第65.5話 波乱のパーティー(後編)
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イラストレーターは、Vturberなどのデザインをされているふつー先生です。
よろしくお願いします。
「ルーちゃん! あと10分!!」
ハーちゃんの声を聞いて、我に返った。
しまった。少々昔を懐かしむあまり、勝負に集中できてなかった。
残り時間はわかったが、今エリアナとの差はどれぐらいだ?
ちょうどその時、イザベラの実況が入る。
「さあ、泣いても笑ってもあと10分。ルブルさんが30枚。エリアナさんは31枚。ここでエリアナさんが1歩リード」
なんと! 我が遅れをとっているだと。
くくく……。なんとマヌケなのだ、我は。
敵に塩を送って、負けていれば世話ないではないか。
ここから挽回したいところだが、すでに胃に来てる。
魔族の身体ならいくらでも食べられるが、今我が魂の器となっているのは人間の身体だ。自ずと限界がある。
しかし、それは向こうも一緒。体格差が出ぬように、我の回復魔術によって胃腸内環境を整えておいてやったが、ただお互いのコンディションを同等にしたに過ぎない。
言い訳などできない。いや、そもそもするつもりもない。
「おおおおおおおおおおおお!!」
「なんと! ルブルさんが吠えたぁぁぁああああ!!」
「やあああああああああああ!!」
「おおっと! 負けじとエリアナさんもペースを上げる。どうですか、解説のグリフィルさん」
「精神と精神のぶつかり合いね」
「精神と精神?」
「意地と意地のぶつかり合い。負けたくないって気持ちで食べてるわ、あの2人!!」
そうだ。大事なのは気持ち。最後にものいうのは、相手を打ち負かしたい、上回りたいと思う気持ちだ。肉体が精神を超えれば、たとえ腹がはち切れようとも食べることができる!
それまで!!
ゴーン、と銅鑼が鳴り、大食い対決が終わる。
瞬間、エリアナは椅子と一緒に後ろに倒れた。
大きく腹を膨らませ、口を押さえてモゴモゴとまだ何か咀嚼している。
一方、我は前に倒れた。常に前のめりであることが、我の信条である。負けようが、勝とうが我の気持ちは切れていない証拠だ。
「る、ルーちゃん大丈夫。胃薬だけど飲める?」
ハーちゃんが我を介抱してくれる。
相変わらず我が1番の友は優しい。
なんだか無性に泣きたくなってきた。
まだ勝負はついていないというのに。
「エリアナちゃん、大丈夫?」
「だい……むぅ……」
エリアナはシルフィに開放されながら、青い顔をしている。
1人はテーブルに突っ伏し、1人はダンスホールの床で大の字。
2人の少女があられもない姿を晒していたが、誰も咎めることはなかった。
「すげぇ戦いだったな」
「俺、なんか感動した」
「エリアナさんの印象が変わった」
「それならジャアクだって」
「余興で、あんなに一生懸命になれるか?」
一応、少しは我の印象が良くなったらしい。
しかし、問題は勝敗だ。
皆の興味はすでに我らが食べた皿に向かっていた。
そしてついにイザベラから枚数が告げられる。
「それでは枚数を発表しますわ。ルブルさん46枚」
どよめきが起こる。
30分の時点で我の皿の枚数は30枚。
残り10分で、16枚食べたことになる。
まさに限界を超えた大食いといえよう。
結果を聞いて、妙な期待感が高まる。
すると続けて、エリアナの枚数が告げられた。
「エリアナさん――――」
◆◇◆◇◆ テオドール ◆◇◆◇◆
テオドールは講堂へ急いでいた。
「こんな時に限って、公務で遅れてしまった。イザベラ、怒ってるかもな」
ようやく学院の門の前にたどり着く。
守衛に生徒証を見せようとした時、テオドールは異変に気づいた。
校門前の守衛室を覗き込むと、いつも在中している聖騎士の姿が見えない。
何か嫌な予感がした。
「マサカズ……」
『ここに……』
忽然とテオドールの肩にとまったのは、1尾のフクロウだった。
少々変わったフクロウで、頭の上にサイズに合った兜を被っている。
その背中には、テオドールの剣が納まった鞘を帯びていた。
テオドールはマサカズと呼ぶ使い魔の背から自分の剣を抜く。
「マサカズ、上空から索敵を……」
『わかりました』
主人の言うことを素直に聞くと、マサカズは闇夜に飛び立つ。
一方、テオドールは鼻腔を突く血の匂いを辿った。
ほとんどの生徒はどうやら講堂にいるらしい。その方向からはわずかに歓声にも似た騒がしさを感じる。それを除けば、静かな夜だ。静かすぎるほどに。
『主人よ』
しばらくしてマサカズから報告がくる。
それを聞き、現場に急行した。
「あ?」
声を上げたのは、テオドールではない。
撫で斬りにされた聖騎士の頭を掴んだ大男だった。
テオドールは慌てて構えを取る。
大男は意識のない聖騎士を放り投げた。
「なんだ? まだ雑魚が残ってたのかよ?」
「お前は?」
「あ? お前、どっかで見たことがあるぞ?」
大男はテオドールのことを忘れていたようだが、テオドールは大男のことを覚えていた。忘れようにも忘れられない。その顔はイザベラの顔の隣に、いつも自分をほくそ笑んでいたからだ。
「まさかこんなところで出くわすとはな、バーミリア・ザム・フロルティア」
テオドールの闘志は、その瞬間炎となって燃え上がった。
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シーモアにて先行配信中の『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される』の最新話(8、9話)が更新されました。
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