表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/89

第56話 負けたくない

☆★☆★ 6月25日 書籍第1巻発売 ☆★☆★


「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」第1巻がブレイブ文庫様より発売されます。

イラストレーターはふつー先生です。

こちらもルーちゃんがめちゃくちゃカワイイので是非ご予約お願いします。

カワイイ……!(大事なことなのでry)


挿絵(By みてみん)

 裂帛の気合いととともに振り下ろされたテオドールの剣。

 我は受けようとしたが、ほんの一瞬、あるいは刹那、テオドールが繰り出す剣の方が、我の被った仮面に辿り着いた。


 予感はしていた。テオドールの斬撃は、我の回復魔術を受けてから見違えるほど良くなっていた。さらに斬撃は我と切り結ぶ度に速く、そして重くなっていく。しっかりとした基礎からなる連撃は、いつしか我の対応するスピードを超え、ついに我が身に届いた。


 グシャッ! と音とともに仮面が欠ける。

 仮面が完全に破砕しなかったのは、我が撃ち込まれる瞬間に後ろに引いたからだ。たとえ戦術であっても、我は後退することを好かぬ。相手に引かされたなら尚更だ。逆に踏み込んでいれば我の頭が、確実にかち割られていただろう。

 テオドールの剣は、我に身を引かせるほど凄まじかったのだ。


 しかし、それほどの剛剣。

 剣を受けることはできても、その衝撃を耐えることはできない。


 ハンマーで殴られたような衝撃が前頭部から後頭部へと抜けていく。

 我の身体は紐で引っ張れたように後ろへと吹き飛び、城の壁に叩きつけられた。


「はあ……、はあ……、はあ……、はあ……」


 テオドールは荒い息を吐く。

 そのまま剣を杖にして、膝を突いた。

 よく走り、よく振り、よく考えた。

 気力を全身から絞り出し、最後まで全力で戦った。


 見事だ、テオドール。

 そして我もまた見事だ。

 テオドールは完璧に回復された。

 傷はふさがり、体力は充実し、魔力も満ち満ちている。

 何より今のテオドールは決して弱くはない。


 成功だ。我はついに回復魔術を極めたのだ。


 今、ここで小躍りしたいところだが、まだ倒れたままでいよう。

 この作戦の肝は、テオドールを勝たせることに尽きる。

 あとはイザベラがテオドールの尻についた火を鎮めてくれるであろう。めでたしめでたし、というわけだ。


(いやだ……)


 ん? なんだ?


(負けたくない)


 このざわついた気持ちはなんだ?


(勝ちたい)


 ルブル・キル・アレンティリよ。

 いや、大魔王ルブルヴィムよ。

 1000年無敗で通した大魔王が、今目の前にある1勝を惜しむというのか。この戦いはあくまで道化――演技であるというのに。


(勝つ……)


 なるほど。我にはすでに勝利する動機がない。

 昔、何かあったような気もするが、とうに忘れてしまった。

 故にこう見えて我は勝利に対する執着がない。

 結果よりも、勝った内容にこだわる。故に我は様々な術理をこれまで修めてきた。その1つが回復魔術だった。


 だが、我は自分の意に反して立ち上がろうとしている。

 テオドールにやった(ヽヽヽ)勝利を奪い取ろうとしている。

 何よりも、まだテオドールと戦ってみたいという欲求が収まらないのだ!


「まだやるのか」


「ああ……。驚いているよ。存外、我は負けず嫌いだったらしい」


「気が合うな、大魔王。俺もだ」


「行こうか、テオドール!」


「おおおおおおおおおおおおお!!」


 再び我とテオドールはぶつかり合う。

 剣と剣のせめぎ合いではない。これは意地だ。

 ただ相手に負けたくないという、武芸者としての純粋な本能だ!


 互いに自分の背丈ほどの鉄球をぶつけているような音が城に響く。

 空気が震え、我が魔術で作った城がパラパラと崩れようとしていた。


 世界の終末のような戦い。

 決着は意外と早かった。


 再びテオドールが渾身の斬撃を我に放つ。

 速度、重さに加えて、タイミング、それまでの戦術も完璧。

 自ら作り上げた隙で、我を誘い込んだところで仕留めにかかった。


「今度こそ終わりだ! 大魔王!!」


「それはどうかな、テオドール!!」


 互いに終極を決めに行く一振りにかける。

 果たして打倒したのは、我の方だった。

 先ほどと真逆だ。我の方がテオドールの剣より速かった。

 テオドールの脇腹に自分の剣を滑り込ませると、力のままなぎ払った。


 テオドールは呆気なく吹き飛ばされる。

 そのまま先ほどの我と同様、城の壁に叩きつけられた。

 違うのは、意識を失っていたことだろう。

 壁によりかかるように座ったテオドールの手から剣がこぼれる。


 どちらが勝利したかは明白であろう。

 我が勝ったのだ。


 ……ん? あっ!


「しまった! 勝ってしまった!!」


 やってしまった。何を我はドヤ顔をしているのだ!

 本来、作戦ではテオドールが我に勝利し、2人はお互いの大切さを知るという手はずだった。もっと言えば、今回のことをテオドールは自信とし、2度と我に弟子を志願することはないだろうと期待していた。


「なのに、私の馬鹿馬鹿馬鹿……! 倒してしまったら何の意味もないではありませんか!」


 自戒を込めて、我は己の頭を叩くのだが、何の意味もない。

 いや、そもそも我の回復魔術がまだまだ甘かったのだ。

 たとえ我が作戦を忘れ、勝利に執着しようとも、強いテオドールなら我を一蹴できたはず。つまりテオドールは弱いままだったのだ。

 極めたなどと慢心した我が悪い。


 せめてテオドールの傷を完璧に癒やすことにしよう。


 回復して――――。


「テオドール様!」


 戦場の空気が晴れて、いち早く飛び出したのはイザベラだった。

 城の隅で倒れるテオドールに駆け寄ると、すかさず回復魔術を使う。公爵令嬢という大きな肩書きを持っているが故に忘れていたが、イザベラもまた我と同じ回復魔術の深奥を目指す、聖女候補生だ。

 よく見ると、イザベラの回復魔術は魔術の流れが清らかで、慈愛に満ち、何より温かな光を放っていた。


 なんと優しげな回復魔術なのであろう。

 イザベラがテオドールを慈しむ気持ちが伝わってくるようだ。

 我は思わず欠けた仮面を脱いで、祈るような気持ちで2人を見つめた。


「イザベラさん、す、すみません。私、やりすぎて」


「何も謝ることはありません、ルブルさん。むしろ感謝しているんです」


「か、感謝?」


「昔、お父様が言っておりました。男は女ほど口がうまくない。だからこそ、行動で示す生き物だと。……テオドール王子は行動で見せてくれました」


 イザベラの言う通りだ。

 テオドール王子は、この国の王子である。

 ここまで来るのに、立場上どれほどの人間に引き留められたか、想像に難くない。国王にすら我が子可愛さに手を掴まれたはず。

 それでも、テオドール王子はここに来た。

 すべてはイザベラを助けるためだ。


「それに王子は言ってくださいました。あたくしのことを大切な人と……。今はそれで十分です」


「今は……ですか」


「はい。今は……」


 意味深な台詞を吐くと、イザベラは最高の笑みを浮かべる。

 先ほどの戦いを見て、血相を変えているかと思ったが……。

 テオドールも強かったが、イザベラも強いな。


 頼もしいと思えるぐらいに……。



 ◆◇◆◇◆



「イザベラ……様……?」


 しばらくしてテオドールは目を覚ました。

 外傷や内臓の損傷は結局イザベラが1人で治してしまった。

 かなりの魔力を費やし、半ば眠りかけていたが、テオドールが目覚めるまで、その頭を自分の膝の上に置いて、ずっと待っていた。


 イザベラの膝枕の上で目覚めたテオドールはまず城がなくなっていることに気づく。ずっと残しておくのも面倒なので、早々に我が解体したのだ。残っているのは跡地らしい凹みだけ。あとは荒涼とした荒野が広がるのみだ。


「ご気分はいかがですか、テオドール王子」


 仮面を取り、普段の聖クランソニア学院の制服となった我がテオドールを覗き込むと、わっと声を上げて驚いていた。


「る、ルブルさん! どうしてここに!!」


「ここにって……」


 ずっと我と戦っていたというのは、どうも言い出しにくいな。

 君の肩の骨を折ったのは私だ、などといえぬことは、我がいくら物を知らぬとてわかる。相手は一国の王子だからな。百歩譲ってテオドールが許しても、周りが許さぬであろう。マリルたちにも迷惑がかかるやもしれぬし。このまま秘匿させてもらうとしよう。


「大魔王は? 大魔王はどうしたんですか?」


 テオドールは起き上がって辺りを探る。


「落ち着いてください、テオドール王子。大魔王はここにいるルブルさんに追い払われました」


「え? ルブルさんがあの大魔王を!?」


 テオドールは叫ぶが、驚いたのはこちらも一緒だ。

 イザベラ! 何を言っておる。

 そんなことを話せば、テオドールがますます我に近づいてくるではないか。


「(い、イザベラ! 君は一体何を……)」


「(え? 何を慌てているのですか? 別にいいではありませんか。あなたが一国の王子に刃を向けたということがバレるよりも、この方が良いと思ったのですが)」


 うっ……。確かに。

 イザベラにしては、随分と強かなことを考えたな。

 しかし、このままでは……。


「ルブル殿、どうか! もう1度お願いする。どうか俺を弟子に!! イザベラ様を守れる男になりたいのです」


 つい昨日であれば、我は断っていただろう。

 しかし、我は知ってしまった。テオドールがイザベラを守りたい、守るに足りる強き男になりたいという強い意志を……。

 弟子なぞ取りたくないが、テオドールの人間性には我も強く引かれるところがある。お互い高みを目指す点は同じだからだ。 


「弟子というのは、その……お断りします」


「そ、そうか……」


「でも、テオドール王子が良ければなのですが、私とお友達になっていただけないでしょうか?」


「え? 友達?」


「はい。上も下もない。対等な関係でなら喜んで」


 テオドールはイザベラに許可を取るようにアインコンタクトを取る。ここに来て、婚約者を立てたのだ。

 イザベラはそれが嬉しかったのか、あるいは我とテオドールが友の契りを結ぶことを素直に喜んだのか、満面の笑みを持って未来の婚約者に応えた。


「対等……。そうか。なら、俺のことはテオを呼んでくれ」


「なら、テオ。よろしく」


 やがて差し出された我の手を握る。

 そこにもう1つの手が重なった。


「あたくしも混ぜてください。よろしくお願いしますわ、ルブル」


「ああ。こちらこそ。イザベラ」


 紆余曲折があったが、2人と友達になれた。


 回復魔術を極めるのが我の最大の目標であるが、【大聖母】殿との人と心を通わせること――つまり友達を1人でも多く作ることを忘れてはおらぬ。


 それがまた我が回復魔術を高みに持ち上げることを、我は信じる。

同出版の「ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~」1巻も好評発売中です!


こちらもよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

コミカライズ9巻1月8日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる⑨』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


新作投稿しました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
↓※タイトルをクリックすると、新作に飛ぶことが出来ます↓
『宮廷鍵師、S級冒険者とダンジョンの深奥を目指す~魔王を封印した扉の鍵が開けそうだから戻ってきてくれ? 無能呼ばわりして、引き継ぎいらないって言ったのそっちだよね?~』


ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ