119話 葬送の儀
暗い部屋。
その部屋を静寂が支配している。
体内は普段より熱く、気分が悪い。
先程まで、歩けていたのが不思議な程……体が動かない。
そもそも、動かしたらいけないんだけど……。
私は今、ベットに横になっているから、本来は動いてはいけない。
リルがさっき部屋を出て行ってからどのくらい時間が経ったのかな?
ペタ、ペタと音が聞こえる。
それと同時にコツン、コツンという音も聞こえる。
リルと誰だろう……?
この部屋は無音の為、周囲の音がより聞こえる。
いや……私の聴覚がより敏感になっている。
誰だろう?
あ、バエルかな?
バエルは一応、医者だから……
扉がキィと音を立てながら開く。
僅かな隙間からは薄暗い光が漏れ出ている。
そこからこの部屋に入ってきたのは───
「アーテル……?」
「あぁ、【偉霊降誕】によって作られた俺の分身体だがな」
「そうですか。という事は……」
「あぁ、そう言う事だ。俺の全てを代償に姉を助ける。まぁ……リルが手伝う、という前提条件があるがな……」
「そうですか……」
私は頷き、微笑する。
「もういい、喋るな。神経を麻痺させるのとネロ……お前を眠らせる為に魔法を使う。状態異常耐性をオフにしてくれ」
「はい……」
私が首肯すると……
仰向けになっている私の視界にアーテルの右手が入ってくる。
そして、視界の端に紫色の淡い光が映る。
私はその瞬間、瞼が重くなるのを感じた。
「宜しくお願いします。アーテル……」
「あぁ……任せておけ。姉さん……」
ふふっ……久しぶりにそう言われた気がします。
そう思ったの最後、私の意識は途切れた───
* * *
ネロがすやすやと寝ているそのベッドに俺が立っている。
そして、横に居る人物が俺に向かって言葉を発する。
「ふ〜ん……姉さん、ですか。テル兄も覚悟出来たのです?」
そう言うのはリルだ。
リルに表情は、俺を嘲笑う様にニマニマと笑っている。
コイツ……殴り飛ばしてやろうか。
それに───
「口調が戻っているぞ。リル……」
俺は、憐れみを声に乗せてそう言った。
「あっ! そうだったのです!」
そう言って、頭を抑える。
口調を元に戻そうと頑張っているのだろうか?
いや、これは、思い出そうとしているだけだな……。
「もう、いいのです! 面倒なので!!」
「そうか、好きにすれば良い」
本当にリルは大雑把だな……。
「あ、良いの! じゃあ、後は宜し───」
俺はリルの黒を基調として金色の装飾が施された衣服を掴む。
「ちょっと……待とうな、な? 言いか、リル。姉さんの体が毒素に侵されているんだ。いい加減巫山戯るのはやめような!」
俺が普段、大声を出さないからか……本気でビビっているな。
俺にビビるのであれば……絶対にルフスは怒らせないだろうな……。
今はそんな事はどうでも良いな。
「わ、わかったのです……」
シュンとなっている。
その証拠に耳と尻尾が垂れ下がっている。
流石に、言い過ぎたか……?
いや、大丈夫だな。
早くその手を退けろ、と言いたいのかジタバタと暴れる。
まぁ、良いさ。
俺はもう、消えるんだ……。
「“俺”に宜しくな」
俺は出来る限りの笑顔をリルへ見せた。
「分かっているのです! では行くのですよ!」
「あぁ……準備は出来ているさ」
姉さん、皆と仲良くしてくれよ。
兄さんが好きなのも分からなくも無いけど、俺達は血の繋がった兄妹なんだ。
残酷な事を言うかもしれないが……その願いが叶う事は無いのだから。
まぁ、父さんと母さんが嘘をついていたのなら、話は別だろうがな。
家族の中で、ネロだけが髪の色が……あ、それはアイツもだな。
なら……ネロとアイツは血が繋がっていない可能性も───……
「其は魂。其は清浄なる霊魂。今、楽園への道を閉ざし“死”を冒涜する道へと導く! 発動───【死冒涜儀】!!」
あぁ……。
俺の体からあらゆる力が抜けていくのを感じる……。
これが、魂の消滅か。
死を、魂を、肉体をとても大事にするこの世界において……魂の力を使い治療する事はそれら全てに対する冒涜。
リルや姉さんが使いたくないのも頷ける……。
そして、アーテルの魂はネロの治療の為に利用される。
(テル兄……大丈夫だから。その権能は、魂の霊力、魔力、神力だけを吸収するだけだから……魂そのものには影響は無い。だから……安心して逝ってね)
「バイバイ、テル兄……」
下を向き、声が今まで以上に細くなっている。
それに、この感じは泣いているな。
はぁ……本当に、自分を偽らずに話せば良いものを。
「えぇ、姉さんの事は任せましたよ。それに、暫くしたら“俺”も来るだろうから……」
「うん、わかった……」
小さくそう言い、頷く。
はぁ……本当ならこんな所で妹を1人にしたくない気持ちはあるが、それに従ってしまっては逆に怒られてしまうからな。
それに……“死”と“滅び”は幾ら我等であっても逃れらぬもの───そして、それは兄さんにも言える事。
だからこそ、それから逃れるには姉さんとヴェルの許可が必要になる。
「またな、リル……」
「はい、なのです……! また、なのです!」
リルは涙を拭い、俺を見つめ満面の笑みで笑った。
フッ、俺の意識は俺だけの物。
“俺”と同じ性格だが、経験だけは分身体しか知らぬ物。
この記憶は、この思い出は誰にも知られたくないな。
そして、アーテルの魂は……特別に世界の外に存在する永劫不変の“輪廻の輪”へと向かう事が出来た。
「うぐっ……うぐっ……! テル、兄……!!」
その漆黒の部屋には、泣き崩れるリルとすやすやと眠るネロの姿だけだ。
だが、リルはその気持ちをぐっと押し殺す。
そして……ネロの治療を開始する───
アーテルの献身によって回復するネロ───
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