第67.5話 乱戦(後編)
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イザベラによる回復魔術の施術が始まった。
テオドールの傷が少しずつふさがっていく。
その様子をシルヴィは少し嬉しそうに見つめていた。
が、その彼女の頭に向かって、容赦ない一撃を入れようとしてきたのは、やはりカタギリだった。
ギィン!
甲高い音が鳴る。
カタギリの大太刀を、シルヴィは細剣の刃に手を添えて受け止めた。
「連れないなあ、シルヴィ。久しぶりに会ったってのに無視かよ」
「無視したわけじゃないわ。怪我人を優先しただけです」
「相変わらず優等生だな。他の奴はどうした? アリアナとカイルとかよ。ははっ……。あいつらがここにいるわけないか。レオハルト以外の言うことなんて聞くわけないからな!!」
押し合いをしていたところに、カタギリの足が出る。
しかし、カタギリの手の内は知り尽くしているのだろう。
シルヴィは寸前でバク宙して、カタギリの攻撃を避ける。
「オレになんの弁明も与えず、擁護だってしねぇ。そうやって他人を見限ってばかりいるから、オレもアリアナたちもお前らに付いていかねぇんだよ」
「見限ってなんかいないわ」
「今さらそんなこと言っても遅いっての!!」
カタギリの連続の攻撃をシルヴィは鮮やかに躱す。
それだけではない。カタギリの懐に潜り込むと、その太股を躊躇無く刺した
カタギリは膝を突いたが、表情は笑ったままだ。
「やるねぇ。剣の腕ならあんたに勝てるって思ってたぜ」
「第三席を舐めないで」
「けどよ。これで追い詰めたとか馬鹿じゃねぇの!」
シルヴィの背後で殺意が膨れ上がる。
咄嗟に腰を落とした直後、カウンター気味に相手の足に剣を刺した。思わぬ反撃に遭い、バーミリアは悲鳴を上げる。ケンケンしながら、憎々しげにシルヴィを睨んだ。
バーミリアの不意打ちを回避したシルヴィだったが、横合いからの気配に一瞬圧倒される。回避を試みたが、若干遅かった。顔の横を切り裂かれて、血が噴き出す。
幸運にも傷は浅いかったが、テオドールを治療するイザベラの近くまで1度退いた。
「何をやってる、バーミリア」
「うるせぇ。助太刀してやったんだろ、先輩」
2人はたちまち口論を始めるが、その様子をシルヴィは冷静に見つめていた。
「先ほど急所を刺したはずですが……」
シルヴィが声をかけているうちに、バーミリアの足の傷が癒えていく。
よく見ると、バーミリアの足元には魔方陣が刻まれていて、淡い光を放っている。
その光を浴びると、カタギリの傷も回復していた。
「見たか? これが俺様の聖剣の力だ。少々しみったれた力だがよ。こうやって実戦で使ってみると、案外悪くない。確か元になった聖剣は……」
「【天使の水刺し】……。なるほど。あなたもそのレプリカをもっているのですか」
それまで剣を片手で持っていたシルヴィは両手に持ち替える。
精神を集中させ、剣に魔力を込めると、シルヴィの頬の傷も癒えていった。
「へぇ~。あんたも同じレプリカか。面白れぇ!」
「粋がるのはいいが、シルヴィ。俺たちが持っているのも聖剣のレプリカだ。例え第三席とはいえ、男の聖騎士候補2人に勝てると思っているのか?」
バーミリアとカタギリは同時に構える。
それを見たシルヴィは引かない。
むしろその目には強い意志を込められていた。
「だから退け? 冗談じゃない。……来なさい。第三席の力を見せてあげる」
◆◇◆◇◆ エリアナ ◆◇◆◇◆
シルヴィがカタギリたちの相手をする一方。
エリアナはグリフィルとともにシルヴィの帰りを待っていた。
ソファで寝転がっていたエリアナは、お腹がいっぱいになったことと、講堂の方から聞こえる緩やかな管弦曲の音のせいで、うとうとしかかっていた。
「遅いわね。あたし、迎えに行こうかしら」
グリフィルが心配していると、不意にエリアナは質問した。
「ねぇ、グリフィル」
「なーに」
「あの女の名前なんだっけ?」
「あの女って、ルブルちゃんのこと? ルブル・キル・アレンティリよ」
「ルブル・キル・アンテーリ?」
「アレンティリ……。それを聞いて、どうするの?」
「それは――――」
と言いかけた時、突如エリアナが休憩していたドアが開いた。
蔓のような刺繍が入った燕尾服を着た生徒が飛び込んで来る。
焦った表情もそうだが、彼の顔や手に無数の傷があることにエリアナたちは驚いた。
「ちょっと! あなた、どうしたの、その傷?」
「はあはあはあ……。講堂で切られた」
「切られた?」
耳を澄ますと講堂から聞こえてきた管弦曲が止まっていた。
代わりに悲鳴らしき声が休憩室を出た廊下にまで響いてくる。
「誰に切られたの?」
「ジャアクだ」
「――――ッ!!」
証言を聞いた瞬間、エリアナの心は沸騰する。
「何かの間違いでしょ」
「本当だ。いきなり現れて、斬りつけてきた。俺だけじゃない。他の人間にも襲いかかって……。やっぱりだ! やっぱりあいつはジャアクな存在だったんだ。あんな可愛い顔して、俺ら――――」
「しっかりしなさい! 本当にジャア――――ルブルちゃんだったの? ……って、ちょっとエリアナどこへ行くの?」
グリフィルは突然走り出したエリアナを呼び止めたが、すでに部屋から出ていった後だった。
◆◇◆◇◆ 講堂 ◆◇◆◇◆
華やかなダンスパーティーが一転して、阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。
三箇所の出口に生徒が殺到するも、魔術的な力が働いていて、ビクともしない。
唯一の脱出口は講堂の南側にある出入り口だけ。
しかし、そこに仁王立ちしていたのは、黒装束を身に着けた銀髪の少女だった。
その顔はルブル・キル・アレンティリと瓜二つだ。
ルブルに似た少女の手には青い炎を固めたような剣が握られ、すでに血に覆われている。常に南の出口を背にしながら、逃げようとする生徒を切り捨てていた。
生徒たちもただ怯えていたわけではない。
3年生の聖騎士候補たちが講堂の中にあった訓練用の木刀を見つけると、突然乱心したと思われるルブルに襲いかかる。だが、実力差は明らかだった。ルブルに似た少女は水平に剣を薙ぐと、雷光が生徒たちに襲いかかる。一切容赦ない光が生徒の肉体を貫くと、同時に反抗する気迫を削り取った
「3年の先輩もやられた!」
「もうダメだ! おしまいだ!!」
「やっぱりジャアクはジャアクな存在だったんだ」
頭を抱えれば、かつてルブルと一緒に戦ったFクラスの生徒たちも愕然としていた。
「私たち、ルブル――いえ、ジャアクに騙されてたってこと」
「結局殺されるじゃない!」
「くそ! ジャアクめ! オレたちの心を弄びやがって」
口々に「ジャアク!」「ジャアク!」と声を上げる。
今までルブルが気づいてきた信頼は、たった1回の凶刃で何もかも失いそうになる。そして彼らが待っていたのは、ただただ受け入れがたい死だけだった。
ゆっくりとジャアクがFクラスのいる方へと迫ってくる。
いよいよかと身を竦ませた時、講堂に大きな声が響き渡った。
ルブルじゃない!!
叫び声を聞いて、生徒だけではなく、ルブルの顔をした少女も顎を上げる。
突然講堂の硝子天井が破られると、破片とともに1人の少女が落ちてきた。
さらに破片に魔術を込め、ナイフのようにしてルブルの顔をした少女に向かって射出する。すべて回避されてしまったが、少し距離を置くことに成功した。
現れたのは、『八剣』第二席のエリアナだ。
最近聖剣使いになったことでも有名な少女の登場に、講堂は沸き立つ。
実際、エリアナの手には【氷華蠍剣】が握られている。
しかし、エリアナが身体を向けたのは、凶刃を持つ変質者ではない。
守るべき生徒の方だった。
「エリアナが保証するの!」
ルブル・キル・アレンティリは人を傷付けたりなんかしないって!!
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