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第64話 大魔王、ドレスアップ!

更新お待たせしてすみません。

間が空いてしまったため、一応告知しておこうかと思います。


書籍続刊について決定しております。

鋭意制作中ですので、しばしお待ち下さい。


またコミカライズの方も決定しております。

漫画家さんも決まり、すでに作業に入っていただいているので、

こちらもお待ち下さい。


大人の事情というヤツで、進行が遅れ気味なのですが、

このシリーズが末永くやっていきたいと思っております。

ルヴルが好き! 作品が好き! と思っていただいている読者の皆様には大変申し訳ないのですが、

しばしお待ちいただければ幸いです。

「イタタッ!!」


 我はアレンティリ家で悲鳴をあげていた。

 聖剣の一撃を加えられても弱音1つ吐かない自信はあるが、これはなかなかきつい。


「ルブルちゃん、我慢よ。はい! 息を吐いて!」


 言われるまま息を吐く。

 タイミングを見計らって、マリルはコルセットの紐をキツく結ぶ。


「これでいいわ」


「ドレスを着るだけで、なんでこんな大騒ぎをしなければならないのですか、母上」


「ドレスは女性のプロポーションが1番出るお洋服なのよ。しっかり脇を締めないと、メリハリがないだらんとした格好になるの」


「そんなものなのですか?」


「でも、ルブルちゃんの場合、元々身体のラインが綺麗だから必要なかったかもしれないわね」


 では、何で筋肉が引き攣るぐらい我を締め上げたのだ。

 あとでこっそり緩めておくか。


 それから我はドレスを頭から着て、最後にお化粧をしてもらう。

 マリルは子爵令嬢とはいえ、家事も裁縫も、むろんお化粧もこなす。

 母上がいなければ、今頃アレンティリ家は優雅さとはほど遠い、蜘蛛の巣の張った暗い屋敷になっていたことだろう。


「はい。できた。どう?」


 マリルは鏡を我に向ける。

 鏡に映った自分の姿を見て、それまでおめかしをすることに懐疑的であった我の考え方を一変させてしまった。


「こ、これが我なのか?」



 ◆◇◆◇◆



 イザベラが主催のダンスパーティーだから、てっきり公爵家の屋敷で行うのかと思ったが、場所は聖クランソニア学院の講堂で行うらしい。


 基本的に学院側は許可していないのだが、現状の状況を鑑み、許可されたのだという。どうやらイザベラ自ら学院の上層部を説得したらしく、公爵令嬢はみんなから大いに讃えられていた。こういうと色々と台無しかもしれないが、フォンティーヌ家をバックに持つイザベラにしかできない離れ業だろう。有力な貴族であるフォンティーヌ家の令嬢の意見を、無碍にできなったというのが学院経営陣の本音かもしれない。


 我はいつも通り学生寮の部屋をとおってダンスパーティーのある講堂に向かおうとする。すると、寮の前にはすでにハーちゃんとネレムが待ち構えていた。我の姿を見て、2人は一瞬固まる。


「ルーちゃん、綺麗……」


「す、すげぇ……」


 吐息を漏らす。

 2人の目の中には、ちょっと頬を赤らめた我の姿が映っていた。


 秋の深い青空を彷彿とさせる蒼色。

 腰元には大きなリボンが結ばれ、薄い生地を重ねたスカートは花の蕾のように見えて美しい。それでいてマリルに塗ってもらったルージュは淡く、青薔薇に囲まれた野花のように優しい色を湛えていた。


「2人ともあまりマジマジと見ないでいただけますか?」


「ルーちゃん、とっても似合ってるよ」


「巻き髪も素敵です、姐さん」


 同性といえど、凝視されると流石に恥ずかしい。

 同時に素直に2人に褒められると、何だかこそばゆく感じる。


「ありがとう、2人とも。ただ着慣れていないから変な感じです。うなじや背中がスースーします」


「スースー?」


「姐さん、振り返ってもらえますか?」


「こうですか?」


 我はくるりと振り返る。

 すると、ハーちゃんもネレムも真っ赤になっていた。


「ルーちゃん、大胆!」


「すっごく大人っぽいです! さすがルブルの姐さん」


「私のことよりも、2人だって似合ってますよ」


 ハーちゃんは明るいオレンジ色のドレスを着ていた。

 我のと違って裾の広がりが少ないドレスだが、その分縦のラインを強調され、コンパクトにすっきりとして見える。四角くカットされた胸元は肩を隠す一方で、ハーちゃんの綺麗な鎖骨を見せることに成功している。

 白のリボンと合わせた髪はいつも以上に綺麗に編まれ、今は胸の横に落ちている。全体的に華やかで、ハーちゃんの髪色ともあっていた。


「これ、亡くなったお母さんが着ていたんだって。似合ってるかな」


「似合ってますよ。見ていると、心が温かくなります」


「そ、そんな……」


 ハーちゃんは謙遜するのだけれど、我は素直な気持ちを口にしただけだ。ハーちゃんは我の心の友。我の太陽と言っても、過言ではない。


「それにしても、ネレムのドレス姿はレアではないか?」


「え? そ、そうスか?」


「そうだよ。今日はお化粧もバッチリしてるし」


「遊びに行っても、ネレムの私服はいつも男っぽいし、化粧もそんなにしていないからな。まあ、私はそういうネレムも好きですが」


 そんなネレムも今日ばかりはドレス姿だ。

 肩と胸元を開いた大胆なデザインに、腰には銀のオブジェ。

 我と同じく薄い布生地を重ねたスカートだが、こちらは緑を基調としたグラデーションになっている。

 いつもは乱暴に結い上げた髪も、花のついた髪飾りで綺麗にまとめ上げられていた。


 ネレムは背が高いだけあって、ドレスを非常に似合っている。

 丁寧な化粧もあってか、女優のように見えた。


「そ、そんなジロジロ見ないでくださいよ、ルブルの姐さん」


「さっきのお返しです。ご両親も喜んでいたのでは?」


「その……、ドレスを着たいって言ったら、親父の奴が泣いてました」


「ふふ……。良かったですね」


「はい……」


 ネレムは珍しく照れていた。


 遠くで鐘の音が聞こえる。

 そろそろダンスパーティーが始まる時間だ。


「では、行きましょうか!」


「「はい」」


 我らはダンスパーティーが行われる講堂へと向かうのだった。



 ◆◇◆◇◆



「まあ! まあ! いらっしゃい、ルブルさん」


 講堂に入るなり出迎えてくれたのは、イザベラだった。

 こちらも圧巻のドレス姿だ。

 金細工と宝石が光るネックレスに、肩まで開いた大胆な胸元。

 コンパクトな上半身とは対照的に、ふわりと横に広がったスカートはまさにゴージャスで、赤のサテン生地がさらにイザベラを華美に彩っていた。

 王妃や王女以外に被ることを許されないティアラこそなかったが、英雄譚に出てくる姫君のように美しい姿で、我らを迎えてくれた。


「本物のお姫様みたい」


「公爵令嬢……。レベルが違う」


 ハーちゃんとネレムは圧倒される。

 その横で我は、スカートの裾を摘み、軽く頭を下げる。

 ターザムに仕込まれ、社交界での作法は一通り習得気味だ。


「イザベラ様、今宵はお招きいただきありがとうございます。


「そんな畏まらないでちょうだい。イザベラでよろしくてよ。それにしてもルブルさん、本当にお綺麗ね。お人形みたい。どこかに売ってないかしら。毎晩抱いて寝るわ」


「イザベラこそお綺麗です。お姫様みたいです」


「そ、そんなことはあるかしら」


 照れるイザベラに、我は追い討ちをかける。


「(テオドール王子も喜んでくれると思いますよ)」


「そ、そうかしら」


 イヤンイヤンと、いつもより気合いの入った縦ロールを揺らす。

 本当にイザベラはテオドールのことが好きなのだな。


「どうぞ中で寛いでらして。わたしは来ていただいた方のお迎えがありますので」


 ホスト役のイザベラは、奥へと進むように促す。

 大変そうだが、これがイザベラの仕事だ。

 そのまま指示に従い、奥へと進んだ。

 扉を開けて、開けた場所に出ると、たくさんの紳士淑女の姿をした生徒たちが、思い思いに寛いでいた。グループを作って談笑したり、テーブルに並んだ料理を夢中で頬張っていたりするものもいる。壇上近くでは学生有志による楽団が結成され、緩やかな音を奏でていた。どうやらその手前で、早くもダンスが始まっているらしい。


 いかにも学生らしい手作り感はあるが、昔ターザムに無理やり連れて行かれた社交界と比べても遜色はない。何より、最近聖クランソニア学院に漂っていたピリピリした空気は、少なくともこの講堂には存在しなかった。


「すごい。なんか圧倒されそう」


「悪くない雰囲気じゃないスか」


「ええ……。でも――――」


 我はチラッと周囲に視線を移す。

 すると、即座に目線を逸らされた。


「なんでジャアクがここにいるんだよ」

「でも、マジ綺麗だな。ドレスが似合いすぎだろ」

「お前、ダンスに誘ってこいよ」

「嫌だよ。お前がいけよ」


 学院の空気を変えても、どうやら我に対する認識は変わっていないらしい。


「姐さん、ともかくなんか食べませんか? あそこのテーブルの料理なんか美味しそうですよ」


 ネレムが指差す方にあったテーブルには、子豚が1頭丸焼きにされて置かれていた。香ばしい匂いに、魚醤の香りが混じって、なんとも言えぬ香りが我の鼻腔を突いていた。


 ダンスパーティーに来て、いきなり飯にありつくという行為は、なかなか浅ましいかも知れぬが、腹が減っては戦はできぬというしな。イザベラも寛いでくれと言っておったし、まずはお腹を満たすことから始めるか。


 給仕からナイフとフォーク、さらに皿を受け取ると、肉に手を伸ばした。

 するとほぼ同時に横合いから手が伸びてくる。我より一回り小さい手は我の手の下をすり抜け、ナイフとフォークを使い皿に盛り付けた。


 割り込みとは卑怯な。

 普段寛容な我も、食べ物のことになるとうるさいぞ。

 数年前、我が残しておいたとっておきのプリンをターザムに食べられた時は、呪殺寸前まで追い詰めたことがある。


 さらに取られそうになった肉を、我は寸前で奪い返した。


「何をするのですか?」


「それはこっちのセリフです。横から割り込むなど、卑怯者め!」


 黒い目と、我の青い目が交差する。

 そして同時に「「あっ!?」」と声を揃えた。


「ルブル・キル・なんとか……」


「アレンティリです! そういうあなたはエリアナ・ルヴィエ」


 【八剣(エイバー)】の第二席に聖剣使い。

 さすがに今、聖剣を帯剣していないようだが、代わりに纏っていたのはところどころ青いリボンがついた黒のドレスだった。黒というと、大人なイメージだが、エリアナのようなお子様体型でもよく似合っていた。黒髪と、黒目のおかげだろう。頭に小さなハットをかぶっていて、子どもっぽい可愛さは完全に隠せていない。袖口や胸元にもフリルが付いていて、またそれがいい。

 イザベラの言葉を借りると、このまま抱き枕にしたいほどだ。


「先輩でしょ? エリアナはあなたより1つ年上なのよ」


「す、すみません。エリアナ先輩……」


「わかったならよろしい。さあ、そのお肉をちょうだい」


「な、なぜ? 私が取ったお肉ですよ」


「エリアナのお肉よ。先輩を立てなさい」


 お肉の奪い合いで上下関係を持ち出してきた者を、我は初めて見たぞ。


「イヤです」


「なんですって!?」


 我とエリアナが騒いでいると、にわかに周辺が騒がしくなってきた。


「なんか、人が集まってきましたよ」


「ルーちゃん、一旦落ち着こう。お料理は他にもあるんだし」


「いいえ。この世は弱肉強食です。強いものはお肉を食べれるのです」


 我は取ったお肉を一口で食べ尽くす。

 うまい。パリッと焼き上がった表面に、じわっと溢れ出る肉汁がたまらぬ。

 さらにいくつかの香辛料が混ざっていて、それがまた良いアクセントになっていた。


「あー! 食べた! エリアナのお肉を食べた!」


「先輩のお肉じゃありません。私のお肉よ」


「なんて下級生なの! ムカついた! いいわ!! この前の決着!! ここでつけてあげようじゃない!!」


「いいですよ! と言っても、あなたご自慢の聖剣がないようですが」


「聖剣なんてなくても、あなたを倒せるわ」



 勝負よ! ルブル・キル・なんとか!!





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