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第55話 大魔王降臨(本日限定)

☆★☆★ 6月25日 書籍第1巻発売 ☆★☆★


「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」第1巻がブレイブ文庫様より発売されます。

イラストレーターはふつー先生です。

こちらもルーちゃんがめちゃくちゃカワイイので是非ご予約お願いします。

カワイイ……!(大事なことなのでry)


挿絵(By みてみん)

 イザベラとテオドール王子の仲直り作戦が開始された。

 我の見立てでは、この2人は両想いであることは間違いない。

 しかし、1年前の事件で2人の考え方にズレが生まれたのだろう。


 マリルによれば、そういうのを山嵐のジレンマというそうだ。

 お互いが好きであっても、距離が近くなると不安になってくる。

 相手は本当に自分のことが好きなのか、自分は相手にとってふさわしい人間なのか。わからなくなってくるのだという。

 やれやれ……。人間とはなんと繊細な生き物なのだろうか。

 お互いが好きであることが明白なら、それを言葉にしてやればいい。

「守る」など変に言葉を濁すから、相手が不安になるのだ。


 我の作戦は単純にして明快だ。

 攫われた姫君(イザベラ)王子(テオドール)が助けに行くというシチュエーションを作る。王子は苦難の末、悪逆非道の魔王(我)を倒し、姫をゲット。最後にテオドールからイザベラに対する想いを伝えてもらうというものだ。

 無論、簡単にはいかぬであろう。しかし、そこは我が考えた脚色が生きてくるはずである。我が2人の背中を押してやるのだ。


「――――というわけです」


 我は作戦の概要を伝える。

 しかし、作戦を聞いたイザベラは少々不安げな表情を見せる。


「うまくいくでしょうか?」


「必ず成功しますよ」


 何故なら古来、人間というのは、姫君が攫われたら助けに行くというのが定番だからだ。ロロがまだ生まれる前、退屈していた我は姫君を攫って、よく人間の強者を誘い出して手合わせしていた。今振り返ってみると、少し強引だったかもしれぬな。まあ、若気の至りというものだ。


「ところで、こんなところにあたくしを連れ出して、何をなさるのですか、ルブル」


 我らがいるのは、王都外から少し離れたところにある荒野だ。

 遮るものはほとんどなく、干上がった土地だけが広がっている。

 土地が痩せているため、人の往来もなく動植物も少ない。


「そうですね。まずは城を建てましょうか?」


「え? 城???」


 我は早速手に魔力を込める。

 溜まった魔力を地面に叩きつけると、足元が爆発的に隆起し始めた。


「ちょっ! ちょっ! これはなんですのぉぉぉおおおおお!!」


 地面はイザベラを巻き込みながら、さらに伸び上がっていく。


「大丈夫ですよ、イザベラ」


「も、もうすでに大丈夫じゃありませんわ」


 半泣きになりながら訴えるが、魔術が発動した後ではどうしようもない。これはイザベラのことでもある。少々我慢してもらおう。

 やがて地面は平らな床になり、あるいは強固な城壁へと変わっていく。

 気づけば我々は室内に立っていた。

 イザベラが顔を上げると、またしても悲鳴をあげる。


「な、な、なんですのぉ!? ここは???」


「何って。城ですわ」


 王都外に突如、土塊でできた巨大な古城が聳え立っていた

 我ながら良い出来だ。ほとんどが土でできているが、魔術による砲撃には耐えられるほど強固に固めて作ってある。中はきちんと整っており、なかなか住み心地も良い。ベッドも炊事場もあるし、トイレも下水も完備していて衛生的だ。


「それはわかりますが、その……なんか禍々しい?」


 雰囲気が出るように昔住んでいた城に似せて作ったのだが、そこまで禍々しいだろうか。


「城なんか築いてどうしますの?」


「決まっています。王子を城に呼び出すんですよ」


 我は一瞬にして魔術でマスクを作る。

 頭をすっぽりと覆い隠すマスクを被り、【拡聲(ヴァダイ)】の魔術を発動した。名前の通り、我が声を何倍にも増幅させる魔術である。

 城のバルコニーに出ると、王都に向かって我が美声を響かせた。


『聞こえるか? 愚民ども! 我が名は大魔王ルブルヴィム! 悠久の時の果てより、ついに我は蘇った。震えろ! 恐怖するがいい、愚民!! フハハハハハハハハ!!』


 なかなか心地よい。昔――そう、まだロロが生まれる前。我が最も魔王らしい振る舞いをしていた頃を思い出す。あの時は人類とは何かわからず、敵城の近くにわざわざ城を立てて、人類どもを脅したものだ。


 しかし、そう思うと小っ恥ずかしくはあるな。

 人類に転生した我は今5歳だが、精神では齢1000歳を超える。

 演技とはいえ、若者的な言動はどうも羞恥心を煽られる。

 心の中ではそう感じながら、魔王モードになった我を止めるものはいない。

 【拡聲(ヴァダイ)】の魔術に一層魔力を込めると、我が美声を人類に聞かせた。


『手始めに、お前たちの愛するフォンティーヌ公爵家の令嬢イザベラは我が手元におる。返してほしくは、今から言う者が1人でやってくるのだ。……その者はテオドール王子、そなただ! 聞こえておるか、テオドールよ!! そなたの愛すべき婚約者は我が側にいる。返してほしくば、城に来て勝負せよ。必ず1人で来い。約束を違えればどうなるかわからぬほど、貴様の頭は悪くあるまい』


 魔術を切り、我は城内に引っ込む。

 王都の目の前に城を築き、さらには王都全域で聞こえる声で脅してやった。

 大魔王ルブルヴィムのことを知らなくとも、我の実力は十分伝わったはずだ。


「随分と様になっていますわね。本物の魔王みたいですわ」


「みたいではなく、()が本物の魔王なのだ」


「はい? 本物の魔王??」


「おっと……。あはははは。今のは忘れてください。ちょっと役に入り込みすぎたようです」


「そう言うことですか。それにしてもすごい演技力ですわ。ルブルさん、あなた女優の方が向いているかもしれませんよ」


「私は女優にはなりません。聖女に、いえ回復魔術を極めたいのです」


 我はかつての自分のように不敵に笑った。






 2時間後……。

 思いの外、早く王都で動きがあった。

 重々しい音を立てながら、近くの城門が開く。

 ピリついた空気の中、現れたのは白馬だ。

 またがっていたのは、我とイザベラのよく知る王子だった。


「テオドール王子!」


 我が城と王都まではそれなりに距離がある。

 王子の姿など、まだ豆粒にも等しいのだが、イザベラにはわかるらしい。

 テオドールは馬の腹を蹴ると、出発する。馬並みの速度で、確実に我が城に近づいてきていた。


「やはりテオドールは勇敢だな。見よ、イザベラ。あやつ、本当に1人で来たぞ」


「テオドール様」


 イザベラは胸の前で指を組み、心配そうにテオドール王子を見つめている。

 我が城の城門にテオドールが辿り着いたのを見て、我は城に招いてやった。緊張を忍ばせ、順路の通り真っ直ぐ我が玉座の間にやってきた。


「テオドールがやってくるぞ、イザベラ。覚悟はできているか?」


「……テオドール王子の意志、この目で確かめさせてもらいます」


「良い目だ。さすがはイザベラだな」


 我は改めてマスクを被り直す。

 纏っていた服装も、聖クランソニア学院の制服ではなく、魔王らしい漆黒の姿となる。これでマスクの向こうの正体が我であることを、テオドールに知られることはないだろう。


「イザベラ!!」


 ちょうどテオドール王子が玉座の間にやってくる。

 我は黒のマントを翻し、悩める若き王子を出迎えた。


「1人でよく来た、テオドールよ。案ずるな、イザベラは無事だ」


「テオドール王子、申し訳ありません」


「謝らなくていい。よかった、君が無事で」


「王子……」


 その優しげな言葉に、イザベラは安堵の息をつく。

 王子にほだされる前に、我はマントを広げ、2人の間に立った。


「我の前でイチャつくのは、その辺りにしてもらおう」


「魔王と言ったな。貴様の目的はなんだ?」


「覇業をなすこと――つまり、世界が欲しい。今宵手始めにセレブリア王国を落とすためにやってきた」


「覇業だと? 人質をとっておいて何をいうのか?」


 テオドール王子は身振りを交え、我が言の葉を否定する。

 さすが王子だけはある。随分と絵になる姿だ。


「確かに我は人質をとった。しかし、これはハンデと捉えてもらおう。我と人類の圧倒的な差を埋めるためのな」


「圧倒的な差だと」


 我はテオドールに剣を向ける。

 慌てて王子も鞘から剣を抜いた。


「我を倒してみよ。さすれば、イザベラも、この世界のことも諦めてやる」


「真実だろうな」


「我は嘘が嫌いだ」


「いいだろう。その勝負受けた!!」


 先に動いたのは、テオドールだ。

 見事な脚力を持って、我に接敵すると、すかさず剣を振り下ろす。

 我は軽々と受けたが、悪くない太刀筋だ。

 適度に速く、そして重い。何より不断の努力が垣間見える。

 イザベラからテオドール王子が大怪我を負って、静養していたとは聞いたが、とても病み上がりの人間の剣ではない。おそらく静養していた間も、ずっと剣を振り続け、身体を鍛え続けてきたのだろう。

 こういう者は嫌いではない。それでも弟子にはしないがな。


 テオドールと一目会った時、王子の実力に興味が会ったことは確かだ。それがどうしてどうして。なかなかの強者ではないか。Fクラスにいることが謎としか思えぬ。我が以前打ち倒して見せた【八剣(エイバー)】の1人カタギリ・ザザと互角。いや、それ以上かもしれぬ。


 テオドール王子はうまく柄を使って、我の剣をかち上げる。

 わざとだ。力でねじ伏せることもできたが、付き合うことにした。

 ここから繰り出される剣技にも興味がある。


 我との間を空けると、テオドールはグッと腰を沈ませた。


「やあぁぁぁあ!!」


 裂帛の気合いのもと、突きを放つ。

 真っ直ぐで良い突きだ。首筋(きゅうしょ)を狙い、しっかり我を殺しにきておる。痺れるような突きを躱しながら、テオドールと我の立ち位置は交差する。振り向きざまの我の薙ぎ払いを躱すと、テオドールは側面に回り込み、再び我の急所を狙った。気持ちの良いぐらい必殺の剣だ。


「覚悟を決めた良い剣技だ。そんなにイザベラを返して欲しいか?」


「当たり前だ! 彼女は俺にとって大切な人だ! お前のようなものにやれるものか!!」


 テオドール王子は叫びながら、また渾身の一撃を振り下ろす。

 我はその一撃を捌きつつ、イザベラをチラ見する。

 顔が真っ赤になっていた。狙い通りだな。それにしてもうぶい(ヽヽヽ)ことよ。嗜虐心をそそられるではないか。


「では少々本気を出してみるか」


「え!?」


 ドンッ!! と轟音が響く。

 瞬間、テオドール王子は吹き飛んでいた。

 王子自身には当てていない。ただ剣を弾いただけである。

 しかし、軽装を帯びたテオドール王子の身体が綿毛のように浮かび、数十歩向こうに後退させた。そのまま背中から落ちるかと思ったが、うまく身体を捻り、着地する。


 我が反応に合格点を上げる一方、初めて敵の剣をまともに受けたテオドール王子は戸惑っていた。すぐに構えをとったが、顔色が先ほどと違う。指先が勝手に震えるのを、柄を強く握って誤魔化していた。


「どうした、王子? 今の一撃がそんなに重かったか? ククク……。本気とは言ったが、まだ実力の万分の1も出していないのだがな」


「万分の…………1…………」


「そろそろお互い実力を隠すのはやめないか。さあ――――」



 回復してやろう……。



 我はテオドール王子に回復魔術をかける。

 王子の身体は体力を含めて、全回復した。


「お前、何を……」


「全力でなければ意味がない。あとで骨が折れていた、肉離れを起こしていた、魔力が切れていたなどと言い訳めいたものをされては、勝利の美酒が不味くなるというもの」


「心配するな。俺はそんな言い訳はしない。お前の方こそ、敵に回復魔術なんかかけたりして、負けた後の言い訳にするつもりか?」


「負けた後の言い訳か! カカッ! 面白い奴。昔の友を思い出す」


「おしゃべりはここまでだ。行くぞ!!」


 再びテオドール王子が先手を取る。

 先ほどより踏み込みが速く、振りも鋭い。

 ギアを上げたか。思った通り本気ではなかったらしい。


「いける! 今日は身体が軽い!」


「やはり実力を隠していたか。さあ、我に全力を捧げよ、テオドール!」


 剣と剣が交差するたびに急造の城が震える。

 呆然と見守っていたイザベラが「すごっ……」と言葉を漏らしていた。


 悪くない。悪くないぞ。

 この胸の高まり。1000年前を思い出す。ロロ率いる勇者一行と相対した、血がわき、肉がおどったあの時の感覚とよく似ている。

 なかなか熱い立ち回りをするではないか、テオドール。

 我も滾ってきたではないか!


「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 そしてテオドール王子の裂帛の声が響き渡るのだった。

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