第72話 魔王様、追放される
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「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」第2巻
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「ルブルさん、よく聞いて……」
そう我に真剣に語ったのは、聖クランソニア学院の学院長であるアリアル・ゼム・テレジアだった。『大聖母』という異名で知られ、学院の生徒だけではなく、国民の母として知られる彼女には、我も多大な恩義を感じておる。そもそも例の「ジャアク事件」の時、多くの学院関係者が我を不合格にしようとしていたが、アリアルだけが反対したと聞く。
つまり、アリアルなくして、我が聖クランソニア学院に入学できなかった――いや、回復魔術を極める道に進めなかったかもしれぬ。
そのアリアルに呼ばれた我は、早速学院長室に赴くと、ソファに座るなりこう切り出された。
「ルブル・キル・アレンティリさん、あなたを学院から追放します」
その残酷な言葉はわずかな余韻を残しつつ、学院長室に響き渡る。
冗談でないことは、アリアルの目を見ればわかる。じっと我を睨み付ける表情に、欠片ほどの快楽も感じられなかった。
アリアルは本気だ。しかし、我とて黙っていられない。
確かにアリアルには恩がある。彼女がいなかったら、学院に入学はできなかった。それは認める。でも、聖クランソニア学院に入学する過程で、我は血の滲むような努力と、両親への説得があったことも確かだ。はい、そうですか、聖クランソニア学院から出て行くわけにはいかない。
たとえアリアルでも、ここは徹底抗戦である。
そもそも我は魔王。常に人類の叛逆者であった。
お年を召した淑女であっても、すでに1000年以上の人生経験がある我が引き下がるわけにはいかなかった。
「納得できません。どうしてですか、アリアル学院長! 何故、私が学院を出て行かなければならないのですか?」
「理由は担任の先生から聞いているでしょ? ……ルブルさん、あなたの熱意はわかるわ。とても素敵なことだと思う。でも、あなたのせいでたくさんの人が迷惑してるの。聞き分けてくれないかしら」
「イヤです!」
我はきっぱりと言い切った。
「私はこの学院が好きです。いや、まさしくこの聖クランソニア学院に入学するために生まれてきたと言ってもいいかもしれません」
「でもね、ルブルさん」
「まず私の話を聞いていただけますか、学院長様。いえ。思い出してほしいのです、学院長様。あなたと初めて会った時、私はあなたに言いました。回復魔術を極めたいと……。あなたのように回復魔術の深奥に座しているあなたのようになりたいと!」
「ル、ルブルさん……」
「私はまだ道半ばです。まだその深奥を垣間見ることすらできない未熟者です。だからこそ、私は学院に残り、勉学に励み、学院長が言われたとおり友との絆を深めたいのです!」
「とても素晴らしいことだと思うわ。だから、あなたの熱意に関しては理解しているの。でも、ダメなものはダメなのよ」
「何故ですか、学院長様。何か私が間違ったことをしているのでしょうか? ……はっ? もしや――うっかり居眠りしていたとはいえ、寝拳を使い、講堂を無茶苦茶にしてしまったことを怒っておられるのですか……」
「ち、違うの。あれは、あなた自ら回復魔術で治したことで不問にしたでしょ?」
「ならば、何故!?」
我はついに立ち上がって、アリアルに詰め寄る。
何度も言うが、アリアルには恩義がある。
だからこそ、声を荒げ、睨み付けるようなことはしたくない。
いくら『大聖母』といわれていても、目の前にいるのは人間の老婆だ。
我が本気を出せば、1秒でその首を胴から切り離すことができる。
でも、私とてすべて優等生的な反応ができるわけではない。
譲らないところがある以上、徹底抗戦しかない。
「だから、言ってるでしょ。明日から我が校は夏期休暇だと……」
学院長室がしんと静まり返った。
窓から燦々と照り付く太陽の光が差し込み、空には大きな入道雲が浮かんでいる。
吹き込んできた風が、虫の音を伝えてきた。
世は夏であった……。
「し、しかし、我はまだこの学院で勉学がしたいと」
「明日から学院の関係者も休みに入るの。寮生の生徒も全員実家に帰ったわ。残っているのはルブルさんだけなの。このままあなたが残っていて、教師や職員が休みを取れないの。わかる? それにね。休むことも修業のうちのよ」
「がびーん……」
休むことも修業のうち……だと……。
確かに一理ある。適度な休息によって、筋肉が超回復し、強くなると。
それはもしかして、回復魔術に同じことがいえるのではないか。
そうか。使わないことによって、もしかして回復魔術はまた高次元へと押し上げられると。アリアルはそう言いたいのだな。
「学院長もお休みされるのですか?」
「もちろん。娘夫婦が久しぶりにやってくるの。孫の顔を見るのが楽しみでね」
アリアルは顔を綻ばせるが、内容はどうでもいい。
やはり……。アリアルは適度に休むことによって、回復魔術を高めてきたのだろう。
盲点だった。回復魔術は回数をこなすことによって、習熟し、その効果を高めると我は考えていた。
なるほど。我が極められないわけだ。
「わかりました」
「そう。わかってくれた?」
「はい。不肖ルブル・キル・アレンティリ!」
お休みさせていただきます!!






