表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/89

第61話 魔王様と辻斬り

☆★☆★ 好評発売中 ☆★☆★


「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」第1巻がブレイブ文庫様より発売されました。イラストレーターはふつー先生です。

重版したいのでよろしくお願いします!!


挿絵(By みてみん)

 王都にて辻斬りなる者が蛮行を犯していることは、数日前より教官殿から知らされていた。そのため聖クランソニア学院では非常シフトが敷かれている。具体的に言えば、部活動の禁止、集団での登下校の推奨、寮生の不要不急の外出禁止などなどである。


 最初からこうだったわけではない。

 辻斬りの事件の第一報があってからは、聖クランソニア学院は生徒に注意を促すだけだった。しかし一向に犯人は捕まらず、第2、第3と被害者が増え、そして昨日ついに非常シフトが敷かれたというわけだ。


 決め手となったのは、一昨日の夜だ。

 ついに聖クランソニア学院の生徒の中に被害者が出てしまった。

 一命は取り留めたようだが、未だに意識が戻っていないらしい。


 そのため昨日から教官たちは授業そっちのけで、対応に追われている。

 教職員というのは、生徒に知識や経験を与えるだけが仕事ではない。生徒の安全を守ることも仕事のうちだという。なんと大変な職業であろうか。今度、また大魔王に転生してしまったら、我は教職員だけは殺さずにおいてやろうと固く誓った。


 ついこの間まで、戴剣式が厳かに行われていたとは思えないぐらい、今学院はおろか王都はピリピリしている。我としては、早く犯人が捕まることを祈るばかりだ。何せ授業がなかなか進まぬからな。


 なので、1度ゴッズバルド元大将に手を貸してやろうかと持ちかけたのだが、残念ながら拒否されてしまった。『今回のことは人間が犯した事件ゆえ、ルブル殿はしっかり勉学に励まれよ』と、逆に釘を刺されてしまった。まったく……。その勉学ができぬから手を貸してやろうと言っているのに。


 しかし、ゴッズバルドの立場がわからぬほど、我も物を知らぬわけではない。夜な夜な王都に出かけ、辻斬りを捜すこともなく、我はハーちゃんを下町にある商店に送り迎えしていた。


「ごめんね、ルーちゃん。付き合わせちゃって」


「気にしなくていいですよ。むしろこうやってハーちゃんと一緒に登下校できて、楽しいんです」


「ネレムさんも……」


「ハートリーの姐貴を送り迎えするのは、あたいの務めみたいなもんスから」


 こうやって周りがピリピリムードでも、3人一緒に登下校できるのは良い。

 友達とは本当に不思議な存在だ。特にハーちゃんやネレムは側にいるだけで、心が浮かれてくるのがわかる。


「ルーちゃんもネレムさんも強いのはわかってるけど、気をつけてね」


「油断はしていません。でも、辻斬りが私の前に現れた時が運の尽きですね」


 我は思わず大魔王スマイルを浮かべる。

 その横でネレムが手を振った。


「ルブルの姐さんが強いのは知ってますけど、気をつけてくださいね。あたいが仕入れた情報によれば、被害に遭ったっていう聖クランソニア学院の生徒なんですが、銀髪だったそうですよ」


「銀髪……?」


 皆の視線が我の髪に向かう。


「偶然……だよね?」


 ハーちゃんが恐る恐る尋ねると、またしてもネレムは手を振った。


「そうでもないらしいです。辻斬りの被害者がここのところ増加傾向にあって、前は主に聖剣使いが狙われていたそうなんですけど、最近銀髪の女性も増えてるって」


「そんな……」


 ハーちゃんは我の腕にしがみつく。

 震えていた手には、我はそっと手を重ね、ネレムの話に耳を傾けた。


「模倣犯だという説が有力ですけど、切り傷を見る限り、聖剣が使われた可能性が高いって」


 辻斬りの1つの特徴として、聖剣が使われていることは周知の事実らしい。王国はこの事実を否定しているが、目撃者によれば間違いないそうだ。


「だから、ルブルの姐さんが1番気をつけるべきなんスよ」


「私の強さはあなたたちもよく知ってるでしょ。それに私には優秀な番犬がいますからね」


『それって俺様のことかよ?』


 突如下町のど真ん中に現れたのは、真っ黒な大型犬だ。

 ケルベロスことケルちゃん。我の新しい使い魔である。

 さすが地獄の番犬だけあって、生まれたばかりでも魔術を理解できるらしい。

 こうして気配と姿を消す魔術もお手のものだ。


「頼りにしてるわ、ケルちゃん」


『ふん』


 そっぽを向くと、ケルベロスは消えてしまった。


「随分と大人しくなったね、ケルちゃん」


「ええ。何か心境の変化があったようですね」


「ルブル姐さんの愛の力ッスかね?」


 3人で雑談していると、またケルちゃんが話しかけてきた。

 文句でもいうのかと思ったが、何か空気が違う。


『おい。ご主人様』


「なんですか、ケルちゃん」


『何か近づいてくる』


「何かって……」


 タンッ!


 背後で足音が聞こえた。

 反射的に振り返ると、立っていたのは黒のローブをすっぽりと被った少女だった。どうやら4階建ての集合住宅の屋根から降りてきたらしい。なのに軽やかな身のこなし。さらにミステリアスな雰囲気、そして血の匂い。

 我は瞬時に判断する。


「辻斬りか!?」


 驚きよりも、歓喜が沸き立つ。

 本人に遭遇して打ち倒したとなれば、ゴッズバルドも我を叱れまい。

 こちらとしては飛んで火にいる夏の虫だ。


「ケルちゃん。2人を守って」


 我の声に反応して、再びケルベロスが出てくる。

 牙を剥き出し、唸りを下町の通りに響かせた。


『ちっ! お守りかよ。俺様にやらせろよ、ご主人』


「後で私特性のミルクスープを作ってあげるから我慢しなさい!」


『それは死んでもいらねぇから!!』


 ケルちゃんは否定するが、我はもう集中モードに入っていた。

 もう後、幾ばくかで太陽が沈もうという時に、我の前に現れるとはな。


「あなたが辻斬りですか?」


 我の問いに辻斬りらしき相手は無反応だった。

 黒のフードを目深に被っており、その表情は窺い知れない。

 我から見えるのは、本物と思しき聖剣の鋭い刃筋だけである。


「ルブル・キル・アレンティリか……」


「ルーちゃんの名前を?」


「喋った……」


 ハーちゃんとネレムが驚く。


「光栄とは言いませんよ。あなたが巷を騒がす辻斬りというならですが」


「フッ」


 それまで我らに背を見せていた辻斬りが振り返る。

 いよいよ持っていた聖剣を持ち上げ、臨戦態勢に入った。


「どれほどの手並みか見せてもらおう」


「それはこっちの台詞です。さあ、かかってきなさい」


 空気が冷えていく。

 いつもなら雑踏の声が目立つ下町の通りに、今我らしかいない。

 静寂が満ち、互いの闘気が溢れる。

 最初に仕掛けたのは、辻斬りの方だった。

 一瞬にして、我のサイドに躍り出る。


「はえぇ!!」


 目に留まらぬ速さにネレムが驚愕する。

 側でハーちゃんが息を呑んでいた。


「なかなか速い。だが――――」



 まだ凡夫の域よ。



 直後、辻斬りは我に向かって薙ぐ。

 聖剣は唸りを上げながら、我の脇へと向かっていった。

 当たれば、必倒――――いや、必殺であろう。

 ただし当たればの話だがな。


 スッ!


 刹那、気づけば我と辻斬りの立ち位置が変わっていた。

 だが、辻斬りが握っていた聖剣は、その手元にはない。


「間違いなく、聖剣のようですね。それにしてもオリジナルとて粗雑な作りは変わりませんね。せめて作刀したものの矜持と信条が込められていれば、大魔王の首を刈る兵器になれたものを……。作ったものの心が歪み過ぎて、刀身が微妙に曲がっているではありませんか」


「……?」


 我は高説を説くのだが、向こうはそれどころではないらしい。

 自分の手から聖剣が消えて、慌てていた。

 ミカギリなる【八剣(エイバー)】もそうであったが、剣も剣なら使い手も二流、いや三流以下だな。


 とにかく興醒めだ。

 巷を賑わす辻斬りがこの程度の実力とはな。

 これでは我の回復魔術を見せるまでもない。


「私が手を下すまでもありません。この聖剣でも十分あなたにトドメを刺せるでしょう」


 手に握った聖剣に、我が魔力を込める。

 刀身から雷が(ヽヽ)溢れ、耳障りな音を立てて弾ける。

 さらに雷は暴風のように暴れ回るが、我がその力を一点に集約すると、辻斬りに向かって解き放った。


 ジャンッ! と鋭い音を立てて、辻斬りの頬を掠める。

 しまった。外したか。どうも人の剣で魔力を操るのは慣れないな。

 格好などつけずに、自分の拳でトドメを刺せば良かった。


「ルーちゃん!?」


「あれは?」


 少々我が辟易していると、ハーちゃんとネレムが何か見て驚いていた。

 ケルちゃんからも、動揺する感情が主人である我に流れ込んでくる。

 何事かと思い、目を凝らすと、辻斬りの顔を覆っていたフードが吹っ飛んでいたことに気づいた。

 無論、顔があらわになっていたわけだが、その容貌を見て、さすがの我も息を呑んだ。


「どういうことですか? 何故、あなたが私の顔をしているのです」


 星の河のような銀髪。

 宝石よりも深く濃い輝きの赤い瞳。

 シルクのような白い肌。


 輪郭も体型も我に近い。いや、そっくりだった。


 一瞬立ち竦む我の姿を見て、我に似た姿の辻斬りは口角を上げて、笑う。

 瞬間地を蹴ると、側の細い路地に消えた。


「待て!」


『ご主人! また来るぞ!!』


 ケルベロスが叫んだ。

 続けて複数の気配を感じると、我の前に3人の男女が現れる。

 衛兵かと思ったが違う。子ども――おそらく我らとそう変わらぬ年頃の青年と少女たちだった。


「あれ? この人……」


「ちょっ! なんであんたたちがここにいるんだよ!?」


 ハーちゃんたちの言葉を聞いて、我も遅れてその正体に気づく。

 2人は知らぬが、1人は戴剣式で見た顔だった。


「エリアナ・ルヴィエ…………さん?」


 【八剣(エイバー)】の第二席。

 そしてつい最近、晴れて聖剣使いとなったエリアナ・ルヴィエが今、我の前に立っていた。やがて彼女は下賜されたばかりの聖剣を掲げる。

 戴剣式では美しいと称した【氷華蠍剣(アイスコーピオン)】だが、こうやって切先を向けられると、名前の通り蠍の針を向けられたような気分になる。

 しかし聖剣よりも我の感情を動かしたのは、持ち手の聖剣使いの瞳だった。


 鋭く冷たい黒目を我に向けたエリアナは、我に宣戦布告する。


「覚悟なさい。辻斬り……」

同出版の「ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~」1巻も好評発売中です!


こちらもよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス10巻 11月14日発売!
90万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

コミカライズ9巻1月8日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる⑨』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


新作投稿しました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
↓※タイトルをクリックすると、新作に飛ぶことが出来ます↓
『宮廷鍵師、S級冒険者とダンジョンの深奥を目指す~魔王を封印した扉の鍵が開けそうだから戻ってきてくれ? 無能呼ばわりして、引き継ぎいらないって言ったのそっちだよね?~』


ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 向こうから来たんだから正当防衛でもしょうがないよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ