をかけられ、ビッツがビクッと体を震わせる。そんな少年にスタンはしゃがんで目線の高さを合わせると、優しく肩に手を置いて話しかけた。


「そちのくれたお守りが、そちのみならず余やアイシャ、ライバール……ひいてはあの魔物に襲われていたかもしれないマルギットの町の人々など、全てを守る力となってくれた。


 感謝する。そして誇れ。そちが皆を守ったのだ」


「俺が、みんなを……?」


 スタンの言葉に、ビッツが怖々と上を見上げる。するとそこには苦笑するライバールと笑顔のアイシャの姿がある。


「ああ、どうもそういうことらしいな。へへっ、やるじゃねーかビッツ」


「そうね。助けに来たつもりが助けられちゃったみたい。ありがとうね、ビッツ」


「へ、へへへ…………」


 感謝の言葉を伝えられ、ビッツが困ったような照れたような、曖昧な笑みを浮かべる。その目と頬が赤いのは、もう泣きはらしたからだけではない。そうしてちょっといい雰囲気になったところで、改めてアイシャがスタンに声をかけた。


「で! スタン、アンタこれどうするわけ?」


「? どう、とは?」


「だからこれよ! この森! こんなに滅茶苦茶にしちゃって……これ怒られるくらいですむの?」


「ぬあっ!? いや、それは不可抗力というか、魔物と戦った際に出る多少の被害はやむを得ぬものであろう!?」


「これを多少と言い張るのは無理だろ。ちゃんと事情を話せば流石に捕まることはねーと思うけど……それ以前に、俺達の話を信じてもらえるかってところから問題だな」


「それならいっそ、無関係ってことにしちゃう? 突然森が大爆発したことにするとか」


「駄目だ。少なくともゴブリンジェネラルがいたことは絶対に報告しねーと。あ、そうだ。おいスタン、ちゃんとその角拾っとけよ? お前が倒したんだから、報告するのはお前だしな」


「待て待て待て! そういう報告は全員でした方がいいのではないか? 何故余だけで報告するのだ!?」


「え、だって俺、別に依頼とか受けてねーし。でもお前等はゴブリン討伐の依頼を受けてここに来てたんだろ?」


「アタシだって、スタンが報告するなら同じ事話しても仕方ないでしょ? それにそういうのって何かファラオっぽいし」


「ファラオっぽいとは何だ!? まさかそち達、面倒事を全て余に押しつけるつもりか!?」


「「誰のせいで面倒になったと思ってんだよ!」思ってんのよ!」


 スタンの抗議に、アイシャとライバールが声を揃えて言い返す。その視線の先にある荒野を生み出したのが誰かを考えれば、スタンとしても黙るしかない。


「ぐぬぅ、理不尽だ……」


「それ、アンタだけは言っちゃいけないと思うわよ?」


「だよな」


「えーっと……が、頑張れ、仮面の兄ちゃん!」


 仲よさげに顔を見合わせるアイシャとライバール、そして健気に励ましてくれるビッツ。そんな三人を前に、スタンは世の無情を儚んで仮面を揺らすのだった。

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[一言] 誤記だと思うけど「余の無情」は面白いから残しておいて欲しい
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