第一話 祈りの詩
はじめまして!京松克英と申します。
初作品になりますので、色々と拙い箇所あるかとは思いますが、何卒ちょっとした時間に楽しく読んでいただければと思ってます!
よろしくお願い致します!
ある日の夕暮れ時のこと。寂れた小さな教会で、少女は古い詩を歌っていた。風は踊り、白く小さき花々は揺れながら黄昏に色を染める。教会近くにあった小さな村に住んでいる者はなく、今ではもうその詩を聴く者は1人の聖騎士と1人の修道女だけだった。
修道女「リット様、あの方の歌は、本当に心が洗われますわね。」
聖騎士リット「そうですね、世界に祝福されている、、、そうだ、他に足りない物があれば、いつでも言伝をお願いします。」
修道女「ふふっ、いつもありがとうございます。このような小さな教会をいつも助けていただき、感謝いたします。」
聖騎士リット「聖騎士の務めを果たしているまでのこと、お気になさらずに。もう、暗くなる前にここを発ちます。また見回りに来ますが、どうかそれまでお元気で。」
修道女「ええ、あなた様もどうか。神の陰に宿りて。」
聖騎士リット「神の陰に宿りて。」
聖騎士は森の方へと馬を走らせ、その姿は光り輝いたかと思えば瞬く間に見えなくなった。そして少女の歌を聴く者はついに修道女のみとなった。少女は歌いながらそっと腹部に手を当てる。小さな命は歌を揺籠に、すやすやと眠りについているようだ。一瞬、風が強く吹いた。
少女「きゃっ」
修道女「そろそろ闇の神様がいらっしゃいますわ。冷えますし聖火のそばにまいりましょう。」
少女「ふふっ、そうね、、、行きましょう。」
2人は寄り添うように教会の中へと入っていく。それは運命の輪が大きく廻る前日、少女達が心から笑えた最後の日の、幸せな風景だった。
その日聖火の前で、言いにくそうに少女から妊娠していることを打ち明けられた修道女は、それまで浮かべていた穏やかな笑みを完全に消し、声を震わせる。
修道女「せ、聖女様、、、その、、、お相手を伺ってもよろしいでしょうか、、、?」
聖女リア「ごめんなさい、それは、、、言えないの、、、。この子は私だけで産むつもりよ。ただ、あなたにだけは伝えておかなきゃと思って、、、その、神殿には、、、。」
修道女「ええ、分かっています。何か、手を考えなければ、、、なりませんね。詳しいことは後で、、、まずは、、、口の硬い者たちをここに呼び寄せましょう。必要になるものもあります、後でリット様に言伝を、、、風の精霊様にお願いできるでしょうか?」
聖女リア「それはもちろんよ、その、本当に色々とごめんなさい、正直に話すべきなのに、、、。それと、ありがとう、、、。」
部屋から出て後ろ手に扉を閉めた修道女の瞳はまだ揺れたままだった。外は薄闇に包まれ、廊下は暗い。風がステンドグラスに当たり小さく軋む。足元にぽつっ、と何かが落ちた音がした。ぽつっ、ぽつっ。強く噛み締めた唇から、黒い血の涙が流れていた。
修道女「あら、いけないわ、、、。早く、、、そうね、早く報告しなくては、、、。」
その頃、主人公の伊丹大(以下マサル)は天界にあるライブラリの中でもぬけの殻と化していた。
マサル「んな、、、あほな、、、」
ポテッとした体型だが肌のツヤツヤとしているマサルは40歳の時に生活習慣病で亡くなった。オーダースーツは何度オーダーし直したか分からない。30歳で痛風になった時に1度本気で自身の健康を心配したのだが、可愛い妻と娘が一緒に作ってくれた料理を残すわけにはいかず、実業家としての仕事も順調、運動なんて言葉とは仲良くできるはずもなかったのだ。しかしながら、その呟きは不養生による死に対してではない。生きていたら知りえなかったこと、知りたくなかったこと全てに対してだった。
天界のライブラリではその人生で記録された全ての事象を、その人の気が済むまで閲覧することができる。最初は思い出を振り返るだけのつもりで、そんなに時間はかからないとマサル自身思っていたのだが。なんと、記録された全ての事象はVRよろしくマルチアングルだった。
マサル「えっ。もしかして、、、これ他人の生活も覗けるんちゃうの?」
まさかな〜、なんて言いながら高校時代を振り返っている時、好きだった子についていったら、その子の家の中まで余裕で入れたのだった。そう、インビジブルな世界である!
マサル「いや、これは、、、!時の勇者になるしかないやろ〜!」
と、最初こそマサルは意気揚々とあちこち犯罪レベルで覗き見していたものの、ふと、あることに気づいた。そもそも、今の自分には身体が存在しない。精神がどれだけ欲を満たし興奮してもそのはけ口がないのだ。そう、「なんかすっきりしない」し満足とは言えないのである。
マサル「そういや、俺、、、仕事ばっかりやったなぁ。愛しの妻は、、、寂しくなかったんやろうか、、、。」
ぽつりと考えた瞬間、マサルはライブラリ内を瞬間移動した。目の前で光る本を手に取ると、そこにはリアルにインビジブルだった世界が広がったのだった。