第68話 平民エリアナ・ルヴィエ(前編)
☆★☆★ 第2巻 8月25日発売 ☆★☆★
「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」第2巻
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【氷結壁花】
エリアナは聖剣【氷華蠍剣】を振るう。瞬間、彼女とその背にした生徒たちの間に氷の壁が現れた。分厚く、硬い氷壁は並みの衝撃や炎などでは崩せない強固だと感じられる。
「ここからは1歩も通さない」
講堂に踏み込んできたルブルに似た黒装束を牽制する。
残念ながら相手は無反応であったが、背後では怒号にも似た歓声が上がった。
「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」
絶望の淵にあった生徒たちの顔に赤みが差し込む。
ある生徒は遮二無二の声援を送り、ある生徒は泣き、ある生徒は現れた「ジャアク」を挑発する。とにもかくにも一時的に危機を脱したことに、生徒たちは歓喜し、乱舞した。
「エリアナさん、ジャアクを倒してくれ!」
「すげー! 聖剣使いとジャアクの試合が見れるぞ」
「いっそ、そいつを学院から追い出せ!!」
「黙って」
エリアナは一喝する。
持っている聖剣のように冷徹な声に、生徒たちはたちまち口を塞ぐ。
熱狂する生徒たちをよそにエリアナは前を向き、戦いに集中する。
数百人の生徒の命を小さな背に乗せ、エリアナは剣を構えていた。
(グリフィルが聖騎士の詰め所に到着するまで、10分。その後聖騎士が到着するのは速くて20分。計30分か……。ギリギリだけどいける。それにこいつとは1度戦ってる)
「見たことがあると思ったら、いつかの聖剣使いか」
エリアナは眉間に皺を寄せる。
顔もそうだが、声までルブルとそっくりだ。
違うとすれば、佇まいぐらいだろうか。乱暴な口調も、ルブルとは違って気品がない。
「まだ学生とはな。幼い訳だ」
「あなたの方こそ学生相手に尻尾を巻いて逃げるなんてね」
「挑発のつもりか? やろうと思えば、やれた。ただ近くに似た雰囲気を感じてな。少し挨拶をと思っただけだ。良かったな。あの時、殺されなくて」
「それってルブルのこと……」
「ほう。やはり我が君はここにいらっしゃるのか?」
「我が君……?」
「聖剣使い。ルブルヴィム様はどこにいる?」
「ルブル…………ヴィム? あなた、さっきから何を言ってるの?」
「この学院にいるのだろう? 私に似た学生が……」
ルブルの顔のまま醜悪に笑う。
またエリアナは眉間に皺を寄せた後、【氷華蠍剣】を向けた。
「大人しくあなたに言うと思う? 彼女は学院の生徒なの。そしてレオハルトが残した『八剣』の刃は、すべての聖クランソニア学院の生徒のためにある。たとえジャアクだろうと! 魔王だろうと!」
「あくまで立ちはだかるか、人間。良かろう。魔王の力の一端を見せてやる」
「あなたの方こそ。聖剣使いの力を見せてあげる」
両者は聖剣を構える。
「さあ、不埒に昇れ【雷竜翠甲剣】」
「美しく、そして冷徹に刺せ【氷華蠍剣】!」
片や雷光が竜のように講堂の屋根を貫き、片や氷が薔薇園のように咲き乱れた。
互いに魔力が最高値に達した時、ついに踏み込んだ。
雷と氷。しかして、聖剣と呼ばれる業物同士がぶつかり合う。
互いの初撃は互角だった。まるで磁石のように弾かれる。
(聖剣の性能はほぼ互角……。ならばあとは使い手の力量だけ)
エリアナは笑う。ギリギリの戦いの中で。
彼女自身も戸惑っていた。しかし今確かに楽しんでいる自分がいる。
聖剣使いになる審査すら圧倒的才覚を持つ彼女には物足りなかった。
ある種の欲求不満を感じていた彼女は、初めて全力で立ち合わなければならない相手に歓喜した。
「震え……。爆ぜろ……」
「悶えて貫け!!」
【凍華閃光】
【翠雷閃】
氷の飛礫が閃光のように飛べば、雷の槍がそれらを打つ砕く。
結果、講堂内は花火のように閃いた。
教科書でしか聞いたことのない聖剣同士の戦い。
まるで神話の戦闘を見るかのように、生徒たちは氷の壁の向こうから見守る。
自然と胸の前で指を組むと、エリアナの勝利を静かに祈った。
(またしても互角……。いや、わずかにエリアナの方が遅い……?)
互いの姿が爆煙に包まれる。
エリアナが次の一手を探っていると、煙の中から黒装束が現れた。
咄嗟に反応する。1歩遅ければ、頭がかち割られていた。
「どうした、聖剣使い? そんなものか?」
「言ったでしょ……。黙れって」
エリアナは片手で、辻斬りの剣を流す。
相手の剣の軌道を逸らしながら、もう片方の手で魔術を制御。
次の瞬間、氷の飛礫が弩弓で飛ばされた槍のように降り注いだ。
辻斬りが反応するが、動けない。気づけば、足元が氷漬けになっていた。
「貴様……!」
ルブルの顔が焦燥に歪む。
エリアナは少し愉快げに笑った。
「そういう顔も悪くないわね。できれば本物の方で見たいものだわ」
エリアナが退避した瞬間、氷の飛礫が辻斬りに着弾した。
轟音が響き、薄い雪煙のような霧が立ちこめる。
見ていた生徒の一部が「やった!」と声を上げた。
エリアナも手応えを感じつつも、雪煙の方を見ながら剣を下ろさない。
「今のはなかなか……」
影が揺らいだ。次の瞬間、雷光が閃く。
エリアナは咄嗟に身体をよじって回避したが、同時に辻斬りが雪煙から出てきた。
雷を纏った聖剣を水平に薙ぐ。エリアナは反応し、さらに距離を空けたが、瞬間聖剣の刃先が伸びた。正確に言えば、聖剣に付与された雷が鞭のように伸びて、エリアナの脇腹を痛打したのだ。
「ぐあ!!」
エリアナは悲鳴を上げる。
強烈な鞭打に加え、聖剣【雷竜翠甲剣】の雷撃。
小さな身体でまともに受けるには、あまりに絶大なダメージだった。
なんとか雷の拷問から逃れたエリアナは、たまらず膝を突く。
(手応えはあったはず……。なのにどうして)
エリアナは顔を上げ、今一度辻斬りを観察する。
気づいたのは、辻斬りの側にあった足だ。凍ったまま佇んでいる。足首から切られた状態でだ。一瞬悲鳴を上げそうになったところで、もう1度辻斬りを観察する。飛礫で空いたと思われる穴が塞がっていった。
(回復魔術? いや、自己再生か。まさか不死? いずれにしろ化け物としか思えない回復速度ね)
「考えても無駄だ、聖剣使い。力の差はわかっただろう。その聖剣を渡せば、命だけは助けてやる。大人しくしろ」
「随分と言い方が優しくなったわね。さっきは全員を殺さんばかりの殺気だった」
「私の目的は大魔王だ。お前らなど羽虫程度にしか見てない、人間」
「そう。その人間の力……、見せてあげる」
エリアナは1度【氷華蠍剣】を鞘に納める。
さらに腰に帯びると、ぐっと腰を落とした。
「抜刀術? 馬鹿か。そんな遠い間合いから放つつもりか? 私の【雷竜翠甲剣】の餌食になるだけだぞ」
【雷竜翠甲剣】に魔力を込めると、雷撃を帯びた鞭に変化する。
その射程はエリアナの歩数の20歩以上。遠当てをしたところで、雷撃で弾かれるのがオチだった。まして相手は不死かもしれない。生半可攻撃では通じないことは、エリアナもわかっていた。
「言ったでしょ。人間の力を見せるって」
エリアナはついに動く。
辻斬りも気配で察した。早速、【雷竜翠甲剣】を振り回そうとした時、エリアナはすでに懐にいた。
「所詮三流ね。その腕じゃ。あのルブルの足元にも及ばない!!」
「馬鹿な! 速すぎる!!」
辻斬りは身を引く。
その反応は早く、十分エリアナの抜刀術に対応できるものだった。
しかし、エリアナの狙いはそこではない。
「覚えておきなさい。剣は、二つもいらないのよ!」
乾いた音が響く。
エリアナが狙ったのは、辻斬りが持っていた聖剣【雷竜翠甲剣】だった。
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