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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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大人と子供

 白竜山を下り、再び町の側へと戻ってきた一行。スタン達が近くの森で身を潜めていると、不意にガサガサと下草が揺れ、そこからよく見知った顔が姿を現した。


「ただいまー!」


「おう、おかえりアイシャ」


「キュー!」


「それで、どうであった?」


「予想通り大騒ぎになってたわよ。アタシだけで行って正解ね」


 仲間達の言葉に、アイシャが苦笑しながら答える。スタンやライバールが町に入らなかったのは、生きて帰ったアランがドラゴンの存在を雇い主である貴族に報告しているだろうと予想したからだ。


 そしてその予想は見事に当たり、町は今大騒ぎとなっている。


「領主様がドラゴンを討伐する部隊を編成するって言うんで、冒険者にも参加要請が来てるみたいよ。アタシは適当なこと言って断ったけど、D級以上ならとりあえず参加できるし、報酬も出るみたい」


「D級!? おいおい、D級冒険者なんて、ドラゴン相手じゃ死ぬの前提の囮くらいにしか使えねーだろ。お貴族様はともかく、ギルドは何考えてそんなの許可したんだよ!?」


「さあ? アタシが聞いたのは、遠くから矢を射ったりしてドラゴンの注意を引く役で、その間に領主様の部隊が上級の冒険者と協力してドラゴンを倒すーみたいに説明されたけど」


「そんな上手くいくのか? いや、俺も実際にドラゴンと戦ったことなんかねーからわかんねーけど」


「余もわからぬな。ただまあ、その程度の輩がアコンカグヤ殿に襲いかかったりしたら……」


「完全に無視されるか、秒で全滅させられるかのどっちかだろうな。本当にいなくてよかったぜ」


 もしアコンカグヤがあの場に残るつもりであったならば、無駄な犠牲を出さないようにスタン達ももう少し積極的に動いただろう。だがあそこを巣にするつもりはないと本人から聞いているだけに、今回も(・・・)討伐部隊が空振りで終わるのは間違いない。


 その無駄足に付き合わされる者には多少の同情は感じなくもないが、然りとて己の身を危険に晒してまで忠告するほどではなかった。


「ちなみに、俺達の話は?」


「犠牲者が出たって話はなかったわね。たまたま定期巡回をしていた領主様の部隊がドラゴンを発見したってことになってるみたい」


「そっか。なら騒ぎに乗じて、今のうちに移動しちまうか」


「そうだな。アイシャはともかく、余達は目立つからな」


「ミドリちゃんは仕方ないけど、アンタは仮面を……まあいいわ。ライバール、ミドリちゃん、またね!」


「二人共達者でな」


「おう、またな!」


「キュー!」


 ここまで絡んだ縁が切れるなど、この場の誰も思っていない。だからこそ三人と一匹は軽い挨拶をした程度で、それぞれに背を向け反対方向に歩き始める。


「さて、それじゃまずはヨースギスに……ん?」


 そうしてライバールはスタン達が来た道を戻るように進み始めたわけだが、その先にまるで待ち構えるかのような人影を見つける。その人影はライバールの姿を見ると、何とも愉快そうに口元を歪めた。


「よう、ガキ。また会ったな」


「てめぇ、あの時の……!?」


 くたびれたひげ面の中年男……アランが手を上げて挨拶をすると、ライバールはミドリを背後に隠すように動きつつ、即座に腰の剣に手をかけて身構えた。だがアランの方は特に身構えることもなく、そのまま小さく肩をすくめて話を続ける。


「てか、やっぱり生きてやがったか。普通に考えりゃ、絶対あの場で全滅してるはずなんだが……しかもドラゴンの子供まで連れてるじゃねーか。一体どんな手品だ? まさかドラゴンと交渉したわけじゃねーだろ?」


「テメェには関係ねーだろ」


「一匹のドラゴンを奪い合って剣を交えた仲だってのに、つれねーなぁ」


「…………チッ」


 飄々とした態度を崩さないアランに、ライバールは思わず舌打ちをする。


 ライバールのこれからの予定は、「自分達が死んだと思われている」という前提のもとに組まれていた。だからこそ町に入らなかったし、今もこうして街道からやや外れたところを移動している。


 だがその前提が、今あっさりと崩れた。そうなると今度は自分一人でミドリを守らなければならないわけだが……


(コイツと一対一なら何とかなる。でももし部下を連れてたら……)


「ん? ひょっとして部下を探してんのか? ならここにはいねーぜ? 今頃はドラゴン討伐部隊の方に組み込まれてるだろうからな」


「……? どういうことだ?」


「どうって、お前だって知ってるだろ? いくら角なしの個体だからって、ドラゴンなんざ野放しにしたらどんな被害が出るか――」


「そうじゃねーよ! お前、ミドリを……俺のドラゴンを奪いに来たんじゃねーのか?」


「何で?」


「何でって…………?」


 意味がわからず眉根を寄せるライバールを見て、アランは悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべる。


「いいか? 俺は大人だ。大人ってのはいい加減な報告なんてできねーんだ。だから俺は子爵様に、ありのまま……『成体のドラゴンと遭遇したので逃げ帰ってきた』と報告した。お前が生きてそうな気がしたってのは、単なる俺の勘だ。根拠もねーのにそんな報告を大人はしない。


 で、今の俺は討伐部隊の編成が終わるまで、休憩だ。まあ正確にはお前からドラゴンを奪えなかった責任を取らされて、一兵卒に格下げされたんだがな。なんで参加者が集まって出発するまではやることがねーんだ。


 つまり、お前を殺してドラゴンを奪うのはもう俺の仕事じゃない。大人は給料も出ねーのに仕事なんてしねーんだよ。わかったか?」


「…………? じゃあ、お前マジで何しに来たんだよ?」


「そうだなぁ……強いて言うなら、お前を見に来た、かな?」


「はぁ?」


 いよいよ以て混乱極まるライバールの様子に、遂にアランが腹を抱えて笑い出す。


「アッハッハッハッハ! そうかそうか、わかんねーか! そうだよなぁ、ガキにはわかんねーよなぁ!」


「うるせーよ! 何なんだよテメェ、喧嘩売ってんのか!?」


「はいはいはいはい! その勢いも若さだよなぁ。まさにガキって感じだ」


「ぐぅぅ……」


「キュー?」


 苦虫をかみつぶしたようなライバールの顔に、ミドリが思わず心配そうな鳴き声をあげる。そんななかひとしきり笑い続けたアランが漸く息を整えると、その腰から剣を外してライバールの方に放り投げた。


「ほれ、受け取れ!」


「うおっ!? 剣!? 何で!?」


「お前の剣、大分手入れしてねーだろ。俺と打ち合った時も相当ボロかったが、そりゃもう限界だぞ? んな鉄の棒きれ振り回してたんじゃ、ゴブリンにだって負けそうだ」


「それは……」


 自分なりの手入れはしていたものの、町に寄って研ぎに出せない状態で戦闘を続けたことで、ライバールの構える剣の状態は相当に悪かった。故にライバールは自分の手にしていた剣を鞘に収めると、アランから渡された方の剣を抜いてみる。


「……普通の剣だな?」


「当たり前だろ! 給料がガクッと下がったんだ。安物の数打ちでも中古じゃねーだけ感謝しやがれ!」


「お、おぅ……でも、何でだ?」


「お前さっきから『何でだ?』って聞いてばっかだな。ちったぁ自分で考えろよ」


「馬鹿にすんな! お前の気持ちなんかわかるわけねーだろ!」


「なら聞くな。聞いたら答えが返ってくるって信じてる時点で、お前は所詮ガキなんだよ。ほら、わかったらさっさと行け!」


「……んだよ! マジでわけわかんねーよ!」


 シッシッと手を振るアランに追い立てられ、ライバールが警戒しながらもアランの横を通り過ぎていく。そうして背と背が向き合ったところで、アランが徐にライバールに声をかけた。


「んで? そのドラゴンの親とやらには会えたのか?」


「おう。ちゃんと許可もらって連れてきた……剣、ありがとな」


「情報料だ、気にすんな」


 そう言ってヒラヒラ手を振ると、アランもまた町の方へと歩き始めた。それきり言葉も視線も交わさず二人の距離は離れていき……やがて町の喧噪が近づいたところで、アランがぽつりと言葉を漏らす。


「そうか、会えたのか……へっ」


 上からも下からも翻弄され、立場を失い給料が下がり、将来の見通しは暗い。だが自分が無くした若さの向こうにあったほんのちょっとの「いいこと」に、アランの心境は思ったよりも悪くない。


「あー、いっそ仕事辞めちまうか? で、『ドラゴンに遭って生き残った男』とかいう売り文句で、新たに就職先を探すとか……悪くねぇかもな」


 竜殺しには憧れるが、自分にはそのくらいが似合っている。強かな笑みを浮かべたアランは、そうして雑踏へと消えていった。

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