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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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予期せぬ合流

 声の聞こえた方向へと、スタン達は慎重に進んで行く。すると二〇分ほど進んだところで地面の一部が大きく落ちくぼみ、丸い入り口がぽっかりと口を開けている場所へと辿り着いた。


「声がしたのは、おそらくこの中だな」


「……ねえ、スタン。一応確認なんだけど、アンタこんな距離の……しかも穴の中? からの声が聞こえたの?」


 スタンの言葉に、アイシャが訝しげな声をあげる。だがスタンの確信が揺らぐことはない。


「無論だ。ファラオの耳は助けを求める声を聞き逃さない。そちが呼んだ時とて行ったであろう?」


「あー、そう言えば。てか、それなら今回も直接その子供の前に行けるんじゃない?」


 スタンの仮面を狙う冒険者達に攫われたときのことを思い出し、アイシャが微妙な表情を浮かべる。だがその問いに、今度はスタンが仮面を横に振る。


「いや、それは無理だ。あの時はそちが余を呼んだから行けたが、今回聞こえた声は余を知っているわけでも、余を呼んだわけでもないからな。如何にファラオとて呼ばれていない場所には行けぬ。プライバシー保護機能があるからな」


「ほーん? つまりアンタを知ってる人が、アンタに助けを求めないと駄目ってこと?」


「そういうことだ。ファラオの秘宝とて万能ではない。特にソウルパワーの充填がおぼつかない現状では、不本意ではあるがとれる手段は大分限られる」


「なら、あれはどうするわけ?」


 そう言うアイシャの視線の先には、謎の洞窟っぽい入り口付近に立つ、二匹の見張りゴブリンの姿がある。手には割った石を穂先にした簡素な槍を持っており、退屈そうにあくびをしている姿は一見すると隙だらけに見える。


「そうだな……まあ二匹程度ならどうにでもなる。加えてあくびをしているということは、洞穴のなかにいるであろう他のゴブリンは、見張りが視認できる位置にはいないということだ。となるとあの洞穴は見た目よりずっと深く広い可能性が高いのだが……むっ!?」


「きゃっ!? 何!?」


 スタンが作戦を考えていると、不意にゴブリンの巣穴とは反対方向から急速にこちらに近づいてくる気配に気づく。スタンが慌ててアイシャの頭を押さえて強引に姿勢を低くさせると、それはスタン達の三メートルほど横を駆け抜け、一直線に見張りのゴブリン達に斬りかかっていった。


「てやーっ!」


 かけ声と共に閃く、二筋の銀閃。ゴブリン達は声を上げる間もなくその首を落とされ、短く息を吐いた少年が剣を構えたままスタン達の方に顔を向けて声を放つ。


「そこに隠れてる奴ら、出てこい! 出てこないなら……」


「待て待て待て! 余達はゴブリンではないぞ!」


「そうよ! アタシ達は……って、あれ? アンタどっかで見たことがあるような……?」


 軽い殺気を向けられ、スタン達は慌てて両手をあげながら草むらから出て行く。するとスタンの姿を見た少年の表情が驚愕へと変わっていく。


「あーっ!? おま、お前! あの時の仮面野郎!?」


「む? 余のことを知っているのか?」


「あー、そうよ! 何日か前に、いきなり叫んでギルドを出てった人! アンタこんなところで何してんの?」


「それはこっちの台詞だ! お前達こそ何でこんなところにいやがるんだよ!」


「何でって、D級冒険者がゴブリン討伐の依頼を受けるのは普通でしょ? アンタもそうなんじゃないの?」


「いや、俺は……」


 アイシャの問いに、少年は苦しそうな顔をして視線を逸らす。その様子を見て、スタンは改めて場を仕切り直すべく声をあげた。


「ふむ。急ぎたい理由はあるが、それでも互いの名前と軽い事情くらいは知っておいた方がいいだろう。余はD級冒険者のイン・スタン・トゥ・ラーメン・サンプーンだ。そこにいるアイシャとパーティを組み、ゴブリン討伐の依頼を受けたのだが、この穴の向こうから子供の声が聞こえてな。助けに行こうと思っていたのだ」


「子供!? そいつは間違いねーのか!?」


「待て、落ち着け。余も声を聞いただけで、姿を確認したわけではない」


 食ってかかってくる少年を、スタンが手で制して落ち着かせる。すると少年は大きく深呼吸をしてから自分の名を名乗った。


「ふぅー……悪かった。俺はE級冒険者のライバールだ。俺がここに来たのは、その子供を探しに来たんだよ」


「人捜し? さっきの強さでE級ってのも胡散臭いけど、そもそも町の外での人捜し依頼なんて、E級じゃ受けられないでしょ? どういうこと?」


「それは……依頼じゃねーからさ」


 訝しむアイシャに、ライバールが静かに説明を始める。


「ほら、E級って町中の雑用とかも依頼になってるだろ? その関係で貧民街に顔を出すことがあったんだけど……そこで知り合ったガキ共がさ、町の外にこっそり食料調達に出た友達が帰ってこねーって言ってたんだ」


 貧民街に暮らす子供達にとって、食料を手に入れる方法はたまにある炊き出しを除くと、他人から盗むか、あるいは町の外に出て自力で手に入れるかのどちらかである。そして罪に手を染めたくないと思うならば、外に出て薬草や木の実などを集める一択しかない。


 たとえそこに魔物が蔓延り、襲われれば死ぬかも知れないとわかっていても、そもそも食わねば確実に死ぬのだ。そんな分の悪い賭けに勝ち続けた子供が成人して冒険者となり、同じ場所で育った仲間の面倒を見るというのはどの町でも見かけられる光景の一つであるのだが……ライバールが知り合った子供達は、その流れに乗れなかった者達であった。


「正直、外に出た子供が帰ってこないなんてのは珍しくも何ともねー。だから衛兵に言ったって助けちゃくれねーし、ギルドに依頼を出せるような金をガキ共が持ってるはずがねー。だから普通ならそれで終わりなんだろうけど……


 でも、俺は聞いちまったんだ。顔を知ってるガキが、友達を助けてくれって、なけなしの銅貨を押しつけてきやがったんだよ!」


「それで子供を助けにきたと?」


「そうだ。そいつの服の切れ端が、いつも薬草だのを集めてるって言う森の入り口付近にあった。で、そこに残ってた別の何かの痕跡を必死に探して追いかけてきてみたら、その先にゴブリンと、そしてアンタ達がいたってわけさ」


「へー。子供にお願いされたから助けに来たなんて、アンタひょっとしてお人好しね?」


「うむうむ。本来ならE級冒険者が無茶をするなと叱るべきところだろうが、先程の腕前を見れば勝算があっての行動だろうしな。若いのに大したものだ」


「な、何だよ急に……てか、お前達だってそんなに歳変わらねーだろ? 変わらねー……よな?」


 急に褒められて照れるライバールが、スタンを見て言う。声や体つきは間違いなく若い男だと思えたが、仮面の奥がどうなっているかはわからないからだ。


「歳か? 余は一七歳だが」


「アタシは一六歳よ。で、アンタは?」


「あ、そうなのか。俺は一五歳だから、やっぱ変わんねーな……って、そんなこと言ってる場合じゃねーって!


 そういうわけだから、俺はこれからここに入ってガキを助け出してくる。アンタ達は……」


「勿論一緒に行くわよ! ねえ、スタン?」


「そうだな。元々そのつもりであったし、余達はゴブリン討伐の依頼も受けておる。故にそちが気にする必要はないぞ」


 スタン達の申し出に、ライバールは僅かに考えてから頷く。


「そうか? 確かに手は多い方がいいな……わかった。なら協力してくれ。D級ならそれなりの腕だろうしな」


「ハッハッハ、心配は無用だ。ファラオの強さ、そちにも存分に見せつけてやろう!」


「ファラオ? お前はイン・スタン……何とかじゃねーの?」


「何を言っておるか! ファラオとは――」


「あー、ほら。ファラオってのは、剣士とか魔法師とかと同じ、肩書きみたいなもんよ。で、コイツはスタンでいいわ。ほら、子供が心配だし、さっさと行きましょ!」


「おっと、そうだった。ならスタンにアイシャ、ちゃんと着いて来いよ!」


「……むぅ」


 慣れた調子でアイシャに流され、スタンが微妙な声で唸るなか、急遽組まれた即席パーティは慎重に洞穴の中へと足を踏み入れていった。

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