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【書籍1巻発売中】魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~  作者: 延野正行
第4章

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90/91

第76話 魔王様、ナンパされる

☆★☆★ コミカライズ予告 ☆★☆★


お待たせしました!

「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」コミカライズが、

4月10日よりコミックノヴァにて掲載されます。


書籍のほうではすでに発表されましたが、

作画は白瀬岬先生(『神眼の勇者』他多数)に作画いただいております。

個人的にはかなりキャラ原案のふつー先生の絵柄によせていただいていると思うので、

かなり見やすくなっております。


ぜひお楽しみください。


挿絵(By みてみん)

 それは我が1人の時に起きた。


「ねぇねぇ。君、君! お兄さんと遊ばない?」


 振り返ると、「ひゅー!」という声を上げて、3人の男たちが立っていた。我の姿を見て、実に好色そうな視線を送っている。


 生憎と我は1人だ。

 ハーちゃんとネレム、エリアナは海で遊ぶ玩具を探しに行くと言って、再び海の家に戻っていった。我は場所取りだ。浜辺に多くの人族が詰めかけていて、あちこちでパラソルなどというものを開いて、自分の陣地を示している。言わば、これは静かな戦さである。


「ねぇ、聞こえてる? 無視しないでよ」


 別に無視などしていない。

 こんな男たちよりも、海や浜辺の様子を眺めていた方がよっぽど良い。そもそもこいつらは、我の陣地に入り、この場所をとろうとしているやも知れぬ。むしろ警戒していると言っても過言ではなかろう。


 しかし、我が陣地にやってきたという割りに随分と貧相な身体である。骨と皮しかない。残っている筋肉も、良質とはほど遠かった。こう見ると、如何に我が校の聖騎士候補生が良い筋肉をしているかわかる。教官による日頃の鍛錬の賜物だろう。


「なんでしょうか? ここは私たちがとっている場所なんですけど」


「別にお嬢ちゃんの場所をとろうとなんてしてないさ。ちょっとお兄さんたちと遊ばないってこと」


「遊ぶ? あなたたちと……」


 なんだ。我が陣地を脅かしにきたのではないのか。それにしても「遊ぶ」とは如何に? 別に我はこやつらと友の契りを結んだわけではないのだけど……。


「なんか反応が妙だぞ」

「遊びなれてないんだぜ、きっと」

「箱入り娘ってヤツ?」


 我が戸惑っていると、なんだか男たちまで困惑しはじめた。


「ねぇ。君、俺が言ってる言葉の意味わかる? つまり、まあ、ナンパってヤツだよ」


「ナンパ?」


「ナンパもわからない」


「ば……」


 馬鹿にするな、と思わず叫びそうになったが、知らない言葉だった。聖クランソニア学院に入学する前、今の世界に馴染もうと歴史、言語学、民族史などの本を読み漁り、世俗について勉強した。


 しかし、我が勉強した中に「ナンパ」などという言葉はなかった。もしかして、最近の若者言葉なのかもしれぬ。抜かった。マリルやターザムからも言語を学んだが、2人は若者とは言いがたい。アレンティリ家は田舎だからな。若い者がおっても、我のように最新の若者言葉には疎いものばかりなのだ。


 男の1人はにやりと笑った。


「難しく考えなくてもいいよ。俺たちといいことしようってことさ、げへへへ」


「いいこと?」


 いいことってなんだ?


 遊びとも言っていたな。

 遊び感覚でできるいいこと……。


 はっ! まさかこやつら……。



 我と特訓しようというのか!?



 確かにこやつらの肉体は見るに堪えん。だが、我に肉体改造を望んでいるなら合点がいく。おそらく我の素敵な肉体を見ての弟子入りであろう。


 今の我にとって、特訓は急務。夏期休暇に緩んだ身体を締めるには、ちょうどいい機会かもしれない。


 なるほど。ナンパとは特訓のことだったのだな!


「ちょっと……。お姐様、何をやってるんですか? その男たちは何?」


 エリアナが1人戻ってくる。

 その手には大きな浮き袋を持っていた。


「なんだ、このガキは?」

「お姉様って言ってたぞ。妹?」

「ガキには用がねぇ。引っ込んでろ」


「な、なんですって!」


「その通りです、エリアナ」


「お、お姐様まで!」


「エリアナはこの場所を死守してください。私はこの人たちとナンパしてきます」


 決まった!

 ふふ……。我はもう田舎伯爵令嬢ではない。シティで、ヤングで、ナウな聖女候補生。若者言葉もうまく使いこなすのだ。


「ナンパって……。ちょっ! あんた、絶対なんか勘違いしてるわよ」


「問答無用です。行きますよ、あなたたち。まずは私を捕まえてみなさい」


「あ! ちょっ!」

「逃げんなよ!」

「待て!」


 こうして我と男たちの特訓(ナンパ)は始まったのだった。




 うん。砂浜を走るのは悪くない。

 やわらかな砂地、不規則に凸凹した表面はふくらはぎや足の関節、身体の体幹に対して挑戦的な刺激を与えてくれる。それにやわらかい砂地は、足や腰に対する衝撃を緩和し、負荷をやわらげるのに効果的だ。

 何より時折、水飛沫を浴びながら走るのはリラックス効果を生み出し、気持ちが良かった。


 普段の鍛錬とは少し違うが、こうして海辺を何往復もするのは悪くないものだ。


「なあ、お前たち……」


「ぜー。ぜー。ぜー」

「はー。はー。はー」

「げほっ! げほげほげほ!!」


 振り返ると、男たちがよたよたと走っているのが見えた。額からは滝のように汗を流し、息を切らしている。出会った時に眩しいぐらい輝いていた白い歯は、心なしか煤けているように見える。


 我を追いかけてきた勢いはなく、すでに100メートルの差ができていた。


「どうしました? 私を捕まえるんじゃないのですか?」


「う、うるへ~」

「な、なんなんだ、あの娘」

「速すぎだろ!」


 今にも倒れそうだ。


「根を上げるのは早くないですか? 私といいことするんじゃないですか?」


「じ、自分から誘ってやがる」

「新手の〇女かよ!」

「くそ! こうなったら……」


「あと、浜辺を50周しますからね」


「「「ご、50周!?」」」


 驚くのも無理はないだろう。

 普段、文字通り世界を股にかけてランニングしている我が、この短い距離を50周なんて破格も破格……、少ないのもほどがある。


 だが、あえて少なくしているのにはわけがある。男たちの肉体だ。あまりに貧相ゆえ、かなり特訓の内容を絞らないと、死んでしまうかもしれない。休暇明けの我にも言えることだが、いきなりフルスロットルは危険といえる。だからかなり回数をしぼったのだが、すでに男たちは虫の息だった。


「これぐらいで音を上げて、どうするんですか? この後に、腹筋1000回、スクワット5000回が待ってるんですよ」


 声をかけるのだが、返事がない。

 まるで屍だ。


「仕方ありませんね」


 我は手を掲げた。



 回復してやろう……。



 次の瞬間、男たちの身体が膨れ上がっていく。羊皮紙のように薄かった胸元は熱く、盛り上がった肩と腕は、1本の砲門を思わせる。酔った鳩のように千鳥足だったが、足腰は根を張った大樹のようにカチカチの筋肉に

なっていた。


「な、なんだ、これは!?」

「力が漲る……」

「ふおおおお! この力さえあれば、世界だって征服できそうだ。その前に……」


 ギロリ、と男たちは我の方を見た。


「その前にお嬢ちゃんを犯す」

「俺は手で息子をしごいてもらおうかな」

「じゃあ、おれは髪だ」


 いっちょまえに我に向かって殺気をぶつけてくる。ほう。基礎訓練に飽き足らず、どうやら実戦訓練をご所望らしい。


「いいでしょ。相手になって…………ん?」


 突然、スタスタと我らの前に割って入ったのはエリアナだった。手には……もしやあれは聖剣【氷華蠍剣(アイスコーピオン)】では??


「クソガキ、どけ!」

「邪魔だ!」

「おれはロリでも……」


「誰がクソガキよ!!」



 シャンッ!!



 夏の砂浜に、一陣の真冬の風が吹き渡る。


 次の瞬間、男たちの貧相な身体を唯一隠していた水着がはらりと切れた。すると、さらに貧相なものが大衆の面前でさらされる。


 周囲から悲鳴が上がると、男たちも同時に悲鳴を上げて、その場から退散していった。


「まったく……。聖剣でつまらないものを斬らさないでよ」


「エリアナ、それ……」


「聖剣のこと? 一旦返却したんだけど、勝手に返ってきたのよ。なんか、気に入られたみたい」


 聖剣の中には、大魔王――つまり1000年前の我の肉体の一部が使われているのだが、それとエリアナの宿業か、あるいは魔力に何らかの(パス)が繋がってしまったということか。


 まあ、簡単に言うと、昔の我もこのエリアナには一目置いているということだろう。


「ほら。あんな男たちの相手をしてないで、遊びましょ。お姐様にはちゃんとした遊び相手がいるんだから」


 見ると、ハーちゃんが手を振っている。こっちに向かって走ってくる。


「ルーちゃ…………わっ!」


「ハーちゃん!!」


 こけそうになったハーちゃんを我は寸前のところで支える。


「ありがとう、ルーちゃん」


「相変わらずハーちゃんはそそっかしいですね」


 ハーちゃんの笑顔に、我も笑顔で返す。


 そうだ。もう我は天涯孤独の大魔王ではない。あのような若者でなくとも、もうすでに我にはかけがえのない友達がいるのだ! 

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