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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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初対決と初勝利

 エディスの勧めにより、ゴブリン討伐の依頼を受けたスタン達。彼らが最初にやったのは、入念な調査と準備であった。昇級のためにハイペースで依頼をこなしたこともあり、幸いにして資金に余裕のあったスタン達は、その辺にいる冒険者に酒を奢って実際にゴブリンと戦った時の話を聞き、その上で必要な装備を一新する。


 加えて必要な消耗品を揃え、実際にゴブリンのいる森の情報なども集め……そして三日後。スタンとアイシャは町から半日ほど離れた森の中にて、息を潜めて奴らの存在を観察していた。


「ほぅ、あれがゴブリンか……確かに見た目は小さな人だな」


「そうね。ま、緑の半裸って時点で本当に人と間違えることはないでしょうけど」


 茂みに隠れるスタン達の五メートルほど先には、深い緑色の肌に、服と呼ぶのも憚られる薄汚れた毛皮の腰巻きだけを身につけ、簡素な焚き火を囲んで肉を焼く三匹のゴブリンの姿があった。


 頭はツルリとハゲ渡り、額には一〇センチほどの長さの角が生えている。遠目でシルエットを見るなら人の子供と間違えることもなくはないだろうが、しっかり見える場所でならこれを人間と間違えることは確かになさそうだ。


「談笑しながら火を囲み、焼いた肉を食う……文明の匂いを感じさせながらもその先に文化が発達しないのは、やはりあの角のせいなのであろうか? あれのせいで魔物は凶暴になるのであろう?」


「さあ? アタシにそんなこと聞かれたってわかんないわよ」


 ゴブリンは相応に高い知能を持つというのに、何故か原始的な生活から抜け出ることはないらしい。数え切れない程の命を奪い一〇〇万の同胞を率いる王にまで成り上がったゴブリンの国では製鉄と鍛冶すら行っていた痕跡が確認されているものの、人間という見本があるのに、彼らが農耕の類いを行うことは決してない。


 加えて言うなら、言語があるというのに彼らは詩歌を楽しむこともなく、簡素な道具を作成する技術がありながら、玩具の類いを作ったりもしない。娯楽は粗悪な酒と戦いと交尾であり、血なまぐささのない楽しみを見出すことはないという。


 つまり、ゴブリンの文明は戦闘方面にしか発展しないのだ。そしてそれはゴブリンのみならず、他の知能の高い魔物にも通じるようで、強大な魔物が一定以上に増えない……主に食料的な意味で……大きな要因の一つとなっていた。


「ほら、そんなことより、奇襲するなら今がチャンスじゃない?」


「そう、だな。では打ち合わせ通りに行くぞ」


「オッケー」


 スタンの言葉に、アイシャが頷いて答える。それを確認すると、スタンは真新しい鉄剣の柄に手をかけ、ご機嫌に肉を焼くゴブリンの背後に素早く駆け寄った。


「グギャ!?」


「ギャギャギャ!?」


「ギャウ?」


「フッ!」


 急に茂みから飛び出して来たスタンに、正面斜めにいた二匹のゴブリンが驚きの声を上げる。だが目の前にいる背を向けた一匹がそれに反応して振り向くより早く、スタンはゴブリンの首に剣を振り下ろし――


「ギャァァァァ!?」


「くっ、固い!?」


 刃が半分食い込むも、ゴブリンの筋肉質の首を斬り跳ばすには遠く至らない。故にスタンは即座にそのゴブリンの背を蹴って跳ね飛ばすと、血に濡れた剣を残った二匹に向かって構え直した。すると仲間をやられたゴブリン達が激高し、足下に置いていた武器を手に取ってスタンに向けてくる。


「簡素な石斧に、太い木の棒か……」


 ゴブリンが手にする武器には、大きな意味がある。鉄剣や革鎧などを装備していれば、それらを身につけた冒険者を殺して奪っているということだからだ。そう言う意味では明らかに手製の石斧と、ただ拾っただけの棒を持つ目の前の二匹は、高い確率で人を襲ったことのないゴブリンだと思われる。


 が、スタンもまたゴブリンとの戦闘は初めてなのだから、立場は同じ。油断せず構えるスタンに対し、ゴブリン達が襲いかかってくる。


「グギャーッ!」


「当たらぬ!」


 石斧を振りかぶったゴブリンの一撃を、スタンは余裕を持ってかわす。B級冒険者であるドーハンの攻撃すら捌ききったスタンからすれば、こんな虚実もない力任せの攻撃をかわすなど造作もないことだ。


「ギャギャギャーッ!」


「おっ?」


 そんなスタンに、もう一匹のゴブリンが手にした棒を横に薙いでくる。スタンはそれをバックステップで回避したが、するとそれを狙ったように、さっきのゴブリンが石斧を振り下ろしてくる。


「ほほぅ、連携ができるのか! なるほど確かに、これは油断できぬ相手だな」


 それも回避しながらスタンが剣を振ったが、肩や腕を狙った斬り降ろしは棒によって防がれる。回避しながらで踏み込みの弱い一撃では、太い生木の棒を斬り跳ばすことができなかったのだ。


「ぬ、やはり腕力は今後の課題であるな……よっ、ほっ!」


「グギャ!」

「ギャギャギャギャギャ!」


 二対一であっても、ゴブリン達の攻撃はスタンにかすりもしない。しかしスタンの攻撃もまた、ゴブリン達に決定打を与えられない。その多くは防がれ、偶に肌を浅く斬り裂くことはあるが、その程度の流血ではゴブリン達の勢いは止まらない。


「フフフ、これはなかなかいい訓練になるな。だがあまり長引かせるわけにも行かぬ。名残惜しいが、そろそろ決着としよう」


 そんな戦闘を五分ほど続けたところで、そう言ってスタンがカクッと仮面を揺らした。ゆっくりと円を描くように移動しながら戦っていたスタンとゴブリン達の立ち位置はちょうど戦闘開始時と反対になっており……次の瞬間、元々スタンが隠れていた場所から飛び出した人影が、スタンとの戦闘に夢中になっているゴブリンの背に跳びかかる。


「やーっ!」


「ギャフゥ!?」


 アイシャの手にした短剣が、ゴブリンの背に深々と突き刺さる。如何に女性の腕力とは言え、体重をかけて不意打ちとなればそのくらいはできるのだ。そして心臓を剣で貫かれては、さしもの魔物でも絶命は免れない。


「グ……ギャァァ!」


「おっと、それは喰らわないわよ!」


 心臓を貫かれたゴブリンは、最後の力を振り絞って背後のアイシャの頭部目がけ、石斧を横に薙ぎ払った。だがそこにいるはずの獲物は既に剣を手放し後ろに飛び退いており、空を切った石斧の勢いに振り回され、ゴブリンは大地に倒れてそのまま息絶えた。


「ギュアア!? アッ……ガ……」


「戦闘中によそ見とは、未熟が過ぎるぞ」


 そんな仲間の死に様に意識を奪われていた棒ゴブリンに、スタンが改めて剣を振るう。横薙ぎで喉笛を掻き切られ、返す刃で腹を切られ、トドメとばかりに引き戻した腕で胸を突かれる。驚愕に目を見開いたゴブリンは最後の一撃すら振るえずに地面に倒れ伏し、その姿をたっぷり三〇秒ほど見続けてから、スタンは漸く構えを解いて息を吐いた。


「……ふぅ、どうやら余達の勝利のようだな」


「やったー! なによ、アタシだってやればできるじゃない! 特に最後のあれ……何だっけ?」


「ん? 残心のことか?」


「そうそれ! 先輩達から話聞いてなかったら、アタシ絶対アレ喰らって逆転されてたわね……怖い怖い」


 通常の動物よりずっと体力のある魔物は、致命傷を受けてすら僅かな時間なら動く。それを実体験として聞いていたからこそアイシャは迷わず剣を手放し距離をとっていたのであって、もしその知識がなく剣を手放すのを嫌がっていたら、今頃頭から血を流して倒れていたのはアイシャだっただろう。


「でもそれもバッチリ対処できたし……これでアタシも一流冒険者の仲間入り?」


「調子に乗るでない。まだまだそちも余も入り口に立っただけであろうが!」


「アイタッ!? わかってるわよ、もう! でも今くらいははしゃいだっていいでしょ? だってこれが本物の魔物相手の初勝利なんだから!」


 スタンに頭を小突かれたアイシャが、それでも興奮した様子でそう主張する。そしてそんなアイシャの姿に、スタンは仮面の奥で苦笑する。


「まったく、そちは仕方がないな……だがまあ、確かにそうだ。初勝利おめでとう、アイシャよ」


「アンタもね、スタン! さー、これでノルマはあと七匹! 頑張るわよ! オー!」


「うむ。オー! である!」


 依頼その物はまだ終わっていないが、それでも最初の一歩は上々。二人はしばし喜びを分かち合い、次の戦いに向けて気合いを入れるのであった。

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