第63話 ダンスパーティーの誘い
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「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」第1巻がブレイブ文庫様より発売されました。イラストレーターはふつー先生です。
重版したいのでよろしくお願いします!!
聖剣を解放する。
つまり、今までが本気でなかったのか。
薄々気づいていたが、まだ実力を隠していたとはな。
喜ばしいことだが、随分と舐められたものだ。
自分が未熟であることは認めるが、剣において半人前にもない実力に手加減されていたとは、少々憤りを禁じえぬ。
我が内心プリプリ怒っている間、エリアナは魔力を聖剣【氷華蠍剣】に注ぐ。何かの箍のようなものが外れた瞬間、蕾から花びらが開くように氷の魔力が溢れ出す。一瞬にして周囲が凍りつき、初夏を迎えていた下町の通りを、雪煙が煙る北の宿場町に変えてしまった。
「エリアナちゃん、やりすぎ!」
シルヴィが注意するが、エリアナは止まらない。
その手に握っているのは、もはや剣ではなかった。もはや凝縮された吹雪だ。
ちとまずいな。エリアナが聖剣の力に引っ張られているように見える。
聖剣を戴いたばかりか、あるいは精神が著しく掻き乱され、集中できていないのか。いずれにせよ、今のまま【氷華蠍剣】の力が解放されれば、一帯が凍りつくかもしれん。
「ケルちゃん、聞いていますか?」
『な、なんだよ! こっちは寒くて仕方ないってのに』
我が使い魔ケルベロスは寒さに縮こまっていた。
「情けないですねぇ」
『うるせぇ! こっちは地獄出身なんだ!!』
「地獄にだって、寒いところだってあるでしょ。……それはともかく。ハーちゃんとネレムは頼みますよ」
ケルちゃんが命令されるのを聞いていたハーちゃんが顔を上げた。
「ルーちゃん!」
「大丈夫ですよ、ハーちゃん。私を信じてください。……ネレムを頼みますよ」
「はい。姐さん。ハートリーの姐貴、こっちへ」
ネレムがハートリーの腕を引っ張り、ケルちゃんの後ろに隠れる。
一方、エリアナはすでに臨戦態勢に入っていた。
暴雪を手にしたエリアナは、自分自身もまた吹雪の中心となって構える。
もはや我とエリアナの間を分かつものは何もない。
あるとすれば、吹雪の壁ぐらいだろう。
「行きます」
「どうぞ」
ドンッ!!
激しく雪煙が舞う。
我とエリアナが衝突したわけではない。
その一瞬前に、吹雪の中心であるエリアナに向かって何かが落ちてきた。
慮外の攻撃にエリアナの集中が切れ、同時に吹雪も止む。
我の注意は、エリアナとの間に現れた男に注がれた。
「あの吹雪の壁を破り、空から突破するなんて無茶しますね」
「驚いてくれて何よりだわ。あたしのは空を制する聖剣【天戟之鷹爪】のレプリカなの。空からの攻撃なら、本物の聖剣にだって負けないわよ」
そう言って、グリフィルは我の気勢を削ぐようにウィンクする。
あまり魅力的とは思わなかったが、持っていた聖剣のレプリカはなかなか美しい。それは剣というよりは槍に近い。柄は長く、刃の形は紡錘形をしている。如何にも重量がありそうだが、そうでなければ吹雪を突っ切ることはできなかっただろう。
「グリフィル、邪魔をしないで」
「するわよ。いい加減になさい、エリアナ。あなたも薄々ぐらいは気づいているんでしょ。彼女があたしたちが追いかけていた辻斬りじゃないって」
「…………でも、聖剣を持ってた」
「辻斬りから奪ったんじゃない。……そうなんでしょ?」
グリフィルの質問に我は素直に頷く。
どうやらエリアナと違って、話がわかる相手らしい。
グリフィルは落ちていた聖剣のレプリカを拾い上げる。
「そろそろおままごとは終わりよ。同じ【八剣】として手伝ってあげたけど、これ以上学生であるあたしたちが辻斬りの件に首を突っ込むのはどうかと思うわ」
「でも、学院の生徒が……」
「辻斬りの聖剣のレプリカを手に入れることができた。これまで誰も成し遂げなかった重要証拠をおさえたの。それで十分じゃない」
「エリアナちゃん、グリフィルさんの言う通りだよ。やめよ。やっぱり危ないよ。学生で辻斬りを捕まえるのは」
シルヴィにも説得される。
2人の【八剣】に迫られたエリアナはついに聖剣を下ろした。
ただ全て納得したわけではないらしく、「ムゥ」と頬を膨らませる。
なんか両親になだめられている子どもみたいでちょっと可愛く感じた。
「なんかエリアナちゃんって、ルーちゃんと似てるね」
「あたいも今同じことを思いました」
「え? 私が?? わ、私はあんな子どもっぽくありませんよ」
そうだ。似ても似つかぬではないか。
背丈は我の方が高いし、胸だって大きい。髪の色や、目の色も違うし、実力も圧倒的に我が上だ。どこが似ていると言うのだ。
「ごめんね、あなたたち。改めて【八剣】第五席のグリフィル・ザム・ワインドよ」
「同じく第三席のシルヴィ・ザム・フォルネーゼです。そして――――」
「…………」
「エリアナちゃん。ダメだよ。ちゃんとご挨拶して」
「あとごめんなさいもね」
「2人とも! エリアナを子ども扱いしないでって、いつも言ってるでしょ」
エリアナはシルヴィとグリフィルをポカポカと叩く。
あまり認めたくないが、マリルに叱られる我のように見えてきた。
「ごめんなさいね。剣と魔術の腕はすごいんだけど、中身は子どもで」
グリフィルがエリアナの首を掴んで無理やり我の方へと向けようとするが、本人は意地でもこちらを見ようとしない。唇を尖らせ、依然として不貞腐れていた。戴剣式の時、壇上で国王から聖剣を受け取っていた少女と同一人物には見えない。
「ああ。なんかすっごくわかります」
「ネレム、なんで私の方を見て頷いているのですか?」
全く……。我を子ども扱いしおって。
そういうのは、我が母マリルだけでいいのだ。
「エリアナちゃんがそういう態度なら、この後マケドナルドの新作スイーツ、一緒に食べに行ってあげないからね」
「ガーン! そ、それはダメ! 新作スイーツにつくマケたん人形がすっごく可愛いの! 3種類あるから3人で行かなきゃ、コンプできない!」
それまで饒舌とは縁遠かったエリアナが半泣きになりながら喚き始める。
マケドナルドとはパンと肉を挟んだハサミパンのお店だ。スイーツにも定評があり、少し前に我もハーちゃんたちと一緒に行ってきた。そのスイーツにはおまけがつくのだが、それがマケたん人形だ。とても洗練されているとは言い難く、キモかわいいというよりは、普通にキモいのだが、子どもからは絶大な支持を得ていると聞く。
まさかエリアナがマケたん人形の愛好家だったとは……。
「ふふ……。本当に子どもみたいですね」
「むぅ。エリアナを子どもというのはいいけど、マケたん人形の悪口は許さないから。えっと……、えっと……、確か……」
「ルブル・キル・アレンティリです」
「覚えた、ルブル・キル……キル…………なんとか! 今度会ったら、絶対――――」
「はいはい。そこまでよ、エリアナ。もうすぐ衛兵が来るわん」
「すみません。あなたたちは今すぐ立ち去っていただけないでしょうか? 事情聴取はこちらが受け持つので」
シルヴィは丁重に我らを見送る。
「受け持つって……。その聖剣のレプリカ。私が辻斬りから奪ったのですが」
「はい。ですが、どうやって奪ったか聞かれたら、あなた方も少々困るのではありませんか?」
なかなか痛いところをついてくる。
学院や王宮の関係者ならいざ知らず、辻斬りから奪った聖騎士でもない少女など、怪しさ以外にないからな。さらに言えば辻斬りは我とそっくりな顔をしていた。エリアナ同様に我を犯人と断じる可能性は大いにある。
大人しそうに見えて、さすがは第三席か。
イザベラの取り巻きとは違って、冷静で優秀な生徒らしい。
聖剣で起こした吹雪を突破したグリフィルの実力といい、学生といえど【八剣】は曲者揃いのようだ。いつぞやのミカギリも妙な男だった。
「ルーちゃん、ここは【八剣】の人に任せよう」
「そうした方が賢明のようですね。ケルちゃん」
『わーたよ。早く乗れ』
我らはケルちゃんの背に乗ると、その場を後にする。
遠ざかる現場の方に振り返ると、エリアナの黒い瞳が鋭く光っているのが見えた。
◆◇◆◇◆ ????? ◆◇◆◇◆
ルブルが現場から離れるのを、王都の中央にある大聖堂の屋根から視認する者がいた。ルブルによって一部破られた黒いローブを羽織った少女の顔は、あのルブル・キル・アレンティリと瓜二つだ。
少女は現場を離れていくルブルたちの姿を目で追いかけながら、口の端で卑しい笑みを浮かべる。
「あれがルブル……」
我らがオリジナル――――大魔王ルブルヴィムか……。
突風が王都の上空を滑っていく。
次の瞬間、無数の黒ローブが大聖堂の屋根に立っていた。
鴉にも似た集団たちは、東へと向かうルブルの姿を目で追いかけている。続いて聞こえてきたのは、大聖堂の鐘の音だった。
夕方を告げる鐘の音は盛大ではあったが、夕日のノスタルジックな色と相まってどこか哀愁を漂わせていた。
◆◇◆◇◆
あれから3日……。
【八剣】を通じて証拠が提供されたが、未だに犯人は捕まっていない。やはり模倣犯なども現れていて、現場は混乱しているようだ。すでに我と似た辻斬りの情報は共有されているらしく、ゴッズバルドが直々に我のところに事情聴取しにやってきた。
勿論、我の答えは「わからん」だ。
何故我の姿なのか。その動機すら心当たりがない。
捜査に協力してやりたいが、この事件は謎だらけだ。
ゴッズバルドが頭を抱えるのも無理はないだろう。
辻斬りの事件で人の往来が減っている。
店を閉めたり、閉店を早めたりする店も出てきて、いつも賑やかな大通りすら閑散としていた。余波は聖クランソニア学院内にも及び、空気は最悪と言っていい。長い戒厳令のおかげで、外で遊ぶこともできない生徒たちのストレスはマックスで、いつ暴走してもおかしくなかった。
こういう時、一生徒として指をくわえて事件の収束を待つしかないのは、実にもどかしい。今も我の顔をした辻斬りが凶行に及んでいると思うと、無性に腹が立ってくる。
そんな中、1つの光明が指す提案がなされる。
「ダンスパーティーですわ。ルブルさん、ダンスパーティーに参加しません?」
「へ?」
それは唐突なイザベラ嬢からのお誘いだった。
というわけで、一旦毎日投稿はここまでになります。
次回投稿は活動報告やSNSなどでご報告しますので、しばしお待ち下さい。
ここまで読んでいただきありがとうございました!






