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93話 ───彼方へ


 時は遡り、早朝───


 太陽が未だ半分も昇っておらず、冷たい空気だけがこの場所を支配している。

 この場所には───幾つもの樹が折り重なり、螺旋状に伸びている大樹がある。

 それは、世界の均衡を保つ役割を持つ存在(もの)───世界樹(ユグドラシル)

 その世界樹の枝は蒼天(そら)に亀裂を入れるかの様に伸びている。

 すると、風が───いや、強風が吹く。

 刹那、淡く光る楕円形の葉が擦れ合い、大自然の音楽(メロディー)を奏でる。

 そして、彼はこの樹の枝に腰を下ろし、自然が奏でる音に耳を傾けつつ、グラスに入った水を飲む。


 「やはり……」


 彼は肩を窄めてそう言った。

 彼は風を司る聖霊にして天棲聖霊(リョースアールヴ)の1人である。

 そして人々は彼を、風神と呼ぶ。

 彼が人間界で使用する仮の名前はクーペ。

 茶色の短髪で毛先は白色、背中には鷹の翼が生えている青年。

 白と黄を基調とした涼しげな服に身を包み、翠の葉の装飾品が胸元についている。

 

 「“水”が不味い……」


 クーペがそう呟き、城塞を見下ろす。


 「それはセラちゃんの水ッスよ〜? そんなに不味いんスかぁ〜?」


 にまにまと笑いながら私が彼に問いかける。


 「黙れ。アニマ」


 「酷いッスね〜、クーちゃんは……」


 「おい、僕のことをクーちゃんと……あ」


 「ぷぷ、クーちゃん……口調が戻ってるッスよ〜? ”僕“に……」


 まただ。

 こうやって、いつも僕をいじめてくる。

 ネロ様に報告してやろうか……。


 「そんなことより!」


 「あっ! クーちゃん、話逸らすの下手ッスね〜」


 いい加減、ウザいな……。

 少しだけ飛ばしてやるか。


 「はぁ……わかった。少し黙れ」


 その瞬間、アニマが目を見開く。


 「ちょ、ちょ……! 目がマジなんスけど!? まさか……!」


 「あぁ、その通りだ。喜べ、アニマ」


 僕はそう言い立ち上がる。

 アニマは理解したのだろう。

 今から自分の身に起きる事を……。


 「タンマ! タンマッス!」


 僕は、アニマの言葉を無視し、1歩ずつ歩いていく。


 「後悔しても、もう遅いんだよ。じゃあな───“神渡し”」


 僕は右手の人差し指をアニマの額に接触させる。

 その瞬間、辺りを轟音が支配する。


 「ちょーーーーうわぁあああ!!」


 刹那、アニマが叫ぶ。

 だが、途方もない風力をその身に受けている為、その叫びは誰にも届かない。

 そして、僕からどんどん距離が離れていく。

 その数秒後には見えなくなった。


 

 僕はそっと樹の枝に腰を下ろして呟く。


 「自然の不浄なる存在(もの)を浄化する事が僕の───いや、私の役割なのだから……」


 

 *   *   *


 

 テオスの(いえ)にて───


 ネロの元に緊急の連絡が来る。

 その内容は、精霊界(エデン)内部に侵入した者が居る、との事だった。

 そして、ネロは知る事となる。

 “苦痛”という感覚(もの)を───……



ネロが知る事となる苦痛とは?

最後まで読んで頂き有難う御座います!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今まで苦痛を知らない者が苦痛を知ることによって得られる栄養素がある 風の精霊って存在してるだけでも風流っすね 風魔法使っているだけでも映える!!! からかわれてブチギレてるって状況でもい…
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