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アンロッカーズ  作者: ikut
第2章「冒険者養成学校」
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第2章 第10話「仲間(パーティー)結成!」

 あの満月の夜から、十日ほどが経った。

 授業が始まる前に、ビスタが生徒たちの前で話していた。


「あー、課外演習が決まった。

 二週間後。アルトリアでも辺境に位置する、とある村まで行くぞ。

 演習の内容としては、素材収集。冒険者の基本だな。そんなに危険はないが、多少の魔物は出る。講師陣サポートの下、実戦も経験してもらうからそのつもりで」


 途端にざわざわと騒ぎ出すクラス内。


「それと、演習にあたり、四~五人の仲間(パーティー)を組んでもらう。

 三日後までに、ムーリオ先生まで編成を報告すること。

 実際の冒険者仲間(パーティー)となると、前衛後衛、攻撃と支援といった役割バランスが重要だが、まあこのクラス限定の話だからな。バランス云々よりも、連携が取りやすいかどうかでメンバーを決めてもらって構わない。以上!」


 そう言うとビスタは教室を去り、入れ替わりにマノン先生が入室する。

 今日は一般教養の講義だ。

 しかし朝の突然の知らせに、生徒たちはやや浮足立つ気分のまま授業を受けることとなった。


 そして昼休み。


「アレン、ちょっと来てくれ。話がある」


 ビスタがアレンを呼んだ。


「はい、何でしょう」


 ビスタはそのままアレンを別室へと通す。


「話というのはな。タイガ君のことなんだ」

「……タイガの?」


 内心ギクリとするアレン。


「ああ。

 まあ、勿体付けてもなんだからぶっちゃけて言うが、彼、暴狼(バーサクウルフ)だろう?」

「……バレてましたか。

 やっぱり、まずかったですかね?」

「いやいや、そういうことじゃないんだ。

 気づいたのは、君たちが郊外で魔法の修練をしているのをたまたま目撃したからなんだが、これまで人間に危害を加えてないし、アレンともいい関係を築いているみたいだからな。

 俺はとやかく言うつもりはない」

「ああ、よかった。

 でもそれじゃあ、何でタイガの話に?」

「今朝も言ったが、今度課外演習があるだろ。そこに、タイガ君も連れていったらどうかと思ってな」

「タイガを?」

「ああ。

 冒険者にはな、【飼育(テイム)】と言って、動物や魔物を手懐けて戦力にする【才能(タレント)】を持っている奴もいる。レアだがな。

 アレンも、冒険者になるのであれば、タイガ君とタッグを組むという選択肢もあると思ってね。そうであれば、この学校にいる時から一緒に行動する訓練をしておいた方がいいだろう」

「そんなことが……。俺としては、かなり心強いです。タイガが良いと言えばですが」

「そうか。まあ、考えてみてくれ。

 ただし、今度の課外演習に連れてくるのなら、一つ条件がある」

「条件?」

仲間(パーティー)を組んでもらうって言ったろう。

 最低限、その仲間パーティーメンバーと、タイガ君が暴狼(バーサクウルフ)であることを共有すること」

「つまり、タイガの正体を明かせ、と?」

「ああ。そうしないと授業が立ち行かないからな。

 もちろん拒否してもいいぞ。今回は見送るってだけでもいいし、卒業まで秘密にしてもいい」

「……まだ誰と仲間(パーティー)を組むか決めていないので、今は何とも……」

「そうだろうな。

 タイガ君の件は、演習の直前でもいいから、どうするか決まったら俺に教えてくれ」

「わかりました。ありがとうございます」


 そう言ってアレンは、部屋を後にした。


仲間(パーティー)、か……」


 --------------


 それから三日後。


「それでは、新しいパーティー結成を祝して、かんぱーい!!」


 ソニアが明るく音頭を取ると、アレンも「乾杯!」と杯を返す。

 「かんぱーい!」と明るく叫び返すヨウダイと、無言で杯を傾けるドラコ。


 結局、なんだかんだで普段行動を共にするメンバーと仲間(パーティー)を組むことにしたのであった。

 するとソニアが「親睦会をしよう」と言い出し、四人は寮の食堂に集まっているのである。


「改めて、これからよろしくね」


 とアレン。


「おう。まあ、仲良くやろうぜ」

「こちらこそ、よろしく」


 その後、皆は様々な話をしながら、和やかな時間が過ぎていった。


 会話の中で、ふとヨウダイが言う。


「しかし、初日から思っていたが、才能(タレント)がないって、そりゃまた大変だろう。

 よくみんなの前で宣言したな」

「ああ、俺の目標は、才能(タレント)がなくても立派に生きていけるって証明することなんだ。だから、隠す必要なんてないし、むしろ知ってほしかったのさ」

「なるほどね。そりゃ立派だ」


 ヨウダイは一息ついて、話を続ける。


「これからは仲間なんだ。俺のことも伝えておこう。

 アレン、真星流って知ってるか?」

「剣の?俺の実家は料理店なんだけど、真星流の剣技を使う冒険者は何人もいたよ」

「ああ、その真星流だ。剣に関しちゃあアルトリア王国最大の流派。

 俺はその真星流の跡取りさ」

「そうなのかい?そりゃ、すごい生まれじゃないか。だからあんなに強いのか」

「とは言え、でかい流派だからな。現筆頭には、まあ俺の親父のことだが、妻の他に妾が何人もいてな。俺は妾の子の一人さ。筆頭の血を継ぐ子供が何人もいて、その中でいちばん有力な奴が跡を継ぐ。そうして流派を守ってきたんだ。

 もちろん血の繋がりがなくても、適任が居れば筆頭にはなれるらしいけど、子供たちは小さい頃から真星流の英才教育を受けるわけで、外部の人間が筆頭になるのは稀だな」

「そうなんだ。大変だね」

「そんな中で俺も筆頭を目指して剣の修行に明け暮れてきたわけだが、「洗礼の儀」で出た【才能(タレント)】はまさかの【槍技】!

 将来性がないってんで、一族から爪弾きにされた結果、ここにいるわけだ」


 笑いながらあっけらかんと言い放つヨウダイ。


「でもよ、俺は諦めたわけじゃねえ。

 【才能(タレント)】が剣と関係なくても、俺が一番強くなって、真星流を継ぐ。そのために今は冒険者学校で経験を積んでいるんだ。

 そういう意味ではアレン、俺とお前は似ている気がするよ」

「うん、そうだね。頑張ろう!」


「……ふん。強くなりたいのなら、最短を行くべきだ。剣にこだわらず、持って生まれた才能(タレント)を伸ばすことの何が悪い」

「何だと!剣じゃなきゃ意味ねえんだよ!」

「……」


 ドラコは口を噤んだ。


 普段なら、この後更なる応酬があって喧嘩に発展していたところだ。

 しかしヨウダイも、身構えていたところ予想外に反撃が来ず、肩透かしを食らった気分になる。


「俺はな」


 しばらくの沈黙ののち、ドラコが口を開く。


「<洗礼の儀>を受けていない。

 詳しい事情は省くが、両親を早くに亡くして、一人生きていたところをビスタに拾われた。

 とある事情により<洗礼の儀>は受けられないし、受ける気もない」

「……あんたのそんな話、初めて聞いたわ」

「まあ、他人に話したことはなかったからな。

 そういうわけで、俺は自分の【才能(タレント)】が何なのか、そもそも知らない。

 だから、【才能(タレント)】があるのにそれに苦しんでいる奴らの気持ちが、よくわからない」

「……」


 ヨウダイは何も言わない。


「すまない、せっかくの会なのに、空気を暗くしてしまったな。

 そろそろ部屋に戻るとするよ。

 アレン、明日からよろしくな。ソニアとヨウダイも。組んだからには、最善を尽くすつもりだ」


 ドラコはそう言うと、一人自室に戻っていった。


「……何だよあの野郎、言うだけ言って消えやがって。

 これじゃあ、いちいち食って掛かっていた俺もバカみたいじゃねえか」


 ヨウダイが呟く。


「わりい、俺も帰るわ。

 今日は楽しかったよ。ありがとな。これからもよろしく」

「ええ」「うん」


 三人で宴会の片づけを始めることにした。



 ヨウダイが寮を去った頃、アレンがソニアに話しかける。


「ソニア、今日はありがとね。みんなとこうして話せて、よかったよ」

「ううん、いいのよ。それよりむしろ最後があんな感じになっちゃって、ごめんね?」

「いや、気にしてないよ。みんな色々抱えてるってことさ。

 明日もあるし、そろそろ部屋に戻ろうか」


 ソニアはやや逡巡した様子で答える。


「……アレン、少し外に出ない?」




 ソニアに促されて、アレンとソニアは中庭に出た。


「私ね。小さい頃、事故で大きな怪我をしたんだ。

 馬車の前に飛び出しちゃってね。

 なかなか大きな怪我で、すごく痛かったし、怖かったのは今でも覚えてる」


 小さなベンチに並んで腰掛けた二人。

 ソニアは中庭の中央にある木を見つめたまま、独り言でも言うように切り出した。


「でも、ちょうどその時に旅の冒険者が通りすがってね。そのパーティーに治癒術師の人がいて、治癒魔法で怪我を治してくれたの。

 綺麗で、優しい人だった。

 まだ幼かったから、思い出として美化されているのかもしれないけどね。

 その人みたいに立派な治癒術師になって、たくさんの人を救うことが、私の目標」


 ほのかに風が吹き、ソニアの髪が揺れる。


「ただね。

 十五歳の「洗礼の儀」のとき私に告げられた才能(タレント)は、治癒術とは全く関係ないものだったわ。

 でも、あの時の憧れを、結局捨てきれなかった。

 頑張って何とか簡単な治癒魔法は取得できたけど、上位のものは、おそらく私には使えない。

 今はビスタ先生に、魔法を使わない医療術を教わっているわ。あの人、本当に何でも知っているのよね」


 ソニアはアレンの方を向いて笑う。


「この話、恥ずかしいからあいつらには内緒よ」

「うん、もちろん」

「あーあ。こんなことあんまり話したことなかったけど、何か聞いてほしくなっちゃったのよね。

 ドラコも、私たちの前では本当に無口で、たまに何か言っても憎まれ口ばっかりだったのに。

 アレン、きっとあなたの影響ね」

「そうなのかな。自分ではよくわからないよ。

 ……話してくれて、ありがとう、ソニア」

「アレンがお礼を言うことじゃないわ。よし、寝ましょう!」


 ソニアはそう言って大きく伸びをすると、つられてアレンも腕を伸ばし、何とはなしに空を見上げる。


 三日月が、やけに綺麗に思えた。

数あるweb小説の中から「アンロッカーズ」をお選びいただき、ありがとうございます。

おかげ様で、PV数が少しずつ伸びてきました。


よろしければ、「読んだ」という爪痕を少しでも残していただけると、作者の方が小躍りします。

感想でも☆でもいいですし、質問や悪評でも構いません。


「このお話、俺は面白いと思うんだけど、実際どうなん……??」

おそらくどの作者さんもそうだと思いますが、この宙ぶらりん状態、心理的に結構辛いものがありまして……。


その代わりと言っては何ですが、本編に関するエッセイのようなもの(≒蛇足)を、活動報告にて少しずつ公開していますので、よろしければそちらもチラ見してみてください。

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