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あえて隠さないという手法

「ふぅ……行ったみたいね」


 背後から不穏な声が聞こえた時点でさりげなく離れていたアイシャが、男が立ち去ったことを確認してスタンの側に戻ってくる。


「まったく、これで何人目よ?」


「さあな。無礼者の数などいちいち覚えておらぬ」


 フンと仮面の隙間から鼻息を漏らすスタンに、アイシャが自嘲するように愚痴をこぼす。


「まさかたったの三日でこんなに変な奴らが湧いて出るとはねぇ。あの時もっと必死でアンタを止めなかったアタシをぶん殴ってやりたいわ」


「む、何故だ? 便利な力を使わず隠し続けるのは勿体ないと言ったのは、そちであろう?」


「そうだけど! でも限度があるっていうか……ここまでとは思わなかったのよ」


 アイシャの想像では、騒ぎになるにしても一月とか二月とか、せめてそのくらいは情報の拡散に時間がかかるはずだった。そしてそうなる頃にはサンプーン王国の情報を得て、自分達はここではない何処かに向かって旅立っていると思っていたのだ。


 だが蓋を開けてみれば、最短では翌日からスタンに声をかけてくる者がいた。本当に価値のある情報の伝達速度を、アイシャは完璧に見誤っていた。


「そう言えばさっきは聞きそびれたけど、サンプーン王国の情報は手に入ったの?」


「いや、レミィに確認したのだが、どうやらまだ何の情報も得られていないらしい。なので更に広域で情報を集めるために、もうしばらく時間が欲しいそうだ」


「ふーん。そんなことまでしてくれるのね」


「その辺はドーハンが頼んだからなのだろうな。当初の予定通り余やそちがD級に昇格してから情報を得ようとしたなら、おそらくはこれで終わりだったのだろう」


「あー、そっか。そりゃB級冒険者の申請だもんね」


 スタンの言葉に、アイシャが納得して頷く。実際D級とB級では、冒険者ギルドの扱いがまるで違うのは当然だ。高い信頼と実績に相乗りしたからこその調査継続に、スタンは改めて巡り合わせの妙に感謝していた。


「となると、まだ当分はこの町でこの騒ぎに付き合わないとなのかぁ……あー、こんなことならもっと強くアンタに秘密にするように言っとくんだったわ!」


「ハハハ、そう言うな。というか、この手の情報は秘匿しようとする方が却って危険なのだぞ?」


「え、何で? 秘密にしとけばこんな風に騒がれることなんてなかったじゃない」


 眉根を寄せて怪訝そうな声で問うアイシャに、スタンは歩きながら説明をする。


「確かに余の力の一切を秘匿し、絶対に使わないというのであればそうだろう。が、前にも言ったが、ファラオの秘宝は余の力の根幹だ。使わぬという選択肢はない。


 となると人目に付かぬようこっそり使うことになるわけだが……この世に絶対などということはない。どれほど気をつけていようとも、きっといつか何処かで誰かに秘密がばれることになる。それが余の見ている前ならまだしも、余自身が気づかぬところでばれたりすれば最悪だ。そうなった場合……どうなると思う?」


「どうって……今みたいな騒ぎになるんじゃないの?」


 首を傾げながら言うアイシャに、しかしスタンはゆっくりと首を横に振る。


「違う。石ころが宝石だと気づいた悪党は、その秘密が誰かに知られる前に我先にと余を襲うようになるだろう。しかもそれを訴えても、秘密を秘密とし続ける限り余は『大した稼ぎもないE級冒険者』だ。襲われる理由のない立場の者が多数の悪党に襲われているなどと訴えても、本気で取り合ってはもらえまい。


 結果、余は誰の援助を受けることもできず、静かに様々な悪党共から狙われることになるのだ」


「ほーん……でも、それって今と何か違うの? だって今だってこうして変なのから声かけられまくってるじゃない?」


「一番の違いは対処のしやすさだな。今の余は秘宝の存在を明かしているが故に、もしその手の輩といざこざが起きても『余の宝を狙う者に襲われた』と主張すればほぼそれが通るだろう。


 が、もし秘宝の存在を秘匿していた場合、最悪余がそいつらの宝を盗んだから取り返すためにやったのだと言う主張が通ってしまう可能性すらある。なにせ余はこの町に来たばかりのE級冒険者で、社会的な信用など皆無だからな。


 つまり、余が宝を持っていると広く知らしめることは、同時にこの宝が余のものであるということを知らしめることでもあるのだ」


「ほほー!」


 スタンの説明を聞き終えて、アイシャは改めて感心した。信じてもらえないかも知れないから、疑われる前に証拠を世間に広めておくなど、アイシャのなかでは思いつきもしなかった発想だった。


「アンタちゃんと色々考えて行動してたのね。アタシはてっきり、その場その場で適当な事ばっかりやってるんだと思ってたんだけど」


「ぬっ!? 何だその不当な評価は!? 余は賢明にして偉大なるファラオなるぞ!?」


「賢明で偉大な人は、干からびて死にそうになったりはしないと思うわよ?」


「まだ言うか! 偶に見せる迂闊なところが親しみやすいと、臣民に人気のファラオだったのだぞ!?」


「えぇ? それは…………そうなの?」


 ひょっとして馬鹿にされていたんじゃ? という言葉を飲み込み、アイシャが微妙な表情を浮かべる。E級冒険者であるアイシャにとって王侯貴族など遙かに遠い存在であり、下卑た笑い声をあげながら血税を搾り取る悪党か、厳つい顔をした完璧な存在のどちらかの印象しかなかったためだ。


「まあでも、そうね。確かにスタンが王様なら、いい国だったんじゃないかって気はするわね」


「であろう!? 余の統治するサンプーン王国は、それはもう栄えた国だったのだ。と言っても余が実際に統治した年数などたかが知れておるから、実際には余の前、歴代のファラオ達がしっかりとした統治を続けてきたおかげだがな」


「そう言えば、アンタ一七歳なのよね。何年くらい王様やってたの?」


「五年だな。先代ファラオが若くして天に昇ってしまったため、急遽余が王位を引き継ぐこととなったのだ。幸いにして家臣団はしっかりしておったし、余もファラオたらんと精一杯の努力を重ねたおかげで国が乱れることはなかったが…………果たして余が消えた後のサンプーン王国は、どうなったのであろうか?」


 不意に、スタンが空を見上げて小さく呟く。


 今自分がここにいるということは、当然ながらサンプーン王国から突如としてファラオが消えたということになる。それがどれほどの混乱をもたらすのかは想像に難くない。


「やはり一刻も早く国へと帰り、余が健在であることを知らしめねば」


「……国、早く見つかるといいわね」


「うむ。それで――」


「あー、見つけた! アンタがスタンだな!」


「…………ハァ」


 またもかかった無粋な呼び声に、スタンは思わずため息を漏らす。その後も丁寧な者、無礼な者、誠実な者、身勝手な者、多種多様な人々から様々な誘いをかけられ、その全てをスタンが断りながら過ごすこと五日。賢明な者が説得は無理と諦め、諦めきれぬ者が欲に瞳を濁らせながらどうにか次の一手をと考えるなか……


「う、ううん…………?」


 愚かなる者達の策謀に嵌まったアイシャは、薄汚い小屋の中で椅子に縄で縛り付けられながら目を覚ました。

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