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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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相容れぬ存在

「……ほぅ?」


 洞穴内部……ゴブリンの巣穴へと足を踏み入れたスタンは、目の前の意外な光景に小さく声をあげる。まっすぐに伸びる通路は思った以上に先まで続いており、何より採光穴などがあるわけでもないのに、内部は視界に困らない程度には明るかったからだ。


「明るい? 何故だ?」


「ん? 何だよお前、そんな事も知らねーのか?」


「こういう狭い空間に魔物が集まると、その体から出る魔力のせいで明るくなるのよ。ほら、町に街灯があるでしょ? あれも魔力をギュッと集めてるから明るいんだって」


「そうなのか!? 魔力とは不思議なものなのだな」


「アタシにはソウルパワーとか言うやつの方がよっぽど不思議に思えるけどね」


 驚くスタンに、アイシャが小さく肩を竦めながら言う。難しい理屈はわからなくとも、生まれた時からある「当たり前」に対し、多くの人は疑問を抱いたりしないのだ。


「ほら、んなことよりさっさと進むぞ。この先はゴブリンもいるだろうから、慎重にな」


「うむ」


「わかったわ」


 先導するライバールに続き、アイシャが中衛、スタンが殿となり三人が縦に並んで洞穴を進んで行く。するとすぐに穴が三つに分かれた場所へと辿り着いた。


「分かれ道か……どうする?」


「ふむ。中央は避け、二手に分かれた左右を先に調べるのはどうだ?」


「え、何で?」


 問うアイシャに、スタンが自分の読みを説明する。


「この先が更に分岐しているならその限りではないだろうが、行く先が三つしかないのなら、中央にゴブリンが集まって生活し、左右がそれぞれ物資と食料の保管庫になっているのではと予想した」


「ありそうだな。なら俺が左に行くから、スタンとアイシャは右。で、何も無かったら相手の方に行って、合流してから中央……でどうだ?」


「了解だ。ではそうしよう」


 何の情報も無しでは、迷う余地もない。ライバールの提案に頷くと、スタンはアイシャを共に右の通路へと進んで行った。慎重に歩を進めていくと、少し先からグギャグギャと騒ぐゴブリンの声が聞こえてくる。


「いるな。とは言えこんな通路では身を隠すこともできぬ。余が突っ込んで不意打ちをかけるから、アイシャはここで待機し、機を見て加勢してくれ」


「了解。はぁ、アタシももうちょっと強くなれば、最初から一緒に戦えるんだけどなぁ」


「ハハハ、そこはこれからに期待だな……では、行くぞ」


 ため息を吐くアイシャに軽く笑ってから、スタンが飛び出す。その動きに合わせてスタンの背後から五つの三角錐が飛び出し、広い空間に出ると同時にスタンの声が響く。


「ファラオブレード!」


「グギャグギャ――グギャ?」


「ギャ――ギョ?」


 瞬時にして出現した光の剣は、スタンが腰に佩いている鉄剣とは次元の違う切れ味を発揮し、その場にいた五匹のゴブリンのうち、手前の二匹の首を薄紙を切る如く跳ね飛ばした。


「ギャ!? ギャギャ――」


「遅い!」


 残った三匹が騒ぎ出すより早く、返す刃でその首が跳ぶ。そうして全てのゴブリンをあっさりと仕留め終えると、スタンは注意深く周囲を観察してから背後に居るアイシャに声をかけた。


「……これだけか。アイシャよ、もう平気だぞ」


「うわぁ……てかアンタのそれって、普通に斬ることもできるのね」


「当然であろう? 今までも人は斬らずとも、手にした武器は斬っていたではないか」


「あ、そう言えば……便利なもんね。で、ここは……」


「食料庫、であろうな…………」


 剣を解除し<空泳ぐ王の三角錐フィン・ファラオンネル>を<王の宝庫に(ファラオ)入らぬもの無し(バンク)>に戻すと、露骨に顔をしかめるアイシャと共に、スタンもまた不快そうな声を出す。この場を満たす生臭い腐臭は、今死んだばかりのゴブリンのものだけではないのは明白だ。


「肉を焼く程度の知能はあっても、衛生観念は皆無か」


 半分腐った木の樽には肉のこびりついた骨がそのまま詰め込まれており、どす黒く変色した木製のテーブルの上には生肉がそのまま置かれている。加えて室内には毛皮や牙など、肉になる前の何者かの痕跡がそこかしこに散乱している。


「これって……」


 そんななか、アイシャがその場にかがみ込んでいくつかの残骸を拾い上げる。ちぎれた麻布や、片方だけの靴。野生動物のものとは明らかに違うそれらは、ここに人が運ばれていたことを如実に物語っている。


「大分古いから、今回攫われた子供のじゃないと思うけど……」


「……駄目だな。ああ、これは駄目だ」


 ゴブリンは間違いなく、今までに何人もの人を食っている。その事実を突きつけられ、スタンはほんの僅かに持っていた「言語を介する異人なら、ひょっとして話し合いができるのでは?」という望みを綺麗に捨てた。


 無論、話ができる可能性はある。が、同族を餌として喰らうモノと和解などあり得ない。もしあるとすれば人類が魔物に大敗を喫し、生き延びるために仲間を生け贄として捧げる家畜としての生き方を選ぶしかなくなったときだけだろう。


「ここで得るものは何もなさそうだ。ライバールと合流し、中央の通路に向かうとしよう」


「そうね。こんなところにいつまでもいたら、クサくて鼻が曲がっちゃいそうだもの」


「うむ。では……っ!?」


 不意に、スタンがその動きを止めた。そして次の瞬間、いきなりスタンが走り出す。


「ちょっ、どうしたのよスタン!?」


「声が聞こえた! おそらく中央通路の奥だ!」


「えぇ? アタシ何も聞こえなかったけど……って、ライバールはどうするのよ!?」


「余達がいなければすぐに中央に来るはずだ。先行する、着いてくるのだ!」


 足場が悪く細い通路で全力疾走などできるはずもないが、それでも二人はすぐに分岐点まで戻り、迷うことなく中央の通路を進んで行く。すると徐々に周囲が明るくなっていき、それと同時に中の喧噪が伝わってくるようになる。


「うわぁぁぁぁぁぁん! たすけてー!」


 まるで真昼のように明るく、地下とは思えない広々とした空間に響き渡る子供の泣き声。そこには無数のゴブリンがおり、その中の一匹が子供を抱きかかえ、その喉元に刃の欠けたナイフを突きつけている。


「くそっ、卑怯だぞ! 子供を放しやがれ!」


 そんなゴブリン達の前で、ライバールが剣を構えて悔しげな声をあげている。そんなライバールが対峙しているのは巨躯のゴブリンだ。他のゴブリンが一三〇センチほどの身長なのに対し、そのゴブリンだけは二メートルを超える巨体を有しており、その存在感も他のゴブリンとは一線を画している。


「グギャギャギャギャ! ハナズ、ワゲナイ! オマエ、ジネ!」


『嘘、ゴブリンが喋ってる!?』


『声を出すなアイシャ!』


 その空間に入る少し手前。騒ぎに気づいたスタン達は、足を止めて身を潜めながら小声で話し合う。隠れると言っても壁にピッタリと張り付いている程度なのでちょっと注視されればすぐにばれてしまうだろうが、ゴブリン達もまたライバールの挙動に注目しているため、幸いにして今すぐ見つかるということはない。


『それでスタン、どうするの?』


『ふむ、子供をどうにかしなければだが……』


 これが暗闇ならば闇に紛れて壁面伝いに移動して背後に回り込むこともできるだろうが、こう明るいと通路から室内に入った時点でまず間違いなくばれてしまう。となると有効なのは遠距離攻撃だが、単に子供を捕まえているゴブリンを仕留めるだけでは、駆け寄る前に別のゴブリンに子供を奪われてしまうだろう。


(ソウルパワーの残量が厳しいが……あれでいくか)


 内心で手段を決めると、スタンは再びファラオンネルを取りだし、その一つを手に持つ。するとそれを中心とした前後左右に四つのファラオンネルが移動し、それらが光の線で結ばれることで、輝く車輪のような形となった。


『征け、ファラオスライサー!』


 小声で呟きながら、スタンがそれを投げつける。すると光の円刃はライバールの横を超高速で飛び抜け、子供を捕らえているゴブリンの首を容易く跳ね飛ばした。


「なっ!?」


「グギャッ!?」


『次だ! ファラオシェルター!』


 即座に続けられた命令に、飛翔したファラオンネルの一つを子供の頭上に残したまま、残り四つが地面へと落下し、それらが線を結ぶことで子供を守る光の障壁が発生する。それを見たゴブリン達が驚愕と共に障壁に殴りかかるが、ゴブリン如きの攻撃では光の障壁は小揺るぎもしない。


「さあ、これで人質の安全は確保したぞ」


 そうして子供の安全を確保できたことを確認すると、スタンは堂々と室内へと入っていった。

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