魔法を失敗したのでサーシャは早く魔法を解きたい!!
悪役令嬢シリーズ第四弾!を作ろうと思ったのですが書いてるうちに全くの別物になってしまいました…。どう考えても悪役令嬢じゃないですね…。
「レオン、おはようございます!今日もレオンは本当にカッコいいですね‼︎特にスッと通った鼻筋と…」
「サーシャ、急いでるから先に執務室に行く」
そう言ってレオンはスタスタと歩いて行ってしまった。
あぁ〜、またやってしまった‼︎
私、サーシャは自分でも引いてしまうくらい婚約者であるレオンのことが大好きだ。顔を合わせれば反射的に拝んでしまうし、とにかく口から賛美の言葉がとまらない。
そんな私に対してレオンは毎日塩対応だ。正直私のことを好きかどうかもわからない。
「でも、好きかどうかなんて関係ないもんね‼︎私は毎日愛を伝えるだけで満足だもん!」
ふんふふーんと鼻歌を歌いながら歩いていると、ひと気のない庭園で先に執務室へ行ったはずのレオンの声が聞こえてきた。
あ、あれはレオンと親友のノースじゃない!
「お前、よく疲れないな…」
「まぁ、一応婚約者だからな」
思わず聞こえてしまった2人の声に足を止める。
「サーシャ、正直面倒じゃないか?」
ノースのその言葉に背中が凍りつくのを感じた。
え、え、私の話⁉︎
「正直さ、お前らのこと見てると2人ともだけど哀れになるよな。サーシャからしたらこんなに愛してるのに全く反応はないし、レオンからしてみれば無理矢理作らされた婚約者に毎日追いかけられて面倒だろうし。恋の温度差が縮まればもっと楽にいきれそうだけどなぁ…」
その言葉を聞き、私は急いで城を後にした。
自分の部屋にこもると私はゆっくりと頭の中を整理する。
私の愛は、レオンにとって迷惑でしかなかったの?
今すぐ考えを放棄して泣き出してしまいたいがグッと堪える。
たとえ、レオンの迷惑になっていたとしても婚約破棄する気だけはさらさらない。だが顔を合わすたびに賛美の言葉を言うのも会いに行ってしまうのも全部止めることはできない。
どうにか婚約破棄せずに迷惑をかけなくさせる方法は…。
「あ、そうだ!」
急いで書庫に向かい、一冊の本を取り出す。古くカビ臭い本の表紙には「奇妙な魔法」というタイトルが書いてある。この本は一時期すごくハマって読んでいた本だ。
「確かここら辺に…あった‼︎」
『相手を好きでなくなる魔法』というタイトルのページを開く。
「別に嫌いになりたいわけではないから、効果は半分くらいにしたいわよね…。あ、材料のケーウの葉っぱを半分くらいにしたらうまく行くんじゃない?」
薬草箱からケーウの葉っぱを基準量の半分ほどとると飲み込み、本に書いてある通りに魔法をかける。
「セナヤツアハラヤハカヤ」
あれ?そういえば、私、親から確か魔法禁止令出てたような…昔のことすぎて忘れてたけど。
そう気づいた時にはもう遅く、私の体は光に包まれ魔法がかかってしまっていた…。
私は魔法の効果を調べるためにレオンのいる城の執務室へ向かいながら昔のことを思い出す。
あー、そうそう、思い出してきたわ。確か、私って昔から魔法がすっごく苦手だったのよね〜。雨降らす魔法をかけたら周りの草木が全部枯れたし、パーティーでちょっとした炎の魔法を使おうとしたら偉い人のヅラを風で飛ばしちゃったし…。ま、あれから何年も経つし大丈夫っしょ!
特に気にすることもなく私は執務室へつくと思いっきりドアを開けた。
「レオン、今まで散々私のことを適当にあしらってくれたわね!」
「「っ⁉︎」」
はい?今の言葉、誰から?
部屋にはレオンとノースと私だけ。
あれ?聞き間違いかしら?
「大っ嫌いよ、レオン。今後一切あなたとは関わらないわ!」
現実逃避するのはやめましょう。さっきから聞こえるレオンをめちゃくちゃに言ってるのは完璧に私です…。
「サーシャ、どうしたんだ?」
「…レオン、あなた頭大丈夫?さっき今後一切関わらないと言ったばかりよね?じゃあね、あなたとは顔も合わせたくないわ!」
私が何かを考える暇もなく私の足は勝手に動き執務室から出ていた。
この時私は、魔法が失敗したことを自覚するほかなかった…。
「おい、本当に何があったんだよ!ついこの間まではいつも通りだっただろ⁉︎」
ノースが俺に聞いてくるがそれは俺が聞きたい。
絶交宣言されてから数日経ったがその間一回もサーシャは城に来ていない。今までは少なくとも1日に3回は来ていたにもかかわらず、だ。
「やっぱり完璧に愛想つかされたんじゃないのか?お前すっごい塩対応だったし…」
「ちょっと休憩してくる」
ノースの言葉をこれ以上聞きたくなくて急いで執務室から外に出る。
あの日からずっと何が原因か考えていたがあの日は特に変わったことはなく今までどおりだったと思う。ということは、やはりノースの言った通り今までの行いのせいなのか?
よく考えてみればサーシャに何かプレゼントをしたことは一度もないし、執務が忙しく、それこそデートをしたこともない。いや、よく考えれば俺から会いに行ったことも話しかけたこともない。
いやいや、まとめてみたら相当ヤバくないか、俺。
自分の行動に頭が痛くなり瞑目すると柔らかなサーシャの微笑みが浮かぶ。
あぁ、そうか。俺、サーシャのことが好きだったんだな…。
いつでも女性は同じだと一括りにしてサーシャのことをきちんと見ていなかった。まさか向こうに嫌われてから気づくだなんて。
「バカだなぁ、俺」
急いで執務室に戻りノースに聞く。
「女性に謝るにはどうしたらいいと思う?」
するとノースはニヤニヤしながら答える。
「もちろん、プレゼントっしょ」
あぁ、レオン不足だ…。
あれから何度も執務室へ行こうとしたが足が勝手に動いてレオンに会いに行けない。恐るべき魔法である。
「サーシャ様、レオン様がいらっしゃいました!どうなさいますか⁉︎」
レオンが⁉︎私の家に⁉︎
今までレオンが私の家に来たことなどないからメイドのテンションもものすごく上がっている。もちろん私もだ。
喜んで会うわ!と言おうとした瞬間、口が勝手に動き出した。
「あんなやつと会うだけ時間の無駄よ。追い返して」
メイドたちがピキリと固まる。1人のメイドが近づき私のおでこに手を当てると呟く。
「熱はないですね…。珍しく喧嘩でもしたんでしょうか?」
「別に。逆になんで今まであの人のことが好きだったのか不思議なくらいだわ」
何言っちゃってるの、私‼︎
あわわわと心の中で慌てていると、ドアが勢いよくあいた。
「サーシャ!」
「レオン⁉︎」
レオンはメイドたちに部屋を出るように伝える。メイドたちが出て行ったのを確認して私は口を開く。
「何のようですか?女性の部屋に許可を得ず入るなんて無作法ではなくて?」
スッと私の顔は青ざめる。
この魔法いつ効果がきれるの〜⁉︎
確か本に書いてあったはずだ。思い出せそうで思い出せない!
「サーシャ、実は伝えたいことがあるんだ。今までずっと蔑ろに扱ってしまい本当にすまなかった」
ズキューン‼︎
「惚れ直しました‼︎」と叫ぼうとしたが口はパクパクと動くだけで声が出ない。
「これを受け取ってくれないか?」
沢山のバラの花束を手渡され思わず頬がそまる。
「あ、その、あの…」
魔法の力を持ってしても悪口が思いつかないらしい。
「あと、もう君は俺のことを嫌ってるだろうが伝えたいことがある」
「さっきから一方的に話しすぎですわ!早く帰ってください!」
「お願いだ、これだけ聞いてくれ!」
フワリとバラの香りが漂うと同時に私の頭の中でカチリとピースがはまる。
あぁ、そうだった、確か魔法を解くには愛が必要って本に書いてあったっけ…。
「サーシャ、俺はお前のことが好きだ」
その瞬間呪縛が解けたように体が軽くなる。
「私もです‼︎」
バッとレオンに抱きつくとこの数日言えなかった賛美を喋りまくる。
「その顔だけでもう好きだって言うのにわざわざ今までのこと謝りにくるとか完璧すぎます!私を殺すつもりですか⁉︎その上、プレゼントにバラの花とか乙女心理解しすぎです‼︎それに、それに…」
「も、もういい…」
あ、魔法が解けちゃったしいつも通り塩対応されるんだろうな。
ちょっと胸を痛めながら顔を上げると…。
「レオン⁉︎大丈夫ですか⁉︎顔、真っ赤ですけど!」
いやぁ、熱が出て顔が真っ赤なレオンもなんて眼福な…いやいや、その前に冷やすものを…。
急いで冷たいものを持ってこようとドアノブに手をかけた私をレオンが遮る。
「これは、その、違うんだ!熱が出たわけではない!」
じゃあ、何なのでしょう?
「これはだな、その…なんでもない」
あ、誤魔化された。誤魔化すということはまだ私に心を開いていないと言う証拠!やっぱり魔法の力を使っても無理だったかぁ。いや、でもさっき好きと言ってくれたわよね⁉︎一歩前進じゃない?
突然黙り込んだ私を不思議そうにレオンが見つめる。
「どうかしたのか?」
「レオン、私決めました!もっとレオンに好きになってもらえるように、今まで以上に話しかけようと思います‼︎」
「は⁉︎」
その後、恋を自覚したレオンが、今まで以上に好意を伝えてくるサーシャにより、頬を染めるところを見てしまったノースが爆笑するのはもう少し後の話である。
読んでくださりありがとうございました!!
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