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【先月号までのあらすじ】

 阿須川アスカは独身25歳の女性会社員。長らく彼氏ナシの状態で、楽しみといえば、読書、そして飼っている猫と遊ぶこと。先々月から営業2課に配属となり、営業職の独身27歳、国府田コウタの営業サポートに就いている。何かと仕事に注文を付けてくるコウタに、苦手意識を持っていたが、ミスを庇ってくれたことで、印象が少し変わった気がしてきたのだった。そんなある日、会社から帰ったところ、部屋に死体があるのを発見。驚いて部屋を飛び出してしまうが、近所のコンビニから偶然出てきたコウタとばったり出会う。事情を説明し、一緒に部屋に来てもらうが、死体は消えていた。しかし、消えた死体は別の場所から発見され……。

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「おい、一斉メール、見たか?」


 パソコン作業中のアスカに、コウタが声をかけてきた。


「見ました。どうしてこんな時に限ってトラブルが起きるんでしょうか。もう、朝から天手古舞ですよ。あ、国府田さんの本日のスケジュール、変更なしでいいですね。」

「そうだな。10時に出るから、それまでに書類の再確認しとく。あ、キノエ物産の田原坂さんから連絡かメールが来るかもしれないからチェックしといて。で、アレ、どうなった?」


 コウタは、最後の部分だけ、声を潜めてアスカの耳元で囁いた。


「アレ? ってアレですよね。」

「そうだ、アレだ。」

「……また、部屋に出現しました。」

「まじか? また? で、まだ部屋にあるのか?」

「朝、出てきた時にはありました。」


 アレとは、死体である。


「最初に見つけたアレが、一旦、移動して、また、部屋に戻ってきたってことか?」

「いえ、最初に見つけたアレは、隙を見て、処分したので、今朝、部屋に出現したアレは、別ものなんです。」

「あ゛、それ、新しく出現したアレも処分したのか?」

「いえ、時間が無かったのと、朝から触りたくなかったので放置してきちゃいました。」

「それヤバくない?」

「ですよね。今、猛烈に後悔してます。」


 アスカは頭を抱えた。


 コウタは、アスカの頭を軽くポンと手を乗せ、言った。

「会社終わったら、一緒に見に行ってやるから。あと、そうだな……。まあ、まずは仕事だ。頑張れよ!」


 朝から起きていたトラブルは何とか業務時間内に解決したようだ。アスカも、自分の本来の仕事以外の業務を振り分けられたりはしたものの、残業しなければならないほどのことはなかった。


 コウタが出先から戻ってくるまでには少しかかりそうだったので、キノエ物産について調べものをして時間を潰すことにした。営業2課が関わるキノエ物産との業務提携は、これまで無かったのだ。コウタが紹介してもらった田原坂さんという人は、向こうの社内でそれなりに影響力があるらしい。本格的に狙うとなれば絶対に必要となる作業だ。前もって開始したところで無駄にはならないはず。

 ちなみに、今日は、電話もメールも向こうからは来なかった。


「ふう~ん。いまいち何やってる会社なのか分からなかったけど、あのチョコレートイベントとか、コンビニスイーツで有名になった海外スイーツの発信元はここだったんだ。海外コスメとかも扱ってるし。でも、うちの課が関わるとしたら資材関係だろうな。住宅用建材に……、公共事業関連も調べておいた方がよさそう。ああ、これ、資料作り早めに開始しとかないとヤバいわ。また、怒られる。」


 アスカはぶつぶつと独り言を言いながら、新しいホルダーを作って、必要かもしれないデータを放り込んでいった。

 いつの間にか、同室の社員は1人、また1人と出ていき、気が付けば今日のトラブルで一番影響を受けていた部門に直接関係する社員しか残っていなかった。


「あれ? 阿須川さん、まだ残ってたの。阿須川さんて、例の件、直接には関与してなかったと思ってたけど……。」


 直接関与していたせいで、早々に残業が決まっていた須野原ノアが声をかけてくる。


「ちょっと、国府田さんに直接訊きたいことがあって、待ってるんですけど、なかなか帰ってこないんですよ。どうしようかな?」

「何々? お姉さんに話してみなさいよ。ん?」


 まさか死体について相談しているとは、話せない。


「国府田さん、キノエ物産との大型契約狙ってるみたいなんですよ。ただ、私が大きい所との仕事、これまで経験が無くて。」

「ああ、なるほどね。阿須川さんて2か月くらいだっけ、国府田君に付いてから。頑張ってると思うよ。前任者なんて……、おっと、あんまり言っちゃいけないな。」


 確かコウタとノアは同期入社だったはずである。


「阿須川さん、遅くなった、悪いっ。」


 部屋のドアが開けられるのとほぼ同時に、コウタの声が飛び込んできた。走ってきたのか、息が上がっている。


「お茶淹れますか?」

「いや、冷たいのが欲しい。何か、自販機で買ってきてくれる?」


 アスカは、パソコンを放置したまま、自販機のある下の階へ向かった。気のせいか、ノアがウインクしてみせたように見えたが、何を意味しているのかは、さっぱり分からなかったのだった。


「缶コーヒー買ってきました。」

 

 アスカが、部屋に残っていた社員とコウタの分の缶コーヒーを抱えて戻ると、コウタは、アスカのパソコンをいじっていた。


「離席の際には、きちんとロックしとく。減点な。」

「勝手に他人のパソコン触るのは減点じゃないんですか?」

「まあまあ。阿須川さんが、キノエ物産に関する資料作りについて悩んでるみたいだって言っちゃったの、私なんだ。余計な事、言っちゃった? コーヒー、ごちで~す。ねえ、阿須川さんが缶コーヒー買ってきてくれたよ~。」


 ノアは、他の居残り社員に声をかけた。

 コウタはすかさず“無糖”と表示された缶をひょいと摘まんだ。そして、それを見たノアは残りの缶をまとめて両手で抱え、他の作業中の社員がかたまっている区画の方へと運んでいってしまった。


「あれ? 自分の分は?」


 コウタはひとくち飲んだ後、アスカに訊ねた。


「1人で抱えて上がってこなきゃならなかったので、1本でも少ない方がよかったんです。」

「そっかぁ、悪かった。飲む?」

「いえ、無糖は飲めません。」

「あそ。とりあえず、こっちとこっちのデータ、近日中にまとめておいて。目の付け所は悪くない。」


 コウタは残りのコーヒーを一気に飲み干した。部屋の空き缶回収ボックスの方へ空き缶を入れに行き、財布の中身を確認しながらアスカの方へ戻ってきた。

 アスカは、コウタが一応評価してくれたらしいことにホッとしたが、この後の事を考えると、気分は晴れない。


 部屋には死体が待っているのである。


「はい。」

「何ですか? 缶コーヒー代ならいいですよ。これから、アレのためにお付き合いいただくわけですから。」

「なら、もう少し高いもの頼めばよかったなあ。まあ、アレが片付いたら、せいぜい、こき使ってやるから、それでチャラか。」


 コウタの不穏な口振りに、アスカはますます、残念な気分になってくる。

 何で、こんなことになっちゃったんだろう?


「これ、渡しとく。資料作りの参考になると思うから。5分で支度しろ。出るぞ。」


 コウタからUSBメモリを手渡されたアスカは、鍵付きの引き出しにそれを入れ、すぐさま、パソコンをシャットダウンした。

 すべては、アレを片付けてから、なのであった。

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