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第71話 Shall we ダンス?

☆★☆★ 本日発売 ☆★☆★


無事発売日を迎えることができました!

改めて、これまで応援いただいた読者の皆様に感謝申し上げます。


「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」第2巻

ブレイブ文庫より発売されます。

ゲーマーズ、メロンブックスでは、書き下ろしSSリーフレットが付いてきますので、

ぜひよろしくお願いします。


そしてコミカライズ企画も進行中です!

詳報については、本日発売の第2巻の後書きにて書かせていただきました。

ぜひお手に取っていただき確認いただければ幸いです。


挿絵(By みてみん)

 かくして決着はついた。

 直後、講堂を覆っていた結界が消える。

 施錠された扉が無理やり破壊されると、講堂の四方から聖騎士たちが雪崩れ込んで来た。その中に、ハーちゃんとネレムの姿もあった。


「ネレムの姐さん!! ……あ。あ〜あ」


 ネレムが講堂の中に入ると、固まる。

 頭を抱える我を見て、もうすでに事件が終息したことを察したらしい。


「どうやらいつも通りみたいっスね。さすが姐さんっス」


「ルーちゃん!!」


 ネレムの横をハーちゃんが駆け抜けていく。

 真っ先に我に駆け寄ると、きつく抱きしめた。


「良かった。無事で。急にソファからいなくなってて、びっくりしたよ」


「ハーちゃん……。私、私、また回復魔術を失敗して……。うう……」


「そ、そう。残念だったね。でも、大丈夫。ルーちゃんならいつか回復魔術を極めることができるよ。だから元気だして」


「ぐすん……。うん。元気出す。ありがとう、ハーちゃん。うう……」


「大丈夫だよ。まだ私たち、1年生なんだから」


 ハーちゃんは我の頭を撫でて、よしよししてくれる。

 ありがたい友だ。ハーちゃんがいなければ、我はとっくに回復魔術を極めることを諦めていたかもしれない。そうだ。元気を出そう。そもそも回復魔術がこんなにも簡単に極められたら、我もここまで苦労はしない。ハーちゃんのいう通り、まだ我は1年生。2年、3年となれば、まだ我の知らない知識が出てくるかもしれない。

 ならやることは1つ。また明日より修行に邁進するのだ。


 よーし! 明日から回復魔術の呪文をジェスチャーで示したオリジナル体操を、1万回行うぞ!


「ルブル」


 顔を上げると、毛布にくるまりエリアナが立っていた。

 後ろには、シルヴィとグリフィルがついている。後者はともかく、前者は激戦を潜り抜けてきたのか、かなり疲れた顔をしていた。


 エリアナは我に声をかけた後、何故か黙っている。

 何か落ち着かない様子で、毛布を掴んだり離したりしていた。

 なかなか煮え切らないエリアナに、後ろの2人が文字通り背中を押す。


「ほら、エリアナちゃん」


「ちゃんと言わないと」


「わ、わかってるわ。急かさないで」


 エリアナは我の方に向き直る。


「ルブル・キル・アレンティリ」


「は、はい」


 ちゃんとフルネームで言われるのは初めてだ。

 やっと我が家名を覚えたらしい。


「その……講堂で聞いたことは……」


「できれば、人に言わないでくれますか?」


 まあ、言ったところで誰も信じられないと思うが……。


「じゃあ、本当のことなのね。あなたが……その……」


「はい。ですが、私は今ルブル・キル・アレンティリです。そう。接していただけると嬉しいです」


 とはいうものの、なかなか難しいだろう。

 本物の勇者ならいざ知らず、まだ100年も生きていない小娘が我の正体を聞いて、簡単に受け止めることはできない。それにエリアナは真面目な人間だ。もしかして、我をその辺りにうろついている聖騎士たちに突き出すかもしれない。


「あなた、今諦めたでしょ」


「え?」


「【八剣(エイバー)】第二席を舐めないでくれる!? あなたが悪魔でも、魔王でも、邪悪な存在でも関係ないの! だって、あなたはエリアナにとって、魔王以上に厄介な存在なんだから」


「や、厄介って……」


「それよりも、あなたに言いたいことがあって、ここに来たの」


「な、なんでしょうか?」


「【八剣(エイバー)】に入りなさい」


 エリアナが言うと、我だけではなくシルヴィやグリフィルも驚いていた。


「エリアナちゃん?」


「それは聞いてないわよ、エリアナ」


「別にいいでしょ。期末考査はまだだけど、入学試験のテストは満点って聞いたわ。実力も申し分ない。なんなら空席になってる第一席をあげてもいい」


 エリアナは本気だ。目を見ればわかる。

 我が講堂で目覚めた時、エリアナはボロボロだった。

 おそらく我が講堂に辿り着く間、ユーリたちと文字通り死闘を繰り広げていたのだろう。

 エリアナがどうしてそこまで学院の治安にこだわるか、我は知らぬ。

 ただ生半可な覚悟ではないことだけはわかる。その意志の強さは、我が回復魔術を極めたいと思う心に勝るとも劣らぬであろう。


「エリアナと一緒に、今日のように学院を守るために戦ってほしいの」


 最後にエリアナは我に手を差し出す。

 そこに込められた想いは、小さな手の重みよりも遥かに重いだろう。

 しかし、我は手を取らなかった。


「どうして?」


「私の道ではないからです」


「道?」


「私は回復魔術を極めたい。ただそのために両親に無理を言って、この学院にやってきました。仮に私がその道から外れれば、両親――特に父は私を学院から連れ出し、有力な貴族の嫁にあてがうでしょう」


「なら、その回復魔術を極めながら【八剣(エイバー)】になればいい。あなたの才能なら……」


「できるかもしれません。……でも、それはエリアナ、あなたの道であって、私の道ではない。私は私の道を進みます。あなたがあなたの道を進むように」


 エリアナはまだ何か言い返そうとしたが、その前に後ろの2人に止められた。


「フラれちゃったね、エリアナちゃん」


「人には人の道があるってことね。……いい言葉だわ」


 2人に諭され、エリアナは握った拳をようやく下した。


「本当にわがままなんだから。さすがは大魔王様だわ」


 エリアナは踵を返すと、講堂から出ていく。

 大魔王、というどこから出てきたかわからない言葉に、シルヴィとグリフィルはギョッとしていたが、すぐにエリアナの背中を追いかけた。


「なんか初めはもっと冷たい印象だったけど、いい先輩だね、エリアナさんって」


「そうっスか? あたい、ああいうツンデレキャラは苦手っス」


 べーっとネレムは舌を出す。


「友達になれそう、ルーちゃん」


「どうでしょうか? さっきも断ってしまいましたし。さらに根に持たれたかもしれませんね。そういえば、イザベラさんは?」


 講堂に閉じ込められた生徒の中にいないことは知っていた。

 外にいれば安全とは思っていたが、何やらひと騒動があったらしい。


「無事っす。今度はテオドールが守ったみたいっスよ」


「そうですか」


 よくやった、テオドール。

 これで少しは自立してほしいものだが……。


 やれやれ。それにしても飛んだダンスパーティーになったものだ。


「あ……。あああああああああああああ!!」


「いきなりどうしたの、ルーちゃん」


「びっくりした! どうしたんですか、姐さん」


「ダンスパーティーなのに、私一度も踊ってない」


 ダンスは一通りターザムから教わってはいるが、ダンスパーティーで完璧に踊れるように密かに特訓していたのに、これでは道化も同然ではないか!


「このままでは我の努力が……」


「まあまあ。ダンスパーティーなら、きっとまたあるよ、ルーちゃん」


「そうっスよ。イザベラに言えば」


「踊りましょう。今すぐ踊るんです!」


 我はハーちゃんの手を取った。


「る、ルーちゃん! わたしたち女性同士だよ」


「大丈夫です。男性の動きも完璧ですから」


「そう言うことじゃなくて……。わたし、ダンスが苦手。キャッ!」


 どこからか講堂で聞いた管弦曲が聞こえてくる。

 我とハーちゃんはその曲に合わせながら、ダンスを踊り始めた。

 空気も空も真っ暗になっていた聖クランソニア学院は、にわかに騒がしくなる。講堂で戦場を経験した生徒たちが、1組、また1組と進み出ては踊り始めた。


 ネレムは自分の使い魔と共に手拍子を送り、我らを囃し立てる。


 聖クランソニア学院にとって、今宵は最良の夜ではなかったかもしれない。

 でも、人生最悪の夜ではなかったと思いたい。



 ◆◇◆◇◆



 イザベラに膝枕されながら、テオドールは休んでいた。

 先ほどベテランの聖女がやってきて、テオドールの傷は完全に塞いでいった。

 ただ傷は癒えても、血が足りていない。軽い貧血を起こしていたテオドールは、しばし激闘を繰り広げた噴水の前で、イザベラと共に休んでいた。


 しばし、2人の時が流れる中、ふとテオドールは起き上がる。


「王子、まだ休んでいなければ」


 イザベラはテオドールのことを慮ったが、夜気に乗って聞こえてきた音楽に気づく。


「忘れるところだった」


「王子?」


「今日は君をダンスに誘いにきたのだ」


 テオドールはイザベラの前で膝をつく。

 イザベラの手をとって、顔を上げた。


「1曲お願いできますか?」


「……はい。喜んで」


 2人は手をとり、ゆっくりと相手のことを思いやりながら、ステップを踏み始めるのだった。


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ぜひご予約お願いします。


挿絵(By みてみん)

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