第69.5話 各々の決着(後編)
☆★☆★ 第2巻 8月25日発売 ☆★☆★
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「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」第2巻
ブレイブ文庫より発売されます。
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バーミリアの退場を見ていたカタギリは驚く。
「何をやってんだ、あいつ」
「ええ……。あなたもね。カタギリ……」
湿ったような男の声が聞こえる。
それも上からだ。「あ?」とカタギリが顔を上げると、槍に乗った男が頭上から落ちてくる。カタギリはシルヴィを離すと、寸前のところで回避した。
「は~い。久しぶりね、カタギリ」
「てめぇ、グリフィル!! いたのか?」
「随分な挨拶ね。あたしたち、元同僚みたいなものでしょ?」
「何が同僚だ! ふざけやがって!! お前ら、全員まとめてぶっ殺してやる!!」
「おお。怖い……。でもね、グリフィル。教えてあげる」
「あん?」
「女の恨み以上に怖いものはないわよ」
「はっ?」
指摘されてカタギリはようやく気づく。
自分の手からシルヴィが消えていたことがだ。
「昔の誼で殺しはしないでおこうと思ったけど、気が変わったわ。あんたみたい奴をただ追放したあたしが馬鹿だった」
「ざけんな! シルヴィィィィィィイイイイイイイイイ!!」
背後から聞こえてきた声にカタギリは剣を持って応える。
だが、動きも半ばでカタギリは止まった。
シルヴィが持つ【天使の水刺し】のレプリカが、急所に一刺し入っていたのだ。
「恋人? お生憎様……。私、あんたみたいなヤツ好みじゃないの」
「ぐ…………そ…………」
ついにカタギリの巨体が揺らぐ。そのまま噴水に突っ込むと、盛大な水飛沫が上がった。カタギリが起き上がることは2度となく、ただ身体に空いた穴からどす黒い血を流すのだった。
◆◇◆◇◆
「今、【天使の水刺し】で治します。王子、動かないでください」
激戦を制したシルヴィは早速【天使の水刺し】の力を使って、王子の傷を回復させた。イザベラとの約束を守り、確かに剣を振ったのは1度だけだが、実質2回振ったようなものだ。やはり1度は塞がった傷口も、再び開き始めていた。
レプリカとはいえ、【天使の水刺し】はその能力を存分に発揮する。テオドールの傷口を塞ぐと、悪かった血色も幾分良くなってきた。その変化を見ながら、側でついたイザベラは嬉しそうに微笑む。
「一体、何が起こっているんですか、シルヴィ先輩」
「それは私ではなく、後ろの人に聞いてください。何が起こってるんですか、グリフィル」
話を遅れてやってきたグリフィルに振る。
しかし、当の本人も肩を竦めるだけだった。
「まだあたしにも把握できていないの。1つ言えることは講堂で何かが起きているということよ」
「何かって?」
「それがわかれば苦労はしないわ。折角聖騎士の屯所に行って、連れてきたのに講堂全体に結界が張られていて、入れないし。もう! 踏んだり蹴ったりよ」
「エリアナも講堂に?」
「多分ね」
グリフィルは心配そうに講堂の方を見つめるのだった。
◆◇◆◇◆
突如現れたルブルを見て、まず反応したのは生徒たちだった。
それまで暴言めいたことすら吐いていた貴族の生徒たちは、すぐ目の前に現れたルブルを見て、潮を引くように下がっていく。事情が全くわからない生徒にとっては、恐怖の対象が、また1人増えただけだった。
生徒たちが狼狽える一方で、エリアナは現れたルブルがかつて自分と刃を交え、大食い対決をしたルブル・キル・アレンティリだとすぐ認識した。何故そう感じることができたのか、本人もわからない。
1つ言えることがあるとすれば、顔を上げて見たルブルの顔が非常に頼もしく自分の目に映ったからだった。
「あ、ありがと、ルブル。……で、でも、助けに来てくれたところ悪いけど、状況は最悪よ。あいつらは強敵よ。いくらあなたでも…………って、ちょっと! エリアナの話を聞いてるの?」
「…………」
「ん?」
「スー……。スー……」
「ね、寝てる……」
一瞬、時間と時間の間に、空白ができたような静寂が訪れる。
悲鳴を上げたのは、生徒たちだ。
「は? 寝てる?」
「なんだ、あのジャアク。普通のジャアクじゃ」
「いや、むしろこの状況で寝られるってことは、もしかして本物か?」
思いも寄らない登場に、思いも寄らないことを生徒たちは推理する。
頼もしい援軍が来たとて、肝心のルブルが寝ているようでは意味がない。
最後の希望が断たれ、やはり生徒たちはどん底へと叩き落とされた。
ルブルを中心に大騒ぎする中、最初にルブルに吹き飛ばされた辻斬りルブルたちが立ち上がる。聖剣のレプリカを握ると、怒りを滲ませた。
「くそ!」
「コケにしやがって!」
講堂の床をひっぺがす勢いで蹴ると、ルブルに迫っていく。
ルブルに吹き飛ばされても、スピードは変わらない。
エリアナからすれば、さらに速いように見える。
実際、エリアナと戦っていた時よりも遥かに速い。気が付けば、ルブルからあと3歩の距離を走っていた。2人のルブルは同時に聖剣を振り上げると、眠ったルブルの首を狙う。
「「とった!!」」
ドゴン!!
果たして吹き飛ばされていたのは、辻斬りルブルたちだった。
天井近くまで打ち上がると、上半身ごと突き刺さる。
そのまま逆さになった葱のようにぶら下がった。
「はい?」
一体、何が起こったか、側で抱えられていたエリアナにすら見えていなかった。
気づいた時にはルブルの片手は天を突き、辻斬りルブルたちが吹き飛ばされていたというわけである。
摩訶不可思議な動きに、辻斬りルブルたちも首を傾げざるを得ない。
身体を強張らせたが、それでも自分たちの強さには自信があるらしい。
1人、2人、3人と眠りのルブルに向かっていく。
そんな辻斬りの動きを見たのか、見ていないのか。
相変わらずルブルの瞼は閉ざされていてわからない。
ただずっと抱えていたエリアナをそっと床に下ろす。
自分を見上げる彼女の方を向き、「大丈夫」とばかりに力強く頷いた。
どうやら、そこで見てろということらしい。
ルブルは振り返って、構えを取る。
初手間合いに入ってきた辻斬りルブルの剣を躱し、刀身を叩く。
そのままくるりと回って、辻斬りのルブルの両足を切断した。
転けた辻斬りルブルの首に中段蹴りを打ち込むと、頸椎を破壊する。
次に頭上から降ってきた辻斬りルブルの攻撃を回避する。
打ち下ろしの手に手刀を落とすと、あっさり聖剣のレプリカを取り落とす。
刀身の部分を蹴って、聖剣のレプリカを握ると、そのまま容赦なく胴を切り捌いた。
さらに3人目が斬りかかろうとしたところで、ルブルは持っていた聖剣のレプリカを投げる。砲弾のように飛んできた聖剣を回避できず、辻斬りルブルは胸を貫かれ、その場に倒れた。
「強い……」
素直に思った言葉が、いつの間にか口に出ていたことに、エリアナは驚く。
速く、そして力強い。それでいて、大味にならず、最適な足の運びと腰のキレ、見たことのない動きだが、全ての動きが理にかなっていた。いや、かないすぎている。感動を覚えるぐらいに。
ルブルがこれまでエリアナに対して手加減していることは、本人もなんとなく察していた。それがまたイラ立たせる要因にもなっていた。
でも、もうそんなことがどうでも良く思える。
ずっと見ていたい。この芸術と賞賛できそうな戦い方を……。
ドンッ!
最後の1人が胸を抉られ、講堂の壁に叩きつけられる。
そのままずるりと壁に寄りかかり、意識を失った。
まさに雷光石火の一幕だった。
気づけば、講堂に本物のルブルがただ1人立っていた。
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